【名作】必殺からくり人【名作】

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395ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2
昨日でテレ東「必殺からくり人血風編」が終了しました。
一部DAT落ちしたこともあり、必殺総合スレに連載した僕の同番組に
関する論考(部分的に修整あり)を、このスレにまとめておきましょう。
御愛読のほどお願い致します。
396ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2 :04/07/10 11:43 ID:C8s2s5Hg
「必殺からくり人血風編」第1話「魔窟に潜む紅い風」を見た。
前作「必殺からくり人」終盤と同じく稗史ネタである。
直次郎役は初稿どおり林隆三の方が良かったかと思う。
(意図的な仕事屋稼業のキャスティング再現)
すると、直次郎のおりくに対する思慕がマザコン気味という設定も生きて来る。
見れば誰でもわかるとおり、直次郎の殺し技は念仏の鉄、新之助の殺し技は藤枝梅安の
パロディかつオマージュになっているため、林氏の起用により狙った構図が巧く決まって
来るのだが。
番組冒頭に金を理由に道中手形の手配をすげなく断る白浜屋おりく、
仕事屋の嶋屋おせいなら事情を聞いたうえ引き受けてしまうところであろう。
この辺の同じ役者による異なるキャラ設定の見せ方は見事だ。

必殺からくり人血風編第2話「非道にたてつく紅い刃」を見た。
今も活躍する浅香光代嬢の力演(女郎役)に尽きるかのような一編。
言い換えればそれしか見所が無い作とも言える。
間諜でもあるという土左の二面性と必殺技(銃撃)が明らかになる回であり、
落語「品川心中」ネタ等もあってそれなりに工夫されているが、
工藤栄一監督作品にしては演出のテンポが悪く、見ていてだれる部分がある。
397ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2 :04/07/10 11:44 ID:C8s2s5Hg
必殺からくり人血風編第3話「怒りが火を吹く紅い銃口」を見た。
いよいよこの回あたりから土左の間諜としての顔がクローズアップされて来る。
しかし、内容は神代辰巳脚本・工藤栄一監督作品という映画並み(というか映画以上か)
のコンビにしては、緊迫感も無く、不自然過ぎる展開が目立つ駄作である。
工藤作品の魅力である陰翳を強調した演出が抑え気味なのも寂しいものがある。
そもそも武士相手の集団闘争には、中村主水がいないからくり人血風編チームは
不向きである。今日の仕事も土左の飛び道具によるアシストが無ければ成功の確率は
皆無に近い。仕事にゴーサインを出したリーダーであるおりくの神経が疑われるほどだ。
これは「ホン」の責めに帰すべき点であろうかと思う。
芥川隆行のナレーションは「木枯し紋次郎」や「必殺仕置人」等と比較して、
軽快なタッチである。これは史実が絡んで来るため、作品の雰囲気が
重苦しくなり過ぎないようにという演出上の配慮だろうか。
この設定で普通に撮れば、番組全体の雰囲気は仕置人の「罪も憎んで人憎む」
のような作になったかと思う。
しかし、総合スレ、からくり人スレ、実況スレ等のすべてのスレで、
血風編に関しては盛り上がっていないのは残念だ。
オンエアが夏休みだったらと惜しまれる。
必殺からくり人血風編第4話「大奥の天下に挑む紅い声」を見た。
この回あたりから本格的に新之介やおいねの味が出て来るが、
物語そのものは、時代劇でおなじみの他愛無いお世継ぎ騒動に
捨て子ネタを絡めたものに過ぎず面白くはない。
土左の殺しも刃物に戻っておりこの辺も一貫性が無いように見える。
個性的なキャラ群像を楽しむべきものなのであろう。
官軍近づく江戸品川の宿という舞台設定のわりには、全編を通して緊迫感を欠く点が
批判されることが多い血風編だが、今日のナレーションどおりであれば、
この点は史実に忠実ということか。
398ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2 :04/07/10 11:45 ID:C8s2s5Hg
必殺からくり人血風編第5話「死を走る兄弟の熱い情念」を見た。
またしてもミスキャスト神代氏の「ホン」である。
物語は、あり勝ちな「おカミさんの過去ねた」、時代に翻弄された男女の生き様
とでも称せばカッコ良過ぎるか。
新撰組でおなじみ江戸へ戻った清川八郎グループの一員の末路の物語でもある。
お約束の殺しは無く、これでどこまで面白く見せることができるかというチャレンジ
ではあるのだが、成功していない。
ラストの兄弟の「死」を暗示したストップ・モーションもわざとらしさが目立つ感
がある。
霧雨や春雪を撮ったキャメラワークは冴え、美しく魅せるものがある。
だがそれだけである。

必殺からくり人血風編第6話「悲恋を葬る紅い涙」を見た。
からくり人チームは脇、高価な簪を巡るタイコ持ちと芸者の悲話といった趣。
安部公房も書いている榎本共和国ネタも絡むが、今日もさほど面白い話ではない。
池畑氏のスケジュールの関係だろうが、
物語前半には登場して調査に携わる新之介が殺しに参加しないのも展開と
しては不自然な感がある。
399ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2 :04/07/10 11:46 ID:C8s2s5Hg
必殺からくり人血風編第7話「恨みに掉さす紅い精霊舟」を見た。
初期シリーズらしい迫力がある大虐殺ネタでスタート。
開始早々の土左と新之介がドザ衛門を見つけるシーンまでは好調な
語りなのだが、おいねの足抜けのエピが絡むあたりから物語のテンポそのものが
失速してゆくのが残念。
必殺シリーズとしてはレアな大和屋脚本だが、映画界では異才で鳴らしたこの人も
やはり必殺向きでは無かったようだ。
血風編を見ていて思うのは、江戸時代暗黒史観
(「木枯し紋次郎」や多くの初期必殺作品には、このテーストが濃厚に出ている)と
表面的で単純な善悪二元論を脱していることだ。
女郎屋の女将、女衒、間諜…、血風編の主人公たちは従来の必殺であれば
殺しのターゲットになってもおかしくない連中でもある。
400あぼーん:あぼーん
あぼーん
401ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2 :04/07/10 11:48 ID:C8s2s5Hg
必殺からくり人血風編第9話「小判が眼をむく紅い闇」を見た。
官軍に対するシビアな視線がクローズアップされたクリエイターの歴史観が良く出た一編。
官軍の横暴に按摩と美人局の女のエピも絡めて物語に幅を持たせようとしているのはわかるが、
余計な要素の投入により語りがスローテンポ化し成功していない。
官軍の間諜の土左を中心人物に据えて、激動の時代をもっとスリリング描いていく手も
あったかに思う。悪役菅貫太郎が相変わらずの力演を見せているだけに残念だ。
後半はオーソドックスな三者三様の殺し、そしてあっさりしたラストの魅力を捨て、
他愛無い金隠しネタでエンド。この辺にも「ホン」の弱さが顕在化しているかに思う。
(棺桶から現れる土左、このマカロニウエスタンを想起させる殺しは面白い)

必殺からくり人血風編第10話「とらぬ狸の紅い舌」を見た。
いよいよ江戸城開城直前。しかし、ここまで見てもあまり緊迫感は盛り上がらなかったな。
やはりこのテーマとシチュエーションで書く場合には2クールは欲しいところだ。
混乱に乗じた土地買占めとこれに絡む詐欺はバブル時の土地投機を、
テロ計画は911を、旅館組合のギルド的体質はプロ野球オーナー会議の閉鎖性を
想起させるものがある。この普遍性あるストーリーにゲストスターとして
平泉成(まだ若い!)、青木義朗(登場時はBGMのせいもあって近藤洋介かと思った
YO!、「コンドーです」…ではない)ら濃いメンツが絡む。
後期シリーズも担当した松野監督のメガホンを取った作だけに、
後半のお約束の三者三様の殺しのシーンはたっぷり見せる。西部劇風の土左の乱射が印象的だ。
血風編にしては、比較的後期主水シリーズのワンパターンを好む者も抵抗感無く見れる
一編ではないかと思う。
402ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2 :04/07/10 11:52 ID:C8s2s5Hg
必殺からくり人血風編第11話(最終話)「夜明けに散った紅い命」を見た。
必殺シリーズでは異例とも言える仲間の完璧な裏切り。
しかし、最終回で直次郎のキャラが変り過ぎである。
女衒という職ではあるが、自身の生い立ち(棄て子)もあって、
弱者へのシンパシーを持つ男。これが直次郎というキャラの基本設定だったのである。
回数制限があったとはいえ、前の段階で直次郎裏切りに至るもう伏線を書いておく必要が
あった。直次郎惨殺シーンは、さすがに「大殺陣」の工藤脚本らしい迫力に溢れている。
御都合主義とお約束が多い後期シリーズであれば、瀕死の直次郎が殺しに参加後に息絶える、
直次郎がおりくや土左に見守られながら息絶える、直次郎がおりくに「告白タイム!」して息絶える、
今まで直接殺しに参加しなかったおりくが直次郎の仇を討つ等の臭い演出がなされたのだろうが、
殺し屋の末路らしく長屋でひとり息絶えるという展開はいい。