321 :
名前なカッター(ノ∀`):2013/03/17(日) 22:50:28.06 ID:2fNR+6Ng
過疎ってるけど、大切なナイフと悲しい別れをした可哀そうな子がいなくて何よりだ
台風の時期になると、思い出すナイフがある。
ナイフといっても、クッキングナイフと言うべきものかも知れない。カーショーのエクスチェンジブレード。牛刀状の包丁とか、のこぎり、カービングナイフ、パン切ナイフなど、
一つのハンドルで、複数のブレードを交換しながら使う、キャンプ用のナイフセットだ。
東京湾は、特に木更津方面では海苔の養殖が盛んなのは、ご存知の方も多いだろう。海苔の養殖には、養殖棚と呼ばれる、網を海中に張り巡らせ、そこに海苔のタネを
付着させ、あとは大自然の力に任せて成長させ、最後に網ごと回収して収穫する。冬の回収作業を見学していると、船上で巻き上げた海苔網に、冷たい海水を噴射しながら
水圧で網から海苔を分離させる作業が、とても冷たそうで、大変な作業に思える。
真夏日と呼べる日もだんだんと少なくなり、既に南の国には台風が次々と騒ぎをもたらしているころ、自分は仲間と、カワハギ釣りの計画を立てていた。ちょっと一昔前の、
今頃の話だった。
323 :
322:2013/09/06(金) 22:18:49.03 ID:huCuFM2v
東京湾は、実はカワハギがよく釣れる。刺身でも、熱を通してもおいしい魚で、調理も簡単と、良いことづくめだが、一方で「エサ取り名人」とも呼ばれ、針を飲み込まずに
餌だけを取ってしまう技に、実に長けている。このため、釣り人は道具や餌のつけ方に工夫を凝らし、海中にひとたび糸を放てばその竿先にじっと、熱い視線を注ぎ続ける。
利き手は常に臨戦状態。針を飲み込んだ感触をわずかにでも感じ取ったら、すかさず利き手を跳ね上げて、好敵手を針にかけなくてはならない。
さて、東京湾でプレジャーボートを維持しようとすると、駐艇料金だけで年間80万円は下らない。だから、普通カワハギ釣りといえば、職業漁師の操船する船に乗船料金を
支払って乗り込み、上記のごとく釣りに熱中するのが、釣り人の常なのだ。しかし、この場合には数人の仲間で誘い合っても、大半の知らない人たちと、同じ船の上の人と
ならねばならない。料金をはずんで「仕立て船」という貸切状態にする手もあるが、それでも船長の決めたルールは、客が遵守することが必然となる。
仕事の絡みで懇意になったある素封家が、大の釣り好きで、かつ大の人間嫌いだった。だから彼は、大枚はたいても己のプレジャーボートを、所有していた。
今回は、この素封家である彼からのお誘いで、人嫌いの彼の持つ、わずかな人数の、気の置けない友人たちでの釣行であった。
324 :
322:2013/09/06(金) 22:41:31.33 ID:huCuFM2v
数年に一度ぶりくらいの台風関東上陸が、釣行予定日に重なりそうではらはらしていたが、思ったよりも早く温帯低気圧に変わって北上してくれたおかげで、関東地方に台風は多少の被害を与えたものの、大きな爪痕を残さず、さらには台風一過の秋晴れをもたらしてくれた。
どちらかと言えば魚は、浮き袋など身体の構造上、高気圧よりは低気圧を好むので、晴天はあまり好ましくないのだが、人間としては雨合羽を着ないでボートデッキに居られるのはありがたい。当日早朝、集まったメンバーたちは、遠足の子供よ
ろしく声高々に、マリーナからランチング(陸上保管のボートを海水まで降ろして、運転できる状態にしておくこと)されたボートに乗り込み、彼の操船により、いざ出航。
彼の艇には初めて乗ったが、たいそう立派な船体だった。魚群探知機、GPSプロッタなどは当然のこと、クルーズコントロールなど豪華な装備も備えており、キャビンにはシャワールーム、トイレ、簡単なキッチン、保冷庫まで備え付けてあった。
325 :
322:2013/09/06(金) 22:47:10.85 ID:huCuFM2v
彼によれば、釣り以外にもよく、家族とクルージングに出かけ、洋上でサンドイッチなどを作って楽しんでいるそうな。
それで、保冷庫の上には、普段パンでも入れるのであろう、藤の蔓で編んだ籠があり、その中に、黒くて四角い、フェイクレザー様のファスナーケースがあったのだ。
彼に了解を求めて中を改めると、ゴム製の黒いハンドルが一本、あとは個別包装された各種ブレード。
カーショーのエクスチェンジブレードとの出会いだった。
神奈川のマリーナを出港してから、実績のある釣り場のポイントまでは、結構な距離を移動した。仲間たちは、思い思いに
釣り具の再点検と準備をしたり、操船や帰りの車の心配を持たない人は、早くも保冷庫のアルコールに手を出したりと、
リラックスしたムードが流れていた。
326 :
322:2013/09/06(金) 23:07:29.28 ID:huCuFM2v
自分はというと、根っからの刃物ヲタ、こういう刃物を見てしまえば、弄りたいという欲求に逆らえず、「ほう」、「へぇ」などと呟き
ながら、いろいろなブレードの交換、着脱作業を楽しみつつ、そっとエッジに親指の腹を当てて、砥ぎ具合チェックも欠かさない。
どうやら購入から一度も砥石に当てていないようで、ナイフ類の切れ味はご想像の通り。
ただ、のこぎりとパン切りナイフのエッジだけが、使っていないのか、ぞくっとするほどの迫力を保っていたのが、印象的だった。
彼のボートは、結構大型のプレジャーボートには珍しく、船外機船のツインエンジンだった。スズキ製の船がよくやるテだ。
200馬力越えの直噴2ストロークエンジンが2基、スターンプレートに固定され、エンジンが直接方向を変えることで、船の
向きも変える。船内機船に比べて、小回りが効く。しかも、ものすごくスピードが出る。
小一時間ほどのクルージングで、タンカーなども通る大型航路を横断し、千葉県側のポイントに到着した。
327 :
322:2013/09/06(金) 23:21:59.28 ID:huCuFM2v
彼は魚群探知機で、丹念に海底の地形をさらってから、スターンデッキのスパンカ(船の後ろについている、飛行機の尾翼の
ような役割のもの。これを張ると、潮に流されている船が、風の影響を受けてしょっちゅう向きを変えてしまう現象が、防げる)を
張って、いざ釣り開始宣言。
各人、一斉に針に取り付けたアサリを海中に投入した。魚群探知機により、魚は海底から数メートルほど浮いていることが
分かるので、その位置に針を持ってくる。あとは、魚が食いつくのを、今か今かと待ち構える。
ほどなくして、「よし!」とか、「やった!」なんて声が、聞こえ始める。自分の針も、どうやらカワハギがつついているようだ。
一呼吸おいて、ヒュッと竿をしゃくり、ずしっとした魚の重みを感じ取る。この感じが、釣り人の至福の瞬間だ。
船長の彼も、既に暴れる魚の針外しを行っていた。今日はなかなか調子が良い。船は、エンジンを切った状態で、しかし
いつでも動き出せるようにした状態のまま、潮と風に少しずつ流されていた。ここは、航路からも外れているし、一応
周囲の警戒を各人で行ってもらっているので、座礁や船体衝突の危険はないはずだ。
328 :
322:2013/09/06(金) 23:29:58.73 ID:huCuFM2v
一通り釣って、このポイントの魚が、だんだんと警戒し始めたのか、釣れなくなってきた。こんな時には、一か所で粘らず、
大きく場所移動をするべきだ。彼もそう感じたようで、いったん仕掛けを引き上げるように全員に宣言し、船のイグニッションを
ONにした。
軽快なエンジン音が船体に響き渡り、船が270度ほどターンしながら、加速を始めた。
その時、船体に妙な振動が走った。「ゴゴゴ、グッググ…」みたいな音がして、加速中だった船は一気に速度を失い、
船体ごとゆっくりと前につんのめるような形で減速し、すぐに止まった。操舵室からは、何かの異常を知らせる、
「ピー」というような警告音が、かすかに聞こえた。
329 :
322:2013/09/07(土) 16:11:47.92 ID:inC7xsNk
彼以外の人物は、次なるポイントに向けての準備として、針にアサリを付け直してい
るところだった。だから、船の停止にすら気づかず、せいぜい高波を乗り越えたくらいに
感じている人もいた。
船は、再び潮と風に、ゆっくりと流され始めた。彼は、操作パネルを睨み付け、首を
かしげている。自分は、昔から船舶航行経験があるので、この事態には何やら、容易
ならざるものを感じ取り、彼に声をかけて様子を訊いた。どうも、電源、燃料ともに供
給系統と排気系統ともに異常無しではあるが、スクリューが異常停止したため、セン
サーが自動的にクラッチを切り、スロットルを中立状態にしたらしい。
魚群探知機を見る限りでは、水深は充分にあるし、現に潮と風で少しずつ移動して
いることから、座礁ではなさそうだ。となると、200馬力超のツインエンジンの回転を
急降下させるような、とても厄介な何かがスクリューに絡んだ、という結論に進まざる
を得ない。
330 :
322:2013/09/07(土) 16:15:02.20 ID:inC7xsNk
ツインエンジンの場合、スクリューも同じ大きさのものが二個ついているが、
船体の直進性維持のため、左右のスクリューはそれぞれピッチ(ペラの傾き)が逆の
ものをつけており、そもそもスクリューの回転もそれぞれが右回転と左回転に分か
れるようになっていることが多い。この船も例外ではない。
この二つのスクリューに、もしも何かが跨いで絡んでしまったとしたら、相反する
回転に巻き込んでしまっただけに強烈な力で絡んでいることになり、とても厄介だ。
何かが絡んでいたとしても、片方だけである事を祈りつつ、しかし一方で、この船が
船外機船形式である事への、幸運を感謝した。船底にスクリューが、シャフトを
通して固定されている船内機船であれば、スクリューの様子を見るだけでも
ダイバーの力を借りなくてはならない。船外機船は、小型モーターボートと同様、
エンジンそのものの角度を上げる、所謂ティルトアップが可能なので、水面に
スクリューを出して見る事ができる。
331 :
322:2013/09/07(土) 16:17:12.77 ID:inC7xsNk
彼に、これ以上流されないように投錨する旨を伝えながら、全員に対して、マシントラブ
ルがあったので、いったんデッキの上の釣り具を片付けるように伝えた。投錨して、
セオリー通りに水深の三倍ほどのアンカーロープを繰り出して固定すると、既に彼が
エンジンを停止させてティルトアップを行った模様で、スターンデッキに人が集まっていた。
肩の間から様子をうかがうと、最初、海藻のようなものが、スクリューに絡まっているよう
に見えたが、何本かの枯れ竹もくっ付いていることから、網が絡んでいるのだと分かった。
しかも、漁網ではなく、海苔の養殖網だ。嫌な予感は当たるもので、ツインスクリューを
またぐように絡まり、しかも強烈なエンジンのパワーで半ばまで裂かれ、しっかりとスク
リュー根元のキャビテーションプレートまでぐるぐる巻きにしている状態だった。
332 :
322:2013/09/07(土) 16:21:23.91 ID:inC7xsNk
今更ながら、原因について色々と頭をめぐらす。この辺りには、海苔の養殖棚は
無かったはずだ。 ―いやしかし、先日の台風で、流されたものなのだろう。
網が、海中に沈まずに海面付近を漂っていたのは、漁網ではなく海苔網だったため、
支柱代わりの枯れ竹が、浮力材になってしまったのだろう。
もしこれがルアー釣りなら、メンバーは海面を凝視していたはずなので、水面付近を
漂う網の接近に、いち早く気付けただろうが、今回は座って竿先を眺めるタイプの釣り
だったから、バウデッキ側に立って海面を凝視しているメンバーは、皆無だった。
交通事故もそうだが、いろいろと、起こるべく条件が重なった時に、それは起こるも
のなんだよなぁ。学生時代、ツーリング先でたまたま知り合った男性が、ブーツを
きちんと履かずに圧縮比の高いエンジンのキックスタートを試みた時、ケッチンを食
らって骨折した思い出が、不意に蘇った。
333 :
322:2013/09/07(土) 16:26:42.28 ID:inC7xsNk
チャプン・・・チャプン・・・スターンを打つ波音に、追憶から覚まされる。
誰かが「118に…」と言いかけた時、彼の表情が見るからに強張り、さっと手のひらを
広げてそれを遮った。この際気にしていても仕方ないとは思うが、極端な人間嫌いの
彼にとっては、本日の釣行を中止にして招待メンバーに対して恰好がつかない結果と
なったうえ、海上保安庁のお出でを願ったあげく、後に起こるであろうマリーナでの
噂話やら海難審判庁への事情聴取やらと、いろいろ我が身に降りかかる、最も嫌いな
「見知らぬ他人との厄介ごと」が、身の毛もよだつほどに嫌な様子だった。
「プシュッ!」誰かが長期戦を覚悟したらしく、ビールの缶を開ける音が聞こえた。
そうだ、ここはひとまず落ち着こう。彼を促し、全員でキャビンに移り、少し早い
昼食を摂ることにした。
334 :
322:2013/09/07(土) 16:29:09.53 ID:inC7xsNk
食事をしながらも、必然的にこれからどうするか、という話題に行き着く。他のメンバーは
船舶免許を待たないので、結局彼と自分の二人が、話題の中心で話を進めることとなった。
彼が、思い出したように錨泊中の船舶が行わなくてはならない、形象物掲揚(黒球一個)を
行いに、フライングブリッジに登る。
それを視線で追いながら、『今の状況だったら、一個じゃなくて二個掲揚なんじゃないの
(二個掲揚は、運転不自由船)…』などと考えながら、視線を戻す。そこで、ふと、それまで
彼の体で見えなかった、保冷庫の上に鎮座する、藤の蔓で編んだ籠が、目に入る。
やっぱり、絡みついたアレを、切り解いてゆくしか、方法はなさそうだ。
335 :
322:2013/09/07(土) 16:39:53.21 ID:VZ8IdGDN
携帯電話から連投規制避けカキコ
―なぜ自分は、たすき掛けに命綱代わりのロープを渡して、海面に頭から突っ込むような
態勢を保ちながら、エンジンの上に跨り、じりじりとスクリューに向かって進んでいるの
だろう。
簡単だ。他のメンバーは、裕福だがメタボだったのだ。揺れる海上で、海面に
突き出した上に急傾斜の下り勾配。そんなエンジンに取りすがって作業するには、
運動神経だけが自慢の自分であると、役割を決める際に全員の目が、そう言っていた。
この船が、陸上保管であったことに、せめて感謝をしなければならない。
洋上保管であったらば、今頃エンジンに付着したフジツボと藻の攻撃に、作業の続行を
阻まれているに違いない。
右手には、しっかりとゴム(エラストマーだったかも)のグリップの感触を味わいつつ、
鈍く光るパン切りブレードに視線を落とす。
頼むぞ、カーショー。
337 :
322:2013/09/07(土) 19:16:10.99 ID:inC7xsNk
経験上、水で濡れたロープは、非常に切断しにくい。まして、今回は中途半端に成長した
海苔が、びっしりと付着しており、おまけにぬるぬると滑りやすい海水が滴っている。
更には、これでもかと緊縛された状態である。プレーンエッジは、端から役に立たないと
踏んでいた。エンジンは二基ある。どちらか作業しただけでエッジがダメになってしまっ
たら、砥ぎ直す道具もない中、お手上げとなる。そういうわけで、ブレードの根本半分は、
わざと二基目のエンジンに残しておくため、ガムテープを巻いて使用不能にしておいた。
慎重に、先端付近のエッジを使い、それこそ一本ずつ、切断を開始した。幸運にも、
網が麻のような天然素材だったようで、ナイロンの網と違い、刃の入りが良好だった。
そこそこ順調に作業は進む。しかし、九月とはいえ台風一過の炎天下。頭に血が上るよう
な態勢で、揺れる波に対抗しているのは太腿でエンジンを挟んでいる自分の体力だけが
頼み。先ほど昼食を摂ってエンジンのクールダウンをしていなければ、この部分も排気
ガスの通り道だから、とても熱くて挟んではいられなかっただろう。
338 :
322:2013/09/07(土) 19:19:44.79 ID:inC7xsNk
一基目の作業半ばまで来たとき、視界がぼやけてナイフを取り落しそうになる。ひとまず
限界を感じて命綱を引っ張ってもらい、一度デッキに帰る。保冷庫からスポーツドリンクを
取り出して、ラッパ飲み。自分でも驚いたが、まさか一気に二リットルの液体を飲み干す
とは、思わなかった。軽い熱中症手前状態だったのかもしれない。よく見たら、まるで
落水でもしたかのように、全身びっしょりと汗で濡れていた。短パンのベルトに500CCの
飲料ボトルを挟み、再度作業開始。体が芯から冷やされた為か、はたまた水分補給が
効いたのか、幾分作業も捗った。ぎっちり網の巻かれた部分は、丸太に鋸を入れるかの
ごとく切り進めると、ザクザクと切れてくれたのは助かった。これまで手砥ぎにこだわって、
この手のウェーブエッジを敬遠していたのだが、改めて適材適所という言葉を、思い
知らされた。無事帰宅したら、スパイダルコを買おう、と心に誓った。カーショー、
君じゃなくてゴメン。
やはりといえばやはり、一基目の作業を終了したところで、エッジ
前半部分はご臨終状態だった。網には海砂がめり込んでいたし、むしろよくここまで
持ってくれたと思う。たぶんAUS−6あたりの鋼材だと思うが、狭い間隙への抉るような
作業にも、よく折れずに堪えてくれたものと思う。折れる可能性も恐れて、最初に先端部
から使用したのだが、これは取り越し苦労だった。
二基目に取り掛かる前に、腹が鳴った。二時間ほど作業にかかったが、それにしても
さっき昼食を摂ったばかりなのに、相当体力を消耗しているようだった。メンバーの
持ってきた、バナナやらオヤツのお菓子を腹に詰め込む。妙に気分がハイになってくる。
「俺、この作業が終わって、無事に帰宅したら、今度こそ彼女に結婚を申し込むんだ。」
などと、ついデッキのメンバーに宣言してしまう。野次と口笛を背に、二基目の作業を
開始する。例によって不自由な態勢になりつつ、エッジ保護のガムテープをぐるぐると
取り外す。その時、予期せぬことが起こった。
このナイフ、ボルスター部分がタングのカバーとして機能しており、一本のピンで支えられた
ボルスターを、ピン中心に回転させることで、ブレードのタングが露出して、グリップから
ブレードを取り外し、交換できる仕組みになっている。今回の作業に備えてエッジ根本
半分に巻いたガムテープが、ボルスター部分にもかかっていた。これをナチュラルハイな
気持ちのまま、勢いよくぐるぐると外しにかかったものだから、ボルスターがガムテープに
引っ張られて回転、海上でグリップとブレードが別れてしまったのだ…ポチャン。
開いた口がふさがらないとは、将にこの事だと、今ながら思う。
341 :
322:2013/09/07(土) 19:58:21.07 ID:inC7xsNk
大切なものを落とした際にとっさに手を出してしまうのは致し方ないことだろうが、ここは
不安定な場所だと心得るべきだった。本能的に出した右手にバランスを崩し、あわてて
態勢を立て直す。その瞬間、左手にチクリと痛みが走った。
とっさのことで、握り込んでしまったのだろう。そっと視線を送ると、今しがた露出した、
後半部分のブレードと、消耗した前半部分のブレードを握り、うっすらと血を滲ませている
己の左手が、辛うじて体重を支えていた。
実に、不幸中の幸いというべきか。落としたのがハンドル部分の方だったのは。
右手にまだ持っていた、ガムテープを慎重に、今度は消耗した前半部分のブレードに
巻きつけ、これをグリップとして使うこととする。
342 :
322:2013/09/07(土) 20:00:25.37 ID:inC7xsNk
グリップを失って力が入れにくくなったこと、タングが先端に来てしまい、所々作業に
邪魔になってしまうこと、そこにやはり疲れが襲ってきて、中々作業が捗らない。
休憩を挟み、握りをハンカチで補強するなど工夫しながら、やっと三時間で二基目の
作業が終了したころには、既に日差しは西の雲を紅く染めていた。
もうキャビンに寝転がり、周囲の労いの声に応えるのも辛いような状況で、船は軽快に
マリーナへと進んでいくのを振動で感じながら、ボロ雑巾のようになって眠ってしまった。
藤の蔓で編んだ籠の中には、相変わらずのフェイクレザー様のケースと、全体にわたって
ご臨終となった、傷だらけのパン切りブレード。
既にグリップを失ったそのセットは、再び彼の家族のクルージングにて活用されることは、
二度とないだろう。
343 :
322:2013/09/07(土) 20:02:26.72 ID:inC7xsNk
なぜなら、後日、御徒町のマルゴーにて、彼と偶然再会したのだが、その際に彼が
購入していたナイフが、G・SAKAIのキャンプ用包丁セットだったのだ。
そして、「やはり、あれからウェーブエッジの必要性を、感じたよ」と、スパイダルコを
レジに追加していた。かく言う自分も、スパイダルコを買いに来たのだが。
カーショー、いやKERSHAW、頑張ってくれたのに、本当になんだか、ゴメン。
でも、この季節には毎年、あの時の出来事を思い出す。あのナイフと共に。
以上、長ったらしい乱文長文、失礼いたしました。
お疲れ様
面白かったです
345 :
322:2013/09/08(日) 06:55:10.94 ID:mjrX/Pei
主人公として登場するナイフの名前を、間違って記憶しておりましたorz
カーショーのエクスチェンジブレード
↓
カーショウのブレードトレーダー
と、読み替えてくださると幸いです。書き込む前に商品名確認のためにググればよかった。
KEASHAW、本当にごめんなさい。
激しく乙
面白かった
俺もセレーションのナイフ買おうかなぁ・・・
347 :
名前なカッター(ノ∀`):2013/09/10(火) 22:02:28.01 ID:L4tXQ7HL
確かに一緒にポケットに入れたはずなのに。
なぜガムは無事でビクトリノックスのクラシックがなくなってしまっているんだ。
348 :
名前なカッター(ノ∀`):2013/09/13(金) 08:30:18.15 ID:TGX1AEIe
飛び出しナイフ 二振り盗られた。
一度目は多分 スタンドの奴
洗車の時に盗ったにちがいない
二度目は 引越しの後
実家の倉庫の修理した業者と思う
証拠がないと厳しいな
人目につくとこに置いといちゃダメでしょー
350 :
名前なカッター(ノ∀`):2013/09/17(火) 09:05:46.92 ID:J9Jg1b9T
351 :
名前なカッター(ノ∀`):2013/10/14(月) 10:03:37.83 ID:V69D8tX+
>>322氏って、4年前の
>>187氏なのか。今やっと気づいた。
それにしても、新しい話、カーショウの立ち位置が微妙すぎてワラタ。
352 :
名前なカッター(ノ∀`):2013/10/17(木) 13:40:22.23 ID:fBYlOrnd
船上ネタ
食う分は十分に釣ったので、入り江にアンカーいれてひとやすみ(レンタル船ですけど)。
早めに道具を片付けて、魚の処理も終わった。
帰港のためにエンジンをかけて(暖機)掃除開始
いつもなら、バケツに汲んだ海水でナイフなどの血を洗う→デッキを流すのだが
その時はなぜか先にデッキを流して、ナイフ洗い忘れ。バケツを仕舞ってしまった。
横着して船べりから身を乗り出し、海中でバシャバシャやっていた。
魚の脂でヌメル手からナイフはすっぽ抜けて海中へ。
一瞬キラリと陽光を反射させ、すべる様に海中へ消えていくナイフ
しばし固まる私
安価なナイフだったけどお気に入りだった。
なにより自分の不注意で海の藻屑にしてしまったナイフに申し訳なかった。
なかなか詩的でいいですな
いや、悲しい話だけど。
実際その時の船上では
「アワワワワ・・・」→ボーゼン
かなりブザマだったと思いますよ。
心に残ってるのはこの一件ぐらいです。
もう大学卒業になる長男が小学校中学年の頃かな、俺のレザーマンPSTが無くなった。
レザーマンが雑誌で紹介されたころ俺は飛び付いた。正規輸入だと本当に初期のだった。
仕事に生活に、バイクや車のトラブルに乱暴に扱ったが、タフで使いでがあった。一度ネジがどこかにいってしまって修理にだしたりしたが、それなりに愛着のある一本だった。
でもそのうちWAVEを購入して、そっちがメインになってPSTはバイクのハンドルポーチに入れっぱなしにしていた。
長男の友人で当時よく遊びにきていた、小学生にしては体格のいい「彼」は寡黙な印象で、いつも黙って長男とゲームをしていた記憶がある。
彼が我が家に来るようになってから、俺の趣味品が無くなっていった。
最初は「またどこかに仕舞って、場所を思い出せないだけだ」と思っていたが、そうこうするうち彼の母親が我が家に現れた。
彼の母親が言うには彼は病的なまでの盗癖の持主で児童相談所だかにも行ってるらしく、最近遊びに来ていた我が家で何か無くなったものがないか確認に来たようだった。
最近おかしい?と思い出していたいた俺は、確実に無くなっていたエアガン一丁(しかそのとき思い浮かばなかった)のことを伝えた。
数日後母親は俺の、ホルスターに入ったエアガンを持って我が家に来た。
平身低頭で、他にも何かなくなった物はありませんか?と聞いてきたが、無くなったとしても今まで困ることもなかったわけだから、俺もそれ以上は何も言わなかった。というか、同じ親として追及出来なかった。
本当はレザースキャバードに入ったマグライトや、他にも心当たりはあったのだが、まあ子供が持っていてもそれほど問題にならないだろう物だったから。
それからしばらくたってから、バイクのケーブルを軽くいじろうとしてハンドルポーチをまさぐった。
PSTが無い。
「ああ、これもやられたか。」
まあ仕方ない。今さら異議申立てするほど野暮でもない。素直に諦めた。
小学生に刃物を、なんて今のご時世ならちょっとした問題になりそうな話だが、不思議とその後に起こりうる問題を予見することができなかった。
俺自身小学二年ごろ肥後の守三得から刃物に目覚めた記憶があるので、彼の気持ちもわかるような気がした。
人の道から外れるのも、小学生当時の俺がPSTを見つけたら、当時の俺ならやっちまっていたかもしれない、そんな気がした。
359 :
名前なカッター(ノ∀`):2013/10/29(火) 23:50:17.81 ID:7RNH91Ge
ただまあ残念なことに、その後噂で聞いたことには彼は盗品を自宅の外に隠していたそうな。トンビのはやにえのように。近所の空き地やら裏山に。
そしてまさしくはやにえのように、その存在を忘れてしまうようだった。
それはそうだろう彼の親も息子の部屋に不審なものがあったなら、その本来の持ち主を捜し歩いていただろうし。俺のPSTもどこかに埋まっているのかもしれない。
でもいまだにPSTだけは彼が手元に隠し続けていてほしい。他の遺失したものは俺にもそれほど愛着があったわけではない。俺がPSTに、肥後の守に対してときめいた気持ちを、彼が継いでくれるなら俺はすべて許すつもりだ。
なぜなら、さらに残念なことに、うちの息子どもは(当時のナイフマガジンのマイク真木の記事にならって)10歳の誕生日にナイフを贈っても、大してときめきも感動もおぼえていなかったからだ。泣
360 :
名前なカッター(ノ∀`):2013/10/30(水) 08:46:56.52 ID:SqTaI67j
>>359 > トンビのはやにえのように。
モズ、だなw
361 :
名前なカッター(ノ∀`):2013/10/31(木) 21:02:28.21 ID:Bf4S8deQ
諸刃のダイビングナイフ、ダガー規制で泣く泣く普通のナイフみたいに改造。
ある意味違うナイフに成ってしまった、元ダガーナイフとの別れ。
初フォールディングナイフは安くて得体の知れないものだった
刻印はサージカルスチールとだけの中華製だと思われる
バックロックでブレードはドロップポイント、ハンドルはボーン
仕上げも動作もそこそこでフォルダーのあらゆる事を教わった気がする
釣りへ行ったときに紛失
その後は安物ナイフの教訓を活かした製品選びをしているのだが、なぜかいつも紛失した
アイツを探している様な気がする。同じ色のホーンのハンドルが目に入るとつい反応して
して、デザインを良く見て違う事が分かるといつも落胆するのだ。25年以上前の無銘の
製品が見つかるとは思えないがそんな事を繰り返してきた。でもオレには分かっている。
同じ型を見つけ手に入れてもそいつはヤツじゃないってことを・・・
ヤツは取り返す事の出来ないオレの一部も持って行きやがったんだ。
>>363 切ない思い出ですね。
でも、使わずしまわれているよりも、使ってもらって無くされたほうが
そのナイフも幸せだったでしょう。
新年度Age
366 :
名前なカッター(ノ∀`):2014/05/05(月) 04:47:58.98 ID:awyzryC2
セベンツァ21スモールを今日無くした
高校2年の時バイトした初任給で買った 持ってるナイフの中で一番高いナイフ
いつもポケットに挟んで持ち歩いていた 剃刀みたいに鋭くして
分解掃除でグリスも縫って どんなお守りより信頼できるツールだったのに
今日いつのまにかポケットから消えていた バイクで2回こけても落ちなかったのに
価値の解らない奴が拾って腐ると思うと涙がでる
でも全部俺が悪いんだ いつもポケットに君がいるからそれが普通になっていた 夢の中でもポケットにあるぐらいだ
もっと気にかけてやればよかった 体の一部を失った気持だよ
俺も初任給でセベンザ買った口だ
この世の中、価値が分からない奴ばかりでは無いし
分からなくたって、良いものに触れていけば分かるようになるんだ
元々、ナイフに興味が無ければ拾わないんだろうし、扱いはどうにしろ拾った人は大事に使ってくれるだろう
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名前なカッター(ノ∀`):2014/09/03(水) 22:15:14.69 ID:h3RfgjAi
また台風の季節
先日、クーパーのナイフを、某キャンプ場で拾った。
例の、真鍮ヒルトがブレードに鍛接してある、あの銘品だ。作者亡き後も、いまだ人気だと聞く。
そこそこ砥ぎ減りしており、ハンドルにも大小の擦過傷と持ち主の手の形であろう擦り減り。
そのままにしておくには忍びなく、最寄の警察署に届け出たのだが…
関東の悪名名高い、焼売県警に届け出たのが間違いだったか。
警官は受け取ったそのナイフを、レンチや万力などの重金属ぽい
拾得物の積まれた箱の中に、無造作に放り込んだ。
おまけに、刃渡り6センチ以上のナイフを持ってきたとして、銃刀法違反で
取り調べられた。不起訴処分となった今も、胸糞悪い。
「拾ったナイフだとの主張を、一応採用しておきますよ」って何だ。ネコババしといたほうが賢いってか。
もう二度と、警察に協力などしない。
警察に持っていくよりキャンプ場に預けたほうが良かっただろうな。
思い入れがありそうだし無くしたとわかれば持ち主も探しに来ただろう。