假名遣に於ては、違つた假名は、それぞれ違つた用途があるべきものとし、
たとひ同音であつても別の假名は區別して用ゐるべきものとするに對して、
表音的假名遣に於ては假名は正しく言語の音に一致すべきものとし、同音に
對して一つ以上の假名の存在を許さないのである。もし同音の假名の存在を
許さないとすれば、假名遣はその存立の基礎を失ひ雲散霧消する外ない。即ち、
表音的假名遣は畢竟假名遣の解消を意圖するものといふべきである。然るに
之を假名遣と稱するのは、徒に人を迷はせ、假名遣に對する正當なる理解を
妨げるものである。
假名遣と表音的假名遣とはその根本の性格を異にしたものであって、假名遣に
於ては假名を語を寫すものとし、表音的假名遣に於ては之を專ら音を寫すものと
して取扱ふのである。