連続ドラマ小説「ニホンちゃん」 12クール目

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『試合終了! エリザベス家VSブラジル家はブラジルの勝利です!』
 ホイッスルが高々と鳴り、2002年町内シューキュー大会屈指の大熱戦は終了しました。
観客は全員異様な興奮に包まれたままです。
自チームの敗退を目の当たりにし、エリザベスちゃんはガバッと席から立ち上がりました。
「エ、エリザベスちゃん!」
 側で見ていたニホンちゃんは全身から冷や汗が吹き出しました。
エリザベス家はシューキューの発祥国であり、特に4年に一回行われる町内シューキュー大会にはなみなみならない関心とプライドを持っています。
そのためか、いつもは紳士淑女のエリザベス家の人たちも、この大会では正気を無くして暴れ出すことが過去に何回もあったのです。
早速ウヨ君が腰を上げかけました。
もしエリザベスちゃんがブラジル家に殴り込んだりニホン家の施設を破壊したりしたら、身を挺して止めるつもりなのです。
 ニホン家シューキュー場に緊張が走りました。
皆がエリザベスちゃんを注視し、一挙手一投足に気を遣っています。
生唾を飲み込む音が所々に上がりました。
 そしてエリザベスちゃんは両手を挙げると……

 パチパチパチ

「え?」
 ニホンちゃんもウヨ君も、そして対戦チームであるブラジル家の応援団も呆気にとられました。
あの悪名高いエリザベス家の暴れ者が、何もせずに拍手を繰り返しているのです。
「素晴らしい……素晴らしい試合でしたわ」
「あの……エリザベスちゃん、でもあなたのチームは……」
「ええ負けましたわ。でもそれはブラジル家が正々堂々と戦い、そして私のチームより強かっただけのこと。この敗北に恥じることは何もありません。胸を張って家に帰りますわ」
 エリザベスちゃんの言葉に会場は感動の渦が巻き起こりました。
先程までの敵味方は睨み合いを止め、互いの健闘を讃え合っています。
 その毅然とした態度にニホンちゃんも涙を浮かべています。
「かっこいいねエリザベスちゃん!」
「ニホンちゃん、あなたの家も素晴らしかったわ。これほど完璧なホスト役は伝統あるシューキュー大会史上でも稀でしてよ」
「うん、ありがとう」
 堂々と退場していくエリザベス家一同を、ニホン家総出で見送りました。
もちろんその他のニホン家で試合をしたチームにも、勝った負けたにかかわらず応援し、温かく送り迎えしたものです。
「はぁー良い試合だったわね。私のチームもあれくらい上手にシューキューが出来るようになればいいんだけどなぁ。トル子ちゃんを見習ってもっと努力しなくちゃ」
 ニホンちゃんのチームも同じくベスト8を賭けた試合で敗北しています。
でもそんなことはもう忘れ、残りの試合を盛り上げるためにニホンちゃんは次の準備に掛かろうとしました。
「ウーーーーーーリーーーーーナーーーーーーラーーーーーー……」
 その時、隣の敷地から地獄の業火のごとく赤いキムチ色をした粉塵が接近してきました。
通常の3倍の大音声です。
「マンッッッッッッッッッッッッッッッセェーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
 ズザー!!!!
 まだ残っていた試合の余韻など強烈なトウガラシの臭いでぶちこわし、赤いユニフォームが豪快に滑り込んできます。
そして
「デーハンミングッ! デーハンミングッ!」
 と意味不明の大コールとスケート競技のようなアクションを独りでし始めました。
「カ、カンコ君……どうしたの?」
 呆気にとられながらもニホンちゃんはカンコ君に尋ねました。
カンコ君は興奮で顔を赤色化させながら、キムチ臭い息を吐き散らします。
「ニホンはウリを拝むニダーっ!」
「ええっ!?」
「そしてシューキュー大会決勝戦と閉会式をウリの敷地に変更するニダーっ!」
「そ、そんなこと今更出来ないよ」
「うるさいニダっ! シューキュー後進国はアジア町の盟主たるウリに逆らうなニダ!」
 直前の感動はすでに汚されてしまいました。
今は犬肉の臭いだけが毒の入った電波となってゆんゆんと会場にたなびいています。
 雰囲気ぶちこわしで一人だけ盛り上がっているカンコ君の後を、サヨックさんとアサヒちゃんが続きます。
「カンコ君は準決勝まで勝ち抜いたぞ!」
「アジア町初の快挙だわ! ニホン家は見習うべきね!」
「もっと讃えるニダーっ! ついでに独島をよこして謝罪してウリの銀行に一兆円補填するニダーっ!」
 もうめちゃくちゃです。
ニホンちゃんはそれでも冷静に対処しようと努めました。
これも大会ホスト家の役割です。
「そ、そう、おめでとうカンコ君。でもその話はお父さんたち同士で話し合うことだから、この場では決められないわ」
「ふんっ! まぁいいニダ。それよりマカロニーノは見なかったニダか?」
「え? マカロニーノ君ならあそこに……」
 ニホンちゃんはカンコ家のほうからとぼとぼと歩いてくるマカロニーノ君を見つけて指差しました。
マカロニーノ家はシューキューの名門で、今大会では優勝最有力候補の一つに上がっていたはずです。
それなのにあの元気の無さはどうしたのでしょう。
「こんにちはマカロニーノ君」
「やぁニホンちゃん、元気かい」
 いつもの彼ではありません。
普通なら「ヘーイ、ニホンちゃん、いつもエキゾチックで美しいネ! 今度トレビの泉の前で愛を語り合わないかい!」なんてナンパしてくるはずなのですが。
「どうしたのマカロニーノ君」
「あ、ああ……実は……」 マカロニーノ君が渋々ながら話し始めようとしたとき……
「マカロニーノ! お前はウリとのユニフォーム交換を忘れていたニダっ!」
 カンコ君が割り込んできて、キムチ臭が立ち上る赤いユニフォームを差し出しました。「……」
 しかしマカロニーノ君は視線を逸らしています。
「どうしたニダ? 折角勝者のウリがわざわざ出向いてきてやったのに、ありがたく受け取らないニダか?」
「お前なんか……」
「ニダ?」
「お前なんかボクの家には二度と出入り禁止だ!」
「ニ、ニダァッ!?」
 女性の前では取り乱したことのないマカロニーノ君が眉を吊り上げて怒っています。
こんな感情を露わにした彼を見るのはニホンちゃんとしても初めてでしたので、とても驚きました。
「な、何があったのマカロニーノ君!?」
「キミはボクとこいつの試合を知らないのかい?」
「えと……知っているけど……でも別に変なことは……」
「あれのどこが公正なんだい!?」
「ええっ!?」
 ニホンちゃんはとても驚きました。
彼女は自分の家の敷地で行われている大会の進行に忙しくて、カンコ家敷地での試合は直接観戦に行っていないのです。
その役は全てサヨックさんとアサヒちゃんに任せてあり、情報は彼らからのものに依存していたのです。
「どういうことなのアサヒちゃん?」
「な、なによ。ちょっとカンコ君に不利なシーンとマカロニーノ君に有利なシーンをカットしただけじゃない。編集上の都合よ!」
 それを聞いたマカロニーノ君はパスタにかけるトマトソースくらい真っ赤になって怒ります。
「なにが“ちょっと”だい!? あんな侮辱されたのは久しぶりだよ! 応援は最悪、試合も最低。さらにあの赤い光線は何なんだよ!? しかもニホンちゃん、キミの試合中にこいつは敵の応援をしてやがったんだよ! 共催ってのは嘘だったのか!?」
「ええーっ!?」
 そんなことは露ほども知らされていません。
ニホンちゃんは驚いてアサヒちゃんの顔を見ます。
「そんな……公正な報道じゃないよ」
「うるさいわねっ。カンコ家との友好が最優先事項なのよっ!」
 アサヒちゃんは既に開き直っています。
そして失意に沈んだマカロニーノ君は無言で家に帰っていきました。
「カンコ君、マカロニーノ君を見送りに行かなくていいの?」
「敗者にかける情けなど無いニダ! それよりウリを讃えるニダっ! デーハンミングッ! デーハンミングッ!」
 また例のコールを始めました。
 そこにまたとぼとぼと歩いてくる人がいました。
「あ、フラメンコ先生こんにちは」
「こんにちはニホンちゃん……」
 いつもは真っ赤な薔薇のように麗しいフラメンコ先生がやつれています。
一体どうしたのでしょう。
ニホンちゃんが心配して体調を尋ねようとしたとき、またしても割り込む韓流熱風が一筋。
「フラメンコ先生! ウリとユニフォームを交換するニダーッ!」
「ぎゃあっ!」
 カンコ君はいきなり自分の赤いユニフォームを脱ぎだし、代わりにフラメンコ先生の上着を剥ぎ取ろうとしています。
「くぉのド変態!!」
 ズドーン!
 強烈な振脚が響いてカンコ君の体は吹っ飛ばされました。
「タ、タイワンちゃん……」
 そこには猛虎硬爬山のポーズで息を荒げているタイワンちゃんだけが残っていました。
貞操の危機を脱したフラメンコ先生は服装の乱れを直して救援者に礼を言います。
「ありがとう。助かったわタイワンちゃん」
「どういたしまして」
 タイワンちゃんは両手を前で合わせて挨拶します。
これでもう次の試合に進める……そうニホンちゃんは思いましたが甘かったです。
「何をするニダ!」
 もうすっかり叩かれるのには慣れてしまったようで、カンコ君は瞬時に復活しています。
「くっ、しぶとい。さすが赤いゴキブリね」
 タイワンちゃんはチッと舌を鳴らしました。
「ゴキブリじゃなくて悪魔ニダ! 大体、タイワンはシューキュー予選落ちのくせにどうしてここにいるニダ!」
「観戦よ! 悪い!?」
「それならどうしてウリの敷地に来ないニダか!?」
「そんなの私の勝手でしょう!」
 いつもの口喧嘩が始まりそうです。
ニホンちゃんは大慌てで二人を止めました。
「まぁまぁ……それよりカンコ君、フラメンコ先生に用事があったんじゃないの?」
「そ、そうだったニダ。ウリに負けたフラメンコ家がユニフォーム交換を忘れていたから、届けてやろうと思って来たニダ!」
 ピクッ
 フラメンコ先生のこめかみに青い血管が浮かび上がりました。
フラメンコ家のシューキューチームは『無敵艦隊』とも呼ばれるほどの強豪で、こちらも優勝候補筆頭にあげられていました。
 ニホンちゃんもカンコ家とフラメンコ家の試合は聞いていましたので、二人を讃えてどうにか雰囲気を良くしようと頑張ります。
「接戦だったのよね。。最後のPKで逆転するなんてカンコ君すごいね。それにフラメンコ先生のチームも惜しかったですね」
「ふっふっふっふっ……当然ニダ!」
「あれのどこが接戦だったって言うのよ!」
 ニホンちゃんの言葉にカンコ君とフラメンコ先生は対照的な反応をしています。
というかまったく反対です。
またニホンちゃんは驚いてしまいました。
「ええっ? だって0対0のまま延長戦まで戦って……」
「0点じゃないわよ! 私のチームは2点入れていたの!」
「そんなっ……!?」
 ニホンちゃんはまたアサヒちゃんの方を見ました。
「わ、私はちゃんと報道したわよ!」
 これは本当です。
さすがにこれ以上の隠蔽ができなくなったのか良心が咎めたのか、アサヒちゃんの瓦版にはそれなりに載せられていました。
「じゃあもしかしてサヨックおじさん……」
「こ、これもカンコ家との親善のためだ!」
 ニホン家で一番チャンネル権を握っているサヨックおじさんの運営している放送協会では、フラメンコチームの幻のゴールシーンは全てカットして放映していたのでした。
ニホンちゃんが知らなかったのも無理無からぬ事です。
 フラメンコ先生は完全に怒って言い放ちました。
「とにかく、今日は気分が悪いわ。カンコ君、悪いけどユニフォーム交換は延期ね」
「わ、分かったニダ」
「それと、来期の成績表、覚悟しておいた方がいいかもね」
「ど、どうしてニダーっ!?」
「自分の胸に手を当てて考えなさいっ! これはポルトガル家のことも含めての事よ!」
 フラメンコ先生は聖職者らしからぬ過激な発言をしました。
その迫力にニホンちゃんもビビってしまいます。
「どうしたんだみんな?」
「あ、ゲルマッハ君。それにアーリアちゃん」
 既に準決勝進出が決定したゲルマッハ兄妹が通りかかりました。
カンコ君の敷地で行われる準決勝に行くためです。
 その二人の肩をフラメンコ先生がポンと叩きました。
「二人とも、次の試合は気を付けなさい。もしかしたらゴールキーパーがペナルティエリア内でハンドを取られてPK……なんてこともあるかもね」
「はっはっはっ、そんなとこあるわけないじゃないですか」
「そうね、普通は無いわ。普通はね。うふふ……」
 フラメンコ先生は最後にカンコ君を一睨みすると、地響きがしそうなほど荒い足取りで帰宅していきました。
 残された皆は呆然としています。
ニホンちゃんとしてはこのまま波風立たせずに流してしまいたくありましたが、共催ホスト家としての責任から恐る恐るカンコ君に尋ねました。
「カ、カンコ君……もしかしてあなた……」
「ち、違うニダ! ウリは審判に色々な物と交換できる紙束なんて渡してないニダ!」
「私は審判がどうとかなんて一言も言ってないんだけど……」
「ニ、ニダァーッ! それならニホンだってロシアノビッチ家との試合で……」
「ああーん? 俺様の試合がなんだってぇ〜?」
 いつの間にかロシアノビッチ君が側にいました。
というよりニホンちゃんとの試合後、家にも帰らずその場でウオッカでやけ酒をしていたようです。
よほど自分の家よりニホン家敷地の方が居心地が良いのでしょう。
 カンコ君はチャンスとばかりにロシアノビッチ君にすり寄りました。
「聞いて欲しいニダ! 実はニホンとロシアノビッチ君との試合は審判の不正があったニダ!」
「ほう……」
「きっと色々な物と交換できる紙束を渡したニダ! 審判を決めた奴をつるし上げるニダ!」
「つるし上げってこうか?」
 ロシアノビッチ君はカンコ君の襟首をグイッと掴むとミシミシと音が立つほど締め上げました。
「な、何をするニダーっ!? ウリはただ本当の情報を……」
「てめぇ、ニホンちゃんとの試合の審判を決めたのが俺様だって事を知ってて言ってるんだろうなぁ!?」
「ニ、ニダ?」
 そうです。
実はロシアルビッチ君は試合直前になって審判の選定を不服とし、自分にちょっぴり有利な審判と交代させたのでした。
それでニホン家のチームに負けたのですから文句が言えません。
ウオッカを煽って暴れるくらいが、うっぷん晴らしのせいぜいです。
 ロシアノビッチ君の握力攻撃で、カンコ君の顔色はキムチから腐ったキムチへと変わっていきます。
「止めてロシアノビッチ君!」
 ニホンちゃんが必至に止めにかかります。
いくらカンコ君が町内中から疑惑をもたれていたとしても、シューキュー大会自体は無事に済ませたいのです。
「……ふんっ」
 ロシアノビッチ君も一応立場が理解できたようで、不作法ながらカンコ君を投げ捨てました。
「ア、ア、ア、アイグォー……」
 虫の息でカンコ君は号泣します。
 でも数分後には何事もなかったかのようにケンチャナヨ復活するでしょう。
それがカンコ君の長所であり短所でもあるのですが……さてシューキュー大会終了後にカンコ家はどうなっているのでしょうか。
ちょっと恐い考えになってしまうニホンちゃんでした。

 終わり

ソース:
今回は多すぎて全部貼りきれません。アイゴー(藁
とりあえず代表的なのは
http://sports.msn.co.jp/articles/snewssp01.asp?w=176815
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020623-00070095-jij_ha-wcp
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020622-00000051-kyodo-wcp
http://www.yuriko.or.jp/ronbun/sapio.htm
716シューキュー中間まとめ追記:02/06/23 20:15 ID:Nsbc/WzL
「なあニホンちゃん……」
「ひゃっ! び、びっくりしたぁ。いつの間にそこにいたのキッチョム君?」
「スパイ船で……いやそんなことはどうでもいい。名案があるんだけど」
「え? どんな?」
「カンコ家のシューキュー大会出場、それ自体を無かったことにしたらどうかな」
「いくらなんでもそんなことは出来ないよぅ」
「んん〜? そんなことは無いと思うよ。やろうと思えば消滅させることだって……くくくっ」

http://www.yomiuri.co.jp/05/20020621i291.htm