690 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :
では、いつもの、苦行の成果を投下いたします。
わな 金且愛(キム・チャエ)
あらすじ
彼は、消毒器から取り出した、まだ温かい緑色のガウンを羽織る。
黒々としていた彼の髪も、あの事件以来真っ白になってしまった。
カンミンス。
憎んでも憎みきれない男は、ドアの向こうに横たわっている。
五年前、一人娘だったウンヒは、カンミンスに恋をし、そして
カンミンスの獣欲の犠牲になった。(強姦らしいが、ウンヒが恋を
した、と書いてあるので、どのぐらいの強姦か不明)。
裁判が始まった。
しかし、金持ちの父親を持つカンミンスは、たった一年の
刑を受けただけだった。
そのカンミンスが、脳腫瘍の患者として、今彼の隣室に横たわって
いる。麻酔で無力となって。
691 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/02(木) 14:47:03.35 ID:a/4S+YzH
(今から裁判の始まりだ)
ウンヒは、結局手首を切って自殺した。
彼ら夫婦は、絶望の淵に沈んだ。
妻は鬱病となり、彼はカンミンスを殺す、具体的な殺人計画を
練るようになった。
そして、その殺人計画が完全だと確信できるまで、行動は控えて
きた。
ところが、信じられない幸運がやってきた。
カンミンスが、彼の外来診療室にやってきたのだ。
脳腫瘍の権威である彼の下を、五年前の事件など忘れたカンミンス
が訪れたのは、ある意味で当然かも知れない。
カンミンスは、自分の脳に腫瘍があるということに衝撃を受け、
彼の言葉に唯々諾々と従った。
彼の計画通りなら、カンミ
ンスは最後の供物にならなければ
ならないはずだった。
692 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/02(木) 14:47:42.07 ID:a/4S+YzH
しかし、運命は、カンミンスを最初の供物に選んだのだ。
殺しはしまい。
じわじわと、苦しみ抜いて死ぬようにしてやる。
ガラスドアを開けて、彼は手術室に入る。
手術の準備は、完璧だった。
「糸」
彼が言うと、針に通された糸が手渡される。
こうして、手術は進行していく。
手術中に、ちょっと余分な力を入れれば、簡単にカンミンスを
殺すことが出来るが、その衝動を彼は抑える。
彼は、いつもの手術と同じ注意深い手つきで手術を行っていく。
カンミンスに、こんな注意はいらないともお思うが、ナースたちの
目がある手前、普段と同じにしなければならないのだ。
長い時間をかけて、脳から腫瘍を分離させる。
腫瘍が除去され、空いへこみに、食塩水が入れられる。
万一の出血の際に止血用として準備された植物性止血剤サージセル
によって、小さな出血部が保護される。
693 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/08/02(木) 15:04:59.96 ID:a/4S+YzH
彼は、こっそりと直径二ミリほどのガーゼをサージセルに包んで
脳に入れ込んだ。
手術は、完全に終わった。
サージセルに包まれた小さなガーゼは、ゆっくりと腐って浮くだろう。
そして、その周りの脳も死んでいくだろう。
だが、誰にもその理由は分からないだろう。
小さなガーゼは、レントゲンにも写らないのだから。
カンミンスは、苦痛のうちに死んでいくだろう。
あのウンヒの死から五年たった今日、やっと復讐がかなうのだ。
彼が、ガラス戸を開けて手術室を出て行く姿が、看護婦たちの
目に映った。(いきなりの視点の揺れ)。
彼は、おもむろに煙草を吸う。
そこに、リー看護婦がやってきて、謎めいた微笑を浮かべる。
その微笑を見て、彼はへなへなとその場に座り込む。