『ストーカー』に関して言えば、原作はすっかり書き直されてしまい、原作のなかで残されたものは
ストーカーという職業だけです。それすら映画の展開の中ですっかり違うものになっています。です
からこれは映画化ということすらできません。シナリオはストゥルガツキー兄弟の小説『路傍のピク
ニック』(邦題『ストーカー』)とほとんど関係がないのです。私はタイトルに銘記するよう強いられた
だけです。これがSF映画であることがはっきり分かるように首脳部が要求したのです。
最良の映画化とは、私の考えでは、原作とは別の、新しい何かなのです。シェイクスピアとドスト
エフスキーの最良の映画は、黒澤の『蜘蛛巣城』(マクベス)と『白痴』です。
しかし黒澤はきわめて多くのものを破壊しました。まったく新しいものを創造するために、舞台を
現代に移しさえしています。しかし、例えばドストエフスキーの小説を、逐語的に言いかえたり、図解
したりしようとする監督よりも、黒澤はドストエフスキーの世界に近いことが分かるのです。文芸作品
の映画化それ自体は、純粋の意味では、意味がないと私は思います。