国際関係を学ぶための読書案内

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59おきゅきゅきゅきゅ〜
>>56-57
ちょっと「あれ」だけれども、細谷せんせの掲示板
http://6107.teacup.com/hosoya/bbs
より転載

『危機の二十年』の危機 投稿者:ほそや  投稿日: 3月27日(水)22時34分27秒

『文藝春秋』4月号を読んでいたら、気になる記事がありました。
「岩波文庫 あの名著は誤訳だらけ」山田侑平、 大学生必読「国際政治学の古典」は全く意味不明、という題目の記事で、大学の国際政治学で必須のカー『危機の二十年』は、
誤訳も甚だしく、それに気づかないで講義やゼミで使う大学教員は、何を考えているのか、という強烈な批判です。中島嶺雄『国際関係論』(中公新書)や、花井等編
『名著で学ぶ国際関係論』(有斐閣)を、その誤訳に気づかず推奨していることから
批判し、また慶應義塾大学法学部のあるゼミでも、サブノートを使ってこの「悪書」を
学ばせている、と批判しています。

まあ、「誤訳」に対する批判はこれまであらゆる場所でも論じられてきて、それほど
気にしないで読み始めると、結構すごい。とんでもない誤訳です。中学生の訳とも
思える、目をつぶりたくなるような恥ずかしい間違いが多い。

単なる誤訳ならまだしも、その本意が反対に伝えられていたりします。
例えば、ウィルソン大統領が、現実主義者で柔軟な指導者であるかのような表現をしたり
あるいは、ファシズムがきちんと国際関係を理解していた、というようなカーの本意と
正反対の翻訳がある。確かに、数カ所、とても危険な訳し方が指摘されていました。
(次のレスへ)
60おきゅきゅきゅきゅ〜:02/11/24 13:49 ID:YPkJL2Zy
(>>59の続き)
この記事の著者は、岩波書店という権威故に安心して、そのとんでもない誤訳の山を
無視して、大学生に読ませてきた、大学教員に鋭い批判を加えています。
そして、そのような誤訳を岩波叢書版で、岩波の校正担当の編集者は無視してきたばかりか
さらにあたらしい多くの誤訳を加えた形で、岩波文庫版を出すという鈍感さを、これまた
批判しています。

僕の場合、言い訳のようですが、大学生の時に、井上茂訳の岩波叢書版を読んできて、
何も感じずにふつうに読んでしまいました。その後は、もっぱら英語のマクミランのもの
を読んでいるので、違和感を感じませんでした。しかし、私も北大の授業で一度、
この『危機の二十年』を1年生向けのテキストとして使いました。「読みにくい」という
印象はあったと思うのですが、カーの議論があまりにも明瞭で理解しやすいので、あまり
誤訳には注意を払いませんでした。

ともあれ、確かに確認すると、致命的な誤訳、というよりも誤訳以上に、翻訳時の理解不足
が感じられます。岩波の訳者は、お茶の水女子大学学長をつとめた、法哲学者という
ことのようですが、確かに外交史的、国際政治学的な理解がないと、なかなか訳すのが
難しいところが多いであろうという気はします。

折角岩波文庫で安価で、カーの名著が読めるようになったのにこれでは確かに問題が
ありますね。僕自身、翻訳を読んでおもしろくもなんともなかったのに、原典を読んで
とてつもないほどわかりやすく、おもしろかった、という経験は何度もあります。
そのような場合は、著者が悪いのではなくて、著者の意向を理解できず、なめらなか
翻訳を行えなかった訳者に責任があるのでしょう。私も多少、翻訳の手伝いのような作業
をしたことがあり、その作業の大変さを多少は理解しているのかもしれませんが、
ともあれ、これは深刻な問題です。