>>895 そのため一九四五年、朝鮮半島が日本支配から解放され米ソによって
分割占領された後も、北から南に電力が送られていた。それが中断される
のが一九四八年五月で、この北朝鮮による韓国に対する“経済圧力”は
二年後の朝鮮戦争につながる。北朝鮮は経済的、軍事的優位を背景に、
武力で一気に韓国を共産化しようとした。
あれから約六十年、状況は逆転した。今や韓国が北朝鮮に電力を提供
したいといっている。韓国としては北朝鮮の韓国に対する経済的依存度が
高まることで、長期的には韓国主導の南北統一にもっていきたい。
現在の経済的優位を背景にした長期楽観論である。北がそれに乗っか
るのか、事態は韓国の思惑通りに展開するのか、予想はつかないけれど。
北朝鮮に対する電力支援の話は、一九九四年の米朝ジュネーブ合意で
北朝鮮に核開発凍結の見返りに軽水炉(原子力発電)建設が決まった当
時から出ていた。エネルギー支援なら「原発」より火力発電の方が簡単だ
とか、北では施設老朽化で送電ロスが多いため送電施設改善が先だ−と
いった話がそうだ。
しかし結局、日米韓を中心に「朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)」
ができ、北朝鮮で二百万キロワット級の軽水炉建設が進められてきた。工
事の進展度は35%で、これまで投入された資金は十五億四千万ドル。資
金のうち70%を韓国、30%を日本が負担してきた。米国は毎年の重油支
援五十万トンを負担した。
軽水炉建設は北朝鮮の核開発疑惑(すでに核保有宣言までしている!)と
いうジュネーブ合意違反によって中断されているが、韓国は今回の電力支
援案を「軽水炉建設に替わるもの」としている。事実上の「軽水炉建設放棄」である。
>>896 総額四十五億ドル規模といわれた軽水炉建設−つまりKEDOとはいったい
何だったのか。内部事情が限りなく不透明な超独裁国家での国際的な原発建
設計画に対し、当初から「体制に変化がない限り結局は実現しない」との見方が
あった。筆者もその一人だった。
これに対し、KEDO関係者たちは「対北朝鮮安保上の保険みたいなもの」とか
「軽水炉建設事業を通じ北を国際社会につなげておく効果がある」などと、その意
義を強調してきた。しかし結果は北朝鮮の「核保有宣言」だった。
北朝鮮東海岸の片田舎、咸鏡南道・琴湖の軽水炉建設現場には原子炉を設置
する巨大な穴が掘られ、各種の建設機器や資材が放置(?)されたままになって
いる。梅雨時の人影のない広大な建設サイトはひときわ、わびしいことだろう。
この「壮大な無駄」の教訓は何か。まず北朝鮮との「合意」には甘い期待をかけ
るな、だ。そして独裁体制に変化がない限り合意はいつでも紙クズになる。そもそも
内部が不透明な独裁体制下で、国際社会は北朝鮮の「核放棄」や「非核化」をどの
ように検証するというのだろう。北朝鮮の対米不信より国際社会の対北不信の方が
はるかに大きい。