ジョッキーバトルロワイヤル

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116(゚д゚)ウマー
霧の中、青年は立っていた。
周りは何も見えない。
「ここは……何処だ?」
無の世界が、彼を不安にさせる。
突然、目の前に人影が現れた。
「あなたは……」
現れたのは『彼』だった。
『彼』は青年に向かって微笑むと、スッと背中を向け、歩き出して行く。
(え!?それだけで……行っちゃうの?)
青年は『彼』を追い駆ける。
「待ってください!僕は、あなたにどうしても伝えたいことが……」
『彼』は走ってはいない。
だが、どうしても追いつく事が出来ない。
霧の中に『彼』の姿が消えて行く。
「待って!僕の話を……聞いて……」
青年は泣きじゃくりながら、必死に『彼』を追い駆ける。
しかし、ついに『彼』の姿は、霧の中に呑みこまれてしまった……
117(゚д゚)ウマー:2001/08/23(木) 01:41 ID:???
空馬房の寝藁の上で、武幸四郎は目覚めた。
「嫌な、夢……」
彼はそう呟いた。
あのひとのことを、影から遠巻きに見ていた日々。
素直に話し掛けられず、レース中にあのひとにぶつかっては誤魔化していた日々。
間違い電話を装って、携帯の留守電にメッセージを入れた日々。
――何一つ、堂々とあのひとに接する事が出来なかった。
(……どうして、積極的にアプローチしなかったの?)
幸四郎は自分自身に問い掛ける。
ほんの少しだけ、勇気を出せば済んだ事なのに。
もっと早く、気持ちを伝えてしまえば、こんな事にはならなかったのに……
考えれば考える程、後ろ向きな言葉しか浮かんでこない。
「もう、隠れてコソコソしているなんて嫌なのに……どうして……」
と、その時、目覚まし時計のようなアラーム警告音が鳴り響いた。
幸四郎は、慌てて音源の機械のボタンを押し、警告音を止める。
彼が手にした機械――それは、武器として支給された対人レーダーだった。
そしてレーダーの画面には、二つの光点が映し出されている。
「――誰かが来る!」
幸四郎は慌てて荷物をまとめ、非常口へと走った。
そしてレーダーをチェックしながら、脱出の機会を窺う。
……だが、レーダーの光点は、段々と離れて行く。
どうやら通り過ぎて行ったようだ。
幸四郎はホッと胸を撫で下ろすと、その場に座り込んだ。
「結局、隠れ続けるしかないのかな……僕って……」
レーダーの光点は、一定の距離を保ったまま、静かに移動していた。
118(゚д゚)ウマー:2001/08/23(木) 02:35 ID:???
「なあ、四位……お前の仇を討つには、どうすればいい?」
トキノミノル像の前でバッグの中身を確認しながら、藤田伸二が呟く。
あの惨劇から数時間……藤田は当ても無く競馬場内を彷徨っていた。
「絶対に許さない!」と啖呵を切って出発したものの、何をしたら良いのかが全く分からない。
ただ、確実に言えるのは『途中で死んだら負け』という事だけ。
既に此処へ来るまでに、何人もの死体を見てきた。
(あの連中みたいには、なりたくない。
途中で死んでしまったら、四位の仇も討てない。
絶対に……絶対に生き残って、尾形のクソ野郎をこの手で殺すんだ――)
例えようの無い強力な復讐心が、藤田を動かしていた。

藤田はパンやミネラルウォーターといった食料を確認すると、バッグから武器を取り出した。
『当たり』と言っても良いだろう。小型のマシンガン、マイクロウージー9ミリだ。
「超ラッキー。これなら何とか生き残れそうじゃん」
藤田の顔に、安堵の笑みが漏れた。
添付されている簡単な説明書を見ながら、藤田は操作手順を確認する。
そして、弾倉を差し込もうとしたその時――
形状が違う。
何度差し込もうとしても、はめ込みが上手くいかない。
藤田は慌てて予備の弾倉を取り出し、同様に差し込んでみる。
しかし、どれもマイクロウージーには一致しない。
「そんな……まさか、配給ミスなわけかよ!?」
さっきまでの安堵感が一瞬にして消え、藤田の心に焦りと不安が忍び寄る。
――その時、藤田は弾倉の一つに挟み込まれた紙を見つけた。
何かが書かれている。
藤田はその紙を取り、開いて読み始める。
その文面は、藤田を絶望の淵に叩き込むものだった。

☆とっかえだまシステム☆
このマシンガンの弾は、他の誰かが持っています。
そして、その誰かが持っている銃には、この弾が使われます。
その人を探し出して、弾を交換しましょうね。

「……っ…ざけんなっっ!!」
藤田は弾倉を床に投げつけた。
無用の長物となった弾倉は、くるくると回りながら、床の上を転がって行った。