電話突撃隊休憩所14

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372「A級戦犯」めぐる政務官発言その1
平成17年5月30日(月曜日)静岡新聞
論壇 屋山太郎(政治評論家)『「A級戦犯」めぐる政務官発言』

「罪人ではない」の正当性
 厚生労働省の森岡正宏政務官が靖国神社参拝問題に絡んで「A級戦犯は罪人ではない」と発言し、野党はもちろん与党内にも波紋を投げている。
 細田博之官房長官は「政府の見解と大いに異なるので論評する必要はない。個人の見解だ」と述べた。公明党の東順治国対委員長は「不必要で不適切だ」と強く批判した。
 これに先立って小泉首相は中国を説得するつもりで「孔子の教えに罪を憎んで人を憎まずというではないか」と述べた。
「A級戦犯は罪を犯した」ことを前提にした議論だが、昭和二十七年の講和条約締結以後、日本がとってきた解釈は極東軍事裁判は認めないというものである。
サンフランシスコ条約第十一条の日本役は「日本国は裁判を受諾」とあるが、英文の原本では「日本国は判決(JUDEMENT)を受諾」とある。
このためこれまでの解釈は「下された刑期を受け入れる」意味だとされた。軍事裁判の刑期が残っているのにすぐに放免してはいけません!との趣旨である。
 この軍事裁判は当時は国際法上の茶番劇で左翼陣営といえども受入難いものだった。その証拠に政府は講和条約発行後、各国にA級戦犯を含む全戦犯の赦免・減刑を申請。
衆参両院は昭和二十八年、圧倒的多数で「戦犯赦免に関する決議」を可決した。また同年には戦犯刑死者を戦死者と同じ扱いにする遺族援護法の改正が全会一致で可決。
二十九年には恩給法も改正された。これで広田弘毅が文民であるのになぜ靖国神社に祀られているのか分かるだろう。
 A級戦犯とされた人たちのうち、重光葵氏は外相、賀屋興宣氏は法相として復帰した。岸信介もA級戦犯として逮捕されたが、後に総理大臣になっている。
この一連の政治の動きを見ると、日本人は与野党とも極東軍事裁判を受け入れていないことがわかるだろう。少なくとも彼らは日本の法律によって裁かれたわけではない。
 従って、森岡正宏氏の「A級戦犯は罪人ではない」との説は正しいのである。