【ノーベル賞への】韓国ミステリ等【どこでもドア】

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175スピノザ ◆ehSfEQPchg
 さて、今日もネタの投下を開始させて頂きます。連投できませんので、
間が開いてしまいます。ご了承ください。

 あらすじ3(拘束)

 英ヘがホテルに向かうのを目にした太五は、
「殺さねばならん」
 と思う。いささかのためらいもありはしない。
 突き上げてくる怒りと憎しみの感情。
 追いかけてホテルに入る。
 フロントの前に英ヘがいる。フロント係が、上から三段目、右から五番目の
キーボックスに手を伸ばすのが見える。
 英ヘが、エレベーターに乗る。太五は、英ヘが十五階で降りたのを確認する。
 太五が、フロントに向かうと、日本人≠フ観光客が来る。
 フロントが、日本人への対応に追われているうちに、どうにか*レ的の
キーボックスを確かめる。1520号室である。
 外へ出て、鬘屋の前でふと足を止める。
 店で、長髪の鬘を買う。
 今度は、レジャー用品店に行き、登山用のナイフを買う。
 家に帰る。夜、九時十分。
 室内の電灯を点け、カーテンを開け、ラジオをつけっぱなしにする。
 ホテルに電話をかけ、1519号室を予約する。
 それから、放送局のスタジオに電話をかけ、羅起龍を呼び出す。
 十時までは、ドラマの録画中であることを確かめる。
 電灯とラジオをつけっぱなしにして(アリバイのつもりらしい)家を出る。
 軍手を買う。
176スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/09(木) 12:55:12.73 ID:EdkYklHg
 十時十分前にホテルに着く。
 フロントが、女を用意できる、とほのめかす。
 1519号室に入る。一泊二万ウォンもする、高級な部屋である。
 軍手を取りだし、手にはめる。
 さかりのついた牝犬め。ちょっとばかり待っていろよ。
 殺意で、目がぎらついてきた。
 時計に目をやる。十時十分である。
 羅起龍は、早ければ五分後に、遅くとも二十分後にやってくるはずである。
 死体を発見した羅は、殺人の疑いで逮捕されるだろう。
 完璧なもくろみだ。
 太五は、二十号室の前に行き、ドアをノックし、押してみた。
 簡単にドアは開いた。
 ナイフの柄をしっかりと握り、一歩前へと踏み込んだ。
 一瞬ためらう。
 根性なしめ。グッと突き刺すのだ! 夫に背くような女(あま)は、
殺してもかまわん!
 異変に気付いた。電灯のスイッチを入れる。
 シーツが血だらけになっていた。
 カーペットの上に、ナイフが転がっているのが見える。
177スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/09(木) 13:09:36.32 ID:EdkYklHg
とっさに逃げようと思った。
 ぐるりと向きを変えて扉を開け、外に踏み出すと、フロア担当がいた。
「お客さん、お客さんの部屋は、ここじゃありませんよ」
 エレベーターの前まで来た。
 エレベーターがやって来ると同時に、フロア係が二十号室の中をうかがった。
「強盗だ! 泥棒!」
 エレベーターの扉が開き、体格のいい男が降りてきた。
 羅起龍だった。
 太五は、階段に向かって走った。
「どうか私を助けてください! おぉ、神様!」
 階段を下りる太五は、足を踏み外してひっくり返る。
「殺っちまえ!」
 何人かの声が聞こえる。
 腹、胸、顔、ところ構わず、何人かの足が飛んでくる。
 スッポンのように身をすくめる。
「殺人犯だぞ!」
「起きろ! この野郎!」
 鬘が引っ張られ、外れた。
「こいつ、変装していやがる」
 太五は、袋だたきに遭う。
178スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/09(木) 13:10:13.15 ID:EdkYklHg
 二人が、太五のポケットからひも(?)を取り出す。
 後ろ手に縛り上げられる。
 大柄の男が、太五を殴る手を止めない。
 見ると、羅起龍だった。
 羅の残酷な目つきに、太五はゾッとする。
 このまま、殴り殺されるかも知れない。
 何人かの警官が走ってくるのが見えた。
 太五は、絞首刑になる夢を見ていた。
「この野郎、さっさと吐いちまえ、眠っているのか?」
 頭を上げると、強烈な光が射し込んでくる。
「まあ、これを見ろや」
 新聞を放り投げてきた。
〈Sホテルの十五階で美貌の女性が殺害される。犯人は夫〉
 見出しが、目に飛び込んでくる。
「決心はついたか?」
「自分は、犯人じゃない。悔しくってたまらんです」
「目撃者がいるぞ」
「ナイフ、鬘、眼鏡を買ったのは何のためだ?」
 すべての状況と証拠が、太五が犯人であると告げている。
179スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/09(木) 13:10:47.26 ID:EdkYklHg
「自分は殺ってはいないです」
「なら、これはどういうこった?」
 ナイフや、軍手などを机の上に置く。(?)
「妻を殺そうとしたんです。ですが、部屋に入ってみると、もう死んでいたんです」
「うまいことを言うじゃないか」
 刑事は、鼻で笑う。
 太五から、鬘などを買った店を聞き出す。
「念の入った(!)準備じゃないか。完全犯罪を目論んだみたいだな」
 血糊がこびりついたナイフを出す。
「こっちのナイフは、どこで手に入れたんだ」
「知りません」
「嘘をつくな! お前はナイフを二本買ったんだ」
「罪もないものを捕まえんでください」
「あんたは、ラジオや電灯をつけっぱなしにしてきた。アリバイ作りのためだろう」
「あんたは、ベトナム戦争にも参加した勇士だ。人もいっぱい殺しただろう。
経験が事件を誘発する場合もある」
180スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/09(木) 13:23:08.29 ID:EdkYklHg
 扉が開けられ太五は外へ引っ張り出された。
 四方からフラッシュが光る。
 マイクが、数本突き出される。
「今は、どんな心境でしょう?」
 太五は、一言言いたくなる。
「罪もない者を犯人に仕立て上げてはならんでしょうが」
「なぜ夫人を殺したんです?」
「殺ってないんだ」
「なぜ子供がいないんです?」
「夫人の方から離婚を要求していたそうですが、ほんとうですか?」
「本当だ」
「夫人の情夫に捕まえられるとは、皮肉な結果になったもんですね?」
「不倫の事実を確認したのなら、なぜ姦通罪で告訴しなかったんです?」
「愛情(!)の問題を法廷に持ち込みたくなかったんだ」
「今の気持ちを聞かせてください。苦しんでますか?」
「あんたたちはおれを犯人に仕立て上げて殺したいんだろうが……
生きたいんだよ、おれは! 生きていたいんだ!」