俺が中一だったころ。
自分から率先して学級委員をやったり、合唱コンクールの伴奏者をしたり、成績も学年で三番以内と、まあ優等生だったと思う。
先生からも信頼されてたと思うし、クラスの中でもけっこういい感じだったんだ。
そのときいっしょに学級委員をやっていた女の子が、けっこうかわいくてしかも俺に好意を抱いてる、なんてうわさもあったり。
ある昼休み。突然部活の先輩が現れて、俺にカバンを持って教室の外に来るように言った。
その先輩は、エロ本を売りにきたのだ。俺としては、エロ本は欲しかったけど、わざわざ教室に来なくても…、て感じ。
人気の少ない階段の踊り場で渡された。そのとき同じ部活の奴が一人いっしょに来てその様子を見ていた。
取引が終わり、教室に戻ると、その同じ部活の奴が、クラスの軽く基地外なやつに、そのことをこっそり教えてしまった。
そしたら、そいつが、超大声で、クラス中に聞こえるような声で、こう言いやがったのさ。
「えええええええええええええ、○○(←俺の名前)、エロ本もってんのーーーー!!!!????」
一瞬ざわついてたクラスがシーンと静まり返った。クラスの全員の視線が一気に俺に集まった。
俺のことが好きだっていう女の子と目があったが、一瞬とても悲しそうな顔をして目を伏せた。
うまいこと言い訳しようかと思ったが言葉が出て来ないで立ち尽くしていた。しだいに教室もざわめきをとりもどしていったが、
微妙にいつもと違う空気が流れていた。
このときばかりはほんとうにああああああああああとか言いながら教室のベランダから飛び降りようかとおもった。
その後、俺はむっつりスケベというレッテルをはられて中学生活を終えた。
そして始まった高校生活。
今度は中学の二の舞にはなるまいと、クールキャラで通すことにした。
クールキャラなのでエロ本はコンビニや本屋など、足のつくところでは絶対買わない。
中学時代から取引を続けている先輩経由でのみ仕入れていた。
だがまたもや同じクラスの奴に見られ基地外に密告された。
「えええええええええええええ、○○(←俺の名前)、エロ本もってんのーーーー!!!!????」
高校生にもなってこの基地外はまた叫びやがった。
再び同じクラスになれたあの子とまた目が合った。一瞬とても軽蔑した顔をして目を伏せた。
その後、俺はむっつりスケベ第二形態というレッテルをはられて高校生活を終えた。
時は移ろい大学生になったころ。
俺は、第二形態まで変態した俺の正体を知る者のいない地方都市の大学に通っていた。
今度こそ失敗しないように、エロ本は暗号化したメールで先輩に注文していた。
だがある時、先輩は間違って大学の事務室宛にエロ本を送ってしまった。
しかたなく事務員からそれを受け取った瞬間を、同級生の奴に見られ
その報はすぐさま地元に住む基地外のもとに密告された。
遠路はるばるやってきた基地外は、講堂に響き渡る声で叫んだ。
「えええええええええええええ、○○(←俺の名前)、エロ本もってんのーーーー!!!!????」
地元の専門校に通うあの子から動画メールが届いた。一瞬憎悪の表情を見せ目を伏せた。
その後、俺はむっつりスケベの逆襲というレッテルをはられて大学生活を終えた。
もはや大学にいられなくなった俺は海外に留学した。
エロ本は年に一回俺が旅費を持ち、先輩にこちらに来てもらっている。
取引場所は、過去の経験を踏まえて俺の部屋にした。
だが部屋にはすでにクラスの奴のカメラが仕込まれていた。
ネット経由でその動画が基地外の元に送られ、奴はついに海を越えた。
「えええええええええええええ、○○(←俺の名前)、エロ本もってんのーーーー!!!!????」
言葉の通じないこの大学の構内でも、奴は叫んだ。
数日後、地元の銀行員と結婚したあの子から、エアメールが届いた。
あの頃と変わらない柔らかな文字で近況が綴られていた。
四月には第二子が誕生するそうだ。
長男を抱く幸せそうな彼女の写真、新築の家の前で微笑む彼女の写真、
そして、一瞬殺意が芽生えた顔を見せ目を伏せた彼女の写真。
その後、俺はむっつりスケベ外伝〜海外留学編〜というレッテルをはられて留学生活を終えた。
日本に戻ってきた俺は、かつてのことを忘れようとひたすら仕事に打ち込んだ。
先輩との友情も続き、今ではどこでも取引をしている。
叫ばれることを恐れて、取引をやめるということは、自分にウソをつくことだ。
かつての苦い経験が、俺に勇気と正しい道を教えてくれた。
密告するならしろ、叫ぶなら叫べ、俺は、何と呼ばれようと俺でありたい。
今日も、どこかで密やかな密告の声が聞こえる。
基地外の叫ぶ声が聞こえる。
あの子から、毎日違った表情の写メールが届く。
始まりは、一冊のエロ本だった。だが、今はそれが繋がりになっている。
今やレッテルはむっつりスケベ銀河帝国の隆盛の章までいった。
それでも俺は、魂がつきるまでやりきってみようと思う。
この街のどこかであいつの叫ぶ声を聞いたら、思い出して欲しい、
俺という男がいたことを。