これは、法案づくりの背景に国際社会からの要請があるからだ。国連規約人権委員会は98年、
警察官や入国管理職員による人権侵害の訴えを扱う独立した機関をつくるよう日本に勧告した。
入管施設での虐待を訴える外国人や、差別されがちな在日の人たちの声に耳を傾ける身近な委員として、
地域で尊敬を集める外国籍住民が推薦されることを法案は予想している。
法案のもうひとつの原点は、今も続く部落差別の解決への誓いだ。部落解放同盟から
人権擁護委員に就く人がいることも想定している。
こうした内容は当然のものだ。自民党の一部の議員たちは、人権擁護制度をつくる根本的な理念を
忘れているとしか思えない。朝鮮総連幹部による犯罪やエセ同和事件があったからといって、
外国籍の住民や部落解放運動をしている人を排除しようとするのはおかしい。
そもそも新しい人権擁護委員は市町村からの推薦を受けて、中央の人権委員会が委嘱する。
その人権委員会のメンバーは国会の同意を受けて首相が任命する。
そんな手続きのもとで、一部の議員が言うように、特定の団体が人権擁護委員の多数を占めて
牛耳るというようなことがどうしたら起きるのだろうか。法案が最初に提出された3年前の国会でも、こんな意見は出なかった。
朝日新聞は社説で、政府が提出しようとしている法案を修正して、成立を急ぐべきだと主張してきた。
報道機関の取材活動を人権委員会が調査するメディア規制条項を削除する。入国管理局や刑務所の
人権侵害がある以上、人権委員会を同じ法務省の外局に置くべきではない。これが修正すべき2点だ。この考えは変わらない。
差別や虐待にさらされている人たちを守る法律は今こそ必要だ。
人権をないがしろにするような議論は恥ずかしい。
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