【帰ってきた】黒田勝弘 総合スレ【産経】

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【緯度経度】反米で揺れる大使館移転問題 ソウル 黒田勝弘(12/ 7)

 産経新聞ソウル支局はソウル中心街の中区貞洞(チョンドン)にある。この貞洞というのはソウル
市役所の向かい側、徳寿宮の裏のこぢんまりした地域である。街路樹やレンガ造りの建物などで
美しい。散歩道として人気があり、歌にも歌われるほどだ。

 この一帯には十九世紀の開化期に外国公館や関連の洋館などが建てられた。韓国版の「鹿鳴館」
ともいうべき洋風社交場「ゾンターク・ホテル」やツタのからまるチャペルなどもあって、別天地のような
しゃれた外交街だった。

 とくに歴史的にはロシア公使館の存在が有名だ。朝鮮半島で日本とロシアが覇権を争っていた
十九世紀末、親ロシア派に取り込まれた韓国の国王・高宗が約一年間、ロシア公使館に居を移して
国政にあたったという史実もある。このロシア公使館跡は今は小さな史跡公園になっているが。

 現在も少し離れたところに新しいロシア大使館が威容を誇っており、さらに英国大使館や英国
聖公会、米大使公邸などがあり、カナダ大使館も新築中だ。つまり貞洞はいまなお外交街の趣を
たたえているのだ。

 ところが最近、このあたりに新しく米大使館を建てたいとする米国の計画に対し韓国世論が反発し
米国が立ち往生している。現場が徳寿宮の昔の敷地の一部にあたり、史跡になるためケシカラン
というのだ。

 しかし現場はすでに日本統治時代に女学校が建てられ、近年まで名門の京畿女子高校があった
ところだ。一九八〇年代に米韓の政府間で米大使館の移転先として公式に合意している。それが
今になって問題になっているのだが、この背景には明らかに韓国社会の反米ムードがある。
297 :03/12/07 10:52 ID:SzUTQLku
 現在、徳寿宮の周辺にはすでに高層ビルをはじめ多くの建築物がある。これまで昔の敷地だった
部分が問題になったことはなかった。なのに米国大使館が建つということで反対の声が高まって
いるのだ。反対論の中には「王宮跡への米大使館建設は民族精気を断ち切るもの」などといった
感情論もある。

 韓国政府は民族主義的な反対世論を気にして建築許可を出せないでいる。当然、米国側の不満
は強く新たな韓米の“外交摩擦”になっている。

 米大使館の移転問題は実は韓国政府が言い出したものだ。現在の米大使館はソウルの一番の
中心である光化門前の大通りに面し、韓国に睨(にら)みを利かすように政府総合庁舎の真向かいに
ドーンと存在している。これは韓国政府としては昔から気になってきた。これでは「自尊心にかかわる」
というわけだ。

 そこで代わりの土地を提供することでやっと移転が決まった。移転先の京畿女子高跡は表通りには
面しておらず目につかない場所だ。近くに米大使公邸や英国大使館があり、さらに先に紹介したロシア
公使館跡の公園はすぐ横にある。現在の徳寿宮とは道路で隔てられてもいる。

 現場が昔の徳寿宮の敷地に入り、遺構などがあって史跡として重要だという話は、最近になって
文化財関係者や市民団体などが言い出したものだ。

 もとは日本統治時代に都市計画のため敷地の一部を削ったということだが、これまで昔の敷地の
復元を求める主張や文化財として意味付けする声はまったくなかった。

 米国としては、自分たちだけが言い掛かりを付けられている感じだろう。
298 :03/12/07 10:53 ID:SzUTQLku
 それでも米国側は館員宿舎を併設する当初の計画の変更や、建物の高さへの配慮、周辺との調和
などを十分に考慮するといい、さらにはいい代替地があれば移転先を変更してもいいとの立場だが、
韓国側は新たな移転先を探すのは難しいといっている。

 反対派の間では、ソウル市内の南山のふもとにあって移転問題が出ている「在韓米軍司令部の
敷地に移ってはどうか」などという皮肉な声も聞かれるが、これでは米国として「自尊心」が許さないだろう。

 米大使館新築問題は先年、世論をにぎわした旧朝鮮総督府ビル解体、撤去問題と一脈通じる
ところがある。日本の支配から解放後、政府中央庁舎や国立中央博物館に使われていた日本時代
の総督府ビルを、解放半世紀の一九九五年を機に壊してしまったのだが、あの時も敷地が古宮・
景福宮の一部だったということで、「民族的自尊心」や「民族精気の回復」がいわれた。

 あの時は政府が主導して壊したが、今回は政府は悩んでいる。旧総督府跡にはその後、古宮が
復元されたが、今回の徳寿宮周辺は韓国近代史の由緒ある風景として定着して久しい。その「近代」
を否定し、貞洞一帯に中世の王朝風景を復元することが果たして「民族精気の回復」になるのだろうか。
韓国民族主義の行方として実に興味深い。