1 :
925:
[1日目午前0時スタート前後:新撰組屯所]
一瞬、慣れ親しんだ新撰組屯所ではないと沖田総司は錯覚した。
もちろん、その部屋はいつもの新撰組屯所であったのだけれど、
何かがおかしかった。何かが違っている。
すぐに、沖田総司はその原因に気づいた。窓の外はすでに日が暮れ、闇に包まれていた。
さっきまで稽古中であったはずなのに・・・
沖田総司は、辺りをそろそろと見回した。内で見かけたことのある隊士たちが、
先ほどまでの沖田総司と同じように床に伏して眠っている。
そのなかには、沖田総司の親友でもある藤堂平助の姿もあった。
俺、どうしたんだろう? 沖田総司がそう思ったとき、屯所内に大きな音がした。
皆、眠りから覚めたばかりらしく、沖田総司と同様に周囲を見回している。
一体、何が起きたのだろう?何故俺達は、ここに居るのだろう?
誰もが困惑と不安を隠しきれずにいた。
「あの・・沖田さん何が、どうなってるですか・・」
平助は、目に涙を溜めて不安を訴えた。
沖田総司は「大丈夫だよ」と言ってあげたかったが、出来なかった。
自分自身、現状が怖くてたまらなかった。
そう、嫌な予感がする。
何度も噂で聞いた、『あれ』の状況によく似ている……
突然、施錠されていた扉が、開いた。
そして、銃を携えた兵隊の様な連中が十数人、入って来る。
兵士達は整列すると、銃を新撰組隊士に向け、構えた。
いつでも発砲できる体勢だ。
まさか……
コツ、コツ、と、兵士達とは違う、軽い足音が聞こえた。
教室に入って来たその足音の主は……松平容保だ。
松平容保は教壇に立つと、いつもと変わらぬ屈託のない笑顔で、話し始めた。
「励んでいるか!まさかお前らに集まってもらう事になるとは、私も想像できなかったぞ」
相変わらずもの静かな口調だ。
しかし、今日は普段にも増して、自信に満ちているようだ……沖田総司にはそう映った。
そして松平容保は、屯所内をぐるりと見回すと、衝撃的な一言を言い放った。
「今日はこれより、諸君に殺し合いをしてもらう!」
室内の全ての空気が止まった。
「お前らは、今回の『プログラム』に選ばれたのだ!励め!」
沖田総司の予感が、的中した。
平助は、ギュッと沖田総司の腕を掴んで、震えていた。
誰かが、うっ、とうめいた。
『プログラム』
それは、魔の掟。
正式名は『不貞浪士特別法』という。
近年、この国では不貞浪士の殺戮が激増の一途を辿っていた。
何故、こんなにも簡単に殺戮してしまうのか?
何故、互いの理解を深めようとせず、安易な殺戮に走ってしまうのか?
……そして制定されたのが、この法律だった。
真に「戦う強さ」を持ち合わせた人間だけを選抜する法律。
毎年、各不貞浪士の対象者が無作為抽出され、最後の一人になるまで殺し合いが行われる。
しかし、選ばれる確立はゼロに等しいと言われていただけに、新撰組隊士はすぐには信じられなかった。
「冗談なら、やめとけ・・さもないと・・斬るぞ」
重々しい声が響いた。
筆頭局長の、芹沢鴨だ。
「俺は水戸天狗党の芹沢鴨だ!なんでこんなプログラムに参加しなくちゃいけないんだ!」
芹沢鴨は嘲笑を込めて異議を唱えた。
そもそも、このプログラムの指揮権が松平容保にある事に、理解が出来なかった。
普通なら、薩長や天子様の担当者が赴いて、ここで説明するだろう。
ここに居る兵士達も、おそらく松平容保の会津藩やSPの面々。
驚かせておいて、実は酒宴でも開くのだろう……そう思っていた。
しかし、現実は残酷だった。
「芹沢!お前はまだ信じられない様子だな。ならば、信じられる物を用意してやろう!」
松平容保は表情を変えずにそう言うと、指をパチン、と鳴らした。
教室の扉が開き、『何か』を載せたベッドが運び込まれて来る。
ビニールシートの下の『何か』からは、少し生臭い匂いがした。
「見せてやれ」と松平容保が言うと、内山がそのシートを外した。
一瞬の静寂。
そして次の瞬間、芹沢鴨が絶叫した。
「新見・・・!!」
4ゲット!!!
____ liiiiil
ト、 , ---- 、 ,. ‐''":::::::::::::;::::`'-、 卅卅.~/l*
H /::(/、^^, :゙i /::::::::::::::;:/´ヾヘ;:::::::::ヽ i||||!||li ll l
(( (ヨb |::l,,・ ・,,{:K〉)):::::::::((,/ `、::r、:::||#゚Д゚)ll_l
\`l:ト、(フ_ノ:」/::::::::::::i゙ \ / i::::i||⊃|||⊃ll
゙、 ヾ〃 /!::::::::::::| ● ● l::::| l卅卅! ~
〉 ネヴァダ| !::::::::::::! !:::!(/!!!U
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\ |::::::| l, / ノ::i /
`、 i:::::l、ヽ.,_ `''''" _ ,..イ:::::i /
゙、 ヽ;i \ヽ,.l ̄_,l |:::/ /
゙、 ヽ`、 | / レ' /
゙、 / `ヽ''" i. /
/ NEVADA |/
しかも時代劇板であ〜る!
駄文書きたかったらチラシの裏にでもどうぞ
最近のチラシは両面印刷が多いからねー。
小学生のころは、チラシをまとめて落書き帳を作ったりしたなー。
懐かしい・・・たまには実家に帰ろうかな・・・
芹沢鴨の叫びが、一瞬にして全員の悲鳴へと変わる。
そこに有ったのは、新見錦の『なれの果て』だった。
まるで操り人形を投げ捨てたかの様に関節は捻じ曲がり、
頭蓋骨は陥没し、両目も潰されていた。
「新見・・・新見!・・・」
芹沢鴨は泣き叫びながら、新見の亡骸に近付こうとする。
しかし次の瞬間、兵士達が一斉に芹沢鴨に向け、銃を構えた。
それに気付いた近藤勇が、慌てて芹沢鴨を羽交い絞めにして、引き止める。
「芹沢さん、駄目だ!今行ったら、芹沢さんも殺されてしまう!」
「しかし!新見が!」
芹沢鴨はその場にヘナヘナと座り込むと、声をあげて泣いた。
泣くことしか、出来なかった。
そしてその光景は、新撰組隊士達に現実を認識させるのに、充分だった。
松平容保が説明を続ける。
「新見は、このプログラムを反対した。残念だ」
死臭が室内を満たしてゆく。
それはまさしく、絶望の臭いでもあった。
松平容保は胸元から帝から押された封書を取り出すと、その中の文書を事務的に読み始めた。
いわゆる『宣誓文書』だ。
「……本プログラムは、明治政府の完全管理下のもと、会津藩の運営者である
松平容保によって執り行われるものとする旨を、ここに通達する……」
宣誓文書など、誰も聞いてはいなかった。
ただ、殺戮の海に放り込まれた事実を受け止める事しか、出来なかった。
自分達を庇ってくれた(であろう)新見錦が、あっけなく殺された。
こんな理不尽な殺人さえ、合法だという。
いや、理不尽な殺人劇は、これから始まるのだ。自分達の手によって……
どうする?どうすればいい?ここから逃げ出す方法は無いのか?
誰もが、戦うことなく生き延びる方法を自問自答していた。
と、その時、松平容保が宣誓文書を読むのをピタリと止めた。
「……どうやら、私の話を聞いてくれない人が、いるようだな・・困ったものだ・・」
時代考証がめちゃくちゃだよw
……まさか、聞いていないのを悟られたのでは?
隊士達は、恐る恐る松平容保の視線の先を辿った。
松平容保が見ていた先……そこには、平間重助と平山五郎の姿があった。
平間重助はまだ睡眠薬が効いているらしく、眠ったままだった。
それを平山五郎が必死になって起こそうとしている。
「……平間、起きろよ。寝てる場合じゃないんだってば……」
平山五郎は、松平容保を刺激しないように、小声で呼び掛けながら平間の肩を揺すっていた。
その呼びかけに応じたのか、平間がようやく目を覚ます。
「……あれ?平山。おはよう!どうしたんだよ?」
まだ現状を把握していない彼の一言が、屯所中に響き渡った。
誰かの呟く声がした。
「……だめた!」
次の瞬間、松平容保は小さなリモコンの様な物を取り出すと、平間に向けてそれを「ピッ」と鳴らした。
ピピピピ、ピピピピ……
何処からともなく、アラーム警告音が聴こえる。
「何だよ、目覚まし時計をセットしてるのか?
でもおかしいな。外はまだ、夜じゃねぇか!俺は眠いんだよ!」
まだ寝ぼけているのか、平間は緊迫した現状に気付いていなかった。
「なに言ってんだよ、平間!今はそれどころじゃ……平間?」
平山は、異変に気付いた。
警告音の発信元が、異常に近いのだ。
しかもそれは、平山の体内――頭の中から聴こえている。
「まさか……松平様!平間に何をしたんだよ!?」
平山の追及に、松平容保は落ち着いた調子で答える。
「平間に限った事ではない。君達には、眠っている間に、『装置』を埋め込ませてもらった。
なあに、最新技術を駆使したマイクロサイズの物だ。違和感は感じないだろう?
それから、これには位置特定の為の発信機と、自爆装置がセットされている。
指定の制限時間をオーバーしたり、プログラムの進行を著しく妨害した場合には……」 「場合、には……」
平山は、唾をゴクリと呑んだ。まさか……まさか、そんなことって……
そして、一番聴きたくない言葉が、松平容保の口から発せられた。 「爆発する」
どこからツッこんでいいのかわからん。
ピピピピピピピピ……
警告音の間隔が短くなってゆく。
悪魔のカウントダウンに、静かだった屯所が再びざわつき始めた。
しかし、当の平間本人は、まだこの危機的状況に気付いていなかった。
「みんな起きているのかよ!うるせえよ時計……誰かとめろよな!」
平山はパニック寸前だった。
同士の命が、あと数秒で消えてしまうかもしれない。
しかし、自分にはそれを止める術が無い。 「平間……平間ぁ……」
平山は、とっさに平間の両手を強く握った。 涙がこぼれ落ちて、止まらない。
その涙が、平間の頬へと落ちて行く。「ずっと……ずっと、同士だよな……」
まだ通常の判断力が戻っていない平間には、何故平山が泣いているのか、解らなかった。
しかし、「同士だよ」という言葉だけは、はっきりと聞こえた。
「おい、なに言ってんだ!俺とお前はずっと同士だぜ!」
平間は、いつものように微笑んだ。 その直後――
ぱんっ、という音とともに、平間の側頭部が弾けた。
電源はどこからとっとるんじゃw
固有名詞を変えてチョロっとアレンジした程度じゃダメだよ。
まさに駄文だ。
平山の顔が返り血を浴び、真っ赤に染まる。
瞬間、屯所中が再び悲鳴に包まれた。
人の命が奪われた瞬間を目撃した以上、それは新見の時とは比較にならない状況だった。
「お前ら!静かにしないか!」
松平容保の忠告も、もはや届かない。
ある者は泣き叫び、ある者は気を失い、ある者は何度も嘔吐を繰り返した。
そんな混沌とした中、平山は平間の手を握ったまま、動かなかった。
いや、動けなかった。
呆然としたまま握っている平間の手には、まだ、温もりが残っていた。
「まだあったかいぜ、平間……」
「威嚇射撃!」
松平容保の号令が飛んだ。
それに合わせて、兵士達が一斉に床へ向けて鉄砲を発射する。
ただならぬ轟音とともに、床面のコンクリートが削られ、破片が宙に舞う。
圧倒的な『実弾』の恐怖。
その威力の前に、泣き叫んでいた隊士達の動きが一瞬にして止まった。
そして、数秒間の掃射が終わる直前――
床に跳ね返された弾の一発が、山南敬助の左膝をかすめた。
「痛ェ!」
山南敬助は傷口を押さえ、その場にうずくまった。
「――山南さん!!」
その様子を見た島田魁が、慌てて山南敬助のもとへと駆け寄る。
「大丈夫ですか!?山南さん!」
島田はそう言うと、ポケットからハンカチを取り出し、それを山南の膝へと巻き付けた。
手際の良い応急処置だ。
「大丈夫だ。かすり傷だから……ありがとう」
山南は苦痛に顔を歪めながらも、島田に礼を言った。
確かに、弾は膝をかすめただけだった。
あと数ミリずれていたら、確実に骨を砕き、歩く事さえ出来なかっただろう。
しかし、弾を受けた際の痺れと出血は、普段の『かすり傷』とは比較にならないものだった。
教室が『一応の』平静を取り戻した所で、再び猪木が話し始める。
「まったく、お前達は……これ以上、私の手で参加者を減らしたくない。
しかしまぁ、驚くのも無理はなかろうが。 」
神様!もうひと言だけいいですか?
この駄スレを消してください!
21 :
名乗る程の者ではござらん:04/06/30 00:37 ID:lnY/gpuY
適当な話、つくんなよ
間違いました
猪木は「松平容保」です。
この時、沖田総司は状況を整理し、理解するのに必死だった。
自分は『プログラム』に選ばれた。
間違いなく、『真の強者』をめぐる戦いだ。
ここにいる隊士達と、命を賭けて。
屯所で見慣れた人や、親友……
今、隣で震えている平助とも、戦うかもしれない。
そんな、そんなこと……わからない、どうすればいいんだ……
冷静な判断をする為に、現状を整理するつもりだった。
しかし、考えれば考える程、気持ちは混乱してゆく。
頼む、誰か、助けて……
だが、そんな沖田の願いを無視するように、松平容保の宣誓が響き渡った。
「ではこれより、プログラムを開始する!
制限時間は三日間。新撰組屯半径1キロ全域が戦闘エリアとなる。
勿論、市民の退避は完了している。
君たちの両親にも既に連絡済だ。後悔の無い様、思う存分やりたまえ!」
何だこのバーロー
25 :
名乗る程の者ではござらん:04/06/30 03:02 ID:D/MxsuCy
ーローバのこだ何 ほっしむすめいえいえー
(・ ∀ ・)つづきまだー?
新選組の兵士達は、容保の分際で生意気だと想い、
いっそのこと自分で死んだ方がましだ!よし切腹しよう!
とゆう乗りで切腹してゲームは、終了しました。
終り
出発の順番はランダムだった。松平容保がくじ引きで決めていた。
箱の中に松平容保が手を入れ、1枚の紙を引く。
「それでは、最初に出発する者の名前を発表する……篠原泰之進くん」
全員の視線が、彼に集中する。
「は、はいッ!」
篠原泰之進は、上ずった声で返事をし、立ち上がった。
そして、顔を強張らせながら屯所の出口へと進む。
「私物の持参は自由だが、くれぐれも『お荷物』にならないよう、
ただし刀や槍はだめだぞ!出口で支給する袋には、武器がランダムで入っている。
その武器を有効に活用し、円滑にプログラムを進めて貰いたい。以上だ」
篠原は出口で袋を受け取ると、屯所内へ向き直り、深々と一礼をした。
そして、一目散に外へと駆けて行く。 次の隊士の出発は2分後だ。
皆一様に怖がっていたが、中には「やる気」になっている隊士がいるかもしれない。
特に篠原の場合、近藤一派とはうまくいってなかったし。
心を許せる人間が居ないことが、篠原の不安感を更に増大させていた。
早くここから離れなければ…… その言葉だけが、篠原の心を支配していた。
教室では、2番目に出発する隊士の名が呼ばれた。
「それでは、次、……島田魁くん!」
島田は「はいっ」と返事をして立ち上がったものの、一歩が踏み出せない。
「大切な人達」のことが気になって、傍に居たくて、仕方なかった。
親分の芹沢鴨先生と、憧れの山南さん。
芹沢は泣き止んでこそいたものの、ずっと俯いたままだ。
そして山南は、傷を負った左足を、ずっと押さえている。
どうしよう……ふたりを放って行くなんて、出来ない……
迷う事が許されない状況の中、島田は出発すべきか迷っていた。
その時、なかなか動こうとしない島田に気付いた山南が、微笑みながら声を掛けた。
「島田……俺なら、大丈夫だから……」
「山南さん……」 島田の瞳が、徐々に潤んでくる。
山南とは離れたくない。でも、離れなければならない。
そして山南の言葉は、別離への選択を迫る言葉。
わかってる。わかってるけど、その一歩がどうしても踏み出せない。
「島田、早くしなさい!」 松平容保は冷徹に、出発を促す。 「はい……」
島田は力無く答えた。しかし、まだ歩き出す事は出来ない。
その時――
山南がスッと立ち上がると、突然、島田を力いっぱい抱きしめた。
「や、山南さん……?」
島田は動揺を隠せなかった。「山南さん、どうしたんですか?急に……」
そして山南は、いつもにも増して、優しく語り掛ける。
「島田……諦めちゃ駄目だ。諦めたら、すべてがそこで終わってしまう……」
「山南さん……」 島田の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
山南は抱きしめた両手をほどくと、じっと島田の顔を見つめる。
島田を見る山南の表情は、普段と変わらない、優しい笑顔だ。
(どうして山南さんは、そんな優しい笑顔を見せるんだ?
三日後にはもう、二人共この世にいないかもしれないのに……)
山南は言葉を続けた。
「よくわからないけど……必ず、何か方法があるはず。みんなが助かる方法が……
だから、そんなに悲しい顔をするな。 」
今の島田に、笑顔を作る事は不可能だった。
だが、山南の言わんとすることは、しっかりと伝わっていた。
「わかりました……芹沢先生にも、一言、掛けてあげてください」
島田はそう言うと、出口へ向かって歩き始めた。
そしてデイパックを受け取ると、一旦立ち止まり、山南に向かって大声で叫んだ。
「次の稽古、僕と手合わせしてくださいね!」
山南が頷く。 島田はそれを確認すると、夜の闇へと走り去って行った。
出発の点呼は続く。 次いで、平山五郎の名が呼ばれた。
しかし、平山は何の反応も示さない。
あの時からずっと、平間の手を握ったままだ。
「平山、早くしなさい!このままだと、プログラムの進行を阻害するものとして、
お前を排除するぞ!」
松平容保から最後通告が発せられた。
それに反応するように、ようやく平山が動き出す。
平山の手から、平間の手が離れた。
「平間……じゃあな、行って来る。待ってろよ……」
平山は俯いたまま、返り血を拭う事もせず、ゆっくりと立ち上がる。
そして、屯所の出口ではなく、松平容保の居る教壇へと向かった。
数秒後―― パシッ、
平山の平手打ちが、松平容保のほほを捉えた。
兵士達が一斉に平山に向け銃を構えるが、松平容保がそれを制止する。
松平容保は叩かれたほほを押さえつつ、じっと平山を見た。
平山の瞳は、さっきまでの無気力さが消え、怒りに満ちていた。
「絶対に……絶対に、許さねえぞ!」
平山はそう言い放つと、足早に出口へと向かう。
意外なことに、松平容保は平山を咎める事もせず、ただじっと平山の様子を見ていた。
出口へ向かう途中、再びシートが被せられた新見の死体の前で、平山は足を止める。
新見は平山にとって尊敬する先輩であった。
この短い時間の間に、自分の好きな人が相次いで去って行く。
しかも、明らかに『見せしめ』として殺された……
具体的な策がある訳ではなかった。
しかし、平山の心の中には、松平容保に対する復讐心が沸々と湧き上がっていた。
「新見さん……芹沢先生を、守ってあげてくれ」
平山はそう呟くと、袋を受け取って屯所を去って行った。
その後の出発は順調だった。
順調といっても、”島田や平山と比べたら”というレベルではあったが。
目眩を起こして倒れていた谷三十郎は、歩くことがやっとだった。
芹沢鴨も、山南に促され、力無く屯所を後にする。
その山南も、左足を微妙に気にしながら、出発して行った。
一人、また一人と、屯所から参加者が消えて行く。
そして、沖田総司の番がやって来た。
勿論、行きたくなんかない。
しかし、この場で抵抗しても無駄なのは判っている。
(行くしか、ないんだな……)
名前を呼ばれ、立ち上がろうとする沖田。
と、その沖田の右腕を、藤堂平助が掴んだ。
「沖田さん……大丈夫だよな。みんな、人を殺したりなんか、しないよな……」
平助の顔は蒼ざめ、恐怖と不安に震えている。
「平助……大丈夫だよ」
沖田は優しく語り掛けた。
怖がりな平助の心を、少しでも落ち着かせなければ……
「みんな大丈夫。そんな簡単に、人を殺すことなんて――」
沖田がそう言い始めた瞬間だった。
パンッ、パンッ、パンッ、
乾いた銃声が、外から聞こえてきた。
残っていた全員が、ビクッ、と肩を震わせる。
誰もが信じられなかった。
(まさか、本当に「やる気」になっている奴ががいるの!?)
「嫌だー……こんなの、嫌だーーー!!」
平助は耳を塞ぎ、激しく首を横に振る。
沖田の言葉に、わずかでも希望を持とうとした矢先の銃声。
容赦ない現実が、平助の希望を一瞬にして打ち砕いていった。
「平助……玄関で待ってるから!」
沖田はそう言い残すと、袋を受け取り、屯所を出た。
恐怖に震える平助を、このまま放っておくことなど出来ない。
だからといって、迂闊に外で待ち合わせるのは危険だ。
さっきの銃声は、入り口の辺りから聞こえてきた。
標的にされる可能性が高すぎる。
次に出発するのは、平助。
屯所内で待っていれば、安全かつ迅速に平助と合流出来る筈。
履物だけ取りに行って、裏口から出よう……
沖田はそう考えた。
しかし、それが悲劇の始まりだとは、この時、沖田は知る由も無かった。
「どーも、フィリピンのロベルト・ガビシャンです。今日は痛いスレッドを紹介しましょう。
このスレッド。うわさによると
>>1が相当な厨房で、痛い小説を書いていると
言うんです。いったいどんなスレッドなんでしょう。では、行ってみましょう。」
「時代考証がめちゃくちゃです。」
「名前を変えただけの駄文です。」
「ということで今日は厨房が痛い小説を書いてるスレッドを紹介しました。以上、ロベルト・ガビシャンでした。」
最後に生き残ったのは沖田か?原田か?
[1日目午前0時スタート直後:屯所玄関]
玄関に、人の気配は感じられなかった。
屯所の門までの十数メートルの間にも、動くものは見当たらない。
沖田は慎重に周囲を警戒しつつ、下駄箱へ向かった。
まず平助の履物を回収し、次いで自分の履物を回収すべく、下駄箱へ。
だが、自分の履物に手を伸ばした時、沖田はふと思った。
そうだ。
何故わざわざ、履物を取りにここへ来たのだろう。
今は非常時だ。
防災訓練の時だって、裸足のまま外へ出るのが当り前の筈。
悠長に履物を履き替えて逃げる人なんて、居やしない。
一刻を争うというのに、どうして、こんなことを……
危機感の欠如
それは、参加者の誰もが同じだった。
火事や地震と違い、殺し合いという状況に備えている人間などいない。
しかも、今まで出発した参加者には、主催者である松平容保以外への殺意は、感じられなかった。
誰も人を殺すなんて、出来やしない。
とりあえず外へ出れば、何とかなるだろう。そう思っていた。
だが、そんな淡い期待は、さっきの銃声によって打ち消された。
信じたくは無いが、既に殺し合いは始まっている。
とにかく、ここまで来てしまった以上、早く履物を取って戻ろう――
沖田は心の中でそう呟くと、下駄箱から自分の履物を取り出した。
その時だった。
カチッ、という金属音とともに、何かが引っ掛かる感触が伝わって来る。
履物や下駄箱の構造上、引っ掛かる物があるとは思えない。
嫌な予感がした。
暗がりの中、沖田は下駄箱の中を覗き込む。
そこには、ガムテープで固定された丸い物体が、一つ。
そして履物には針金が巻かれ、その先にはピンを思わせる金属部品が結び付けられていた。
――手榴弾だ!
しかも、履物を取り出したことにより、ピンは外れている。
仕掛けた人物を詮索する時間など無い。
沖田は全速力で、その場から立ち去るべく走り出した。
だが、運命は脱出を簡単に許してはくれない。
走り出した沖田の眼前に、突然、人影が現れた。
肩がぶつかった。
足がもつれ、沖田は廊下へと倒れ込む。
袋と履物が、勢い良く床を転がって行った。
……誰だ!?
沖田は下駄箱の方向へと振り返る。
そこには、虚ろな目をした一人の隊士が、ぼんやりと立ち尽くしていた。
野口 健司
芹沢派、最年少で沖田とも仲が良い・・
しかし、今の野口には、普段の感じが微塵も感じられない。
当然だ。
今は殺人ゲームの真っ只中なのだから。
……だが、それ以上に、今の野口の様子がおかしい。
彼は腹部を手で押さえている。
そしてその手は、赤黒い血液に濡れていた。
「沖田さん……俺、撃たれちゃったよ。どうしよう……」
野口は、声を絞り出すようにして、語り掛ける。
その声は震え、息も荒い。
どんな素人が見ても、致命傷を負っている事は明白だった。
(どうしよう、って……)
沖田は答えられなかった。答えられる筈もなかった。
手榴弾を発見し、そして傷付いた野口と遭遇するまで、ほんの数秒間。
突然すぎる恐怖と衝撃の連続に、沖田の思考回路はパニックに陥っていた。
「……逃げろっっ!!」
沖田は咄嗟に叫んだ。
そう、手榴弾のピンを引いてしまっている。
もう時間が無いのだ。
一刻も早く、ここから離れなければ――
そう思い、沖田は体を起こそうとした。
その瞬間だった。
大音響とともに、野口の背後の下駄箱が吹き飛んだ。
強力な爆風とともに、埃や破片が彼ら達に降り注ぐ。
そして、その中でもひときわ大きな金属片が、野口の後頭部に突き刺さった。
「ぐっ」と、野口は小さなうめき声をあげる。
それが、彼の最期の言葉だった。
倒れ込み、動かなくなった野口の体が、みるみる血だまりに沈んでゆく。
沖田は震えながら、その血だまりが広がってゆくのをじっと見つめていた。
そうする事しか、出来なかった。
(俺の……せい?)
(俺が、不用意に履物を取りに来たから?)
(俺が、手榴弾のピンを抜いてしまったから?)
(だから……野口は死んでしまったのか?)
沖田の心の中に、自責の念が渦を巻く。
あの爆発以前に、既に野口は致命傷を受けていた。
自分が何もしなくても、彼は助からなかっただろう。
しかし、直接の死因は、あの爆発にある。
防ぐ事が可能だった筈の、あの爆発。
人を殺した
人を殺した
人を殺した
同じ言葉が、何度も何度も沖田の頭を駆け巡る。
「違う!あれは……あれは……」
沖田は頭を抱えて、泣き叫んだ。
気が変になりそうだった。
「沖田さん、しっかりしろ!」
その時、平助の声がした。
ハッとして、顔を上げる沖田。
いつしか、沖田の傍らには平助が寄り添っていた。
「平助……」
「沖田さん……落ち着こうよ。事故だったんだろ?野口君には悪いけど……運が、悪かったとしか……」
と、ここで沖田は今の状況に気付いた。
自分は今、平助に慰めてもらっている。
道場の時とは、全く逆の立場になっているのだ。
(そうか……俺、強がっていただけなんだ……)
必要以上に張りつめていたものが、段々と緩くなってゆくのを感じた。
緊迫した状況に変わりは無いが、沖田は少しずつ、冷静さを取り戻してゆく。
「平助……ありがとう」
沖田は履物を平助に渡すと、自分も履物を履き、袋を拾い上げた。
あと30分弱で、ここは立入禁止エリアになってしまう。
早くここから立ち去らなければ……
しかし、ここでまた新たな訪問者がやって来た。
「おいおい?何の騒ぎだ、これは……」
そこに現れたのは、斉藤一だった。
斉藤は何故か、袋以外の荷物を沢山抱えている。
「斉藤さん……どうしたんだ?その荷物」
沖田は目を丸くした。
確かに、私物の持参は自由というルールだ。
しかし、道場を出た時の斉藤は、袋以外の物は持っていなかった。
「ああ、これか?ちょっと倉へ寄って、取って来たんだ・・」
倉から取って来た荷物――
その中には、木彫りセットと材料の木が、たっぷり入っていた。
斉藤は苦笑する。
「どうせなら、最後は自分の好きな事、やりたいしな……」
最後は――
とてつもなく、重い言葉だった。
斉藤に戦う意思が無いのは明白だが、この言葉は、
彼が生き残る事を放棄するとも取れるものだった。
「斉藤さん……貴方は、生き残りたくないのか?『真の強さを持った武士』になりたいと、思わない?」
沖田が問いただす。
しかし、斉藤の回答は実にあっさりしていた。
「まぁ、これに参加してる以上、気持ちが無い訳じゃない。
でも、人殺しをしてまで、強くなってもな。後味悪いだろ。そんなとこさ。 」
「でもな……」
斉藤はそう言うと、野口の亡骸に近付き、その体から袋を引き剥がした。
「やっぱり無駄死にはいやだな。それに……」
そして斉藤は、袖から拳銃を出し、構えた。
「むやみに人を信じたら、負けだぜ!」
(`<_´ )俺の出番は?
(´゚c_,゚` )殺っちゃうよ〜♪
それは一瞬の出来事だった。
数発の銃弾が、平助の体を貫いてゆく。
平助は、痛みを感じるより早く、着弾の衝撃によって床へと倒れこんだ。
「――平助!!」
沖田は信じられなかった。
少なくとも、話していた時の斉藤の雰囲気からは、この状況は予測出来なかった。
だが、これは現実だ。
現に平助は、斉藤の放った銃弾を受け、血にまみれている。
次いで斉藤は、沖田にも銃口を向けた。
手を伸ばせば届く程の至近距離だ。
外すことは有り得ない。
沖田は咄嗟に、自分の袋を斉藤の手めがけて振り回した。
斉藤の手からグロックが弾かれ、床を転がってゆく。
その隙に、沖田は倒れた平助の手を引いて、物陰へと隠れた。
「平助!しっかりしろ!」
沖田は、苦痛に喘ぐ平助に呼び掛けながら、袋の中の武器を探す。
斉藤は銃を拾い、再び攻撃して来る筈だ。
時間稼ぎで構わない。斉藤を足止め出来る武器を……沖田は祈った。
斉藤は廊下の端まで転がった銃を拾い上げると、沖田たちが隠れた物陰へと歩を進ませる。
そして銃撃が始まった。
木製の下駄箱が、激しい音を打ち鳴らす。
沖田は銃撃の恐怖に震えながら、手にした武器を天井へと掲げた。
さらしあげ
パンッ!パンッ!パンッ!
自分の物とは違う銃声に、斉藤は素早く身を隠した。
4列ほどの下駄箱を挟んで、双方が対峙する。
斉藤が沖田の出方を警戒している一方、沖田の心は更に不安を増していた。
どうにか斉藤を牽制する事は出来たが、それとて一時的なもの。
どうすれば……どうすればいい?
沖田の手中にあるパーティー用のクラッカーは、ほんの少しだけ、熱かった。
「斉藤さん、どうして!?どうして平助を撃ったんだ!?人を殺したくないって言ったじゃないか!」
沖田は斉藤に呼び掛ける。
時間稼ぎをしたいという思惑もあった。
だが、斉藤の行動に、どうしても納得がいかなかった。
理由を聞きたかった。
「死にたくないから、やっただけだ。……野口を殺したんだろ!?
あいつを殺したお前達を、信用できるわけがないだろ!」
斉藤は強い調子で言い返した。
誤解している。
「違う!野口を撃ったのは俺達じゃない!それに、あの爆発も偶然……偶然だったんだよ。信じて!」
だが、斉藤は沖田の弁明に耳を貸す事はしなかった。
「言い訳なんか聞きたくない。理由はそれで充分だろ……」
斉藤が動き出した。
一歩ずつ、足音が近付いて来る。
沖田は、急いで平助の袋を探り始めた。
もうクラッカーでは誤魔化せない。
今度こそ、武器らしい物が入っていますように……沖田は祈った。
だが、祈りは届かなかった。
沖田が手にした武器――それは竹で成型された水鉄砲だった。
勝負にならない。
段々と斉藤の足音が近付くなか、沖田は今度こそ死を覚悟した。
ここで平助と一緒に殺される。
嫌だ。嫌だけど……
沖田は生き残る事を諦めかけてゆく。
しかしその時、意外な声が玄関に響き渡った。
「お前達!屯所内での戦闘はご法度だ!」
いつしか、玄関は松平容保と兵士達によって包囲されていた。
「まったく、困った者どもだ……ここには大会本部が設置されている。
これ以上戦闘を続けた場合、プログラムの進行を著しく妨害したものとして……」
そして容保は、『あの』リモコンをポケットから取り出し、掲げる。
思わぬ水入りだった。
斉藤一は悔しそうに唇を噛む。
そして沖田は、ほっと胸を撫で下ろした。
とりあえず、差し迫っていた危機は回避出来た。
しかし、決してプログラムから解放されたわけではない。
撃たれた平助の状況も、予断を許さない。
――と、ここで沖田は平助の異変に気付いた。
さっきまでの苦しそうな息遣いが聴こえない。
何事も無く、静かに眠っている様に見える。
いや、平助は寝息さえ立てていなかった。
「……平助?」
嫌な予感がした。
沖田は慌てて平助の手を掴み、脈を測ろうとする。
……もう、平助の鼓動を感じることは出来なかった。
(うそ……嘘だろ?平助……)
沖田の胸に、悔しさと怒りがこみ上げてくる。
「こんな、こんなことって……決まりだからって……こんなのおかしいぃ!理不尽だぁ!」
沖田の嗚咽が玄関中に響き、やがて廊下や階段へと伝わって行く。
その声を聴きながら、斉藤一は荷物を抱え、裏口へと歩き始めた。
そしてその途中、一人の隊士とすれ違う。
最後に出発した参加者、吉村貫一郎だ。
彼がちょうど階段を下りたその瞬間から、この銃撃戦は始まっていた。
そして吉村はその一部始終を、身を隠しながら、じっと見ていた。
斉藤がここでは攻撃しない(出来ない)事は判っていた。
だがそれでも、斉藤が近付く度に、足が勝手に一歩、二歩と後ずさりを始めてしまう。
斉藤は吉村とすれ違うと、ふと立ち止まり、振り返ってじっと吉村の顔を見た。
「今度会うときがお前との決着の時かな・・俺と会う前に死ぬなよ・・・」
斉藤一は寂しげな顔でそう呟くと、裏口へと駆け出して行く。
吉村は、ただじっと斉藤を見送る事しか出来なかった。
哀しい泣き声が、いつまでも響いていた。
[1日目午前1時:公園]
「新見……俺は、俺は、……」
公園の長椅子で、芹沢鴨は震えていた。
その震える手には、拳銃が握られている。
芹沢鴨は出発した直後、屯所近くの茂みに身を隠していた。
立入禁止エリアになるギリギリの時間まで、新見の近くに居たかったのだ。
一人、また一人と、参加者が道場を出て行く。
この場に留まっていられる時間が、どんどん少なくなって行く。
芹沢は怖かった。
屯所より先の世界に出ることが、たまらなく怖かった。
(殺される。誰かに会ったら、殺される。だから守らなくちゃな。この銃で、自分を守らないと……)
支給された銃を握って、芹沢はこの言葉を何度も何度も繰り返す。
その時だった。
「あ、芹沢先生じゃないですか!なにをなさっているんですか?」
芹沢は素早く反応する。
(見つかった!?)
芹沢は声のした方向へと向き直り、銃を構えると、引き金に力を込めた。
そこで初めて、声の主が野口健司である事を知る。
しかし、野口は芹沢に危害を加える素振りを見せなかった。
いつもの様に、にっこりしていた。
(――撃っちゃダメだ!)
芹沢は瞬時にそう思った。だが、引き金を引く指の動きは止まらなかった。
そして……
芹沢鴨は茂みから飛び出したあと、無我夢中で町内を走り回り、この公園へと辿り着いた。
だが、どんなに走り回って気持ちを紛らわせても、
野口に発砲した時の映像が、頭の中で何度も何度もリフレインする。
「新見……俺、人を殺しちゃったよ……どうしよう……」
もはや芹沢は、俯くことしか出来なくなっていた。
と、その時――
誰かがやって来て、芹沢に声を掛けた。
「大丈夫ですか!芹沢先生?」
声を掛けたのは、土方歳三だった。
「新見局長の事は、気の毒だったけど……まあ、元気、出しましょう」
土方はそう言うと、芹沢の隣に腰を降ろした。
「土方……」
芹沢は銃を構えなかった。構えられなかった。
野口の二の舞いは避けたかったし、
優しく接してくれる人に、銃は向けられなかった。
芹沢はそっと、銃を袋にしまい込んだ。
土方は、芹沢に話し掛ける。
「ひとつ、聞いていいですか?芹沢先生も「真の強者」になれたらいいなって思っています?」
芹沢の答えは、一つしか無かった。
「もちろんだ!俺は酒を飲めば怖いものは無いんだが、しらふの時はめっぽう弱くなってしまう
しらふでも最強でありたいと常日頃から思っているんだ」
芹沢はそう言ってから頬を赤らめる。
土方は目つきをきつくしながら、つぶやいた。
「フッ!でも芹沢さんは酒がないと、俺にも勝てないぜ・・」
(――え?)
意外な返答に芹沢は驚いた。
そして土方は、芹沢と目を合わせる事無く、淡々と話し続ける。
「松平容保様が、近藤さんと話しているのを、聞いたことがあります。
”芹沢ってほんとにどうしようもねいな”って、笑いながら話していましたよ」
あまりに痛烈な土方の言葉に、芹沢は言葉を失った。
(うそ……土方、何を言ってるんだ?嘘だろ!?)
カモ 乙女チックだな
「芹沢さんは、人に”鬼”って言って貰った事、ありますか?」
そう言うと、土方は自分の頭をパンパン叩き出した。
「俺は他の隊士に比べて、剣はいまいち、総司には歯も立たない
近藤さんや山南さん伊藤さん永倉や原田や斉藤や吉村にも立会いでは負けると思う
それでも俺の事”鬼”と言ってくれる人たちがいる……」
淡々と語る土方の姿に、芹沢は絶望した。
慰めてくれると思っていたのに、どうして……
しかし、土方の辛辣な言葉は止まらない。
「芹沢先生、あんたに期待している人たちなんていないんですよ。年だし!
このプログラムに勝ち残る意味なんて、無いんですよ……」
決定的な一言だった。
「土方……どうして、そんなひどいこと言うんだ!?」
芹沢は泣きながら訴えた。
だが、土方はそれを軽く受け流す。
「事実だからですよ。」
土方は芹沢の目をじっと見て、静かに微笑んだ。
口元が、すぅっ、と上にあがる。
「俺、決めたんですよ。本物の”鬼”になるって……」
その瞬間、芹沢は言い知れぬ恐怖感を覚えた。
体中の血の気が、一瞬にして引いて行くのを感じる。
「やめろぉおおおおおおおおーーーー!!」
芹沢の絶叫が、夜の公園に響く。
ザシュッ!
土方が隠し持っていたサバイバルナイフが、芹沢鴨の喉元を掻き切った。
血飛沫を上げながら、芹沢鴨の体が地面へと崩れ落ちて行く。
土方はナイフから滴り落ちる血を見つめながら、呟いた。
「芹沢さん、新見さんの所にいけたね…まあ仲良くやりな・・・」
「沖田先生……ここで、別れよう……」
東の空が明るくなり始めた頃、吉村貫一郎が呟いた。
俯きながら力無く歩いていた沖田が、顔を上げる。
藤堂平助が息を引き取った後、沖田はその場を動こうとしなかった。
平助が死んだなんて、信じられなかった。
しかし、退去命令のタイムリミットは刻々と迫って来る。
吉村は、藤堂平助の傍を離れたがらない沖田を何とか説き伏せ、屯所外へと連れ出した。
無駄に死人が増えるのだけは、嫌だったから。
「沖田先生……わし、分からないんです……」
吉村は目を伏せながら、話し始めた。
「沖田先生のこと、放っておけなくて、連れ出したけど……
でも本当は、迷ってるんです。プログラムに乗るべきなのか、抵抗するべきなのか……」
吉村の唇が、微かに震えはじめる。
「勿論、人殺しなんてしたくない。でも、誰かに殺されるのも嫌だ……
生き残る選択肢が一つしか無いのなら、それに乗るのも、仕方ないのかな、って……」
二人の周囲を、霧が覆いはじめた。
少し肌寒い空気の中、互いの目を見つめる二人。
沈黙の時間が、流れて行く。
何じゃこらりゃ
「沖田先生……あなたは、新撰組最強の剣士。」
沖田は一瞬返答に迷ったが、小さく、こくん、と頷いた。
「……そんな人が近くにいたら、俺、冷静に今を判断出来ないんです。
答えを出せないまま、感情に流されるまま……あなたを殺してしまうかもしれない。だから……」
そして吉村は、銃を構えた。
サイレンサーを装備したベレッタM1934コマーシャルが、沖田の顔に向けられる。
「だから、ここで別れましょう……わしの気が変わらないうちに、行ってください」
「吉村くん……」
沖田は動揺しつつも、吉村を諭そうと、言葉を続けようとした。
しかし次の瞬間、吉村の放った銃弾が、沖田の頬の数センチ先をかすめて行く。
沖田の髪が数本、空中に散った。
「お願いです、行ってけろ!俺は……藤堂さんの代わりには、なれないんだから……」
それを聞いて、沖田は言葉を続けられなかった。
(そうだ。独りになるのが、怖かったんだ……)
標準語の吉村w
沖田の脳裏に、プログラム開始時からの記憶が蘇る。
プログラムが始まってから、ずっと傍には平助がいた。
そして平助の存在が消えた瞬間、独りになるのが不安で、何も出来ない自分がいた。
吉村に付いて行ったのも、タイムリミットが怖かったからじゃない
無意識のうちに吉村に負担を掛けていた事に気付き、沖田は自分の不甲斐無さを嘆いた。
「わかった……辛い思いをさせてしまって、ごめん……」
沖田はそう言うと、スッ、と踵を返す。
「でも、出来るなら……」
吉村に背を向けながら、沖田は語り掛けた。
「人は殺さないでくれ。そして……決して希望は捨てないでくれ。お願いだから……」
それは吉村に対してだけでなく、自分自身にも言い聞かせる為の言葉だった。
「……努力いたします」
吉村貫一郎は消え入りそうな声で返事をする。
頭では解っていたが、それを実行出来る自信は、今の彼には無かった。
「それじゃ……元気でな」
その言葉を残し、沖田は霧の中へと駆け出して行く。
そして沖田の姿が見えなくなると同時に、吉村はその場に座り込んだ。
「何やってるんだろう、わし……自分から立ち去れば、それで済んだのに……」
銃を持った吉村の指先は、ずっと震えたままだった。
霧は益々、その深さを増して行った
[1日目午前6時前:公園]
朝霧の中、永倉新八は走っていた。
どんな非常時といえど、毎朝の走り込みを欠かす事は出来なかった。
いや、そうしなければ、落ち着かなかった。
誰かを殺すか、誰かに殺されるか……
嫌な選択肢しか残されていない現状を、忘れたかった。
(もっともっと体を鍛えて、剣を磨き、世のため人のために役立つよう努力しなくてはな)
永倉は出来る限り、プログラムの事を忘れようと懸命だった。
しかし公園に入った時、永倉は現実に引き戻される。
濃い霧の先に、誰かが立っている……
永倉は走るのを止め、警戒しつつ、霧中の人物に声を掛けた。
「誰だ?そこに居るのは……返事をしろ!」
そして数秒後、聞き慣れた声で返事が帰って来る。
「いい朝だな・・・永倉さん!」
斉藤一の声だ。
斉藤にとって心が許せる人物それが永倉新八
いつも一人で何を考えているかわからない斉藤にいつも声をかけてくれるのは
永倉新八と原田左之助・・
永倉にとっても腕も立つかわいい後輩、それが斉藤一であった。
斉藤一の声に安心した永倉は、警戒を解き、斉藤に近付いて行く。
「無事だったんだな、斉藤……怪我はしてないか?大丈夫か?」
「はい。一応、生き延びております」
普段通りの明るい声で、斉藤一は答えた。
(良かった……元気そうだ)
永倉は、この信頼できる後輩と再会出来る喜びを噛み締めていた。
たった数時間しか離れていないのに、数週間振りに会うような感覚。
緊張していた心を、ようやく落ち着ける事が出来る……そう思っていた。
だが、斉藤にあと2〜3メートルまで近付いたその時、永倉は自分の目を疑った。
霧の中から現れた斉藤一は、永倉に銃口を向けている。
「悪く思わないで下さい、永倉さん」
そうつぶやく斉藤の表情は、冷静だった。
「――どういうつもりだ!?斉藤……」
永倉は動揺を隠し切れない。
しかし、斉藤一はあくまで冷静に、言葉を続ける。
「動かないでください……弾が外れるから」
「本気……なのか?」
永倉は信じられなかった。
斉藤一が自分に銃を向けるなんて、嘘だ。こんなの嘘だ……
しかし、斉藤は銃を下ろさない。
「ああ本気だ。貴方は私の大好きな人だからこそ、俺は貴方を撃つ……」
「どういう事だよ、それは――」
と、永倉が言いかけた所で、何処からとも無く大音量で音楽が流れて来た。
大河、新撰組のテーマだ!
そしてそれに続いて、松平容保の声が聴こえて来る。
「励んでいるか!朝6時になった。それではこれより、
現在までに脱落した参加者の名前を発表しよう。よく聞いておくようにな」
それは、6時間毎に流される定例放送だった。
二人は動きを止めたまま、その放送に聞き入る。
「これまでに脱落したのは、平間重助、野口健司。
藤堂平助。そして、芹沢鴨……以上4名だ。
意外とペースが早い。3日もしないうちに終了するかもしれないな。
お前ら、励め。また6時間後に会おう。」
大河、新撰組のテーマが、フェードアウトしてゆく。
そして永倉は、その放送内容に愕然とした。
「もう……もう4人も死んだっていうのか!?」
「そうです。そして、藤堂を殺したのは、俺だ……」
斉藤一のその言葉が、永倉の心に更に傷を刻む。
「う、嘘だろ?斉藤……」
「本当だ。もう殺し合いは避けられない。
貴方もいつ、誰に殺されるかわからない…
……貴方が他の誰かに無惨に殺されるのは、嫌なんだよ。
だから、後輩として、俺は貴方を楽に死なせる義務がある……」
斉藤の言葉に同意出来る筈はなかった。
しかし、銃口は自分に向けられている。
このまま死ぬのは嫌だ……永倉はそう思った。
永倉はフッ、と溜め息をつくと、挑戦的な目つきで斉藤一を見て、言った。
「……で、俺の都合はお構いなし、ってわけか?」
「そりゃあ斉藤一が俺を殺してくれるなら、少しはドラマチックかもしれない。
でもな……俺だって、死にたくないんだ。それに……」
永倉はそう言うと、背中の袋から日本刀を抜いた。
(このゲームで武器が日本刀を支給されるとは思わなかったけどな・・)
「どうせなら、正々堂々と勝負しようじゃないか。
いきなり銃を構えて現れるなんて、ずるいぜ……」
永倉新八の目に、迷いは無かった。
(ただ黙って殺されるくらいなら、俺は闘う事を選ぶ。
たとえ相手が、斉藤一であろうとも……後悔はしない!)
斉藤一は、そんな永倉の姿を見て、微笑んだ。
「……永倉さんらしい答えだな。よーし、じゃ、始めようか!」
永倉は汗ばむ両手を気にしながら、刀を構え直す。
「やるからには、全力でいくからな……」
「もちろんだ。永倉さん!行くぞ!・・・」
パンッ、パンッ、パンッ。
銃声が、公園の鳩の群れを飛ばした。
山南敬助が、驚いて空を見上げる。
銃声は、断続的に鳴り響いていた。
「また、誰かが戦ってる……どうすればいいんだ?なあ、芹沢先生……」
山南はそう呟きながら、芹沢鴨の遺体の血を拭っていた。
通りがかりに偶然見つけた芹沢鴨の体を、そのまま放置しておく事が出来なかった。
地面から公園の長椅子へとその体を移し、丁寧に両手を組ませる。
首の傷口さえ見なければ、それは本当に眠っているようにも見えた。
山南は、離れ離れになった親友の事を思う。
「島田……大丈夫かな?それに、土方さんも……
早く土方さんと合流出来れば、良いんだけどな……」
芹沢鴨殺しの張本人が土方歳三である事を、山南敬助は知る由もなかった。
ふーん!続きは?
68 :
名乗る程の者ではござらん:04/07/01 01:56 ID:SAy4Zvc4
一人の人が全部書いてるの?
すごいタイピングの練習だね。
ヌッツォ登場ワロタ
あと、もうちょっと口調をそれらしくしてくれ
やばい糞スレだというのに期待してる自分がいる
とりあえぜスレストまでしっかりやってくれ
BRに藤原竜也と山本太郎が出てたなという
誰でも思い浮かべた安直な発想だな。
じゃあ誰かオダギリと堺が出てたという安直な発想で
新選組版「嫉妬の香り」を書いてくれないか
age
板違いって言ったろ!
削除依頼だしてこい!
あの、すみません・・・面白いんですけど・・・。
ベイのが好きだけど続きお願いします。
「やはり、無茶であったかな……」
木陰で、永倉がつぶやいた。
戦闘開始の合図とともに、永倉は並木道の方向へとダッシュした。
銃が相手では、日本刀といえど勝ち目は無い。
しかし、この濃霧を味方に付ければ、まだ勝算はある。
斉藤の放つ銃弾を辛うじて避けながら、永倉は街路樹の陰で機会を窺っていた。
霧の中から、斉藤の影が近付いて来る。
こちらから打って出るには、弾切れの瞬間を待つしかない。
危険な賭けだ。
だが、それしか手段は思い浮かばない。
永倉は意を決して、木陰から飛び出した。
「さあ、当ててみろ!」
斉藤が少しぼやけて見える位置で、永倉は叫んだ。
多少距離があるとはいっても、充分射程距離内だ。
斉藤は永倉に向け、数発連射する。
しかし、霧で視界が悪いのに加え、永倉はあっという間に別の木陰へと移動してしまう。
「永倉さん!正々堂々と闘うんだろ?コソコソ隠れて鬼ごっこだなんて、貴方らしくないぞ!」
少し不機嫌そうな口調で、斉藤が呼び掛ける。
しかし、永倉は動じない。
「正面で一騎打ちをする事が、全てではないぞ。
武器の性能差を考えた上で、最良な戦法だと思うけどな……」
永倉はそう言うと、斉藤との距離を確認しつつ、もう一度、木陰から飛び出した。
(そろそろ弾が切れてもいい頃だ。機会を逃すな!)
自分にそう言い聞かせ、永倉は数本先の並木へと駆け抜ける。
しかし、回避出来ると思っていた弾の一発が、永倉の左肩を捉えた。
「くっ!!」
どうにか木陰には辿り着いたものの、かつて経験した事の無い痛みが、全身を襲う。
左手が流血で染まり、握力がみるみる落ちて行く。
永倉は肩口を手拭いでギュッと縛り、一応の止血を施した。
しかし、血は止まりそうに無い。
「そろそろ……勝負時だな……」
斉藤一の足音が近付いて来る。
もはや、弾切れを待っている余裕など無い。
ほんの一瞬でいい。斉藤の動きを封じる事さえ出来れば……永倉は思考を巡らせる。
そして、永倉は背中の袋を下ろした。
陰からそっと顔を出し、斉藤との距離を測る。
(――届く!)
永倉は心の中でそう叫ぶと、袋を斉藤の真正面へ向けて投げつけた。
斉藤の目線に、突然、袋が飛び込んで来る。
反射的に銃を構え、斉藤はその袋に銃弾を撃ち込んでゆく。
空中で袋が二度、三度と踊った。
そして、踊り疲れた袋が引力に引かれ始めたその瞬間――
袋が作った死角から、永倉が一気に飛び込んで来る。
袋に気を取られていた斉藤は、予想外の進撃に反応出来ない。
永倉は低位置から斉藤の懐に入り込むと、刃を180度返し、
渾身の力を込めてそれを拳銃に叩き込んだ。
「どぉりゃあああああっ!!!」
ガキィィィン!!
金属音と共に、斉藤の拳銃が宙を舞い、繁みの中へと落ちて行く。
激痛に近い手の痺れに、斉藤は思わず顔を歪めた。
(2度も……2度も銃を弾かれた……)
そんな自戒の言葉が、斉藤の脳裏をかすめる。
だが、状況はそんな反省の時間も与えてはくれない。
永倉は間髪を入れず、斉藤に斬りかかって来る。
斉藤は辛うじて、永倉の斬撃を避け続けた。
しかし超速の刃は、斉藤の頬や服を、何度も薄く切り裂いてゆく。
そして、路上の小石が斉藤の足元をすくった。
(嘘だろ!?ここで、もう終わりなのか?……)
自分の体が宙を舞った瞬間、斉藤は自分の周囲がスローモーションになってゆくのを感じた。
そして、尻餅をついて倒れた斉藤一の顔面に、鋭い切っ先が突き付けられる。
永倉新八は、真剣な眼差しで呟いた。
「さあ、これで終わりだ」
永倉新八の勝ちは明白だった。
だが、永倉はなかなかとどめを刺そうとしない。
「どうしたんだ……どうして殺さないんだ?」
斉藤一が尋ねる。
「どうしてかな……覚悟を決めた筈なのに、まだ、恐れているのかもしれない……」
さっきまで冷徹だった永倉の顔に、苦笑いが漏れる。
「……永倉さん、ひとつ聞いていいか?」
「何だ?」
「あの時、どうして逆刃で銃を叩いたんだ?右手ごと切り落とした方が、簡単なのに……」
斉藤は不満だった。
全力で闘うと言われながら、手を抜かれた……それが納得出来なかった。
「ああ、あれか……斉藤一の今後を考えたら、腕は斬れんよ――」
斉藤には、永倉の言葉が理解出来ない。
(どうしてだ?もうすぐ死ぬ人間に、どうして今後の心配なんてするんだ、永倉さん……)
「――それは・・・・お前の腕を斬ってしまったら
お前の好きな「木彫り」が天国で出来なくなってしまうだろ・・・それゆえ・・・・」
木彫り 爆笑!
>>72 そ、それは嫌だよ…
ひとつ屋根の下ならおけ…ってあんちゃんは新選組ではないな…
あげよう
,.――――-、
ヽ / ̄ ̄ ̄`ヽ、
| | (・)。(・)|
| |@_,.--、_,> クソスレ上げんなヴォケ
>>83 ヽヽ___ノ
完全体と化した斎藤一が生き残った。
空を見上げ、嗚咽をもらす斎藤。
斎藤「バロウ…」
−−−−
喫茶店
アイドル崩れ「一さん今ごろどうしてるんだろ…」
きたろう「なぁに、あいつなら大丈夫さ」
−−−−
読売新聞記者の手引きでキューバに行き、海岸でガキと遊んでいる斎藤一。
〜 雲になる 〜
−−−− 完 −−−−
この後どうすんだよ
永倉新八のその言葉が、斉藤一の胸を締め付ける。
「永倉さん……貴方は馬鹿だ。大馬鹿だよ……」
斉藤一のほほが、涙でぬれる。
「そんな……余計な心配しなければ……死なずにすんだのに!」
斉藤は左手で刀を払いのけると、右手で裾から何かを取り出し、永倉に押し当てた。
途端、永倉の全身に凄まじい衝撃が走る。
刀が手から離れ、立っていられない程の脱力感が、全身を襲う。
「そうか、電気、か……」
意識が朦朧とする中、永倉は斉藤の右手に握られた武器を見た。
それは、本来野口健司に支給された筈のスタンガンだった。
斉藤はもう一度、永倉に電撃を仕掛ける。
火花を散らす電流を見ながら、永倉は、いつかの夏の日を想い出していた。
「電気……雷……あの日……」
それは、土方歳三と原田左之助と一緒に海に行った日のことだった。
左之助と沖の島まで二人で泳ぎ、いざ帰ろうとした時に、雷雨に見舞われた。
雷が大嫌いな永倉は、怖さのあまり、思わず左之助に抱きついてしまう。
(今思うと、かなり恥ずかしいな……でも、楽しかった……)
永倉が楽しい記憶に浸っていたのは、ほんの数十秒間だった。
そして再び気付いた時、永倉の眼前には、刀の切っ先と、それを構える斉藤の姿があった。
「形勢逆転だな、永倉さん……」
「ああ、そうみたいだな……」
村上は微笑んだ。そして次の瞬間、意外な言葉を口にした。
「なあ、斉藤……このまま、とどめを刺してくれないか?」
斉藤の手が、一瞬、震える。
「え?な、何言ってるんですか。私はそのつもりで、こうしているんじゃないか……今更、何を……」
「……そうだよな。殺し合い、だもんな」
「でも、どうしてですか……さっきは『俺だって、死にたくない』って言ってたじゃないですか……」
斉藤の問いに、永倉は淡々と答える。
「……もうこれ以上、この振る舞いを続けたくないんだ」
「振る舞い?」
「そう。俺は今まで『新撰組の特攻隊長』とか『鬼の2番組組長』とか、色々と言われ続けてきた。
良い意味でも、悪い意味でも……露骨に嫌う人も、多かった。
新撰組のキャラって言えば、それまでだけど……偏見に満ちた目で俺を見る人は、
結構多かったんだ。 斉藤は知っているよな……俺の本当の性格……
もし万一、このプログラムで生き残ったとして……
やっぱり、俺を『人殺し』って言う人は、他の隊士より多いと思う。そういうキャラだからね。
だから……頼む」
斉藤は動揺していた。
永倉を殺す事が、自分の役目だと信じていた。
そして永倉本人も、それを希望している。
躊躇する理由など無い筈なのに、踏み出せない自分がそこに居る。
野口健司を撃つ事は出来たのに、どうして永倉は殺せないのか?……
「斉藤……怖いんだろ・・・それは、銃と刃物の違いだな。
銃は所詮、弾の反動しか手元に返ってこない。でも刃物は違う。
相手の感触が直に伝わるから、命を奪う感覚が直に伝わるから……怖いんだ。それを解って欲しいんだ。って言ってもお前には十分わかっているか・・・
斉藤、俺の分まで生き残れ……さあ、やれ・・」
永倉はそう言うと、刀の切っ先を自分の喉元に当てた。
斉藤は俯き、大粒の涙をこぼす。
「……それでは、ごめん、永倉さん……」
そして斉藤は、刀を握る手に力を込めた。
野口の時には感じなかった嫌な感覚が、掌に伝わって来る。
路上に拡がる血溜まりを見ながら、斉藤は泣き崩れるのを
なんとか堪えていた。
近藤勇は行きつけの飲み屋にいた。
人相は悪いが気のいいおやじが一人でやっている小さな店だった。
頻繁に通ったわけではないが独りで飲みたい時は決まってここに来て
夜通しおやじと話した。思えば迷ったときが多かっただろうか。
今回もそうだ。近藤勇は迷っていた。
隊士達と殺し合うべきか助け合うべきか、そんな事ではない。
―――自ら命を絶とうか迷っていた。
まぶたの裏に焼き付いて離れないシーンがその思いを強くさせた。
芹沢が野口を撃った場面だ。
あの時近藤は野口に声をかけようとしていた。協力して殺人ゲームを乗り切ろうとしていた。
だが一発の銃声でそんな考えは打ち砕かれた。
倒れた野口を助けることも走り去る芹沢を追いかけることも出来ず
近藤はただがむしゃらにその場から逃げ出し、気付いたときには飲み屋の前にいた。
当然扉は閉まっていたため、道路に面した窓を割り中に入った。
誰もいない店内はひどく広く感じたが、なんとも言えない懐かしさに包まれた時
彼は袋から「毒薬」と書かれた張り紙のついた瓶を取り出し手近の席についた。
松平容保の直筆らしいその張り紙には小さく「自殺なんてしてはいかんぞ。励め!」
とも書かれてあった。
「…何が励めだよ……」
そうつぶやきながら近藤の顔には少し笑みすら浮かんでいた。
ただ、その笑みは乾いていた。
養子家庭に育った近藤は本当の両親のいない子供の寂しさを悲しみを良く知っている。
だがそれ以上に人を殺してまで生きるのが自分にとっても家族にとっても嫌だった。
例えそれがこのゲームを強制した松平容保だとしても…
そんな思いが近藤に飲み屋のおやじを求めさせたのだろう。
しかし目に見えないおやじは何の福音ももたらしてはくれなかった。
橋本は毒薬を適当に入れた湯呑みによく飲んでいた酒を静かに注いだ。
瞬く間に毒薬が溶け出し西洋の豆の香りがする。青酸系の毒のようだ。
そして意を決し湯呑みを口に近づけた瞬間、怒号のような大声が狭い店内に響き渡った。
「新八殺ったのはてめぇか!!!?」
怒号の主は原田左之助だった。
このゲームの性質を考えれば無意味に大声など立てるものではない。
自分の居場所を知らせることは何か目的の無い限り自殺行為にしか成り得ない。
しかし原田左之助からはそんな配慮は微塵も感じられなかった。
今右手にモップの柄、左手には支給された物であろう機動隊の持つような
ジュラルミンの盾を持っているとは言え、近藤の前に仁王立ちで立ちはだかっている事からも
配慮の無さを感じさせた。左之助らしいと言えば左之助らしいのだが。
そして今、戦場で敵と対峙した時以上の殺気を放ち半狂乱状態で近藤を睨みつけている。
「お前が永倉を殺ったのかっつってんだ!!!!」
言うのが早いか左之助は躊躇無くモップの柄を振り下ろした。
咄嗟に飛び退いた椅子に柄の先のT字の金具がぶつかると、金具はぐにゃりと曲がった。
近藤は驚いていた。急に原田が現れた事よりも永倉を殺したと思われている事に。
(冗談じゃない!被りたくない濡れ衣まで被せられては死ぬにも死ねない。)
「ま、待て左之助!私ではない!!」
「じゃあ誰が…やったんだよ!!!?」
聞く耳も殆ど持たない風に、左之助は叫びながらモップの柄を横薙ぎに振り回した。
激しく壁に叩き付けられたT字の金具は柄から弾け飛び、
カウンターを飛び越え大きな音を立てて流しに飛び込んだ。
何とか原田を説得しようとするが言葉が思い浮かばない。視線を巡らせた近藤は苦し紛れに言った。
「見ろ!私の武器はそこの毒薬だ。簡単に殺せるわけ無いだろうに!」
あまりにも意味の通らない言い訳だった。
(駄目だ…)
近藤は半ば諦め気味に覚悟を決めた。このまま殺されようと。
(どうせ死ぬつもりだったし…)
心の中で今静かに家族に別れを告げた。
しかし意外にも原田に反応があった。うつむき気味に何かブツブツとつぶやいているのだ。
「…そういやあの辺は血だらけだったしな……新八の肩に鉄砲の傷あったし…」
意図せぬことではあったが説得は成功したようだった。
近藤勇は内心ホッとしていた。
そして自殺しようとした、また殺される覚悟を決めた筈の
さっきの自分との心境のギャップになんとも言えず苦笑いを浮かべていた。
近藤勇は落ち着いた原田左之助から永倉の遺体の状態などについて聞いた。
長いすの影に座り、酒をあおる原田左之助の大きな身体は小刻みに震えていた。
(信頼してた松平様に裏切られ親友の永倉の死体まで見たんじゃ無理もないな)
だがそんな近藤の考えを裏切るように原田左之助は重くしっかりとした声で言った。
「オレ許さないよ…新八殺した奴も、松平様も!」
原田左之助の目に恐怖心は微塵も感じられなかった。その瞳には純然たる怒りの光だけが灯って見えた。
「近藤さん。一緒にやりましょうよ!こんなもんブッ潰しましょうよ!!」
その目を見た近藤に何か後ろめたいような気持ちが去来する。
がむしゃらに出世を目指し稽古に明け暮れていた、
前だけを見つめていたあの頃の自分に心の中を覗き見られた気分だった。
「い、いや…私は人を殺すなんて……嫌…なんだ…」
耐え切れず目線を逸らし、なんとかそれだけつぶやいた。
途端に原田は感情を昂ぶらせ近藤に掴み掛かった。
「何言ってんすか!?近藤さんだって家族いるんでしょう!!このまま死んでいいんすか!!?
新八なんてまだ結婚すらしていなかったのに…」
思えば涙に目を潤ませた原田左之助など初めてだった。
そして感情が真っ直ぐな分その台詞が深く心に突き刺さった。
そして近藤勇は決意した。もう少しだけ戦ってみようと。
人とではなく、この辛い状況から逃れるために家族すらも捨ててしまおうとした自分の弱さと。
殺したくは無い。そしてそう思っている者は多い筈だ。だからこそなんとか出来るかも知れない。
既に何人も死んでしまっている現状を鑑みればあまりに甘い考えだとわかっていたが、
そう考えることだけが現状を脱する唯一の望みだということもわかっていた。
表情の変化から近藤の決意を汲み取った原田は小さく頷いた。
その時原田の背後から二人のものではない声が響いた。
「仲がいいってことは良いことですね。」
そこには伊東甲子太郎がいた。
調理場から身を乗り出したボウガンと共に。
静寂が続いていた。
伊藤が二人に声をかけてから何分経っただろう。
一言も喋らずただニヤニヤ笑みを浮かべながら二人にボウガンをちらつかせている。
まるで二人の生殺与奪権を自分が持っているという事を殊更に強調するかのように。
そして無言のまま二人を店の奥の壁際に追いやり、
自分は調理場を乗り越えて二人が元いた辺りに位置取っていた。
近藤勇は数分間の静寂の間ひたすらに自分の思慮の足りなさを反省していた。
どうして伊藤の侵入に気付けなかったのか、どうして誤解の解けた原田左之助とすぐに
ここを離れなかったのか、どうして軽々しく自殺などしようとしたのか、どうして…
最近癖になってしまったネガティヴな思考の所為だと自分では気付いていなかった。
そしてその癖が今この瞬間も自分の邪魔をしていることにも。
近藤が思考停止の状態に陥っている時、原田左之助はこの上なく苛々していた。
伊藤の態度は彼の神経を充分に逆撫でしていたが、それ以上に近藤の態度が不満だった。
顔は伊藤の方を向いているが目の焦点は明らかに合っていない。
そのせいで近藤に意思を伝えることが出来ずにいたからだ。
(呆けてる場合じゃ無ぇだろう!アンタが気付けば何とか出来るのに!!)
近藤と正反対に現状の打破のみを考えていた原田左之助は伊藤の弱点に気付いていた。
ボウガンは連射できない。
つまり二人同時にかかれば少なくとも一人、伊藤が瞬時に標的を絞れなければ
上手く行けば二人とも無事で済む。そう考えると今の原田左之助に苛立つのも仕方なかった。
そして原田左之助の苛立ちが頂点に達しようかという時、
夕方6時を告げる忌々しい放送が流れ出した。
「励んでいるか!皆のもの!」
いつもの返事を必要としない呼びかけが街中に響き渡る。
「励め。一番励んでいるやつが生き残るんだぞ!」
ではこの6時間の脱落者を発表する。永倉新八!坂本竜馬!平山五郎!殿内義雄ーッ!
えー以上4名です。みんななかなかルールを理解してくれているようで非常に嬉しい。
では『真の強者』を目指して皆頑張るように。励め!」
放送によって幾分冷静さを取り戻した近藤は原田と視線が合った。何かを訴えているようだった。
程無く原田が今にも伊藤に襲い掛かろうと考えていることに気付いた。
(馬鹿な!一体どういうつもりだ…)
そこまで考えて原田と同じくボウガンの弱点を発見した。
が、どうにも釈然としないものがあった。
それが何なのかわからない内に原田は行動を起こそうとしていた
カラスの鳴き声が聞こえ伊藤の目線がわずかに二人から離れた瞬間
原田が動き出した。近藤もそれに追従せざるを得ず伊藤に飛び掛かった。
原田左之助の拳は確実に伊藤の顔面を捉えた。
吹っ飛ばされた伊藤は調理場で後頭部を強かに打ち、ぐったりしている。
原田左之助の左腿にわずかに痛みが走った。
ボウガンで打たれた傷だが幸い少し肉をもっていかれた程度で済んだようだ。
そんなことより原田には心配すべきことがあった。
原田は素早く二つの凶器を適当に調理場の向こうに放り投げ近藤勇の元に駆け寄った。
近藤勇は腹部から多量の血液を流していた。銃で撃たれたのだ。
近藤を撃ったのは伊藤が袖に隠し持っていた小型の銃デリンジャーだった。
近藤勇は腹に今まで味わった事の無い激痛を感じながら
さっきからの違和感の正体について理解した。
(伊藤の不自然な沈黙は焦れたオレ達に襲いかからせ同時に殺すためのものだったんだ…
あの時距離を取ろうと後ずさった伊藤が足元に落ちていたひょうたんで
バランスを崩さなければ、おそらく二人とも死んでいただろうな……)
近藤勇の考えは当たっていた。
一応、事は伊藤の予定通りに進んだが、ひょうたんに
文字通り足元をすくわれてしまう結果となってしまった訳である。
ちなみにデリンジャーは先程の放送で脱落者に挙げられた殿内義雄の物であった。
原田左之助はとりあえず飲み屋に備え付けられていた救急箱で近藤勇に応急処置を施した。
いくら新撰組隊士といえども腹部を銃で撃たれた時の急所などわかる筈も無い。
とりあえず横っ腹の傷で銃弾が貫通していたのが原田の気休めにはなった。
続けて近藤の傷口を冷やそうと流しに向かった時、原田左之助の身体が凍りついた。
伊藤が本来寝転んでいるべき場所にいないのだ。
煙のように消えたのでなければ、伊藤が今いる場所は調理場の向こうか
外に逃げ出したかだ。だが外に出たのならば玄関からにせよ窓からにせよ
気付かないと言うことはまずあるまい。
そして最悪なことに武器は二つとも調理場の外にある。
しかもどの方向に放り投げたのかも覚えていない。
伊藤は次の瞬間にでもに襲ってくるであろう。
左之助が足音を立てぬよう姿勢を低くし摺り足で後ずさったその時、
調理場からボウガンを構えた伊藤が顔を出した。
この戦いで原田左之助はとても幸運だったと言えるのかも知れない。
まず床にひょうたんが転がっていた事。
そして今伊藤が原田の真正面に現れた事。
何より伊藤が勘違いして近藤に襲い掛かった事!
原田は伊藤がボウガンを放つよりも早く手裏剣でも投げるかのように
さっき流しで拾ったモップの柄の先、金属でできたT字形の部分を全力で投げつけた。
柄の先は、原田に殴り飛ばされ未だに意識が朦朧としていた伊藤の顔面の芯を
完全に捕らえた。
T字の片方の先端がが伊藤の右眼にめり込んだ。
もう二度と右眼を使うことは出来ないだろう。
予想だにしなかった衝撃に伊藤は自らの放ったボウガンの矢の行方を
確認する事も出来ずに、閉じられていた飲み屋の玄関の鍵を開け外へと飛び出した。
右手で目をおさえ左手にボウガンを持ったまま伊藤は路地の奥へと消えて行った。
定まらない意識の中で呪詛の言葉をつぶやきながら…