連続ドラマ小説「ニホンちゃん」 12クール目

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「さぁ開会式を始めるわよ!」
 今日は待ちに待ったシューキュー大会の日です。
 紆余曲折はありましたが、なんとかここまでこぎ着けることが出来ました。
今までずっとEU組の敷地内で行われていた大会でしたけど、今回は初めてアジア組区画内での開催です。
「でも……」
 ニホンちゃんの心に不安が過ぎります。
実は今回の大会は、カンコ家と共催なのです。
本当はニホン家だけで単独に準備しようと思っていたのですが、いつの間にかシューキュー大会副会長になっていたカンコ父が強引に共催にしてしまったのです。
ニホンちゃんはその時のことを思いだしただけで胸が悪くなります。
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−開催数週間前−

「マンセー! ついにウリナラは町内一流になったニダ!」
 心配する他の家をよそに、カンコ君は一人だけ喜んでいます。
ニホン家としては青天の霹靂で不満も残りますが、一度決まってしまったことを覆すのは大人げありません。
渋々ながら決定に従い、カンコ家に協力することになりました。
「ねぇカンコ君、共催はいいけどカンコ君家の敷地整備は大丈夫なの?」
「心配しなくてもいいニダ! これから会場を作るニダ!」
「これからって……そんなお金、どこにあるの?」
 ニホンちゃんが危惧するのも無理はありません。
数年前、無理な財テクに失敗したカンコ家の家計は火の車のはずです。
しかも今でもニホン家から毎年借金をしているのです。
「金ニダか? そんなに心配ならニホンが貸すニダ」
「ええっ? そんな無茶言わないでよ」
 ニホン家だって最近は事業が上手くいかずに財政が苦しくなっています。
さらにこれから競技場の整備や選手の接待、観客の休憩場作りに大変なのです。
それなのにカンコ君はさも当然のように言い放ちます。
「何を言っているニダ! 共催ニダよ! 困っている方を助けるのは当然のことニダ!」
「で、でも……」
「それともニホンは町内の期待を裏切るつもりニダか? やっぱりニホンは極悪非道ニダ! ウリと町内中に謝罪と補償して反省しる! こんな鬼子と共催しなければならないウリは不幸ニダ! アイゴー! アイグォーーーーー!!」
 カンコ君はひっくりかえって手足をばたつかせ始めました。
こうなったらもうどうしようもありません。
ニホンちゃんは深く溜息をついて言いました。
「解ったよぅ。パパに相談して、何とかしてもらうから」
「ふんっ! 当然ニダ!」
 感謝の“か”の字も表さず、カンコ君はペッと唾を吐き捨てて去っていきました。
そしてニホンちゃんの肩にドンとぶつかり、謝りもせず近所の飲食店に向かっていきました。
そこで他のお客の迷惑も考えず大声でニホン家を罵倒しウリナラマンセーを叫ぶつもりなのでしょう。
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「で、でも個人的感情はこの際我慢しなくちゃ」
 血の気の多いアメリー君やロシアノビッチ君やチューゴ君ならとっくに喧嘩になっていたでしょう。
でもニホンちゃんは町内中の人たちのことを思ってじっと耐えます。
これがニホン家に伝わる忍ぶことの美学なのでした。
 さてシューキュー大会の開会式はカンコ家の敷地の競技場ですることになっています。
会場に集まった人たちを前に、まずニホンパパが挨拶をしました。
「カンコ家と一緒になって、町内中の人たちに楽しんで貰うよう盛り上げていきたいと思います。では決勝戦で合いましょう」
 そしてカンコパパの所まで行って握手をしました。
短く簡潔で、且つ共催相手の立場を立てた挨拶です。
大会の主役は選手であり主幹はゲームにあるので、挨拶なんて観客にとって本当はおまけでしかないのです。
だからこそニホンパパは目立たないよう素早く下がりました。
 次はカンコ家の挨拶です。
「マンセー! 偉大なウリナラ5000年の歴史の素晴らしさを、この大会で堪能していくニダー!」
 そう叫ぶといきなり踊り出しました。
呆気にとられた町内中の人たちを後目に、競技場の芝生の上で暴れ放題です。
「ニダー! ウリナラの伝統とITの融合した姿を見るニダー!」
 そういうとカンコ君は頭に液晶画面を乗せた怪しいコスプレをして出てきました。
続いてアガシ・ナヌムばあさん他一家総出でカンコ家の宣伝をしまくります。
 勝手に盛り上がるカンコ家に対し、観客達は冷め切っていました。
早く初戦である『フランソワーズ家VSセネガル家』を見たいのに、どうしてカンコ家の自画自賛を見ていなければならないのでしょう。
 おぞましいものを目の当たりにして不満たらたらな表情を湛えながら、フランソワーズちゃんがニホンちゃんに話しかけてきました。
「……ニホンちゃん、この演出もあなたの計画の内ですの?」
「ううん。開会式に関しては「ウリが勝手にやるニダ!」ってカンコ君が独自で決めちゃったから……」
「今回って“共催”でしたわよね?」
「そのはず……なんだけどね」
「では閉会式はニホン家が全て仕切るのですわね」
「えと……「閉会式でもウリが目立つように手順変更するニダ! ウリのパパが優勝カップを渡すニダ!」ってついさっき言ってきたの」
 ニホンちゃんは苦笑いです。
開会式では一切ニホン家を関わらせなかったくせに、閉会式には平気で口出ししてくるのです。
しかも今回の大会のお金はほとんどニホン家が出したし競技場の設計協力までしたのに、「シューキュー大会は『共催』ではなく『分催』ニダ!」なんてまるでカンコ家だけで全部仕切っているような口振りです。
 しかも礼儀正しいニホンパパに対して、これを無視したばかりか自家の歴史を5000年とまで言い放ち捏造して宣伝しています。
きっと今頃どこかでチューゴ君はこめかみをピクピクさせていることでしょう。
 もうあきれ果てたフランソワーズちゃんは頭を抑えています。
「まったくカンコ君の家は救いようがありませんわね。この前の練習試合でも我が家の主軸選手に怪我までさせるし。すぐ後に試合があるのに、こんなに芝生を荒らしてしまってどうするつもりなのかしら」
 未だ「アリラ〜ン」と叫んでウリナラマンセーに酔っているカンコ家の人々を見ながら、ニホンちゃんは「あはは……」と愛想笑いするしかありませんでした。
325整理券:02/06/02 19:00 ID:q+APpGNm
「ふぅー、やっとここまできたわね」
「ニホンちゃん、準備お疲れさまー」
「あ、タイワンちゃんいらっしゃい」
 町内の人たちがぞくぞくとニホン家の競技場に集まってきます。
隣家は当然の事ながら、すごく離れていて顔さえ知らない人たちも積極的に参加しています。
その時ゲルマッハ君とアーリアちゃん兄妹が到着しました。
「やあニホンちゃんいつもながら完璧な歓迎体勢だね」
「ありがとうゲルマッハ君。でも本当は少しだけ不手際があるの。ごめんなさい」
「慎重なキミらしくないね」
「うん……それがその……」
 ニホンちゃんは申し訳なさそうに目を伏せました。
何か心配事があるようです。
「まぁいい。今回は思いっきりプレイさせてもらうよ。な、アーリア」
「ええそうね。頑張りなさいよ兄さん」
 ゲルマッハ君は選手、アーリアちゃんは応援団としての参加です。
そして応援するからにはいい場所を取りたいと思うのが当然でしょう。
アーリアちゃんは早速ニホンちゃんに自分の席を尋ねました。
「私の席はどこかな?」
「あの……ご、ごめんね。その……」
「どうした? もうずっと前から整理券は予約済みのはずだぞ」
「そうなんだけど……ええと……」
 こういう約束事にはきっちりしているニホンちゃんが、不釣り合いにしどろもどろです。
いつもはニホンちゃんに好意を持っているアーリアちゃんも、この煮え切らない態度には少し機嫌を悪くしました。
「どうした? 早くしてくれ」
「う……」
326整理券2:02/06/02 19:01 ID:q+APpGNm
 ニホンちゃんはすごく困っています。
そこへエリザベートちゃんが到着しました。
彼女の家は町内シューキュー大会会長も兼ねており、一番の権力者でもあります。
「こんにちはニホンちゃん。私の席はどちらかしら? 整理券を渡してくださらない?」
「あの……えっとね、まだ分けてあげられないの」
 アーリアちゃんとエリザベスちゃんの眉が微妙に釣り上がりました。
明らかに怒っています。
シューキュー大会は町内最大のイベントであり、特にエリザベート家は仕事を放り出して駆けつけるほど熱狂的です。
「どういうことですの!? こんな大事なイベントに不手際があるとは信じられませんわ!! こんなことではニホン家の敷地内での開催を推薦した我が家の名誉にも関わりますわ!!」
 常に上段から余裕を見せているエリザベートちゃんが声を荒げています。
「まぁ待てエリザベート。こうなった理由を述べるんだニホン」
 不満を露わにしつつもアーリアちゃんは論理的回答を冷静に求めてきました。
ニホンちゃんはちらとエリザベートちゃんを伺いながら、申し訳なさそうに話し出しました。
「あのね、整理券が足りないの」
「足りないって……随分前から準備していたんだろ?」
「うん。こっちの用意は整っているんだけど、券がまだ届かなくて」
「整理券を発行している家って確か……」
 皆の視線が一斉にエリザベートちゃんに集まりました。
瞬時にエリザベートちゃんの顔が真っ赤になります。
エリザベート家はちょっと権力を操って、整理券の印刷を自分の家の印刷機でしか出来ないように決めてしまっていたのでした。
つまりニホンちゃんとしてはエリザベート家から整理券が届かないとどうしようもないのです。
「い、言い掛かりはおよしになって!」
 エリザベートちゃんは必至になって弁解します。
でもアーリアちゃんは論理的な回答しか受け付けない思考回路を持っていますから、言い訳なんて聞く耳を持ちません。
327整理券3:02/06/02 19:02 ID:q+APpGNm
「言葉より先に整理券を出しなさい」
「くくっ!」
 無慈悲な責めにエリザベートちゃんは追いつめられてしまいます。
しかも入場を求める観客がどんどんと到着し、球技場入り口は大混乱です。
「こ、こうなったら仕方ありませんわ」
 エリザベートちゃんは開き直って叫びました。
「今から私が席順を決めて差し上げますわ」
「ええっ!?」
 主催であるニホンちゃんは驚いてしまいました。
折角これまで入念に準備してきたのに、これではその苦労が水の泡です。
「エ、エリザベートちゃん、そんなこと打ち合わせにないよ」
「お黙りなさい! シューキュー大会は私が仕切っているのです!」
 止めようとするニホンちゃんを無視して、エリザベートちゃんはその場で勝手に整理を始めてしまいました。
ニホンちゃんもなんとか協力して事態を収めようとするのですが、一度混乱してしまうとどうしようもありません。
結局競技場には入れなかった人が沢山出てしまい、シューキュー大会は初戦から不満の声が挙がってしまいまいました。
「ううっ……今まで一生懸命やってきたのに」
「さ、さーて私は次の試合に応援に行かねばなりませんわね。ではごきげんよう」
 一番の原因であるエリザベートちゃんはさっさと逃げようとしました。
しかしそのとき、隣の敷地からキムチ色の砂煙を上げて近付いてくる影が一つ。
そう、期待通り我らがダークヒーロー・カンコ君です。
「ニダー! 謝罪しるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
 いきなり電波全開です。
ニホンちゃんは反射的に身構えてしまいました。
でもカンコ君は、体を堅くするニホンちゃんの横を通り過ぎ、真っ直ぐエリザベートちゃんへ向かっていきます。
328整理券4:02/06/02 19:03 ID:q+APpGNm
「あ、あれ?」
 意外に思ったニホンちゃんはカンコ君の後を追いかけます。
追い付くと、何とも珍しいことにカンコ君がエリザベートちゃんに食い下がっています。
強気を助け弱気を挫くがモットーのカンコ家としてはすごいことです。
「ウリのところでやった開会式と試合の席が空いていたのもエリザベートのせいニダ! 補償しるーーーーー!」
 でもこれにはエリザベートちゃんは冷ややかな目で答えます。
「ニホンちゃんの競技場での整理券は全て売り切れていたから、後で追加発行してしまった分だけ混乱してしまったのですわ。でもカンコ家の整理券はまだまだ余っていたはずだから、足りなくて混乱なんてするはずがないでしょう」
 そうです。
予約だけで一杯になってしまったニホン家敷地開催のゲームと違い、カンコ家で分けていた整理券は大量の余りが出ていたのです。
席が空いているのも当然ですし、整理券が配られなくて混乱する事なんてあり得ません。
「とにかく、そんな生意気な口は整理券を全部配り終えてから言いなさい。ま、どうせあなたの敷地の試合なんて無料配布しても来ないでしょうけどね。オーッホッホッホッホッ!」
 エリザベートちゃんの高笑いに、カンコ君の顔面は20倍キムチ色に染まっていきます。
それはそうでしょう。
カンコ家自体がウリナラマンセーの宣伝しか頭になく、シューキュー自体には興味が薄いのです。
さらに、やたらに道に唾を吐いてぶつかっても謝らず周りに迷惑かけてもケンチャナヨな国なんかに行きたいと思う人なんて多くいるはずがありません。
「ア、ア、ア、ア、アイグォォーーーーーーーー!!」
 いつもの悲鳴を上げてカンコ君は自分の敷地の競技場へと戻っていきましたとさ。

ソース:
http://www.sankei.co.jp/news/020601/0601spo114.htm
http://www.yomiuri.co.jp/00/20020602i181.htm
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=153111
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20020528/mng_____tokuho__000.shtml
329整理券after:02/06/02 19:05 ID:q+APpGNm
 追記
 カンコ君を撃沈させて気分の良くなったエリザベートちゃん。
しかしその肩にポンと手が置かれました。
「で、私の整理券はどうなったのだ?」
「それと足りない分の券はどこに行ったのか教えて欲しいな」
 エリザベトちゃんが振り向くと、アーリアちゃんとニホンちゃんが恐い笑顔を浮かべて立っていました。
「オ、オホッ……オホホ……」
 掠れた笑いを必至で浮かべるしかなかったエリザベートちゃんでしたとさ。
330325-329作者:02/06/02 19:09 ID:q+APpGNm
ああっ、途中から『エリザベス』が『エリザベート』になっているニダァァァァァァ!
反省と謝罪するニダァァ!
アイグォォォォーーーーーーーーーーー!