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「朝鮮の宮廷は非常に貧しく、国庫はさらにもっと貧弱です。
宦官やその仲間である国王の妾、宮中の侍女たちは、もし大臣の地位や、
又時には他の幾つかの高官職を売って得る金がなくなれば、きっと打撃を蒙るでしょう。
従って権力の座にあるものは、贈り物を次々と与えては機嫌をとり、
これらすべての貪欲な吸血鬼をいつも満腹にしておかなくてはなりません。
特に今までに増して国王の寵愛を獲得しようとする時には、巨額の金が必要になります。
所が金炳国(きむぴょんごく・国王の義兄弟)は、幾つかの官職をかなり高く売り、
朝鮮人参の専売権を引き受けたのだが、それでも尚必要とされるすべての人々に富を行き渡らせて、
地位を買収するだけの金を得ることができなかったのです。
昨年の真冬に、金炳国のおかげで多くの地位と富を得た1人の男が金炳国を訪ねてきて、
「最高権力を握りたいとは思わないですか」と尋ねたのです。
「答えるまでもないでしょう。しかしそれを得るためにはとにかく金がいるのというのに、
私にはそれがありません」と国王の義兄弟は答えました。
「それでは私に王国の南部地方の租税を徴収する職を下さい。
そうすれば必要なお金を手に入れて差し上げましょう」「よろしい」と大臣は答え、
すぐさまその男の指示に従って対策を講じたのです。
南部地方の租税は主に米で、それは海路を通じてソウルに運搬されていました。
くだんの男はこれらの米をみんな集めて船に積み込み、中国まで運搬し、
朝鮮で売る4倍の価格で売りさばいたのです。
帰国した彼は租税に必要な米を再び買いととのえました。
こうした値段の差額によって、国王の義兄弟は、
宮中にあふれている一群の宦官と侍女の支持を一手に獲得することができたのです。
そして彼は自分の競争相手を罷免し、すべての権力を独占しました。
いかなる穀物を輸出しても、それは極刑にかけられる犯罪になります。
ましてや王室の維持費のために徴収された米を売るものは許し難い国事犯なのです。
この密輸出が原因となって、とうとうこの年は幾つかの道にとっては深刻な飢えの年となったのです。
しかし彼にとって何の関係があるでしょう。
彼が権勢を得、豊になった以上、誰が彼の行状を問い正そうとするでしょうか」