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2.トルキスタン諸語:
旧ソ連の構成共和国のウズベク・カザフ・キルギス・トルクメン・アゼルバイジャンの
諸国はトルコ系に分類される人々を主体民族とし、1910年代までは、中国の新疆地方や
ロシア連邦内のタタール・バシキール部分の人々とともに、チャガタイ・トルコ語と呼ば
れる書面語を共通語とする、一つの言語共同体をつくっていました。
この言語共同体はイスラム教による宗教共同体でもあり、イスラム教徒の先覚者たちは、
この共同体の一体性を保持した社会の近代化をめざしました。 チャガタイ・トルコ語の
近代化も、ロシア領内のトルコ系の人々すべてを念頭においた共通語の創出を目指して推
進されました。
しかし、詳細な描写は省きますが、ロシア革命を経て成立したソビエト政権は、このよう
なイスラム=トルコ語共同体の一体性を意図的に破壊する政策をとります。
その政策とは、
・方言の相違を根拠にトルコ系のひとびとをいくつもの「共和国」や「自治共和国」に分
割する。
・スラム=トルコ語共同体の一体性の支えとなってきたチャガタイ・トルコ語の古典文献
との連続性を断絶させるため、アラビア文字を廃止してラテン文字(後にキリル文字)
を導入することを強制
・共和国、自治共和国単位で、その土地の方言的要素を主たる材料とした「標準語」の創
出を強要。
この結果、旧ロシア帝国内のトルコ語共同体は、ソ連によって人工的に樹立された共和国
単位で、ウズベク語、カザフ語、キルギス語、トルクメン語、アゼルバイジャン語、タ
タール語、バシキール語などに分裂してしまいました。
ソ連の滅亡によって、分化を強要してきた強権は消滅しましたが、上記の諸国の間で言語
面での統一を恢復しようという動きは、ほとんどありません。