宇治拾遺物語

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107名無氏物語
「古典で学ぶHG」
(原文)
 今は昔、一條棧敷屋に、ある男とまりて、傾城とふしたりけるに、夜中ばかりに、
風ふき、雨ふりて、すさまじかりけるに、大路に、「ハードゲイ、フゥーーー!」と、
腰を振りて過ぐる者あり。なに者ならんと思て、蔀をすこし押し明てみければ、
長は軒とひとしくて、黒皮の装ひしたる硬派衆道なりけり。おそろしさに、蔀を懸けて、
奧の方へいりたれば、此硬派衆道、格子押し明て、顏をさしいれて、
「ど〜も〜、ハードゲイパトロールで〜す フゥ〜♪」
と申ければ、太刀をぬきて、いらばきらんとかまへて、女をばそばに置きて待
ちけるに、「斬る気マンマン、フゥーーー!」といひて、いにけり。百鬼夜行にてあるやら
んと、おそろしかりける。それより一條の棧敷屋には、又もとまらざりけるとなん。

(意訳)
 昔のことであるが、ある男が、一条大路に面した桟敷屋に泊まって遊女と臥せっていると、
夜半ばかりに風が吹きはじめ、雨も激しく降ってひどい嵐になってきた。
と、その嵐の音にもまぎれず、「ハードゲイ、フゥーーー!」と腰を振りつつ
大路を過ぎてゆく者があるので、何者であろうかと思って、蔀を少し
押し上げて見ると、身長が軒ほどもある、黒皮の衣装をまとったハードゲイであった。
男は恐ろしさのあまり、蔀を下ろすと奥に逃げ込んだのであるが、このハード
ゲイは、やおら外から蔀格子を押し上げて、ぐいと顔をさしいれると、
「ど〜も〜、ハードゲイパトロールで〜す フゥ〜♪」とにこやかに言った。
男は、太刀を抜き、入ってきたら斬り付けようと構え、女を側に置いて待っていたが、
ハードゲイは「斬る気マンマン、フゥーーー!」と言って、闇の中へと去っていった。
これはきっと百鬼夜行であったのであろうと、男は恐ろしがり、二度と一条桟敷に
泊まることはしなかったということだ。