★★恥ずかしくて死ぬかと思った体験 6度目★★

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グロダメな人向けに文字テキストをコピペします。少し長いよ。

Acta Crim.japon,64(2):41\45,1998

腹部膨満を伴う若い女性の急死
――硬便によるイレウスにより死亡した1剖検例――

清水恵子,福島 亨,佐々木雅弘,塩野寛

旭川医科大学法医学講座


緒 言

便秘が1年前からあり,時々腹痛を訴えることがあったが病院には一度もかからずに,
市販の薬を用いていた21歳女性が,2日前迄通常の勤務(店員)をし,風邪症状と腹痛を
家族に訴えていたが,職場が2日続きの休みであったため,自宅で休養をとった次の日,
玄関で左側臥位で死亡しているのが彼女の弟によって発見された。死因究明の為に
承諾解剖が行われた。
剖検時,一見妊娠満期と思われるほどの高度の腹部膨満を呈していた(図1)。
解剖の結果,死因は腸管内腔に,硬便を含めて大量(6.7kg)の便が,異物として閉塞した
単純性イレウス(機械的イレウス)による死亡であることがわかった。
一般に便秘が死亡に至る原因になるとは考えにくい。事例の概要を報告し,死因について
考察を加えてみる。
3952:03/11/05 22:19 ID:Ol5x0yk3
事件の概要

21歳,女性。特筆すべき既往歴はなく,高校卒業後店員として勤務していた。1年前から
便秘がちで,時々腹痛を訴えることがあったが,病院を一度も受診しておらず,市販の薬
(下剤)を用いていた。市販されている風邪薬や下剤等の大衆薬以外の特別な服用歴は
みられない。死亡する2日前まで通常の勤務をこなし,前日,当日は仕事が休みのため
自宅にいた。死亡前日は,風邪気味でお腹が痛いといって,寝たり起きたりして過ごし,
昼食夕食ともに取らなかったという。死亡当日,朝食を摂らずに朝から自室で横になっており,
午前8時頃の生存は確認されている。昼過ぎに学校から帰宅した弟が,トイレの前で左側臥位で
死亡している姉を発見した。現状には嘔吐したもの,尿失禁が認められた。死因究明のため,
同日夕方,承諾解剖が行われた。
3963:03/11/05 22:20 ID:Ol5x0yk3
主な剖検所見

身長158cm,体重47.6kg。体格中,栄養普通の女性の死体であり,腹部が非常に膨満して
いる(図1)。死硬直は手関節と足関節に軽く認められ,死斑は特に体の左側面に認められ,
暗紫色で指圧消退した。眼瞼・眼球結膜はうっ血が強く,左耳介は暗紫色であった。肛門内
には黒色の便が充満していた(図2)。右示指,中指の爪内には同色の便が入っており,指に
よる排便(摘便)を試みたものと考えた。外表所見上,特に損傷は認められなかった。
腹腔内は異常に膨満した大腸と小腸で占められていた(図3)。大腸は直腸から下行結腸,
横行結腸,上行結腸,回盲部までの2.2mが膨満し,周計が一番太いところで32cm(図4)で
あった。腸管には狭窄,癒着等の器質的変化はなく,出血,壊死,穿孔,炎症等の異常は認
められなかった。内部には糞便が6.7kg充満し,特に直腸付近では水分をほとんど含まない
コンクリート状の硬便が数十cm連続していた(図5)。肛門側から用手排除は不可能であった。
他の異物は認められなかった。腸管の外からの圧迫は認められなかった。
横隔膜は左右ともに第2肋間まで挙上し,肝臓の横隔面は右第5肋骨挙上していた。肺は
左葉200g(17×10×4cm),右葉210g(18×10×5cm)と縮小気味であったが,弾力性,硬度に
異常は認められなかった。
心臓(160g)の切開では,両心房から豚脂様凝血を含む暗赤色の血液が認められた。右腎臓
の繊維皮膜の剥離はやや困難であった。右副腎の前面に出血が認められた。膀胱は大きく
膨隆し,膀胱粘膜は蒼白で,中に黒褐色調の尿40mlが認められた。
他に死因となるような異常所見は認められなかった。
3974:03/11/05 22:21 ID:Ol5x0yk3
考 察

イレウスとは,腸管内容の肛門側への輸送が障害されることによって生ずる病態と定義される
が,分類基準は閉塞部位,閉塞状態,病型によって分類されている。発生原因によって機械的
イレウスと,機能的イレウスに分類されている。本事例のケースは,直腸を閉塞した硬便により
生じたため,閉塞部位から大腸イレウスに分類され,閉塞が完全である完全イレウスの状態で
あった。腸管内異物(糞便)により内腔が閉塞したもので,腸管膜の血行障害が加わった痕跡
が認められなかったため,機械的イレウスの中の単純性イレウスに分類される。単純性イレウスは
単なる通過障害のみのため,腹腔内および全身的な病変の進展が緩徐であるといわれ,本事例
の経過もこれに矛盾しない。
機械的イレウスの成因は癒着,原発性悪性腫瘍,癌性イレウス等が多いとされる。炎症性疾患や
先天性疾患によるものもあるが,異物による閉塞の報告は多くない。硬便を腸管内異物とする単純
イレウスの死亡例の報告はほとんど見当たらない。本事例のようなケースは,病院を受診さえして
いれば,難治な疾患ではなく,非常に稀なケースといえるのではないだろうか。
死因としてのイレウスの病態生理は,いくつもの要因が関与している。単純性イレウスの場合,
閉塞上位腸管は分泌亢進により,大量の消化液や血管から移行した水分が貯留し膨満するため,
腸管の拡張を招き,腸内圧の上昇をきたす。これは腸管壁のうっ血や怒張を生じ,腸壁毛細管圧は
上昇して毛細血管の破壊と透過性が亢進され,血液成分が腸管内に漏出・浸潤することにより
さらに助長される。本事例においても,硬便による閉塞部位(直腸付近)よりも近位(下行,横行,
上行結腸)にあった糞便は,大量の水分を含み軟便状を呈していた。
3985:03/11/05 22:21 ID:Ol5x0yk3
また,腸内細菌の増殖によって腐敗が進み,発生した大量のガスが貯留して腸管はますます
拡張し膨満すると考えられるが,本事例でも,回盲部付近の膨満は大量のガスによるものであった。
本事例でみられた腹部の膨満は,以上のような機序によると考えられたが,母親の話しでは死亡
一週間前に故人とともに入浴した際には全く気が付かなかったということから,腹部の膨隆は死亡前
数日間に形成されたと推測される。
以上のような腹部膨満は,持続的に腹腔内圧を上昇させ,大血管を圧迫することから心臓への
静脈還流を減少させると考えられる。いわゆる仰臥位低血圧症候群である。下大静脈を圧迫し,
静脈還流が阻害されると心拍出量が減少して血圧低下が生じる。大動脈の圧迫も一因をなすと
いわれる。横隔膜挙上により肺の機能的残気量は減少し,低酸素血症を起こしやすくなり,進行
すると呼吸・循環が障害され,次第に悪化すると考えられる。本事例では著しい横隔膜の挙上と
肺の縮小が認められた。
他に,閉塞上位腸管に細胞外液の組成に類似した大量の水分が貯留し,また嘔吐によって
脱水となり,結果的に 電解質が大量に体内から喪失したと考えられる。電解質異常は不整脈を
惹起し,水分の喪失は機能的細胞外液量を減少させるために有効循環血液を減少させ,血液濃縮
を引き起こす。
3996:03/11/05 22:22 ID:Ol5x0yk3
本事例の死因をまとめると,横隔膜の挙上,腹腔内圧上昇,静脈還流減少によって,呼吸・循環
障害に至り,水分・電解質の喪失は循環障害を助長し,これらの状況は最終的にイレウス・ショック
と呼ばれる状態を招き,死亡に至ったと考えられる。
腸管内腔の異物となった硬便は重症な便秘に由来したと考えられるが,その原因は生前一度も
本疾患で病院を受診していないため,推測の域を出ない。
便秘の原因は器質的なものと機能的なものに大別されるが,解剖結果から,便秘の原因となる
器質的疾患(捻転,腫瘍,憩室,痔瘻,潰瘍,炎症等の所見)は肉眼的には認められなかった。
幼少時には便秘は認められていないので巨大結腸(Hirschsprung 病)は否定される可能性が
高いかと思われるが,成人になってから発見される例も報告されており,生前直腸粘膜生検等が
施行されていたわけではないため断定はできない。
腸管外腹腔臓器の器質的疾患,例えば卵巣嚢腫,腹腔内巨大腫瘍,膵癌,腹水等の所見は
見られなかった。
4007:03/11/05 22:22 ID:Ol5x0yk3
習慣性便秘の多くは機能性便秘に属するといわれ,大腸の運動の低下による弛緩性便秘,
直腸内に便が達しても排便反射が低下している直腸性便秘に分類される。機能性便秘を
引き起こす薬剤はいくつか知られているが(抗コリン薬,向精神薬,降圧薬,アヘン,コデイン等),
そのような薬物の服用歴は認められなかった。
機能性便秘を惹起しやすい環境要因として,食事摂取量の低下,低残渣食,習慣的な便意の
抑制,運動不足等があげられている。直腸性便秘は便意を抑制する習慣の人に多いとされる。
若い女性の生活習慣としてのダイエットや,職業上の制約から,そのような可能性があったことは
否定できないのではないかと思われる。
腸管の器質的な障害が認められないにもかかわらず,イレウス症状を呈する慢性特発性偽性
腸閉塞症という症候群も報告されている。
いずれにしろ,生前病院を受診しなかったこと,ショック状態に陥った時に周囲に人がいなかった
ため病院に搬送される機会がなかったことが,残念な結果につながったと考えられる。