ジョッキーバトルロワイヤル

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374番外編
夜も更けた競馬学校。
吉田隼人は寮のベランダからずっと夜空を眺めていた。夏の夜空は星が煌めいてとても綺麗だった。
兄の豊と連絡が取れなくなって2日近く。落ち込んだ時も、嬉しかった時も、
いつもどんな時でも兄は電話を欠かさずかけてくれた。
(怪我でもしたのかな?でもそれだったら厩舎の人から連絡が来るし…)

「吉田君、風邪ひくよ」
背後からの声に振り向くと、同期生の小島太一が毛布を持って立っていた。
サクラの冠名で有名な馬を次々とG1勝利に導いた騎手…現在は調教師の
小島太を父に持つ太一と、メジロの牝馬に5度のG1勝利を与えた兄を持つ
隼人とは、同期生だが2つも年齢差があるためか(隼人の方が年上)
それ程仲がいいという訳ではなかったが、
悩みごとに関してはなぜか明け透けに話せる間柄ではあった。
375番外編@続き:01/09/21 01:12 ID:MNddJZDs
「珍しいな、太一がこんな時間に起きてるなんて」
「うん、何だか眠れなくて…。いつもなら父さんが電話をかけてくれるのに
ここ一週間程かかって来ないから…」
「太先生も?僕も兄ちゃんと連絡がつかないんだ。
それどころか大久保先生も急にいなくなったっていう噂だし…」
「北海道の方も小さな生産牧場がバタバタ潰れてるって聞くしね…
なんだか競馬界全体がおかしくなってるよ。僕達…ホントにジョッキーになれるのかなあ…」
沈んだ表情になっていく太一を隼人が励ます。
「大丈夫だよ、僕達はきっとなれる!だってずっと夢見てた世界なんだよ!
それでお前は太先生の馬に乗って、僕は兄ちゃんと一緒にG1に出て……
だから、信じよう。ね?」
「吉田君……」
空を見上げると、流れ星がひとつ落ちてきた。隼人と太一は慌てて目を閉じて両手を組み、
肉親の無事を祈った。
「……これでよし、と。吉田君、じゃあそろそろ寝ようか」
すっかり元気になった太一を隼人が呼び止める。
「太一」
「ん?」
「……ありがとう」
隼人は小さく微笑むと、太一の背中を押して部屋に戻った。
明日になればきっと電話が鳴って、いつもの様に笑いあえる事ができるだろう。

だが、隼人はその日が永遠に来ない事を、この時点ではまだ知る由もなかった。