三匹が斬る!

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470名乗る程の者ではござらん
障子から射し込む光の眩しさに、真之介は目を覚ました。
殴られいたぶられた疲労から寝過ごしたようで、とっくに朝は過ぎて昼間の明るさになっていた。
そうなると、閉じ込められている仏堂の様子がよくわかった。
荒れ果てて障子は破れ、祭壇を始めあちこちに蜘蛛の巣が張り、床は埃をかぶっていた。
うぅん、とうなされる声を耳にした真之介は、離れた場所に眠る娘が弱ってはいないかと心配になった。
呼びかけようとして耳が塞がれたままだと気付き、重い脚を持ち上げて、どんどんと床を踵で打ち鳴らした。
振動に起こされた娘は真之介に気付き、頭をぶんぶんと振って耳の布を落とした。
「起きたか、お小夜ちゃん。寒くないか?風邪ひいたりしてないか」
「平気よ、おじちゃん。あたし寒いのには強いんだから。おじちゃんこそ、大丈夫なの?」
「うん。この通り、ぴんぴんしてるぞ」
肩の傷はまだじくじくと痛み、殴られた身体は鈍痛と熱を発して怠かったが、真之介は努めて笑顔を作り虚勢を張った。
「よかったぁ。ねえ、ここどこだかわかる?」
「んー、わからんなあ。どっかの寺には違いねえが」
荒れ寺は、お小夜にも馴染みのない場所のようだった。

41 名前:続続・じゃじゃ馬ならし Part2 6/8[sage] 投稿日:2010/10/18(月) 08:53:43 ID:Tc7Ighg8O
話しながら真之介は、隣にいるだろう浪人の気配をまざまざと感じ取っていた。
真之介は柱に巻き付けられ、お小夜は腕と脚を固く縛られ、逃げ出すことは容易ではなかった。
辺りは静まり返っていて、山の中だろうと思われた。
助けが来る望みも万に一つだろうが、真之介には少しばかり希望があった。
兵四郎達とは、あの坂の下の宿場で落ち合う予定だった。
逃げたおたみが無事宿場までたどり着き、騒ぎが広まったなら、兵四郎が近くにいればその耳に入る筈だ。
お小夜達は身なりからすると、そこそこ裕福な商家の娘であるに違いない。
男達の口ぶりからすると、奴らはしばらくこの寺に留まるつもりらしい。大掛かりな捜索が行われたなら、なんとか探し当ててもらえるかもしれないと、真之介は考えた。
ふと顔を上げると、お小夜が髪に挿した簪が目に入った。
少女には大人っぽすぎるような見事な銀細工の品で、そぐわなさが気になった真之介はお小夜に尋ねた。