゙(⊃д`) せつない想い出 その8 (´・ω・`)

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213おさかなくわえた名無しさん
近所のアパートに飲んだくれの親父とその兄妹が暮らしていました。
兄のKさんはとってもマジメで、野球が大好きな高校球児でした。
Kさんは朝刊配達のバイトをして家計を助け、小学生の妹のSちゃんの面倒もよくみていて、
近所でも評判の好青年でした。
私がKさん兄妹を知ったのは5歳の頃で、彼の父親が飲み過ぎで入院し病死してからのことです。
兄妹には身寄りが無いようで、Kさんは高校を中退し近くの工場で働き始めました。
私の父は世話焼きで、そんな兄妹を心配したのか、二人をよく夕食に招いたり、
Kさんをキャッチボールやバッティングセンターに連れ出していました。
一人っ子の私は兄と姉が突然できたみたいで、とても嬉しかった覚えがあります。

そんな家族同然の付き合いが始まって3年後、私達家族は父の転勤のため関西へ移る事になりました。
父は残していく兄妹の事が気がかりでしたが、それを察したのかKさんは、
「妹は僕が立派に育てて見せます。 どうか心配しないで下さい。」と笑顔で私達を見送ってくれました。
その後は電話や手紙のやり取りが続き、正月やお盆には二人を招待するようになっていました。
月日は流れ、忘れもしない中ニの夏、今年のお盆は皆で海水浴に行く計画でした。
3時間目の授業が終わる頃、母が私を迎えに来たのです。 その目いっぱいに涙を浮かべて。
それからの記憶は曖昧で、あまり覚えていません。
覚えていたのは、Kさんが事故で亡くなったこと、初めて父の涙を見たこと、
Sちゃんが微笑みながら「大丈夫。 大丈夫よ。」と私をいつまでも抱きしめてくれていたこと。

いま、Sちゃんは都内の病院で看護婦をしています。
最近知ったことですが、父はSちゃんを養子に迎えようとしましたが、親戚の猛反対で断念し、
彼女が看護学校の奨学金を得るまでの数年間、学費を含め援助していたそうです。
時折、グラブを取り出し手入れをしている父の背中を見ていると、楽しそうにキャッチボールを
しているKさんを想い出すのです。