厨房、工房のための現代語訳解説

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595名無氏物語
これも今は昔、奈良に蔵人得業恵印といふ僧あり。
それが若かりける時に、猿沢の池の端に、「その月その日、この池より龍の
のぼらむずなり。」といふ札を立てたりけるを、行き来のもの、若き老いたる、
さるべき人々、「ゆかしきことかな。」とささめきあひたり。
この僧、「をかしきことかな。わがしたることを、人々さわぎあひたり。をこのことかな。」
と心中にをかしく思へども、すかしふせむとて、そら知らずして過ぎいくほどに、その月になりぬ。
おほかた、大和、河内、和泉、摂津国のものまで、聞き伝へて、つどひあひたり。
恵印「いかにかくは集まる。何かあらむやうのあるにこそ。あやしきことかな。」と思へども、
さりげなくて過ぎ行くほどに、すでにその日になりぬれば、道もさりあへず、
ひしめき集まる。その時になりて、この恵印思ふやう「ただごとにもあらじ。わがしたることになれども、
やうのあるにこそ。」と思ひければ、「さもあらむずらむ。行きて見む。」と思ひて、頭つつみて行く。
おほかた、近う寄りつくべきにもあらず。興福寺の南大門の壇の上にのぼりたちて、
「今や龍ののぼる、のぼる。」と待ちたれども、何ののぼらむぞ。日も入りぬ。
出典「宇治拾遺物語」 昇らなかった龍
※得業は僧の学問上の階級の一つ 猿沢の池は奈良の興福寺にある池
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