722 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :
おはようございます。
今日は、「ミステリマガジン」2009年1月号からお届けします。
以前、十年以上も前のものだから、もしかすると今は違うのでは?
ひょっとすると、進歩しているのでは? という疑問に答えが見いだせる
かも知れません。
そして誰もいなくなった ソル・インヒョ
あらすじ
ソンミンは、雉岳山(標高千二百八十八メートル)に登り、尾根筋
のルートを歩いている。
山には、自信があるので、この季節なら一日で登って帰れるだろう、
と考えていた。
しかし、それがゲリラ豪雨に遭ってしまう。ジャンパーは、防水
加工をしていないので肌が冷える。
後ろから呼ぶ声がある。三十代半ばの男だ。
「秋の山なのに、予想外の大雨に遭いましたね」
と彼は言う。
雨でぬかるんで、当分下山は無理だろうと話し合う。
723 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/03(金) 12:16:57.50 ID:OWN48+OS
男は、もう少し先に、閉鎖した山小屋があるという。電気・ガスは
ないが、雨露はしのげるだろう。
すると、向こうの方にも、数人の人影が見える。
やはり、その山小屋に避難しようとしているようだ。
こうして、三十代と思われる登山家が、七人集合した。
一行は、山小屋があるという岩山に向かう。その岩山のてっぺんが
平らなので、山小屋を建てたのだ。
しかし、老朽化が進み、今では案内の掲示板もない有様だ。
さっきの男、キム・ジヨンの先導で、一行は岩山にたどり着く。
壁のように真っ直ぐに切り立った絶壁に、錆だらけの鉄製の
梯子がかかっていた。
一行は、心配そうに顔を見合わせながら十五メートルほどの梯子
を登りはじめる。
724 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/03(金) 12:41:34.02 ID:OWN48+OS
と、ギギーッ! と、梯子が折れる音がした。
「どうも、梯子を固定していた金具が落ちたようです。なるべく
用心して登りましょう」
キム・ジヨンが言う。
途中で、さらに梯子は壊れそうになるが、ソンミンは犠牲的な精神を
発揮して、自分の体を伝わらせて、人々を上に登らせる。
まさに梯子が落ちた、そのときに、ソンミンもどうにか引きずり
上げてもらう。
一人が、ランタンを灯す。それ以外は、懐中電灯も雨に濡れて
使えないようだ。
しかも、携帯電話も、みんな水に濡れて使い物にならない。
一行は、連絡手段もなく孤立してしまったのだ。
一人一人自己紹介を行う。
725 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/03(金) 12:42:04.78 ID:OWN48+OS
中学教員の、キム・ジンソン。
結婚前に、思い出にと登ったチェ・ソンミン自身。
登山好きのユ・ヒョク。
登山同好会に所属している、イム・ギンチャン。
尾根歩きが好きな、チェ・ミンヒョク。
山小屋まで案内してくれた、キム・ジヨン。
ランタンを持ってきた、ユン・ギョンチョル。
以上七名である。
ユ・ヒョクが、ユンのランタンを借りて、台所に行った。
食料を探すためである。
ランタンが、台所に入ると、辺りは真っ暗闇になった。(?)
台所から、いきなりユの呻き声が聞こえてきた。
台所から漏れ出ていた、朧気な光が消えた。
726 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/03(金) 12:42:55.42 ID:OWN48+OS
みんなで行ってみると、ユは、みぞおちを刺されて死んでいた。
誰かが、
「そういえば、連続殺人犯のユ・インチョルが、裁判所から脱走し、
この辺りで姿をくらました、とラジオで言っていた」
と言い出す。
では、この中に、殺人鬼、ユ・インチョルがいるのだ。
ユ・インチョルは、正面から相手のみぞおちを刺して殺す。
そう思うと、ソンミンは」、疑心暗鬼にとらわれる。
多分、他のメンバーもそうだろう。
と、頼みの綱のランタンが、いきなり消えてしまう。
一同は、半ばパニック状態に陥る。
ユ・インチョルの顔を誰も知らない。公開された動画では、いつも
大きなマスクをかけるか、顔にモザイク処理(?)がされていたのだ。
727 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/03(金) 13:13:26.16 ID:OWN48+OS
ソンミンは、婚約者の顔を思い浮かべ、死ぬわけにはいかない、
と心を決める。
と、背後から、誰かが忍び寄ってくる気配があった。
すかさず、ソンミンは体の向きを変え、海兵隊で訓練した
無敵道で、相手の首に両腕をかけていた。
ソンミンは、そのまま相手を殺してしまった。
ソンミンは、ユ・インチョルの首から背中にかけて、幼少時に
つけた長い傷跡があることを思い出した。
今殺した相手の首から背中を探ると、そんな傷跡はなかった。
では、自分は、無辜の民を殺してしまったのだ。
皆が疑心暗鬼になっているので、ソンミン自身が、他のメンバーに
ユ・インチョルではないかと疑われる。
そこで、ソンミンは習い覚えた無敵道を駆使し、次々にメンバーを
殺していく。
しかし、こうして殺した相手にも、首から背中に走る傷はなかった。
728 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/03(金) 13:14:50.08 ID:OWN48+OS
ついに最後の一人と対峙する。
では、この男こそ、憎い殺人鬼ユ・インチョルなのだ。
いきなり鈍器のようなもので頭を殴られ、血が流れ落ちる。
倒れたソンミンの手に、偶然にも! 転がっていた果物ナイフ
が握られる。
ソンミンは、そのナイフで相手の腹を刺した。
そのまま、自分も気を失った。
鳥のさえずりで目が覚めた。
部屋には、四人の死体が、無残に転がっていた。
みんなのリュックを探り、MP3プレーヤーを見つけた。
腹が減ったので、台所に何か非常食のようなものがないか、
探しに行った。
ユ・ヒョクの死体を、脇に押しやった。
台所の棚を探ると、ソンミンの好物の、見慣れた赤い袋が(多分
辛ラーメン)見えた。
729 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/03(金) 13:15:25.93 ID:OWN48+OS
と、足に何かが刺さった。ふらふらと後ずさりすると、いきなり
衝撃が腹に走った。
腹を見ると、みぞおちから何か鋭利なものが飛び出していた。
力を振り絞って、壁から身を離すと、何かの工事をしていたのか、
先の尖った鉄骨が飛び出していた。足下には、コップが割れたような
ガラスの破片があった。
さっきは、そのガラスの破片を踏んだのだろう。そして、恐らく、
ユ・ヒョクもまた、同じようにガラス片を踏んでよろめいて、
偶然!! 今ソンミンに突き刺さったと同じ鉄骨に突き刺さってしまった
のだろう。
息も絶え絶えのソンミンの耳に、MP3ラジオから、逃走中の
ユ・インチョルが逮捕されたことを告げるニュースが聞こえてくる。
では、自分は、なんの罪もない人々を、勘違いで殺し、自分も
死んでいくのだ。
そして、誰もいなくなった。