「う…うえッ えぐッ えぐッ」
「ヒック ヒック ヒック」
「いかがした なにを泣いておるか松之丞」
「がッ 学問所でみんながッ おまえは悪代官の子供だって…ッ
おまえんちは無辜の民を虐げる鬼だってッ」
「そうじゃよ 本当の事のことじゃ」
「うちは8代前からず〜っと悪代官稼業じゃ
じいさまのじいさまのじいさまのじいさまからじゃ
そなたの父上だって高橋英樹に斬られておっ死んじまったではないか
「そなたの出産の費用出すために欲を出しすぎたんじゃよ
何じゃ松之丞 まだ知らなかったのか」
「お お おじいさまも おじいさまもお百姓さんをいじめたのですか……!?」
「あーあ いじめたぞよ まことにたくさん」
「なッ なにゆえですッ なにゆえお百姓さんをいじめたりするのですかッ」
「悪代官が何のために? 金じゃよ」
「儂等が戦った連中の目的は 勧善や懲悪 体制の打倒や体制の維持のため
人情のため 恩義のため 故郷のため
家族のため 女のため 酒のため 食いもんのため いろいろじゃ」
「儂等はそういうのわからぬ
大事な事じゃというのはわかる なれどもさようなもの
別に時代劇でせんでも何とかなるのではないかと思う」
「なれども時代劇を演じる事に さような意味なぞ必要であるか?
折り詰め一つの山吹色最中で充分ではないかと思う」
「逆にいえば だ
わかりやすい悪役ぶりが 儂等にとっては身命を賭するのに足りてしまうのじゃ」
「ラメ入りの黒い羽織で日本中の代官所あっちゃこっちゃ出向いて行き
憎憎しげな顔でブッ殺したりブッ殺されたり
しかも誰にいわれたワケでもなく好きこのんで じゃ」
「己が私服を肥やすことが己の命や他人の命より重い
わが家門は割とさような、哀しい人間の性に素直な一族なのじゃ
悪いが学問所でいじめられても仕方ないかもしれんな」
「いや なに そなたもそのうちわかる時が来るのではないかな
なにせホラ そなたは儂等の孫じゃ」