時は戦国時代のころ。
八雲の湖と呼ばれる美しい湖の岸に『名越一族』と、
その本家筋にあたる『千草一族』が平和な日々を送っていた。
湖の中央にある「神ノ島」には、一族の守護神である武神像がまつられていた。
そんなある日、千草城城主・千草十郎は、嫁である名越の娘早百合と共に
祖先の法要をいとなんでいた。
そして、領内の平和を祈る為に神ノ島に行くと、
武神像の顔が真っ赤になっていたのだった。
それは紛れも無い、事変の前兆であった。
身勝手で、悪政を欲しいままにしている隣国の領主・チンカス前戯が
千草領に攻め込んで来た。
千草十郎時貞はなんとか逃げのびたが、利家は早百合の父・名越兵衛を殺し、
兄の名越勝茂を人質として連れ去ってしまった。
さらに前戯は、こともあろうに武神像をも粉々に粉砕し湖に投げ捨ててしまう。
その時である、湖の水は真紅に染まると共に、すざましい雷鳴が響き渡った。
一方、傷ついていた千草十郎は、早百合の手厚い看護で、
身体・体力共々回復していった。
そして、脱獄した勝茂と共に、チンカス前戯を討つべくスキをうかがっていた。
しかし、チンカス前戯の罠にかかって、早百合ともども、捕われてしまった。
チンカス前戯は、千草の領民が大切にしている鐘をも湖に沈め、
千草十郎や早百合を火あぶりの刑に処そうとした。
やがて、薪に火が点けられた。千草十郎時貞たちの命は風前の灯となった。
早百合は、そんな時にも、必死となって神に祈っていた。
早百合の祈りが通じたのだろうかか、突然、大地を揺がし、
怒り狂った大魔神が現われた。
そして、逃げまどうチンカス前戯方の兵を踏み潰し、
危ういところで千草十郎と早百合を助けたのだった。
チンカス前戯は大魔神によって滅ぼされ、その像は、一瞬の間に、
水滴となって湖に消えていった。
そして湖底から、静かな鐘の音が響いてきた。十郎と早百合は、
長い間その音に聞き入るのであった。