390 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :
「待つ人」 サニー・シン
あらすじ
大学で教鞭を執る、シャルマ夫人は、毎日夫の帰りを待っている。
夫は、空軍の士官であるが、印パ戦争の時にパキスタンの捕虜と
なったのだ。
そして、終戦を迎えても、夫は帰ってこない。
元空軍大尉で、現在は、在パキスタン高等弁務官事務所にいる
マティ・マサンは、シャルマ少佐が捕虜収容所から脱走したという
情報を手に入れる。
シャルマ少佐をまんざら知らないわけでもないマティは、自分に
連絡をくれたら車で国境を越えさせるのに、と妻のアニタに言う。
二人は、盗聴を警戒して、シャワーを出しっぱなしにしながら、
小声で囁くように話すのだ。
391 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/07/26(木) 12:02:17.48 ID:sLR98OSI
しかし、ここは考えどころだ、とマティは思う。
罠である可能性もあるのだ。
シャルマ夫人は、ずんぐりとした冴えない女性だった。(リア
リズム)。綿のサリーもしわだらけである。
しかし、とアニタは思う。もしマティが帰ってこなかったら、
自分もああなっていたかも知れない、と。
マティは、捕虜収容所の視察にきた捕虜の家族の代表団の一行と
共に収容所に向かう。シャルマ夫人も一緒だ。
その旅から帰宅したとき、マティは、
「それから何週間も悪夢にうなされていた。ひと晩中のたうちまわり、
息をするのもやっとという様子だが、歯をかたく食いしばり、
叫び声はおろか言葉だってひと言も漏らすことはなかった」(真の悲しみ)
392 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/07/26(木) 12:02:58.03 ID:sLR98OSI
盗聴を避けるために、マティとアニタの二人は、ドライブをし、尾行
からも離れた森の中で話をする。
「そんな、危険すぎるわ」
アニタが言う。
それでも、マティは、その危険≠ネ計画を実行するつもりだと
アニタに告げる。
「お馬鹿さんね」
アニタは、マティのセーターに顔を埋めて笑う。
マティは、収容所で見聞したことを、アニタに包み隠さずに話す。
悪臭や不潔さ、捕虜たちの苦悩。高い塀の中に押し込められて、
狂気に逃避するしかない日々。
393 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/07/26(木) 12:08:52.98 ID:sLR98OSI
そうした中で、捕虜家族の代表団の人々は、虚ろで怯えた目をした
捕虜たちに、写真を見せて、
「この人を知りませんか?」
と問うのだった。
唯一の女性であるシャルマ夫人も、不屈の精神、断固たる決意で
夫のシャルマ少佐の消息を尋ね回った。
シャルマ少佐は、右の手首に、夫人のイニシャルである、Vの字を
タトゥーで入れている。
「これで一生きみを裏切ることはない」
そのタトゥーを心の支えにして、夫人は生きているのだ。
(謎めいた捕虜三五一号の行動がありますが、煩雑なので省きます)。
394 :
スピノザ ◆ehSfEQPchg :2012/07/26(木) 12:16:54.45 ID:sLR98OSI
マティは、収容所に行くことのできる最終日に、アメリカから
取り寄せた雑誌の適当なページに、自分の電話番号と、かつての
自分の暗号名「スパロー・二二」をメモして、謎の三五一号のギブスと
胸の間に挟む。
それから十一週間後。深夜。
「スパロー・二二、シャルマ少佐だ」
という電話がかかってくる。
ラーホールにいるとマティが告げると、相手はさっさと電話を
切ってしまう。
ディワリの祭りの夜に、マティとアニタは、オイルランプの光を
前に電話を待っている。
かつて、戦士が無事帰宅した夜にも、そのランプは灯っていた。
国境の向こう側では、シャルマ夫人がいつ終わるとも知れない
寝ずの番を続けている。