宝塚記念で、ゴールまで残り800メートルのハロン棒を通過するとき、先頭のバランスオブゲームからディープインパクトまでは
12馬身の差があった。タイム差にすると2秒0である。
それが、ゴールまであと600メートルの地点では、いっぺんにタイム差1秒0(6馬身差)まで縮まっている。
ディープインパクトがスパートをかけたのだ。
逃げたバランスオブゲームは残り800メートルから600メートルまでを11秒9で突っ走っているから
それより1秒0速かったということは、ディープインパクトはあの区間を10秒9で走っていたことになる。
稍重馬場とは思えないような強烈なスパートである。
しかし、驚くのはまだ早かった。ディープインパクトは、残り600メートルで1秒0あった逃げるバランスオブゲームとの差を
残り400メートルで0秒6(4馬身差)まで詰めたのである。じつはあの区間
逃げたバランスオブゲームもスパートをかけていて11秒3で走っているから、それより0秒4速かったということは
ディープインパクトはあの区間も10秒9で走っていた勘定になるのである。
稍重馬場で連続の10秒9である。これほどの逞しい加速力と持続力を持った馬は
世界の競馬史上、初といっていいように思う。類例さえ見聞したことがない。
残り400メートルで0秒6あったバランスオブゲームとの差を、残り200メートルの地点では並びかけてゼロとし
一気に4馬身も突き抜けてディープインパクトは勝っている。発表された公式のラップタイムをもとに算出すると
ディープインパクトはラスト4ハロンを次のようなラップタイムで駆けていたことになる。
「10秒9−10秒9−11秒8−12秒2」
まさに超ド級のパワフルな末脚である。稍重馬場で10秒台のラップタイムを連続して刻むことさえ驚異的なのに
ラストを11秒8−12秒2できっちりとまとめ、急激な減速が見られないのである。そればかりか
ゴール前30メートルで武豊騎手がもういいよと手綱を緩めると、耳も首の振りも集中モードを解いて
リラックスした走りに変える精神面の落ち着きと余裕まであったのである。