774 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :
さて、スピノザが所有しております、韓国ミステリの短編も、いよいよ
最後の一編となりました。
では、投下いたします。
親友 ソン・シウ
グッドフレンド動物病院を経営している、院長の私は、シュナウザー犬の
ナバギを、顧客のヨンギョンから預かっている。
ナバギは、四ヶ月ほど前にヨンギョンに拾われてきた捨て犬である。吠え癖
があり、皮膚病を患っていた。それを、ヨンギョンは動物病院に連れてきたのだ。
(ヨンギョンが、感じのいい女として描かれているわけではない)。
ヨンギョンは、ナバギを預けた後、車に乗った。助手席に、野球帽を目深に
かぶった男が乗っていた。
約束の日に、ヨンギョンは、ナバギを受け取りにこなかった。
連絡が取れないので、私は、隣の不動産屋に行き、ヨンギョンの住所から、
道順を聞こうとする。(カーナビは?)
775 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/04(土) 11:17:24.43 ID:Tia1tYql
ヨンギョンは、ウジョン不動産の社宅化してしまったマンションに住んで
いた。
不動産屋の女社長は、
「そこの社員は誰も犬を飼っていないはずだけど」
と言い、なのに
「ウジョン不動産の社員に会うと、犬の吠え声でまいっちゃうって言ってたわ」
と矛盾する証言を行う。(この証言の矛盾は、十二行の中で起こる!)
ウジョン不動産の社長夫婦も、この狭いマンションに住んでいる。娘は結婚し、
息子は軍隊に行っているので、夫婦二人にはちょうどいいのだ。
私は、ヨンギョンの住む平和ヴィラまで行く。
唐突に、私は、獣医になりたいと父に言ったときに、
「何をバカなことを」
と叱られたことを思い出す。父は、犬はもちろん、父自身以外の誰も
愛したことなどなかったのだ。
家出した母のことを思い出し、センチメンタルになったりもする。
776 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/04(土) 11:17:57.31 ID:Tia1tYql
ナバギを拾った後、ヨンギョンは、足繁く動物病院に通い、予防接種
などを受けさせた。
何でも食べる癖のあるナバギは、ボールペンのキャップを飲み込み、下痢
したこともあった。
そんなナバギを、キチンと面倒を見ていた。
そういうヨンギョンが、ナバギの引き取りを二日も忘れるはずがなかった。
(おお! 珍しく、回想シーンですね。しかも、ダブルで)。
平和ヴィラ三〇二号室、ヨンギョンの部屋の呼び出しベルを鳴らす。
なんの反応もない。
隣の、三〇一号室からオバサンが現れ、ヨンギョンは、事件で死亡した
と告げる。
777 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/04(土) 11:32:59.21 ID:Tia1tYql
私が、呆然としていると、段ボール箱が上体にぶつかった。
後から、また段ボール箱を持った、目つきの鋭い男が階段を登ってくる。
ナバギが、ワンワンと吠える。
私は、ヨンギョンの青白い死体を幻視する。
その後から、ブドウの箱を持った中年女性が上がってくる。
その中年女性に向かって、
「三〇二号室の犬ですって」
と三〇一号室のオバサンが告げる。
私は、その中年女性に何があったのか聞くと、
「自己か何か分からないけど、とにかくヨンギョンはなくなった」
と言う。
仕方がないので、私は、ナバギを連れてマンションから出た。
駐車場に、二人の刑事がいた。その一人が、
「グッドフレンド動物病院のキム・ドンピョ院長ですね」
と聞いてくる。(ここでやっと主人公の名前が分かる)。
778 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/04(土) 11:33:38.98 ID:Tia1tYql
私が、ヨンギョンの携帯に連絡を入れたのを知り、あいたいと思っていた
のだそうだ。
二人の刑事の話によると、ヨンギョンは勤めていた設計事務所の同僚によって、
発見された。
数回にわたって顔を殴られ、押し倒されたところ、テレビ台の角に、
頭をぶつけて亡くなったらしい。
計画的な犯行ではないが、諮問などは拭き取られており、証拠は隠滅
されていた。
死亡推定時刻は、土曜日の夜九時から、日曜日の朝四時の間である。
(どうしてこんなに幅があるんだろう?)。
近所のピザ屋が、ピザを届けたときに、浴室に男がいるのが分かった、
と証言する。
779 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/04(土) 11:34:37.20 ID:Tia1tYql
しかし、被害者は、性的に奔放な生活を送っていて、色々な男と短く
関係を持っては分かれているので、容疑者が絞りきれない。
そう言えば、私は、人の姿を無意識に記憶してしまうのが特技で、
見たことのあるたいていの人物は思い出せるのだが、例の、助手席にいた
野球帽を目深にかぶった男は思い出せない。(何の伏線もなく、唐突に
出てくる特技)。
そこで、チョン刑事は、私に提案する。
犬、つまりナバギに、容疑者を面通しさせてみようというのだ。(バウ
リンガル!)。
渋る私を説得し、二人の刑事は面通しを承知させる。
まず、第一発見者のイ・ジンミョンの面通しを行う。
ジンミョンは、ヨンギョンと関係があり、真剣に付き合おうとしたのだが、
つい最近簡単に振られてしまった。
「腹が立ったでしょう」
という刑事の言葉に、ジンミョンは、
「ヨンギョンというのは、昨日まで好きだと言っていた男を、今日は分けもなく
振る、そんな女だったんです」
と言う。
ナバギは、ほとんど反応を示さない。
780 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/04(土) 11:42:47.80 ID:Tia1tYql
次いで、中年の下腹だけが突き出た男が入ってくる。キム・テファという男だ。
妻子がある、ヨンギョンの直接の上司である。
しかし、妻子はカナダに親子留学に行っていて、一人で韓国に残っている。
いわゆる、キロギ・アッパである。
テファは、ヨンギョンが多情な女だという噂を聞き、一度熱いメールを
送ったことがある。
しかし、それだけだと言う。
ナバギは、やはり反応を示さない。
と、ナバギが、いきなり私の膝から降り、
血の混じった水気の多い便を出した。
私は、ナバギを連れて動物病院に戻り、ナバギのレントゲン写真を撮る。
ナバギの胃の中には、金属片のような異物があった。
私は、開腹手術を行う。
ナバギの胃から出てきたものは、
軍人の認識票だった。
その名前は、
ハン・ウジョン。
ウジョン不動産の社長の息子。
軍の休暇中に帰ってきて、関係を持ったのだろう。
ハンの帰隊を前に、二人は小旅行を行い、そのときにナバギを預けに来た。
そして、些細な諍いから、ハンはヨンギョンを殺してしまったのだろう。
私は、ナバギを抱きしめた。