病気で自宅療養をしていた祖母が、先日亡くなった。
晩年は自分で満足に呼吸も出来ない状態だったので、
呼吸器をつけて生活していたのだが、
夜中にそれが外れてしまった為呼吸困難に陥り、帰らぬ人となった。
正に不幸な事故であったのだが、夜中に呼吸器が外れていた事を、
俺は密かに知っていた。
祖母の介護は主に母親がまかなっており、
食事の手伝いや下の世話、痰取りなどを全て1人でこなしていた。
俺や親父もたまに手伝ってはいたが、
「おばあちゃんも女の人やから」
という母の配慮により、デリケートな面での手伝いは拒否していた。
しかしそんな母を最も苦しめたのは、夜も満足に寝かせてもらえない事だった。
半分ボケかかっていた祖母は夜中に暴れ、
そのせいで呼吸器が外れる事が多く、
外れた事を知らせるセンサーのけたたましい音に悩まされ、
睡眠を取れない母は日に日にやつれて行った。
そんなある夜、祖母の部屋で鳴り響くセンサーの音に、俺は眼を覚ました。
部屋まで様子を見に行くと、案の定祖母の喉から呼吸器が外れている。
だがいつもならすぐに起きて呼吸器をつけ直す母が、
日頃の疲れに熟睡しきっており、一向に目覚める気配は無かった。
俺はその姿を見て、これ以上母を苦しめるのはかわいそうだと考え、
苦しむ祖母を放置して、そのまま自室に戻った。
祖母の葬儀の間、母はしきりに自分を責めたが、
非難する者は誰も居なかった。
ある親戚の人は、「もう死んでくれて良かったのかも知れんよ」と、
母を慰めていた。
俺は今でも、あの時祖母を見捨てた事を後悔していない。