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韓国は一九八〇年代後半以降のいわゆる民主化からすでに十五年が過ぎた。この民主化は
一言でいえば「過去否定」を意味する。
過去の韓国では「北の脅威」に効果的に対処するには自由や民主主義はガマンすべきといわ
れてきた。しかし今や「北の脅威」は、過去の軍人政権が政権維持のために大げさにいいふらし
利用してきたものだとなってしまった。
その結果、「過去否定」という民主化は「北の脅威」の否定につながった。北朝鮮は過去にいわ
れたような対決や打倒の対象ではなく、温かく迎え入れるべき「同じ民族−同胞」というわけだ。
その背景にはもちろん朝鮮戦争から半世紀という時の流れによる戦争体験の風化や、韓国の
経済発展による自信もある。さらに北朝鮮の経済的な疲弊や飢餓情報なども微妙に作用している。
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民主化の十五年間、朝鮮戦争について韓国マスコミがもっぱら伝えてきたのは北朝鮮による
侵略のことではなく、戦争中に米軍や韓国軍がいかに「良民虐殺」をしていたかという暴露である。
戦場での誤爆や左翼・共産主義者に対する処刑など、混乱期の「秘話」の掘り起こしと批判が
テレビや新聞で盛んに行われてきた。それが民主化であり言論の自由というわけだ。今や戦争
体験のない若い世代は、北朝鮮より米軍の方が悪いことをしたかのような印象を植え付けられ
ている。
最近の核問題についても韓国社会では漠然と「米国が北をいじめている」といったとらえ方が
もっぱらだ。北朝鮮に対する危機感はきわめて弱い。
「日本支配からの解放、朝鮮戦争での支援、経済発展、大量の在米韓国人の存在…。こんな
に米国にお世話になりながらなぜ反米なのか?」−。
これに対し韓国の多くの識者たちは「お世話になったことは事実だが米国も自分たちの国家
利益からそうしてきたのではないのか」といい、「感謝」は語らない。韓国にとっては米国もまた
「必要なときに利用する対象にすぎない」ということかもしれない。(ソウル 黒田勝弘)