連続ドラマ小説「ニホンちゃん」33クール目

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708黄 色 い リ ボ ン  ◆JBaU1YC3sE
    「 こんなはずはない 」

何もかも面白くない。
私が導いてやると言っているのに、家族の誰も私に付いてこない。
折角理想を説いてやっているというのに、何故私が孤立するのだ?
否!私に反対する者達こそ近所で孤立している。
こうなったら非常の措置を執らざるを得ない。
私はお隣の、良識と力を合わせ持つ人を頼り、手を差し伸べてもらう約束を取り付けた。
その隣人が我が家に押し入る時、私が家の鍵を開けるのと引き換えにね。

おや、どこからか私の事を噂する声が聞こえてきた。
「人気の無い奴なんかと組みたい人はいないよ。
 仮に他人の家を下請けに出来たとしても、
 自分の命令をその家の誰か代弁させるとしたら、
 尊敬されてる人を選んでおかないとね。鼻つまみなんかを選んでは逆効果だ」
うるさい!
いつか私を馬鹿にした奴等を後悔させてやる。
あるべき我が家を実現したら、みんな大賛成して付いてくるだろう。
そして私に反対した奴等は、泣いて己の不明を恥じるに決まっている。
あの方の同志になっておけば今頃勝ち組だったのにとね。
いや、それどころか過去を忘れて私にへつらってくるに違いない。

ついに我が家は新時代を迎えた。隣人の豪腕によって。
私が裏工作して隣人を招きいれたのだ。
家の者は皆あっけに取られている。
驚いた口がふさがる前に家が隣人に占拠されたのだから。
偉大な隣人は、力ずくで私をこの家のトップにしてくれた。
誤解して欲しくないが、決して隣人に家を奪われたのではない。
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なぜなら、今この家を指導しているのは私だからだ。
隣人を招きいれたのもそのためのステップに過ぎない。
結果よければ全てよし!

全くウチの家族ときたら!
他人の力まで借りて私が皆を指導してあげているのに未だに協力的ではない。
大体私は誰にも頭を下げなくてよかったんだ。
喧嘩の強い隣人に、下げたくない頭を下げてやっとこの地位を得ているのに!
何故だ?私を怒らせると後悔するぞ。
もう人気取りの必要はないのだからな!

どうも雲行きがおかしい。私が頼る隣人の旗色が悪くなってきた。
アメリー家が、隣人を本気で倒す気らしい。
私も巻き込まれるのだろうか。倒すなら隣人だけにして欲しいものだ。
なのに我が家から逃げた者達が、アメリー家と共に動いているようだ。
裏切り者め!私がそんなに憎いのか!讃えられこそすれ恨まれる覚えは無い!

馬鹿な!隣人が敗れた今、私は家族に裁かれることになりそうだ。
敵を引き込んだ裏切り者として。
だが、ちょっと待って欲しい!
我が家には『他人を家に引き込んではいけない』という約束事は一切ないのだ。
つまり私には何の罪もないんだよ!
ルールがないなら罰もない。当然そうなる!法が私を守るのだ!
しばらくは地位や権力を諦め、大人しく過ごすさ。
私を恨む奴もいるかも知れんがこっちだって言い分はある。
少し先行きが不安だが、我ながら心配のし過ぎではないか?

 アサヒちゃんは本を閉じ、乱れた呼吸を整えると、ノルウェー君に返しました。
 昔の大喧嘩の頃、ノルウェー君の家の人が書いた日記を読ませてもらっていたのです。
「こ、この人、結局どうなったの」
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 真っ青な顔をして聞くアサヒちゃんに、ノルウェー君は少ししょんぼりして答えました。
「裁かれたよ。ルールも約束も無かったんだけどさ」
 凍ってしまったアサヒちゃん。そこにアメリー君が通りかかりました。
「気にすること無いぜノルウェー、非常時だったら止むを得ないさ」
「そう、僕もそう思うことにしてるけどね」
「重要なのは、お前の家族が侵入者に踏みにじられ、苦しんだということの方だろ。
 しかも、身内に敵を手引きする奴さえいなければ、
 悲劇は避けられた可能性が高かったってことを忘れちゃいけない」
 おや、アメリー君の声を聞いてアサヒちゃんは復活したようです。
「ひどい!たとえ何があったとしても、それを禁じたルールは無かったんでしょ!
 なのに罰するなんて罰と言う名の復讐だわ!
 そんな裁きを下した人は裁かれる側の人間と同じ、
 いえ、それ以上の罪を犯したことになるのよ!」
 まるで人を嫌うのが元気の源の様なアサヒちゃん。
 ノルウェー君も伏し目がちに言いました。
「アメリー、正直僕にとっても口にしたくない事なんだ」
「おい何言ってんだよ。裁いて良かったに決まってるぜ。
 俺の家なんか、その大喧嘩でゲルマッハやアサヒの家を倒した時、
 何の取り決めも無く無制限に裁いてやったぜ。
 今でもその家にアレでよかったって言ってくれる奴がいるくらいさ」
「馬鹿な!僕の家は自分達家族だけでやったんだ。
 敵からそんなことされるなんて話が違う。それを喜ぶ奴なんているわけ無いだろ!」
「それは本人に聞いてみれば?」
 アメリー君が振り向くと、アサヒちゃんは姿を消しています。
「あれ?アサヒの奴は何処行った?」
 ノルウェー君は小さな溜め息をもらしました。
「アメリー、そういうでっち上げばかり口にするのは止めろよ。それだから君は・・・」
「本当だよノルウェー!そっちこそ結論を急ぎ過ぎてないか?」

  おしまい