2 :
名無しさん:2009/06/27(土) 00:57:42 ID:???
/'~~~~' 、
、_/ /  ̄`ヽ」
i@ i(从_从)!@i
|| ||、゚〜゚ノ|| ||_ シンクタンクA型
| ̄ミ ̄フ=ミゝ || ̄|
| || | |●| | || |
_|_||___ゝ二∠ ||_|_
| __||____||__ |
┌/ ̄ ̄ ̄ヽ―――――/ ̄ ̄ ̄\┐
/ ̄ ̄ ̄ ̄/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ  ̄ ̄ ̄.ヽ
(´⌒| ̄ ̄ ̄|| | 。 ,'´r==ミ、 . | | ̄ ̄ ̄|(´⌒キュラキュラ
(´⌒ |ヾ二二ソ_| ̄ ゚̄|},iリノ))){| 。゚ !! 二二ソ(´⌒(´⌒
(´⌒(´⌒ |ヾ二二ソ|―――l〉l゚´Д`ノl゚っ.――|ヾ二二ソ(´⌒(´⌒(´⌒
(´⌒(⌒ |ヾ二二ソ|―――(つi)卯i/ ―――|ヾ二二ソ キュラキュラ(´⌒
(´⌒(´⌒ └――┘ ''y /x○ヽ └――┘(´⌒(´⌒(´⌒(´⌒(´⌒
l†/し †|
lノ レ
3 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:02:42 ID:???
___
く/',二二ヽ>
|l |ノノイハ)) ジャンクなんか翠星石の姉妹じゃないですぅとっととくたばりやがれですぅ
|l |リ゚∀゚ノl| バリバリバリバリバリ ・,';*;∵; ζ。
ノl/l_介」 Lr○ュ"_ l_ ___,.,;:''''""`'';;;...,, - ̄‐― ∵~'ハ∴∵;:;
ト--l∪r=tl[((三三((三((=(;;'', '',.:;,,,. '" .,. .,,..; "'`,.,, ‐― i#卯ρ。;,;。∵ _ _ _
ヒ[冊冊冊ツヽ ̄ ̄!! ̄; ̄ll ̄||'':;:,.. ,...;:''" - ̄‐―. ."-|l〉l. Д ノl/ ヽ
ミく二二二〉ミ '"'⌒`~"'" ''|!/'i)卯iつゝ '''"ー"``
とl'y /x lヽ
___
く/',二二ヽ>
|l |ノノイハ))
|l |リ゚∀゚ノl| バリバリバリバリバリ
ノl/l_介」 Lr○ュ"_ l_ ___,.,;:''''""`'';;;...,, - ̄‐― ・,';*;∵; ζ。
ト--l∪r=tl[((三三((三((=(;;'', '',.:;,,,. '" .,. .,,..; "'`,.,, ‐― ∵~'ハ∴∵;:;
ヒ[冊冊冊ツヽ ̄ ̄!! ̄; ̄ll ̄||'':;:,.. ,...;:''" - ̄‐―. i#卯ρ;:;。;,;∵
ミく二二二〉ミ ⊂'⌒m|l〉l. p ゚ノlm.
4 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:06:39 ID:???
┌──┐
i二ニニ二i 糞銀死ね
i´ノノノヽ)))_ _ _
Wリ|゚ ー゚〔::二二〔() ...:;:''"´"'''::;:,,, ドガァーーン!!
/'i)介つ〔三三三:〔[二[二二二[〔()〕″ ,,;;;;´."'''
と⌒__ ⊂ソ |ミ|| |_|_| /A '''''::;;;;::'''"´
'._ ,´ヽ. .゚;・.,'
. ,,‘ .゚;・.,'`ミ、
'._ 卯_';;;∵;_';;;∵;∵ ,
/ `."-|l〉l..゚'Д;;。;∵ ヽ ,_ うがぁぎゃぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
'"'⌒`~"'" ''|!/'i)卯iつゝ '''"ー"`
''y /x lヽ
l†/しソ†|
lノ レ
5 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:07:25 ID:???
, ィi^ヽ、. {リ:::::::::::::::.:.\ _/.:.:.:::::::::::::::::::jリ
/l しJ!ヽ| {リ:::::::::::::::::.:.:iヽ:只ソィ´  ̄``.:.:.::::::jリ
.〈!jヽV/ Lェュ、 「{リ::.:,:ェェーェュJ⌒7>‐ュ、_ .:.:/
ト、 〈.:::jリ ヽ ̄`フ"´ ̄ `ヽ _.::/^ヽ
_j/ヽ ノT/.:ト、 レ'´ / ヽ \ \
_j/.:.:.::ノ」// / / i | i 、 ト、 「 ̄
i/.:.::::/7 // / / l / | | l | | l| |ハ_」、
/.:.::::/7 // ./1 /! i | /_」| -┼-、トト、 ┼- 、リ jj 7::! \ 雛も殺るのー!
.:::::ノ7 // |/ ト、 lN/l/リヽ| `\/l / ハ ; イ//.:::' \
``ヽ、 _ノ `ト;〉 ,r==´ . `≡=ュ _/ l:/.:.::'ー─- 、ヽ
\ r‐'‐ュ ' ' ' ' r─┐' ' ' {ニ二ミ}::,:'´ ̄ ̄``y'′
\_ `二孑、 l.::::.:ノ {二三ミ}´ ̄``ヽ,/
\ `孑j >、_  ̄ (ヽ 孑そ´  ̄``<
〈 ヽl〕 ー‐r<::/⌒ヽ二ニヽ_/
ヽ / `ー一'ヘ-─- 、 孑´`
`辷_j / , -‐r‐r‐- 、 \
レ′ /:,r' 7:介ト、`ヾヽ /
/ /:/ /:/ |:::| i:::| 〈
/ /:/ |:::| |:::| |:::| |
6 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:09:22 ID:???
あいとー!あいとー!
___
,,i><iヽ
/((ノノリノ))
((ミi!゚ ヮ゚ノミ)) ヾ ヽ ∵:ガスッ:,
( ]]つつ-++#####ヘ∵ グシャッv
(ム!,,jム) ∵,卯,iリハ))〉._
し'ノ ⊂'⌒m|l〉l。д゚ノllmλ
7 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:11:45 ID:???
, .-=- ,、 ,'´r==ミ、
ヽr'._ rノ.' ', 卯,iリノ)))〉
//`Y. , '´ ̄`ヽ ..|l〉l.゜々。ノl
i | 丿. i ノ '\@ ギョイーーーン ;*∵
ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ ,、,、,、,、,、,、,、 ,,;;*川∵ ぼいんっ
`ー -(kOi∞iミつ|匚) 巛|}三三三三)》 '.;;∵,: ;*,,,,: ;・∵ノ\
(,,( ),,) ^^^^^^^^^ レ´V|!/'i)卯iつVヽ!
. じ'ノ' ''y /x lヽ
l†/しソ†|
lノ レ
, '´ ̄`ヽ ジャンクなんて金の姉じゃないかしらー
i ノ '\@
⊂ヾ(i.゚ ヮ゚ノ .゚;・.,'`ヽ
ヽl_i∞iとソ' \ 从/ _';卯_';;;∵;_';;;∵;∵ , グシャッ
(,,( ),,)二⌒) < > ,ヾ|l〉l..゚'Д;;。;∵
(_丿 /VV\ ;:∵;;;, 卯
8 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:13:48 ID:???
test
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9 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:14:54 ID:???
水銀燈はアニメで3回も死に党員の監督のおかげで蘇った無様なドール
潔く死んでいればいいものをあんなヘタレなカスドール見てるといらいらするわ
潔く切腹しろ!あ、腹ねーから無理かw
10 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:15:10 ID:???
test
test
test
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11 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:15:11 ID:???
12 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:16:10 ID:???
13 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:17:48 ID:???
test
test
test
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test
test
14 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:18:26 ID:???
水銀党員は気に入らないスレ潰ししかできない
チョン層化学会と同じ存在である
崇められてる水銀燈は池田大作と同じ糞ドールである
15 :
名無しさん:2009/06/27(土) 01:18:49 ID:???
test
test
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test
test
test
もはや、裏拳をかます気力さえ沸かなかった。
おれはその容器を受け取り、蓋を開ける。
「なら、さっさと帰ろうぜ」
それで一番の思い出にするわ…
薄闇の中、得体の知れない予感だけが膨らんでいく。
空腹は、俺の最大の弱点だった。
「なかったけど、最近そういうのもええんちゃうか、思えてきたわ」
「あんたはうちが幸せにしたる」
俺は目を開ける。
力のない手を、女に伸ばす。
微かに肩が動いている。
「そうだ。占いしよっと」
「そっか。きをつけてかえってね」
足下でポテトが、俺の顔と佳乃の背中を交互に見る。
生乾きの髪をタオルで拭きながら廊下を歩いて、居間まで戻る。
「まだ、俺は何も知らないからな…」
『美凪』と『みちる』
二人並んで風に吹かれた。
商店街には人影もなく、閑散としていた。
校門が見える場所まで二人で歩いて、そこで観鈴と別れた。
「今、忙しいの」
予定というよりも、仕方なくといった方が正解だが…。
でも、敵のこわい女も一緒。
頭を撫でられる。
もう一度、首の傷痕をなぞってみた。
「ほらっ、行くぞ」
「全然惜しくない」
わしっと首をつかまれた。
羽を持つ少女の絵は、私が生まれたときに父が買ってきてくれたものだった。
「もーダメ…」
夢から覚める。
座り込んで、食べ始める。
何に耐えていたのかはわからない。
車のトランクに、米袋をすべて乗せ終える。
「わたしは、往人さんと遊んでるだけで楽しいよ」
「ひとりで遊んでくれ」
「できたよー」
「やっぱ、田舎だけあって、星が綺麗だ…」
敵が来たのだろうか?
彼女の手よりも先に、後ろから別の手が伸びていた。
仰向けに寝かせた観鈴のパジャマをはだけさせる。
堤防に寄らず、一人で家に帰ったことを除いては。
追いかけなければ。
「にゃはは、そうすればね、きっと美凪もよろこぶとおもうんだぁ」
端から見ていると、人形なのではないかと思えるくらい、身動き一つせずに文字を目で追っていた。
意味不明に勝ち誇る。
あれから3日が経過。
(…うるさい)
「…どうしてですか」
「はは。あんた、夢は秘密やったんちゃうの?」
体の向きを変え、せまい道に入る。
今度は別の指が触れる。
投げ飛ばすため、一気に間合いを詰め少女に掴みかかる。
ガラス扉が閉まった。
近所の肉屋から、惣菜の匂いが漂ってくる。
老婆が立ち止まって、俺の顔を見ていた。
花火も終わり、空に静けさが戻る。
俺は止めて、ぬいぐるみに手を当てた。
至るところに、正体不明の生物。
俺を見て、優しく微笑んでいた。
呼びかけられると、どうしても視線を外せなくなった。
涼しくなるには心頭滅却。
広い空で、誰もが孤独で…。
言葉が出なかった。
すると、捕まったが最後だ。
「ねえねえ、おにいちゃん」
「…コツ…コツ…」
「おいしい」
「大丈夫だよぉ。そんな顔しなくても」
寂しげな笑い声。
濡れた前髪同士が、絡み合った。
「あたしっ?」
そして、ゆっくりと歩き出す。
「おまえに嫌われてもいいから、クールに生きよう、これからは…」
僕はそれらをつついて回った。
良い質問だ。
「どういう意味だ」
「そうやって、遊んでたの」
「往人…」
金槌、スパナ、ドライバー。
僕が寄ってゆくと、彼女は無理に笑顔を作ってみせた。
「わざわざ出てきてもろうて、茶も出さんで悪かったな…」
そして、紙パックのジュース。
扉を開け、中に入る。
素直にそう思えた。
どんな時にもバンダナを外さない少女は、周りから奇異に見られたはずだ。
「…国崎……さん…」
ひとりきりの空…。
けど彼女はいつものように走り寄ることなく、別の方向へ歩き始めた。
貪っているものは、おそらくサンドイッチという代物だろう。
梢をざわざわと鳴らし、夜風が吹き抜けていった。
「おまえの見ていた夢は、もう…」
水をこくりと飲んで、粥の続きに取りかかる。
「逃がした魚は…人魚やで」
探してみることにした。
事態は悪化してしまった。
夢が突然変わったことは、何を意味しているのだろう?
聖の瞳が、見慣れたはずの診察室をゆっくりと見渡す。
「せっかく切り出してきた竹だ。一回だけ使って捨てるわけにはいかないだろ」
「そうなんだ…」
…これでよかったんだろうか。
「…一種の魔法だ」
几帳面に片づけられた部屋を見渡す。
「なぜ」
…がらがらがらっ。
「と…あんまり時間あらへんのやった。支度せな」
俺は風に乱れる髪の毛を押さえながら答えた。
どこを見ているのかわからない眼差しで、遠野は夕焼けの中にたたずんでいた。
「…んとね…」
まるで、温かい母親の瞳に見つめられているような気がした。
母親につくってもらったのだろうか。
男の隣に座る。
何かが始まろうとしているようだった。
母は、台所にいた。
きゃしゃに見えて、しっかりとした手首。
「えっ…」
「ああ。俺は、からかわれるのは好きじゃない」
ばっしゃーーーん。
観鈴の方を見た。
冷え冷えで爽快な気分は、あっという間に吹き飛んでいた。
口を開いた彼女の言葉を大声で遮った。
「60円っ!」
女は、風の吹く方向を見やる。
最初からそこにあったような顔をして、星が瞬いていた。
担いでいた米袋を地面に投げ落とす。
ぼくはそれを見ていた。
目の前で組まれた竹。
「それでね、ずっとここにいたくなるの」
電話の下の引き出しを開ける。
しばらく、手を振りながら元気に走っていく観鈴の背中を見送る。
「大切な人たちが、側にいてくれたから…」
「うちはどうあがいても、第三者や…」
風が気持ち良い、というより、回る羽根を見ているのが楽しいといった感じで、扇風機に顔を寄せていた。
「俺は…」
「ったく、不吉やでーっ」
しばらく、その横顔を見ていた。
居間に続く扉が開いた。
悲しい…。
「サンキュな」
眩しそうな笑顔が、最後にそう言った。
少女の奇天烈ぶりに対抗するため、意味不明にインテリぶってみる。
(それが、空を飛んでいた日々の大切な思い出だからな)
遠野が優しく微笑む。
彼女のそばにいるというのに…
『なんか、それっきり気まずい感じになっちゃって…』
困ったような視線を、俺に向ける。
そういえば、俺の人形…
呟いてはみたが、その声は誰の手にも触れることができなかった…。
言葉が口をついた。
「ああ、そうだな」
目覚めたくない。
あたたかくて、いいにおいがするもの。
言う暇を与えなかった者が言う。
呼んでも聞こえないだろう。
少女とその親友は、田舎道をぱたぱたと駆けていった。
あくまで勘でしかなかった。
下には、夏の日差しを受けて輝く水面。
遠野の手から、強引にスポーツバッグを奪う。
ポリポリ…確かにおいしい。
急ごう。
田舎のくせに、セキュリティーが万全すぎる。
気がつくと、観鈴が俺を見ていた。
超ビギナーだった。
子守歌のように、母親の声だけが心地よく聞こえてくる。
「あんた、呑気なもんやな…あれだけ心配させといて、自分はトランプで夜更かしかいな」
「違うだろ。それは別々のものだ。一緒にするな」
だから俺は、遠野を後ろから抱きしめた。
「こら、まだ作ってもらってるだろ」
事態は悪化してしまった。
「それから…」
「早く出ていきたいのは、山々なんだがな」
ただ、たまらなく悲しかった。
ぼくはいつものように、彼女を待つことにした。
悲鳴に似た声が辺りに響いた。
しかし、みちるの指差す方向にはなにもない。
「うぬぬ。でもぉ…」
「今、時間はあるか」
佳乃の腕を強引に引っ張り、出かけることにする。
「思い出と一緒にな」
少女も正面から、赤く染め抜かれていた。
柔らかな翼をひろげるように、遠野は夕映えにみちるを優しく抱きしめていた。
「そうだな。気がむいたら眺めてみよう」
すぐにいつもの笑顔に戻る。
「きっと、カラスさんもお願いごとあるのね」
と言いかけた時…。
「眠ってしもたんか」
「他人の日記見たらダメ」
恥ずかしさとためらいが、声色に覗いていた。
俺は彼女の顔の隣に立つ。
聖の料理の腕だけは、文句のつけようがない。
両手で体についた土埃を落としながら、言ってやる。
男が彼女のおでこにさわった。
「でもそんなお菓子、よく見つけたね。わたしも知らなかった」
息ができない。
びしっとベッドを指さしながら、言ってやる。
笑いながら言う。
「観鈴ちん」
「うちを家にいれんとことしたからな」
まあ、世話になった分だけの恩返しはしただろう。
だが、あそこにあるのは、くたびれた生活の匂いだけだった。
少なからず、それを俺自身、楽しんでいたところもある。
とことことこ…
同時に人形もクテリと地面に倒れる。
もし、妹が母を苦しませているのなら、私は姉として妹を叱らなければならない。
夕凪の中、こうして突っ立ったまま、何人もの学生達が目の前を通り過ぎてゆくのを眺めていた。
言葉そのものから立ち登るような、柔らかなやさしさ。
「どんな?」
「まさか、メス振り回すのか?」
「…はい…楽しみにしてます」
「…いや、追いつかなければならないんだ」
逃げてしまった風船。
その絵に描かれていたのは、背に羽を持つ女の子だった。
女の先…見知らぬ男が立っていた。
「夏休みはまだ始まったばかり」
「人生まれにみる幸運でゲットしたか?」
「は…よかった」
しばらく悩んだ後、俺のモノを手に取ると、それをはだけたままの自分の胸に当てた。
が、入りきらない。長い足が、飛び出ている。
ぐり…
でも、ぴかぴかだった。
しばらくして、再び彼女が現れる。
気がつくと、観鈴は眠っていた。
変わらなかった。でも諦めない。
聖の声に、別の誰かが答えた。
「僕が考えてるほどに、あなたは現状を悲観していない、とそういうことだ」
応えるようにして、その手をつついた。
「何があった?」
僕はそばにいてあげないといけない。
「言っただろ、それどころじゃないって」
(うおっ、やばいっ、今度こそバレるっ)
刻一刻と迫ろうとしている夕闇に背を向けて、俺達は走り出した。
笑顔に満ち溢れている。
こうしていることで、観鈴を守れる。
「ホントはこっちだよ〜」
「にょわっ!またまたヘンタイゆうかいまだっ!」
「ざーざー降ってんねん…」
びしっと指摘した頭のいい姉。
「ただいまぁ」
「そら、あんただけや…」
頭が痛む…
俺の雇い主は当然とばかりに胸を張って頷いている。
「私はこれから用事がある」
…観鈴っ…
「あんたの見てる夢ってな、どんな感じなん?」
それは自分に言い聞かすための言葉だった。
地震っ…
「…ん、何だ?」
観鈴はうれしそうに目を細める。
無理に作っていると、はっきりわかる笑顔だけれど…
鍵をかけられているように、頭の奧がきしむ。
気づいていながらも、みちるは遠野の前で、そのことについて一切触れようとはしなかった。
店で買った物だろうか。
「どうやって?」
着地も成功!
予定というよりも、仕方なくといった方が正解だが…。
これは、女の子だ。
「大丈夫だ。覚えてる」
「んにゅ…やさしく…?」
「元気になったみたい。よかった」
「…どうぞ」
「ふふ…ちがうぞ、君」
「…ダメかなぁ…?」
すると、いつもの姿に戻った。
「うん。ばいばい」
「そう、すっごく腕のいいお医者さんなんだぁ」
布を人形の目の大きさにあわせて切り取る。
「ケチでいい」
つぶやいて、湯飲みを置く。
「…実は…父が以前、この駅の駅長をしていたことがあるんです」
みちるの声をさえぎるように遠野が叫んだ。
犬がくわえていた。
毎朝庭の木立で鳴くセミの声に目を覚まし、窓から差し込む陽射しに目を細めていた。
彼女は、もう目を開けていなかった。
「…飛べない翼に意味はあるんでしょうか」
バンダナを指差す。
「嫌だよぉ…」
ため息が夜の闇に溶けていく。
水平線の彼方から、海鳴りが聞こえたような気がした。
「峠は越えたな。じきに熱も下がろう」
曖昧な言葉を返す。
仕方なく、ベッドに腰かける。
食欲がないのは、俺も同じだった。
そんなみちるの姿を、遠野は悲しげな眼差しで見つめていた。
真っ白な光が、床一面にこぼれている。
眠れなかった。
「そうだな、行っちゃったな」
俺は、こんな言葉を口にするような人間だっただろうか。
女の子は目の前で、ナマケモノを抱きしめ続けていた。
「これさえあれば、とりあえず米は食えるぞ」
「お母さんのセンスが悪いと思う」
「待ってて。お茶入れるから」
ずうずうしいガキだった。
ぼくはいちもくさんに逃げだした。
世界の美しさに気づくことができる人間だっただろうか。
その奧に、こぢんまりとした本殿がある。
ぴんぽーーーん。
俺はただ一生懸命に、人形を動かし続けた。
今度は、お母さんと一緒におむかえにいくから。
「食器の漂白、もう十分かなー」
なにか言ってる。
「…えっえっえっ?」
「頑張って、取り戻そな」
良いデキだ。
…よかった。まともな服だ。
僕はあの女を探すことにする。
「クワガタさんは、ここにお引っ越し〜」
乗る
そして、抱きしめられた。
答えながら、脳裏に二人の姿を見つめていたみちるの複雑な表情を思い浮かべた。
「どうした、忘れ物か?」
真顔で問い返されて、思わず言葉に詰まる。
「暑いしね」
頭をさすると、大きなこぶがある。
空気が震えた。
「悪いがその申し出はことわ──…」
いきなり空中で放された。
心頭滅却すれば、なんとやらというやつだな…
彼女は同じ言葉を一生懸命繰り返していた。
女は、彼女の髪を撫で続ける。
答えながら、脳裏に二人の姿を見つめていたみちるの複雑な表情を思い浮かべた。
今度は食べてから、ナマケモノを抱いた。
散歩に出る
みちるは、そのひとに訊ねられると、隣に座る美凪を上目遣いで見上げた。
考えを改める気もないらしく、曖昧な笑みを浮かべる。
地図を持って堤防を降りた。
「おーっ!」
そして歩き回った。精一杯に。
なにかがまちがっているような気がする。
針金、ガムテープ、瞬間接着剤。
「ぶらぶら散歩でもしよっ」
二人並んだ隙間を、闇が満たしてくれるのを待った。
大きくゆれて、びっくりする。
目を閉じて、波音に聞き入る。
観鈴はやっと目を閉じた。
とりあえず、休憩のつもりでベンチに腰を下ろす。
ようやく静かになる。
看板下に座り込む。
憂いを秘めた、ひどく悲しい瞳。
ずっと探していたものとは、そんなありふれたものだったんだ。
本当に、静かな場所に着けるのか?
カーテンの開いた窓から、ほのかに星明かりが射す。
戦う
ぞーーーっ!
小さく、息をのむ声。
「ああ。俺様ラッキーって感じだな」
俺はその言葉にしたがい、水道の水を米の入った飯盒に注いだ。
「ブレーキ甘(あも)なっとるんかな」
「がんばれば、おいしい」
「私が悪うございました」
「すまんな、力になれなくて」
訊いた俺が悪かったのだろうか…。
『とにかく清潔に』が聖の方針だからだ。
遠野がそれを受け取る。
俺はその言葉を信じて、ゆっくりと挿入を深めてゆく。
「まあいい」
先手必勝だった。
「それぐらいしか、取り柄ないし」
何かを思いだした様に、声を上げる。
その時。その瞬間。
遠野は微笑みながら言った。
それなのに、俺は観鈴の側に居続けた。
「…みなぎ…」
…がさがさがさ…
ため息をつきながら、人形の回収のため手を伸ばす。
他にどういう生き方があるのか、俺は教えてもらえなかったから。
胸の奥に、なにかを感じる。
「ただ、この子は戦ってる」
…嫌な予感がする。
切なかった。
地面を焼く夏の陽射し。
「…えっと、四つください」
「そうだ、おまえは観鈴ちんだ」
診療所前からジャカスカ打ち上げれば、当然こうなる。
…ごそごそごそ…
「おもろい鳥やなぁ。学習能力ないんかなー」
彼女が出ていく。
「それを言うなら、騒々しいでしょっ」
「この夏休みは…たくさん楽しいことあった」
ぴくぴくぴく…がく。
「家計のことをちゃんと考えてくれるなんて、あの子も成長しているんだなあ…」
明るいうちには見えない、たくさんの光たち。
「あ、カラスさんだ」
その拍子に、指から風船が離れた。
わからない言葉もあった。
俺はポケットに突っ込んであった地図を開く。
神尾家の休日。少し新鮮だった。
「ソーラーパワーでもない」
「うん、ひとりでもがんばる」
まだ頭が揺れている。
「えっと、なんだっけ…」
なにやら、雲行きが怪しくなってきた。
やはり、部外者が勝手に校舎の中を歩いているというのはマズイ。
「夏休み中は購買も食堂も開いていないし、さぞやひもじい思いをしているだろうからな」
「怒られちゃった、にはは」
「車?」
「水の掛けあいしたり…」
「にゃはは、はやくはやくーーーっ」
その時は遠慮なく受け取ろう。
「ちなみに、それを聞くのも10回目」
俺はポケットから地図を取り出す。
「ぴこぴこー!」
遠野は、自分の膝の上にあったみちるの頭を優しく撫でた。
目尻にそれは溜まり、やがて大粒となって頬を伝う。
商談成立。
「いや、そういうわけじゃない」
ベンチに、横になっている遠野。
体を洗わなければ、匂いはどんどん蓄積されていくばかり…。
「ならいいわ。紹介してあげる」
まずはお菓子を配る、なんてのはいい手かもしれない。
二度目の、感嘆の息をつく。
俺は欄干に腰を預けたまま、佳乃が話し出すのを待った。
「往人さんも一緒に飲もっ」
「なにかな、妹さん」
「ボケが始まったんかいな」
…甘い。
「ずっとお母さんて呼んでくれてたんやで。ほんまや…」
ぷしっ。
人形のことなど忘れて、みちるとジャムっていたことの弁明か。
栄養の偏りも気にはなるが、今はまだ許容範囲。
「頼むわ、敬介…」
遠い輝きは、時に儚く見えた。
期待と不安を込めた瞳で、佳乃が俺を見ている。
「ふぅん…」
指にまとわりつく感触。ゆっくりと、遠野の中に埋めていく。
「今日ね、午後から時間ある?」
祈りには遠い、幼い子供のささやかな願い。
子供はひとりも見あたらない。
「んに?近づいちゃダメなの?」
「欲しかったんやろ? あの薄汚れた人形の代わり」
「ネズミ花火なんてダメぇ」
ぐるりと視線を回して、俺は見つける。
「ん? なにがや?」
「まだ来年もあるし、再来年もある…」
「学校帰りに食い物を買って食べるのが、買い食いというらしいぞ」
目尻に涙が滲む。
二人のやり取りは、どこか遠い過去を想わせる懐かしい光景のように見えた。
途中で男の子たちに見つかって、追いかけられた。
軽く会釈をされた。
呻くように、遠野は口を開いた。
ポンと手を打つ。
毛布がかけられていた。
彼女は、何を期待していたのだろうか…。
「親父さんから?」
ぐー…
「…もう少し…このままでいさせてください」
ヘンなこと…
女の顔が、少しだけ悲しそうになった。
ぱしぱしぱしぱしっ。
「そう。立派な門構えだろ?」
…観鈴。
「もう3時だぞ」
そのひとは、自分の分のハンバーグをみちるの皿にわけながら言った。
私は、神様に願った。
なぜか、強要されている気分だった。
「うんっ。餌やり当番さんだよぉ」
「もちろん、今、この場で代金が支払える言うんやったら、すぐ返したる」
もう一度、勇気を出して、地図を正視する。
「ええで。そうしよ」
いちおう、俺を気遣ってくれているようだ。
どこか悲しい色をした景色達。
料理の味はよくわからなかった。
「俺には、見つけたいものがあるからな」
「ほんま、よかった…」
当然、夕食をつくる人間はいない。
彼女が戻ってくる。
(男前だ…)
佳乃の声だった。
いやな気配…
男はひまそうだ。
「でも、あんなとこにいるわけないよぉ」
「そうは言ってない」
(そもそも勉強ってなんだ…勉強ってなんなんだよ…)
心配顔の佳乃が、俺のことを覗き込んでくる。
静かになる。
いつもなにげに開けていた診療所の扉は、石の様に重たかった。
「最近不調なだけ」
「ま、軟弱な男よりはマシか…」
「どういう意味だい」
気持ちがいい。
観鈴が近くまで寄ってきて訊いた。
「ずっとふたりで暮らしてこ…」
不敵な笑み。
その仕草が、誰かに似ていると思った。
入れ替わるように、男が現れた。
二人で見上げる空。
「まずかったのか?」
「…もしかして…何か変わった術をお持ちなんですか?」
「あの子が名前つけてくれたんやろ。そらって」
もっと人通りの多いところでないと、稼ぐには都合が悪い。
祈りには遠い、幼い子供のささやかな願い。
空も、フェンスも、床も椅子も…。
そこの温度が、上がっていくのがわかった。
俺は観鈴の面倒を見ることを条件に、この家に厄介になっている。
日射しと一緒に降ってくる、満面の笑顔。
…ちゅーちゅー
「だめだよ美凪…そんな顔しちゃ」
向き合う…。
外へと続く戸を開けた。
「え? どうしてなくしたんですか?」
一応に、食料は揃っている。
「ふたつめの卵はどうでしょう」
俺も起こされるまで、目覚めなかったようだった。
「甘えたいわけあらへん、あの子が」
サラリと首筋に何かが触れた。
「これか。これはな…」
俺が探すのがわかっていたから、日暮れまでどこかに隠れてたのか?
ぼくが一番安心できる場所。
「すまないな…」
『お札はこちら』
「おやすみ、そら」
観鈴の姿が、不意に消えてしまうように見えることがあった。
そう言って、少しだけ頭を傾かせた。
すっ…
…風を切ってゆく。
この町で、屋根のある場所…
俺の手からバンダナが離れた。
妹は、どこかへ行ってしまったのだ。
最悪、殺されてしまうかもしれない。
しゃがみ込んで、耳元で囁いてやる。
鍵はかかっていないらしい。
こうなれば…
足元を見る。
俺のいちばんの願い。
観鈴が振り返る。
離ればなれになることがあっても、それを目指して、俺は歩いていくから。
汗ばんだ手を握りしめ、闇の深みへと逃げ場を求め走った。
手首に巻かれたバンダナが、俺の鼻先をくすぐる。
「ずっと一緒に暮らしていけるで」
「いつかは、この町を出ていっちゃうのかなぁ…」
風船なんてどこにもなかった。
首根っこをふん捕まえる。
「いや、ロクでもないだろうが、一応大人のつもりだ」
佳乃が俺のことを見た。
「出てくるまで、ここにおってもええか?」
どこまでも、どこまでも高みへ。
鳥居の向こうは、ぼうっと輝いている。
「代わりに橘の家の前で、十日も土下座し続けたったわ」
「うちが遊んだる。ジュース、毎日飲もな」
「じゃあ、ゆっくり食えよ」
「いくなーーーっ!」
ふっと、指から力が抜けた。
俺は一度振り返ってから、また歩みを進めていった。
「…びっくり?」
「…バカなこと言ってないで、行くぞ」
見た目以上に重い。
さようなら、ポテト。
観鈴、という名の優しい日差しの中に戻るために。
取りあえず場所を変えることにした。
くるりと振り返らせ、こっちに向かってダッシュ!
観鈴はまだ素っ裸だった。
「授業参観のときとか、みんなのお母さん、おばさんだったから、わたしひとり嬉しかった」
「おかあさんが、はやくよくなりますようにって」
「んににぃ…?なにしてんの、国崎往人」
休めていた手を再び動かす。
俺は、聖の言葉を思い出していた。
「遠慮することはないんだぞ」
「あまくて、おいしい」
「って、誰もいないんだけどねー」
「黒いところとか、似てますね。にははっ」
ねぐらに残ったのは、ぼくと敵の女だった。
笑うしかなかった。
女の子は何かを食べながら、不気味な生き物とじゃれている。
「…ごっつ嫌な予感や」
でも、そんな元気な彼女の姿を見ているだけで、僕は楽しかった。
俺は空に視線を向けたまま、潮風の歌声に耳を傾けている。
「…4号艇は?」
「そうだな。かなり遠い」
「な、遠野さん」
首を傾げると、階段を引き返していく。
「俺はもう行くぞ」
耳を疑った。
「夏休み、わたしと遊んでほしいな」
「贅沢を言うな。大道芸の見物料ならそれが相場だろ」
彼女が泣きだす。
「乳製の髭なんだ」
上体を起こす。
静かな寝息。
空はもう暗かった。
「ね、往人さん」
のほほんとした佳乃の声。
「ああ、そのようだな」
おまえは奇怪だ、とは口が裂けても言えない。
疲れたように溜息をつく。
目覚めと同時に耳の奥に響く蝉の鳴き声。
「怒られちゃった、にはは」
佳乃が右手首に巻いたバンダナ。
金槌、スパナ、ドライバー。
飯だけ食わせて、放っとこ思たら、あのかりんとう事件や。
「…あのひとにとって…夢は現(うつつ)…」
「なにがや…?」
虚しかった。
「なにしてんの、美凪。シャボン玉は?」
「ずっと、そうやってひとりで遊んできたんやな」
寝るか…。
歌は一つ、また一つと増えていく。
屋台を組み立ておわったばかりの綿菓子屋に、佳乃が走り寄った。
飛び散る水しぶきが陽射しを受けて、なかなか綺麗なものだった。
俺はジュース、3パックを奪取する。
「ん…いい子ね…」
ゆっくりと遠ざかるバス停。
俺は、瓶を差し出していた。
難解な漢字が並んだ紙面にはほとんど目を通さず、ページがめくれる感触だけを味わう。
大好きな家族に囲まれて、大好きなハンバーグをたくさんつくってもらえる。
取っ手を握り、そのまま立ち止まった。
「美凪が国崎往人にあげたプレゼントだから、大切にしてほしいんだよ」
青白い月明かりを伸ばしきった脚に受けて、俺はひとり考える。
「あんなの見たの、生まれてはじめてだったよぉ」
「…俺に訊くな」
「これでも急いで買ってきたよ。わたしも時間ないし」
「別に散らかってないだろ」
「お前、何枚持ってるんだよ。お米券」
彼女は忙しく、ねぐらの中を駆け回っていた。
男に何かを渡すと、すぐにまた出ていった。
ただの神頼みだった。
そして、空にいる少女が見ている夢が、観鈴なのだとしたら。
「まあ、優しくした事を憶えているのは良いことだ」
「でも、自然に笑ってほしい。今の、作ってたもん」
本屋の店主は相変わらず暇そうにしている。
俺は遠野から視線を逸らしながら言い放つ。
「不思議な夢も、気持ちいい夢もあったよ」
「…行くぞ」
「あ、ああ…気にするな」
「離れることないよ」
『………』
「おるかー」
これで今日の昼食の心配はなくなった。
「…お弁当…つくってくるから」
そしてフィニッシュ。
道を歩いているだけなのに、どうしていじめられるのだろう?
俺の隣で、遠野がみちるに対抗している。
聖は手を伸ばし、机から一冊の本を取った。
「ね、美凪」
話を変えてやる。
「そうだね…ずっといっしょにいたんだもん…」
(いまのがあいつの自信作なのか…?)
「君は棍棒と手ぬぐいを用意してくれ」
「がんばって、そこまで歩いてみる」
俺の口からそれを聞きたかった。そう伝えるように。
人形を動かす気も起こらない。
聖は無言で頷く。
堤防の上に腰をかける。
ちからのかぎり、いやがってみた。
「それにものごっつ機嫌が悪いときは、殿様ヘアーになるねん」
何も言えなくなってしまう…。
観鈴はずっと俺が逃げないように手を繋いだまま、向かい宅の呼び鈴を鳴らした。
下には、夏の日差しを受けて輝く水面。
やけに遠いが響き渡るような音だ。
でも、みちるはうまくつくれなくて、うなりながらストローで石鹸水をぐしゃぐしゃと掻き回していた。
それだけで、じゅうぶんだった。
「私と佳乃には、両親がいない」
夕焼けがあまりに綺麗だったから、というのは理由になるだろうか。
顔を綺麗に拭いてもらったみちるは、嬉しそうに頷いてストローを口にする。
中はずっしりと重い。
観鈴は、いちおう笑顔を保ってはいるが、額に冷や汗をかいている。
「うぅぅ〜〜〜…」
「これからがんばろうとしてたのに…」
がちゃり。
部屋に入るなり、中をぐるりと見回した。
高く澄み渡った夜空の下で、俺たちは肩を並べる。
壁に白衣が掛かっている。
緑の香りが残る、瑞々しい空気。
勉強中というのなら仕方がない。
考えてみれば、俺たちは一緒にいながら遊びらしい遊びはしていなかった。
踏み出せる勇気。それは違う。
何が敢えてなのか謎は深まるばかりだが、今日一日は着ていよう。
金はなかったけど、太い二本の足ならある。
真っ白な朝の光が、商店街を満たしている。
仰向けになっても、観鈴はまだ不安そうだった。
「どれぐらいある?」
ぽん、と観鈴が俺の手に自分の手を当てた。
そして、俺たちは歩いた。
そして二人の背中を見送った。
「まるで新婚さんのようだな」
浮かんできた言葉を、すぐにうち消した。
茜色の空と、鎧戸の向こうの闇。
鳥の羽ばたきのような音が、かすかに聞こえてくる。
怖い。
荒い息で、痛む胸を押さえながら、周囲を見回した。
「にゅぅ〜〜〜…」
眠ってしまえば、起きたときにすべてが夢だったということになってしまいそうで、怖かった。
「だから、そら、もう痛くない」
「大相撲」
「向こうはいつあんたをかっさらってゆくかわからへん」
二度と戻らなくなったのは、あの男のほうになった。
「…ふむ、残念だな」
「にゃはは、てれますなぁ〜」
「ごっつ軽かったし。別に気にせんでええかな〜」
遠くにいる子供たちをあごで指し示す。
彼女が離れていて、というのなら、僕はそうする。
そんなはずはない。きっと、まだ間に合う。
「君の身に何が起こるのか、私も保証できない」
それが手を伸ばせば届く場所にあるような…そんな気がした。
入り口が開き、あの女が現れた。
…嫌な予感がする。
診察時間の間も、俺は何度か佳乃の様子を見に行った。
『夢はだんだん、昔へと遡っていく』
遠くからは、子供たちの楽しげな声が聞こえていた。
「人を笑わせたいと思ってる?」
ペンキの剥げた壁を、指し示してやる。
ぼくの体も風を受ける。
「どうしたんですか?」
その先が聞き取れなかった。
ふと、観鈴が出てくるまでに、どのくらい時間があるのかと思う。
「だからな…うちらは一緒に居続けるんや…」
「ケツの穴、写した写真やったら、作ったるわ。面白そうやしな」
体温を感じながら、耳元で囁きかける。
隣で大人しくその音を聞いていた。
店から出てきた年輩の女性とぶつかる。
「っと、ちょうど時間」
「こんな暑い中、落とし物を探して歩いていたくないだろ?」
そして、いつの間にか黄昏。
彼女は再び走っていった。
少し考えれば、わかりそうなことだった。
案の定、俺は敗北感に肩を落とした。
「はりきって、ここまで来たんじゃなかったのかな」
「ぶつかり合う身体、乱れる髪、飛び散る汗、年甲斐もなく熱くなってしまった」
聞かないと一生の損のような気がする。
目の前で、人形が誰かの手によって拾い上げられた。
「いい?」
「うちをひとりにせんといてやっ…」
体を横にする。
誰だ?
父は何も言わず、うなだれ続けていた。
少女は、小さな体全体で振り絞るように想いを言葉に変えて、叫んでいた。
「待ち合わせしただろ? 一緒に帰るって」
本屋の店主は相変わらず暇そうにしている。
両方の腕を大きくのばした。
そっか…
言ったとたん、冷蔵庫の中が空っぽなのを思い出す。
彼女がそのままばたりと寝転がる。
目指す場所は決まっていた。
そろそろ事態の悪さに気づき始めたようだ。
悩んでいるようだ。
朝食のおみそ汁の匂い。
女は去っていった。
「あんたに何もかも教えてもらったんやないかっ」
応えるように、妹が姉の手を強く握り返す。
「嫌だよ、ひとりにしたら…」
自分の行動を思い返してみる。
「イッター…」
「目的…?」
そう言って、みちるは笑う。
「さあ、やるか…」
歩いていく。
穏やかな声で、遠野は俺を振り向く。
日が暮れるまでに探せなかったら、佳乃には二度と会えない。
何の力もなく、なす術もなく見ていた。
声が響き渡った。
「そっ、そんなことないもんっ」
そして、左右のほっぺたを摘んで、引き延ばした。
「なら、また見せてくれよ」
「そんなことないのになぁ…」
「とにかく笑ってろ」
仲の良さそうな兄弟。年の頃は小学校低学年と言ったところか。
「トランプ返して…」
落ち込んでいたはずの遠野が、俺とみちるの間に割ってはいる。
それにしても、遠野はどうやって料理の材料やらフライパンやらを用意したのだろう。
「だったら、なおさら力仕事ね」
でも、この町に偶然辿り着いてからの数日間。
遠野は、名残惜しそうに妖しい動きを止めた。
よかった。いじめられなかった。
『そして…女の子は、全てを忘れていく』
両腕を天に掲げ、大きく伸びをする。
向き直り、二人の額を軽く小突いた。
「うちがきついこと言い過ぎたかな…」
「俺に芸を見せたところで、餌など持ってないぞ」
それは夢だかなんだかよくわからなかった。
彼女と違って、ごわごわであまり気持ちよくない。
すこし大きな町まで買い物に行く、地元の人々。
不穏な気配を感じ取り、後ずさるが遅い。
少し痛かった。
「って、若いっちゅーねんっ」
再び突きつけられる。
この植え込みの中で、ずっと鳴き続けていたのだろう。
「…本当か?」
違和感がある、というより、確実に裏がありそうだった。
「煽ったのは、あんたの娘だろ…」
じめんがゆらぐ…
再び、みぞおちに踏ん張りのきいた蹴りが入った。
茜色の空があった。
「どんな人なのかなぁ…」
姉は溜息をつく。
俺は、その質問に答えなかった。
…前に正反対のことを聞いたような気もするが。
「へーきへーき、そんなの大丈夫だよぉ」
隠そうと思っても、隠せるものではなかった。
まるで死んでいるかのように寝続けた。
「珍種発見だろ?」
見つかったらパニック必至の珍獣をつまみ上げ、植え込みの影にそっと隠す。
夜の冷たさを含んだ風が…吹きつけた。
出しかけた手を、俺は元に戻した。
幾つかの時を、人形芸をして過ごした。
母親の顔が下がる。
「…すみません。大阪から来ました」
「くそ…イツツ…」
「観鈴ちん」
「気持だけもらっておく」
まだ盗み聞きをする
「にゃはは、てれますなぁ〜」
できることならそうしてやりたいけれど、できたところで、それは意味を持たない行為だ。
「こらっ、滅多なことを言うな」
全身を這う疲労感が、俺の意識をゆるやかに眠りの中へと誘っていった…。
そして、紙皿の上には、俺が炊いたものよりはるかに出来が良い白米。
「観鈴、ずっと元気やったやんか…」
鳥居の向こうに、たくさんの星が瞬いているのが見えた。
「…あつひかも〜」
「美味かったぞ。俺には量が足りなかったけどな」
ぶんぶんと首を横に振る。
「悪かったな」
「むぅ…なんで怒るのよぉ」
「そう…じゃあ、仕方ないわねぇ…」
そう信じて、旅を続けました。
僕は空の下にいる。
「ねぇっ、ホントっ!」
大事な相棒を拾おうと手を伸ばす。
「わかった。付け足そう。目と口がついて、頭が悪いものだ」
何時かはわからない。
「明日からはもっと早く起きよーっと」
「一緒に暮らすようになって、十年…」
「強要はできないな。わかった」
しばらくして、木の角盆を持って帰ってきた。
取り出し口に手を突っ込み、紙パックを掴み取る。
温かかった。
明日…。
「観鈴も礼を言うんだよ。晴子さんに」
「…寂しくて…とても遠い色をしています」
「温泉巡りや」
ぱたぱた。
声が苛立っている。
最初に会った時から、こいつにはどうも見くびられている気がする。
「町を出ていくつもりなんか?」
「お母さんと一緒にしたいよ」
俺も右手を出し、握手を交わす。
観鈴のことを深く知った今、そんな単純な問題ではないと思う。
…ぴたりと、足を止める。
遠野の甘い言葉を信じた俺が馬鹿だった。
一人で考えなければいけないことが、たくさんあった。
ありもしない助けを、そこに探すように。
観鈴の気を損ねないよう、一応楽しんでから頼み直す。
(…うるさい)
「佳乃の朝食を作らないとな」
答えながら、脳裏に二人の姿を見つめていたみちるの複雑な表情を思い浮かべた。
まだ湿っている、冷たい布の感触。
「ひとりでも、がんばらないとね」
静かに首を振る。
男と女。
医療器具の間に挟まれて、花柄の電気ポットがある。
「違うだろ。それは別々のものだ。一緒にするな」
外は炎天下。
「一人で帰れるか」
重々しい声で、聖が言った。
「一緒に行こうぜ。世界を見つけに」
「ちがう。もっと限定した場所だ」
美しい笑顔を絶やすことのない母。
「んー、どれにしよう」
「ああ、おやすみや。ゆっくり寝や」
ふたりの声が重なった。
「もう少し、親友のことを信頼しろよな」
「でも、それを越えたうちらや」
「ほわ〜って飛んだよ、ほわ〜って」
「どこいくの?」
一瞬、呟く遠野の姿が、とても儚いものに見えた。
俺は居場所を失って、部屋を後にした。
「…そして…この間の国崎さんに家まで送ってもらった日の夜…母はお布団の中で夢を見たんです」
鳥のように軽かった。
あの忘れ得ぬ日々の中で、あれほど栄華を誇っていたセミたちの声も、今は疎ら。
自らに気合いを込め、立ち上がる。
輝く羽根。
「幸せ、か…」
「ああ。信じられないだろうが、これでも犬なんだよ」
胸一杯に空気を吸い込むと同時に、腹が鳴った。
だが別の商品が出てくるわけがない。
「おかあさんと、たくさん思い出つくった」
「佳乃っ、しっかりしろ、佳乃!」
良い匂いがした。
「……来ました…」
そうなってしまったら、もう止まらなかった。
少年の俺には、そう考えるのが精一杯だった。
勇気を振り絞って、隣に座ったまではいいが、こういう場合なんと声をかければいいのか、私は知らなかった。
初めて母と過ごした一ヶ月。
「…じゃあ…脱皮とかは」
俺は、聞こえない振りをして、歩き続けた。
「がんばるって決めたんだから…」
「暇そうやなー。うちと遊ぶか?」
慣れるまでごっつ時間かかったわ…。
「じっとしてられるか?」
「みちる…ばいばい…」
「…国崎さんもどうぞ」
そして、今もこうしてふたりでいること。
「いきたいところ、あるか?」
そして俺の鼻の下を拭い、その指先を舐めた。
観鈴はぱたぱたと手を振る。
「それで良かったんか」
「いや、あの子は健康そのものだよ」
言いながら、俺の方を振り向く。
「ほんま、おおきに」
星の瞬きは、太陽の厳しい視線に…。
目を開けると、夕方だった。
男も同じように見上げる。
「それは俺の商売道具だ。言ってなかったか?」
「私は今まで、何をしてきたんだろうな」
俺はポケットの中をさぐり、遠野からもらった星の砂を取り出してみる。
「そこって、ちゃんとご飯でるところかな」
ぱたぱたと、四角い札を地面にならべている。
「これだけ見てもまったくタネがわからないとは、大した腕だなあ…」
事態は悪化してしまった。
「観鈴を看てやってくれ」
残念そうに、母親が呟く。
「いや、そういうことじゃなくてだな」
…とんとん。
呟くと、遠野は悲しげに視線を落とした。
「んなもん、見たらわかるわいっ」
夢は、夢でしかないのだから。
「うちは、どこにも失敗なんてあらへんと思うけどな…」
「それは大切なものだから…」
結局誰も降りず、誰も乗せずにバスは去っていった。
少女の顔色が、少し蒼いように思えた。
「…元気…」
見上げると、彼女の顔。
服を引っ張られる。
その行動が、全てだった。
「安心して笑っていろ」
観鈴は大きく息を吸い込んで吐いた。
「帰る…」
心配そうな声。
非常階段…。
「でも、やっぱりこの子といたい…」
「夢がさめても、思い出は残るから」
彼女をひとりにすることは心許なかったが、彼女の希望だと思ったから、その後を追うことにした。
「近頃は、目的を持たない若者が多くて困りものなのに」
もう一度眠りに戻ろうとする。
背後から聞こえてくる波の音。
もう、この家に『美凪』はいないのだ。
「あんたいくつや」
「奇遇やなぁ。うちも行きたかったんや」
「…悪い…俺が用事を頼んだんだ」
少しの間、忘れていたような痛み。
俺は人形を拾い上げるために、地面に手を伸ばす。
「なかなかいい町だろ」
別の方法を考える
「馬鹿」
「あ、ああ、終わったで。ていうか、終わってしまった、というべきか…」
子供ふたりは、アイスをぺろぺろと食べながら、去っていった。
暮れはじめた空の下を歩いた。
いつか佳乃が言った言葉。
「うむ。食べていこう」
靄がかかる。
「駅のベンチで寝転がりながら見る星空なんて、結構お気に入りだぞ」
人通りもまばらにある。
観鈴の声には、妙に力が入っている。
昼飯を食いながら、観鈴が話し始める。
「うん…ばいばい、往人さん」
泣いていないだろうか。
「そうすれば、きっと助かる…」
思わず高笑い。
「それで、お互いが安らかになれるならな」
背中に、温かなものがさわった。
俺は毛布を腹にかけ、床に寝転がる。
「俺に芸を見せたところで、餌など持ってないぞ」
「ねぇねぇ」
「しかも、なんか気持ちよさそうな顔してる!」
「…お腹空いて…」
ぷるぷると、いつも以上に髪をなびかせながら、大きく首を振る。
「…佳乃…」
母親につくってもらったのだろうか。
「もう、行くのか?」
投げ飛ばすため、一気に間合いを詰め少女に掴みかかる。
「いこう」
なだらかなトタン屋根の向こうに、真っ青な夏空があった。
空に連れていってくれる羽根。
「なお、食事以上の行為に及んだ場合は…」
遠野の目には、涙が浮かんでいた。
「もう寝る」
ただ、時間だけが過ぎていく…。
「手伝うよ、うん」
眩しそうに目を細め、青空を仰ぐ。
「よし、酒、飲もっ」
袖を引っ張られる。
「当たり。すごいね」
「ほな、おやすみ」
また彼女が泣き出そうとしたとき…
「…準備オッケーか?」
まるで老夫婦のようだった。
ぷるぷるぷるぷるぷる…
どこかもじもじしながら、俺のことを見た。
それが楽しい夢であるように…。
…往人さんっ
1003 :
1001:
よっしゃあ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
1000ゲット!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
僕の勝ちだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
馬鹿猫っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
1000 1000 1000 1000 1000 1000!!!