サラリーマンやっていた頃の話。
入社1年目は自販機の稼動調査という名目の孤独な外回りだった。
自販機といっても、ジュースやタバコとはわけが違って数が圧倒的に少なく、エリアもそれなりに広範だったので、1ヶ月近くかけて
ようやく一巡する感じだった。
ある夏の日、とあるショッピングモールの屋上駐車場に営業車を停めてエスカレーターをおりていくと、ゲームコーナーがあって、
クレーンゲームが並ぶあたりを何となく見て回って、さあ行こうかなと思った時、一人の女の子が目に入った。
上はピンクのノースリーブ(実際は透明ビニールの肩紐があって、それがねじれて、よく日焼けした肌にくい込んでいたのが妙に
記憶に残っている)、下はスリムなジーンズといった格好の少女がキャラクターもののぬいぐるみをゲットしようと奮闘していた。
もう既に何百円も投資しているみたいだったが、ぬいぐるみは少しずつ位置や向きを変えるだけでかなり苦戦している様子。
足を止めて見入るのも変なので、もう一周するかと思って再度通りがかった時にはすでに少女の姿はなく、何となく足を止めて覗き込むと、
あと何回かを計画的にプレイすると獲れそうだなと思えたのでやってみたところ、2回目に獲れた。
そのクレーンゲームは3分割円グラフみたいな造りで、取り出し口からぬいぐるみを取り出して顔を上げると、ゲーム機を挟んだ
向こう側にさっきの少女がいるのがわかった。
何となくノリでやってみたものの、そのぬいぐるみが欲しいわけでもなかったので、顔を向けると同時に視線を外したその少女が
さぞ悔しかったであろうと思え、ちょっと可哀想になったので、擦れ違いざまに、
「これ、あげるよ」と少女に手渡した。
少女は初め戸惑った様子だったが、ぬいぐるみ自体は素直手を出して受け取ったので、そのまま振り向かずに歩き去ろうと思った。
「あ、ありがとぅござぃますぅ!」
背後から少女の声が聞こえ、と同時に独特の臭気に包まれた。
少女はワキガだったのだ。