337 :
ミステリ板住人:
仕置人第9話「利用する奴される奴」の津川もイイ。
あの厭らしさ、情無さ最高だ。
前にも書いたが、橋掛人の津川は印象薄い。
仕掛人や仕置人に悪役で出た時の感じで殺し屋をやれば面白かったと
思うのだが。
338 :
ミステリ板住人:03/05/04 10:25 ID:k8RRz6fa
「おんなごろし」に関する比較論
梅安の上半身と両手が、まるで別人のようなす早さでうごいた。
左手で畳の上のぬれ半紙をはらりとつまみあげ、
これを、おみのの寝顔へかぶせたときには、早くも右手がうごいて、掛蒲団を
おみのの腹あたりまでめくり、同時にその右手は、くわえていた殺し針をつまみ
取っている。
ぬれ半紙を顔に貼りつけられ、おみのがはっと目ざめたとき、梅安の親指がぐいと、
殺し針をおみのの心ノ蔵へ埋めこんでいた。
おみのが、ぴくぴくっとした。それきりであった。
声も叫びもなく、即死した。
(中略)
廊下へ出てから藤枝梅安は、微かに舌打ちを鳴らした。
読書習慣が無い人にもおわかりかと思う。梅安が今や毒婦と化した実妹を殺害する
シーンである。
前述したとおり、田宮ニ郎主演の映画版では、あたかも現実の殺害現場に立ち会って
いるかの如くビビッドに映像化されていた。(映画では同床していた情夫も殺害)
テレビシリーズでは、いくらかソフトな描写だった記憶があるが、おみの役は
映画では野際陽子、テレビでは岩下志麻という今も活躍する女優が、妖艶な魅力を
ふりまき好演している。
339 :
ミステリ板住人:03/05/04 10:25 ID:k8RRz6fa
テレビシリーズと原作の大きな相違点は、原作では仕掛後に、
料亭「井筒」で彦次郎と一献傾けながら、梅安が、仕掛の相手おみのが実妹であった
ことを語るという展開である。
テレビでは、梅安は事前に千蔵にこの事実を語っている。
原作及びその物語展開を忠実に再現した映像化作品は、最後に意外な事実が明らかに
なるというミステリ的な興趣に富む。
テレビシリーズ版では、あえて、いわゆるネタバレをすることにより、
原作とは異なる興趣を狙ったと言える。殺しのシーンで視聴者は、
おみのが梅安の実妹であることを既に知っているわけであるから、
肉親殺しというギリシア古典劇のような悲劇性を帯びた痛切なドラマを目にするわけ
である。
妹殺害後の展開もテレビシリーズは異なる。
原作とは人物配置が異なるため、梅安には、彦次郎のような心の内を明かせる同じ
独り者の壮年の殺し屋仲間はいない。
仕掛の後、江戸の繁華街をひとりぶらつく梅安、顔に浮べた笑みの陰にやるせなさと
孤独がかいま見えるようだ。
他にも物語展開が大きく異なる点はある。
蔓の羽沢の嘉兵衛の手落ちにより、罪も無い女(「万七」前の内儀おしず)を殺して
しまった梅安。
テレビでは、いかにも悪人面の嘉兵衛に食ってかかり、
音羽屋半右衛門(原作には登場しない)に呼び捨てでたしなめられる梅安だが、
原作の梅安は、もっとオトナだ。
再度、嘉兵衛からの仕掛けを引き受けるのと引き換えに、おしず殺しの「起り」の
名前を聞き出す梅安。
仕掛の相手は、れっきとした二本差し、仕掛料は百五十両。
これは、また別の話ってことで。