連続ドラマ小説「ニホンちゃん」33クール目

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945黄 色 い リ ボ ン  ◆JBaU1YC3sE
   「 復元とふんだくり 」

 カチャリ、カチャリ。
 ポーラちゃんは割れた食器を拾い集めています。
 割れた食器が床に散らばっているだけではありません。
 部屋中が滅茶苦茶に荒らされています。
 壁にぶら下がっている布の端切れには綺麗な刺繍があり、
 この場所に立派な壁掛け絨毯が掛かっていたことを教えてくれます。
 よく見ると、床に散らばる破片も、高価そうなものの破片ばかりです。
 ただ、部屋の片隅にあるピアノだけは汚れていながらも原型を留めています。
 ポーラちゃんは無言のまま近づきました。
 ピアノの上には、焼かれた絵の燃え残りが散らばっていました。
 そのピアノの鍵盤に、乾いた血がこびり付いているのを見つけました。
 唇をかみ締めてその血の痕を撫でました。

 ポーラちゃんの家をこれだけ荒らしたのはゲルマッハ君なのです。
「よくもここまで逆らいやがって!大人しく俺の言うこと聞いてりゃいいんだ!
 それをよく分からせてやる!」
 ゲルマッハ君はピアノに目をやりました。
 ポーラちゃんの家は昔からピアノ奏者として知られています。
「やめて!それは大切な形見のピアノなの!」
 身を投げ出してピアノを庇うポーラちゃんでしたが、
 ゲルマッハ君の拳が彼女の顔に当たり、鼻血がピアノに飛び散りました。

 ポーラちゃんが部屋を片付けていると、ゲルマッハ君がやってきました。
 彼はうな垂れてポーラちゃんの後ろ姿を見つめています。
 彼も本来は真面目で教養深い人間なのですが、大変なことをしてしまったのです。
 勇気を振り絞ってポーラちゃんに話しかけました。
9462/3:2007/11/08(木) 19:22:21 ID:ZE4Drh3y
「本当に済まなかった」
 ポーラちゃんは答えません。
 見てみるとポーラちゃんは擦り切れた着古しの服を着ています。
 ゲルマッハ君も最近までそうだったのですが、
 服を買い換える程度のお金は入るようになりました。
 そうなると思い出すのは傷つけてしまったポーラちゃんのことです。
 ゲルマッハ君は分厚い封筒を差し出しました。
「ポーラ、少ないけど足しにしてくれないか」
「いいわよ。時間がかかっても自分だけで立て直すから」
 やっと答えてくれたのですが、目を合わそうともしません。
「でもポーラ、これを使って君がほんの少しでも楽になるのなら」
 その時、ポーラちゃんは稲妻を走らせるような眼でゲルマッハ君を睨みました。
「いらないったら!一人でやるわ。本当に大切な私の家なの。
 仇のお金を使うわけにはいかないわ!」

「ショックだったな。あの時のポーラの目を今でも忘れることが出来ない」
 ゲルマッハ君は辛そうに語ります。
 それを聞くのはアサヒちゃんとカンコ君です。
「ポーラがせめて半分でも受け取ってくれればなあ。だけどあの時のポーラは、
 僕の出すものはどんな大金でも汚くてさわれないという目をしていた。
 その点日之本家はいいよね」
「え?」
「アサヒ、君が元気いっぱいなのも、
 チューゴやカンコが何回も賠償のお代わりしてくれて、気持ちが軽いからだろう」
 これを聞いてカンコ君は火病大爆発です。
「ファッビョーーン!!何でお前はそんな酷いことが言えるニダ!
 地球町の誰もがひとしく目指すべき普遍的な理想を裏切る信じられない発言ニダ!
 アサヒ、お前からも何か言ってやるニダ!」
9473/3:2007/11/08(木) 19:24:10 ID:ZE4Drh3y
 おや、アサヒちゃんの姿が消えています。
「ウリナラに対する愛はないニカー!」
 走り去るカンコ君を見てゲルマッハ君は冷たい笑いを浮かべていました。
(フフ、知っててわざと言ったんだけどな。奴等がどんな人間か)
 ゲルマッハ君の隠し持つ秘密のノートには、ゲーレンと書いてありました。

 アサヒちゃんはあれから一人、力を落とし俯いて歩いています。
(こんなの記事に出来ない。アジア的優しさに欠けるわ!)
 おや、いつの間にかチューゴ君が現れました。
「どうしたアサヒ、お前らしくも無い」
「あらチューゴ君、実はね、実は・・・」
「聞いていたアル、さっきの話。元気を出して記事にするアルヨ。
 お前はアサヒじゃないアルカ」
「え!いいの?でも」
「無問題アル。朕がいう天の声を付け加えてお前が編集してから、
 日之本家で語ればいいアルネ。カットしてコメントつけるだけなら嘘じゃないアルヨ」
「さすがカンコとは違うわ!優しくて賢くって」
 うっとりした目でメモとペンを用意するアサヒちゃん。
「準備完了よ、早速アジア班を代表する天の声をお願い!」
 チューゴ君は軽く咳払いをしました。
「ポーラは先の読めない意地っ張りアルネ。
 人の金を盗れる時に盗らない奴は馬鹿アル。いつか自分が盗られることになるアルヨ。
 ゲルマッハもゲルマッハアル。せっかく隣の女が弱ったのに、
 何もしないばかりか手助けしようとするなんてアホアルカ?」
 アサヒちゃんは真っ青になりました。
「チ、チ、チューゴ君、それをみんなの前で言うのは」
(ちょっと待って欲しい)
 その言葉を、チューゴ君には言えないアサヒちゃんでした。

   おしまい