都内のコンピュータ会社に勤務するA子さん(27歳)は
仕事をてきぱきとこなすキャリアウーマンである。
夜は都心の見晴らしのいいマンションに帰宅。
1LDKの部屋で一人暮らしをしているため
自由気ままに充実した生活を送っている。
ところがそんな彼女には大きな欠点があった。
それは **部屋が片づけられない** のである。
数え切れないほどの洋服がリビングルームの中に山積みにされ
床一面には新聞や雑誌が散らかっている。
さらに片隅にある引出しの上にはたくさんのビデオやCDが積まれ
テーブルの上にはアクセサリーやダイレクトメールが
無造作に積み上げられているのだ。
このような散らかった部屋で生活するA子さんは
毎朝会社に出かけるときは大騒ぎである。
まずソファーや床に置きっぱなしの洋服の山からスーツを選び出す。
洗濯物の中から選んだシャツにはしわがついているため、
アイロンを用意してしわを伸ばす。
だが使ったアイロンを片付ける時間はないので、そのままおいて置く。
さらにスーツに着替えて出発の準備が整ったところで
今度はカギが無いことに気づいて、捜索。
彼女は毎朝このような調子のため、よくバスに乗り遅れてしまう。
そして会社に遅刻をするたびに、自分の手際の悪さを悔やんでいるのだ。
これが実際の彼女の部屋の様子である。
確かに足の踏み場もないほど衣服や雑誌が部屋中に散乱し
キッチンの食器類は汚れたまま放置されているなど、大変な状況である。
一体、なぜA子さんは片付ける事が出来ないのか
実は、今から2年ほど前、アメリカの精神療法士Sari Soldenによって書かれた
「片づけられない女たち」が日本でベストセラーになり話題を集めた。
そしてこの本の中で片づけられない女性の原因の一つとして紹介されていたのが
ADD(Attention Deficit Disorder)
である。
ADDとは注意欠陥障害のことで、脳内物質の異常分泌により
集中力が低下し、絶えず落ち着かないなどの症状があらわれる。
このADDの原因として現在次のようなことが考えられている。
ADDの原因(1)ドーパミンの伝達異常
ADDの人の脳内では、神経伝達物質ドーパミンが正しく伝達されないことがある。
そのため集中力が低下し、計画をうまく組み立てることが困難になる。
その結果何からどのように片づければよいのか順番が決められなくなる。
ADDの原因(2)ノルアドレナリンの異常放出
ADDの人は不安物質と呼ばれるノルアドレナリンが異常に放出されることがある。
その結果、小さな物事などにも強い不安を感じるため、
片づけけようとしても身の回りの様々なことが気になり、いつまでも作業が進まないという。
つまりADDの人が片づけられないのは、脳内物質の異常分泌によって
他のことに注意が向いてしまう上に集中力が低下してしまうためと考えられている。
その結果、本人は一日中片づけているつもりでも、
いつまでたっても片づけられないというのである。
では、A子さんの場合も片づけられないのはADDが原因なのだろうか
我々は、多くの片づけられない女性から相談を受けているという
収納カウンセラーの飯田久恵氏を訪ねた。
実は飯田氏のもとにはSari Soldenの本が出版されて以来、
自分もADDのために部屋が片づけられないのではないかという相談が殺到してというのだ。
飯田氏「彼女はADDではないと考えられます。
実はここ数年、彼女と同じように自分はADDではないかと訴えて
収納のカウンセリングに訪れる方がいらっしゃいますけど、
実際にADDのために片づけられない人は私が収納カウンセリングした方々の中には
ほとんどいないと思われます」
飯田氏によれば、確かにADDという症状のために片づけられない人も存在するが
その数は非常に少ないという。
実は部屋が片づけられないと悩んでいる人は、
自分でADDだと思い込んでいるケースが多いのではないかというのだ。
A子さんの場合も、会社では周囲の雑音に惑わされることなく仕事の計画をたてて
順調にすすめている事からADDではないと考えられるのだ。
では、なぜ彼女は部屋を片付けることができないのか
我々は、東京学芸大学の上野和彦教授に話を聞いた。
上野氏「ADDではないのに片づけられないとすれば、その原因は二つ有ると思います。
その一つは動機付けの弱さです」
片づけられない原因(1)動機づけが弱い
上野教授によれば、自分の行動が人から評価されたとき
人間の脳内ではドーパミンが分泌されるという。
ドーパミンは集中力を高める神経伝達物質であるとともに
だれかに誉められるなどの理由で快感を得たときに分泌される。
すると人は再びドーパミンによる快感を得ようとして、
誉められるような行動をとるというのだ。
だが一人暮らしのため家に訪れる人がいなかったり
主婦など毎日同じ家事を繰り返している場合
部屋を片付けても人から誉められることが少ない。
そのためドーパミンが分泌されにくく
片付ける動機づけが得られないケースがあるというのだ。
しかしA子さんの場合、交際している男性を家に招きたいと考えているが
汚い部屋を見せたくないため困っているというのだ。
このことから、A子さんが片づけられないのは
動機づけが弱いためとは考えにくい。
上野氏「動機付けがあるにもかかわらず片づけられない人というのは
片づけ方を知らない、片づける手順が思い浮かばない事が原因だと考えられます」
片づけられない原因(2)片づけ方を知らない
例えばA子さんの部屋の中にはプラスチック製の収納ボックスや
ビデオケースなど収納グッズがたくさん置かれている。
しかしこの収納ボックスは一年以上開けておらず
書類ケースには全く物が入っていない段がある。
このように収納グッズを買ったものの有効に使われずに散らかってしまうような人は
自分では片づけ方を知っていると思っていても
実際には正しい片づけ方を知らないことが多いというのだ。
では、このような人はどうすればよいのか。
上野氏「片づけ方を知らない人は2つのタイプがあると思います。
自分がどちらのタイプかを知ることが大切です。
上野教授によれば、片づけ方を知らない人には2つのタイプがある。
次の10問のチェックリストによってどちらのタイプか分類できるという。
それではみなさんもYES・NOでチェックして頂きたい。
片づけれないタイプ分けチェック
1.賞味期限の切れた食品がたくさんある
2.カタログショッピングが好きで、ついつい買ってしまう
3.年賀状を整理しようと思いながら、1年経過した
4.洗剤やティッシュなど買い置きしていないと落ち着かない
5.キレイな包装紙や紙袋はとっておく
6.片づけや掃除は定期的にやらず、時々、一気にやる
7.毎日使う食器は、水切りかごに入りっぱなし
8.写真のネガや郵便物がテーブルの上に放置されている
9.ソファやイスには、いつも脱いだ服がかかっている
10.「つめ切りはどこ?」と聞かれても即答できない
みなさんはいくつYESがあっただろうか。
実は、1〜5番目の質問は物を処分できないタイプの特徴を
6〜10番目の質問は整理能力がないタイプの特徴を示している。
それぞれの項目で4個以上YESがあると、そのタイプに分類される。
A子さんは、10問中9問に当てはまった。
つまり彼女は、処分ができず整理能力もないタイプであると考えられるのだ。
では、それぞれのタイプの問題点と改善ポイントをみてみよう。
この後、驚きの簡単片づけテクニックが登場する。