「兄妹萌え」満喫スレ

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768sage
漏れも書いてみようか。悪いがエロくはない。

俺には母親がいなかった。俺がまだごく幼いころ離婚して家を出ていったらしく、
母親の記憶なぞ一つも無かった。結局俺は一人っ子として育った。
しかし俺も二十歳になり成人したのでせっかく人の子として生まれたからには
母親の顔ぐらい拝んでおいても損は無いだろうと思った。
正直なところ、会いに行く理由というのは真面目なものではなく好奇心が殆どで、
家族が普段気にしないふりをしているにも関わらず実は20年近くたっても
重く圧し掛かっている父親の離婚、これを引き起こした女を一度見ておこうと
いう魂胆だった。
家族は(父はあまり話したがらないが)母親のことをあの女はお前を捨てて
出ていったなどとボロクソに貶してはいたけれど、うちの家族の性格がかなり
強引であることは解っていたし、子供に嘘を付かない親など滅多に居ない。

それで家族の話から母親の実家の住所の大体の見当は付いていたから行ってみたんだが
そこはとっくの昔に他人の物になってて、仕方なく近所の人に尋ねて回って
なんとか転居先を教えてもらった。その際理由を訊かれて結構焦ったなぁ…。

で、電話か手紙でアポを取るか悩んだけれど断られたらお終いなので、
申し訳無いけど連絡を取らずに直接行って見ることにした。
家に居る可能性の高そうな日曜日の午前中に転居先の少々草臥れた
アパートに着くと、大きく深呼吸してドアを開けた。
769768:02/04/06 21:46 ID:???
げっ、思いっきり間違えた

逝ってきます
770なまえを挿れて。:02/04/06 22:12 ID:???
せっかくだから続ききぼんぬ
771-:02/04/06 22:16 ID:???
>>769
せめて逝き先だけども教えれ。
772768:02/04/06 22:39 ID:???
いやドアを開けたんじゃ無いな、呼び鈴を押したんだ。
(あと、アパートじゃなくマンションだったな。)
すると女の子が出てきてどちら様ですか?と訊ねる。
一瞬家を間違えたかと思ってついAさん(母親)のお宅ですよね…とつい口走ってしまった。
彼女はそうですが何か?と言ってきたのであなたは?と聞くと「娘です。」と。
この一言の意味を理解するのに多少の時間を要した(w
目の前の女の子が自分の妹だという事実に激しく動揺しつつもなんとか体裁を取り繕って
Aさんにお会いに来ましたと言ったが、彼女の言うところによれば今は不在で
もうしばらくすれば帰ってくる筈だとの話だった。
出直して来ようかと暫く迷ったが、特に理由も無く家の中で待たせてもらうことにした。
773770:02/04/06 22:41 ID:???
ほほう。。
774HG名無しさん :02/04/06 22:49 ID:???
>754-755
死ね
775768:02/04/06 23:44 ID:???
(Aさんにお会いに来ました、って一体どこの言葉だ…)

彼女が家の中で待ちますか?と言ったのでその言葉に甘えさせてもらって
家の中に入って待たせてもらった。なぜ会いに来たのかは言わず終いだったが特に不審にも
思われていないようだった。2DKの部屋で中は外見よりは随分綺麗だったように覚えている。
居間のテーブルに座ると彼女が夏だったので麦茶を一杯持ってきてくれた。
そして涼しい居間で麦茶をちびちびとすすっていたのだが暫くすると
やっぱり出直して来たほうが良かったのではないかと思うようになった。
というのもその時になってどっと緊張が襲ってきたがらだった。
俺はてっきりすぐに会えるもんだと思っていたし、いざ家の中に上がり込んでみると
これから会う人の生活感のようなものがそこにあって生き別れの母に会う現実味が
否応が無く増えてきた。ついでにこの家には俺と妹と思しき女の子の二人きりだった。
家族の話によれば少なくとも祖母にあたる人が居た筈だったが。

彼女が俺のことを無視して何やら家事に勤しんでいる様子を横目に見ながら
来なけりゃよかったと本気で思うようになった。部屋はクーラーが効いていて
涼しいのに冷や汗は止まらないし、胃の底で何かが動くような感触はするし、
あまつさえ頭まで痛んできた。つまりは極度に緊張していた。

三十分くらい経っても一向に帰ってくる様子も無く、緊張に疲れた俺は
大きな溜息とともにテーブルにへたり込んだ。
さすがに彼女も異変に気づいたらしく「大丈夫ですか?」と聞いてきたが
俺はすみません大丈夫大丈夫と言ってお茶を濁した。
さすがに彼女も挙動不審の若い客に疑問を抱いたらしく、不思議そうな顔をして
いたが、何も言わずに自分の仕事に戻った。
776770:02/04/06 23:59 ID:???
ほほう。それで?
777768:02/04/07 00:33 ID:???
この調子で書いていくと随分長くなりそうな…
それはともかく770さん、読んでくれてありがとう。


その後一時間近く経ったがそれでも帰ってこない。もうすぐ正午だった。
そのころになるともう緊張より疲れのほうが勝ってきていて、
もうどうにでもなれという気分で今のテレビ(彼女が付けてくれた)を
チャンネルも変えずにNHKばかりぼんやりと眺めていた。
そういえば途中で一回トイレに立ったが鏡に映った自分の顔は
素晴らしく惨めだったな。

彼女は彼女のほうで、もう暫くで帰ってくると言ったのに一時間半経っても
全然帰って来ないわけで少々罪悪感を感じていたらしく、昼食を食べないかと
言ってきた。俺は初めは結構ですと言って断ったが、彼女がぜひと言うので
作ってもらうことにした。客人の居る手前、一人で食べるのも気まずいものが
あるのだろうと俺は判断した。

俺はキッチンに立った彼女がパスタを茹でるのをぼんやりと見つめていた。
芸能人の事は全く知らないので誰に似ているとはいいづらいが、
顔は美人と言っていいだろう。ただ少々古いタイプの、陰のある美人だった。
家族は母親は根暗な女だったと言っているがその辺が
遺伝しているのかもしれないと思った。
ちなみに俺は完全に父親似で、遺伝というのはじつに不公平なものだ。
彼女は恐らくは母親の次の男の娘だろうと思った。
しかし表札は母親の旧姓のままであった。

778770:02/04/07 00:38 ID:???
いえいえ、ゆっくりいきましょう。
なかなか読みやすくていいかんじ(^-^)
779768:02/04/07 01:04 ID:???

俺は父親と別れたあとの男とも結局うまく行かなかったのだろうと想像した。
家族の母親に対する評価は正しいのかもしれないという思いがよぎった。
それでも今料理をしている子は今のところ大人しくて礼儀正しくて、
おまけにとてもさっぱりした感じのいい服を着ているのでそんなことは
ないのではないかとも同時に思った。

彼女の料理がテーブルに並べられていく。といってもパスタとサラダ程度のもの
ではあるが。彼女がどうぞお召し上がりくださいと小声で言うのでこちらも
済みません、いただきますと小声で返事をした。
正直なところ、食欲は全く無かった。パスタは茹で過ぎのような気がしないでも
なかったが、それ以前に緊張と疲労で完全に参っていたからだ。
それでもせっかく好意で出された物は始末しなくてはいけないと思い、
頑張って口に運んだが、溜息ばかりが自然に出てくるのだった。

そんな風にしていると、テーブルの斜め向かい側、少し距離を置くようにして
座っていた彼女がまた「大丈夫ですか?」と聞いてきた。
いえ…と力無く答えると、今度は「何か大事なお話があるんじゃないですか?」
と聞いてきた。今の彼女の目には明らかに疑惑の色が浮かんでいる。

俺は覚悟を決める事にした。このまま気まずい時間をだらだらと過ごす気には
とてもなれなかった。
780770:02/04/07 01:10 ID:???
ドキドキ..
781768:02/04/07 01:27 ID:???
ダメだね、これ書いてる今もあの時の事思い出して緊張してる(w
それに自分のことばっか書いてるじゃないか…すんません。


さて、ここに来た本当の理由を打ち明けようと決めたはいいが
そうするとさっきの緊張がより強くなってもういちどぶり返してきた。
冷や汗は背中を濡らし、体は小刻みに震えていた。
そもそもこんなに緊張する筈では無かったし、緊張する謂れも無いのに。

彼女は相変わらず疑惑の視線でこちらを見ている。
俺の頭の中では言うべき事柄が半ダースほども浮かんでいたが、
口と喉はまるで他人のもののように重く、一言も発することが出来なかった。
昔からの悪い癖だった。本当に言いたい事、本心で思っていることほど口にできない。
そんな状態が数秒続き、嘘と沈黙は人間の大きな罪だなぁなどと
全く関係無い事が頭の中に浮かぶようになってきた。

しかしこのチャンスを逃せばもっと言いにくくなるのは解っていたのでとりあえず
言葉を発する事にした。「あ、あのー…ですね…。」
とりあえずこれでこちらに会話する意思があることは示せたわけだ。
後は何を言ったかはよく覚えてはいない。
とにかく突然訊ねてきたことを申し訳無く思う事、
彼女の母親が俺の母親でもあって、自分は一度だけでも会って見たくて来た、
ということを無我夢中で説明した。
782770:02/04/07 01:33 ID:???
いやいや、自分の心理描写は基本です!
萌えってのはあくまで気持ちですから
783768:02/04/07 01:49 ID:???

俺の説明があまりに支離滅裂であったらしく、彼女は初めはキョトンとしていた。
それともあまりに唐突な話しで簡単には信じられなかったのかもしれない。
だが何度も繰り返し説明していると、だんだん事情が飲み込めてきたようで、
何やら考え込んでいるような仕草をするようにもなってきた。

俺の話が一段落すると、彼女は震える声で「整理していいですか」と言った。
何を整理する事があるのかと思ったが、彼女は自分に言い聞かせるように、
ただし明らかに動揺を隠せない様子で話した。
「つまり、私の母はあなたの母で私とあなたは同じ母を持つ兄妹だと仰るんですね?」
否定するところなど一つも無い。俺は頷いた。

結局彼女に事実を伝えた後、気まずさは前以上になってしまった。
俺はまた何も話せないまま、彼女は何かを考えるように俯いたまま、
テーブルの上のパスタは殆ど手を付けられることなくどんどん冷めていった。
784770:02/04/07 01:55 ID:???
そりゃ動揺するわなぁ。
ところで妹さんは当時何歳?
768さんが二十歳だってのは書いてあるね。
中学生くらいかな?
785768:02/04/07 02:16 ID:???

長い沈黙を破ったのは彼女のほうだった。「えと…質問していいですか」
俺がどうぞ、と言うと「なぜ会いに来たんですか?私にも父親はいないけれど、
あまり会いたいとは思わないんです。」
いきなり一番答えにくい質問が来たので正直焦った。頭の中をフル回転させる。
こういう場合の対処法、まずい質問には質問で返す。まるっきり詭弁だ。
なぜそう思うの?と聞くと「だって怖くて…」とか細い声で答えた。
顔は思いきり沈んでいる。
俺は今度こそ答えに窮した。結局、歳を取ってくると自然にそうなるもんだ、
みたいな事を言ってお茶を濁した。これまたとんでもない詭弁だ。
止めど無い自己嫌悪に陥りながら、彼女の顔を正視できずに窓の外を眺めた。
海に近いマンションだった。夏の日本海は窓の向こう、太陽に照らされて青く
輝いていた。その光景はなぜかはっきり覚えている。

沈黙を破ったのはまたもや彼女のほうだった。「もう一つ質問していいですか?」
俺が頷くと少しは落ち着いたのか、こんどはかなりしっかりした、平常時に近い
声でこう言った。「Jさん(俺)が二歳のころに母は離婚したそうですが、
私、今17歳なんです。」
一回聞いただけでは俺には意味が掴めなかった。今何と言った?と聞き返すと、
彼女は「私と少し歳が近すぎるんです。」と言った。
786770:02/04/07 02:18 ID:???
文中に出てきたね。
俺へのレスはいいから続けてください
787768:02/04/07 02:36 ID:???

彼女が言うにはこうだった。私が母から聞かされている話によれば
母は二回の離婚をした、それで二回目の男との間に私をもうけた、
そして母は二人目の父親とも自分が生まれて間も無い頃に離婚した、
ということだった。最初の離婚の時期がいつだったかは定かではなかったらしい。
二度目の離婚は彼女が五歳のころだったということだ。

彼女と俺の年齢差は三歳。母が俺の父と離婚したのは俺が二歳のころ。
母親が不倫でもしていなければ母が俺の父と離婚するころには彼女は
母親の中にいなければならないくらいの計算になる。
ところが彼女は自分は母の二人目の夫との子だと主張する。

ややこしい話だがとにかく双方の主張にずれがあるのは確かだった。
「あのう…」彼女が申し訳なさそうに口を開いた。
「何か出生を証明するものとかはありますか?」
無い。俺はもううんざりしていた。当初の予定は完全に狂っていた。
そして当の母親は一向に帰ってこなかった。

788768:02/04/07 02:38 ID:???
>そして母は二人目の父親とも自分が生まれて間も無い頃に離婚した、

↑やや間違い。読み飛ばしてください
789なまえを挿れて。:02/04/07 02:45 ID:???
んん?ちとややこしいな。
ちょっと時系列並べてみようかな。えーと。。
790770:02/04/07 02:46 ID:???
↑770ね(^^ゞ
791768:02/04/07 02:48 ID:???
770さん、うまくわかりました?
792なまえを挿れて。:02/04/07 02:55 ID:???
もうすぐ島田しんすけが出てきて、
感動の再開があるのかな(;´Д`)

793770:02/04/07 03:02 ID:???
先にオチを言うわけにもいかんだろうから黙ってる(^x^)
ってゆーか、寝ますわ。。 また明日!
794なまえを挿れて。:02/04/07 16:23 ID:???
久々に楽しめそうな話がキタ━━━━━(゚∀゚≡゚∀゚)━━━━━!!!
楽しみにしてますよん。
795なまえを挿れて。:02/04/07 16:55 ID:???
スレが伸びてると思ったら・・・
ふむ〜、興味深い話です。続きがとても気になるので
楽しみに待ってます〜
796768:02/04/07 20:39 ID:???
今のところネタが枯渇しているようなのでsage進行で行く限り誰にも迷惑を
掛けないとは思うのですが、全然エロくない話が延々と続くことになりそうです。
鳥子さんみたいな展開を期待してはいけません(w
最後までエロくないので本当は純愛板でやるような話です。
しかもこの後暫く話の展開の関係上母親について延々と書き連ねることになります。
それでも読みたいという奇特な方はどうぞ読んでください。
ついでにたまに何か書いてくれると嬉しいです。流石に誰も読んでなさそうな
ものを書きつづけるのは辛いので(ww
797770:02/04/07 20:50 ID:???
続ききぼん!
798なまえを挿れて。:02/04/07 21:59 ID:???
 今日で春休みも終わり。
 春休みに北海道に帰るといっていた、前スレ52はその後、妹とどうですか? 温泉に行った?
799768:02/04/07 22:02 ID:???

(そういえばマンションの間取りは3LDKだったな。訂正。意外と広かった)

彼女がしきりに考え込む仕草をしていた原因は彼女が母親から聞かされていた
話と、俺が彼女にした話の間の微妙なずれだった。

二人とも離婚の状況に付いては時々肉親の口から漏れる断片的な情報しか
持たなかったためにこの時点では真相はわからず終いのままとなった。
仕方が無い事だ。自分の辛い過去を子供に話す親などあまりいないだろうし、
子供は子供でそんな事実には目をつぶっていたいと思うのが普通だろうから。

降って沸いた重大事件に彼女まで食欲を無くしたらしく、彼女は中身がほとんど
残ったままの皿を片付け、俺はまたテレビをぼんやりと眺めていた。
状況は昼食前よりも好転しているとは言いがたかった。
彼女は何をしても仕事が手につかない様子で、居間の空いたスペース、
大きな窓の前に敷いてある籐のマットに膝を抱えて座り込でいるようだった。
彼女は俺の後ろに座っているので様子を窺い知る事はできない。
ただ彼女が時折こちらに向ける視線は感じる事は出来た。
そしてその意味が気になった。彼女は俺をどう思っているのだろう?

何かAさんと連絡を取る方法は無いの?俺は聞いてみたが彼女は首を横に降った。
彼女によれば母親が時間に遅れることは滅多に無いらしかった。
800768:02/04/07 22:26 ID:???

それからどれだけの時間が経ったかはよく覚えていない。
二人とも殆ど黙りこくって身じろぎもせずに母親の帰りを待っていたのだろう。
テレビのBGMが無けりゃできないね、こんなことは。

俺はそんなことをしている間にうつらうつらしてきた。
単調な時間が続くとどんな状態でも人間は眠くなるもんだなぁなどと
考えていたその時、玄関のドアが開く音がした。
(田舎は昼間に鍵かけたりしない)
半分眠っていた俺は周囲の変化に素早く対応することが出来ずにいた。
玄関から聞こえてくるスーパーの袋の擦れる音、「ごめん、遅れた!」という
女性の声、立ち上がり玄関に向かう彼女の姿…。
ようやく目が醒めてきた俺はやっとのことで状況を理解した。
そしてほんの数秒の後、彼女に手を引かれてリビングに入ってきた中年の
女性と目が合った。今度は不思議に緊張は無かった。
801なまえを挿れて。:02/04/07 23:04 ID:???
768さん、
密かに楽しみにしてます。
続き禿げしくキボン。
802なまえを挿れて。:02/04/07 23:31 ID:???
下手な小説よりぜんぜんおもしろいねこれ!
エロくないけどドキドキする(・∀・)!
803768:02/04/07 23:32 ID:???

おそらくこの女性が母親なのだろう。女性はいきなり手を引いてきた娘に困惑
しつつも、俺を見とめると「あら、お客さん…」と言って軽く会釈して
スーパーの袋を持ってキッチンに入っていった。どうやら娘の客だと判断した
らしい。彼女(妹のことね)が後についていって小声で「違うんだってば!」
と声を上げると俺の方を不思議そうな目で見た。

俺はカウンターの向こうの母親に「お久しぶりです。Jです。」と言った。
母親はまるで何も聞こえなかったかのように俺のほうを見ていた。
だが忘れているはずも、間違えるはずも無い。
例え名前を忘れていたとしても、俺の一族の苗字はとても珍しい上に、
誰が見ても際立って特徴的で印象的だった。

母親はすぐに状況を悟ったらしく、小さな溜息をついてから苦笑いとともに
「お久しぶり。」と言った。
804768:02/04/07 23:50 ID:???

母親のイメージは想像とは随分違っていた。もう五十になる親父の老け込んだ
姿と、母親代わりの祖母の比較的若かったころの記憶から、どこにでも居そうな
やや肥満体の中年女性の姿を想像していたが、実際の母親はそんな印象は
全く無く、中年らしい落ち着いた服装をしているものの所帯地味た雰囲気すら
なかった。そして、親娘はそっくりだった。

俺はまず突然尋ねてきたことを丁寧に詫びた。だがその後に続く言葉が無かった。
不思議なものだ。言いたい事がある時は緊張して何も言えず、
緊張していない時は言うべき事が何も浮かんでこない。

言葉が見つからないのは母親も同じようだった。しばらくの沈黙の後、
「ちょっと待ってね。」と言って買い物袋の中身を冷蔵庫に詰め始めた。
妹は俺と母親を不安げに交互に見比べていた。
805768:02/04/08 00:35 ID:???

買い物袋の整理を終えた母親は立ちあがって腰に手を当ててまた小さく溜め息を
つき、突っ立ったままの俺の方に向き直って「悪いけど外に出ましょうか、
ここじゃ息が詰まるわ。」と言った。俺がわかりました、と言うと母親は
キッチンから出て、「Sちゃん(妹)も来て。」と言いながら玄関に向かった。
俺は母親と妹の後を追って玄関を出た。

いつの間にやら日は大分傾いてきてはいたがそれでも日光はまぶしく、
かなりの暑さだった。季節は夏の盛り、フェーン現象で日中の最高気温が
軽く四十度近くに達することもしばしばだ。生暖かい風が時折思い出したように
吹き抜けていく。空にはまばらに雲が浮かんでいた。

母親はマンションの扉に鍵を掛けると、目的地も言わずに歩き出した。
俺が後ろに続き、妹は俺の斜め後ろから少し距離を置くようにしてついてきた。
初めは俺はなぜ出歩かなければならないのか疑問だったが、母親がこうして気持ち
を紛らわせ、言葉が浮かんでくるのを待っているのだろうと予想した。
806770:02/04/08 01:07 ID:???
おぉ!想像とは違ったが、すげードキドキしてきた!
807768:02/04/08 01:40 ID:???

ゆっくりとした母親の歩みに歩調を合わせて2メートルほどの距離を保った。
俺は母親のこの一見おかしな行動には正直感謝していた。
とても再会してすぐに面と向かい合って話など出来るものではない。
気まずい雰囲気の部屋の中よりは、いまだ真昼の暑気残る田舎道のほうが
よほど好ましく思われた。

この街は日本海に面した小都市だ。人口は数万人、日本海側の諸都市の殆どが
そうであるように魚介類が名産である。海と山が接近しており、坂の多い街だ。
母娘のマンションは街の外れ、山の手の方にある。

俺達は人通りの少ない、と言っても地方都市というのはどこでも車社会で人通り
は少ないのだが――道を延々と歩きつづけた。大学の夏休みで東京から
帰ってきた俺にはこの田舎の、何の変哲も無い道が妙に新鮮に見えたものだ。
ここにはガムも落ちてなければピンクチラシも張られていない。
つつじや桜が青々と葉を茂らせていた。
季節になればとても綺麗な光景になるだろう。

母親の小さな背中を見つめながら歩いていると、これが本当に俺を生んだ人間
なのだろうか、という疑問が頭の中を掠めた。事実はそうだろう。だが実感は
依然として無かった。

俺達はまるで何かの儀式のように歩きつづけた。たまに後ろを振り返ると
そこにはちゃんと妹がいた。そして決まって視線を俺からずらした。
俺の中には三人でこのままずっと、永久に歩きつづけるのでは無いかという
不思議な感覚が芽生えていた。
そしてそれはそう悪くはない考えのような気がした。
808なまえを挿れて。:02/04/08 02:09 ID:???
つづきは?
寝てしまいましたか?
809768:02/04/08 02:11 ID:???
いえ、起きてます。今日はお休みですから。ちと思い出に耽っておりました。
遅いと思ったら催促してください。
ちなみに情景描写が多いのはこのときの光景が強く焼き付いているからです。
810770:02/04/08 02:14 ID:???
話の進展は、確かに長いけど、あきさせない内容なので良いです。
もしかして物書きさんですか?
811なまえを挿れて。:02/04/08 02:16 ID:???
>>809
あ,いや,ごめんなさい。
ゆっくりでいいですので,ご自分のペースで^^;
楽しみにしています。
とても文章が上手いと思います。
812768:02/04/08 02:32 ID:???

どれだけ無言で歩きつづけただろう。
途中、母親がタバコの自販機の前で暫く立ち止まり、セブンスターを一箱買った
以外はずっと歩き通しだったが、不思議と疲れることはなかった。
日はさらに西に傾き、その光はややオレンジに色づいてきていた。

気がつくと潮の匂いが辺りに満ちていた。道は細くなりながら防砂林の中に
通じており、向う側には日本海が見えた。暗く、所々日の差し込む防砂林を抜ける
と道は遊歩道に変わり、砂浜が広がっていた。遊泳区ではないらしく、
人の気配は無い。俺は潮の匂いと海と空の広さに圧倒された。
最後に海を見たのはいつだろう?東西線の車内から?
俺はたった二年間ですっかり都会人になってしまった自分に軽く失望した。

母親は近くの段状になっているコンクリートのブロックに腰を落とし、
ずいぶん前に止めたんだけどねと言いながらセブンスターに火を付けた。
俺は母親の左側に座り、妹は右側に座った。
母親は言った。「ごめんね、待たせた上にこんなに歩かせちゃって」
813768:02/04/08 02:36 ID:???
いえ、物書きなどではなくずぶの素人です。
普段は文章なんて一つも書きません。
実体験に基づいてないととてもこんなの書けませんよ。
814768:02/04/08 02:48 ID:???

俺は別に気にしてはいないことを告げた。

母親はタバコを一口吸い込み、ゆっくり煙を吐き出してから言った。
「ねぇ、片親がいないってどんな気分?」
「どうも何も、二歳のころじゃ覚えていませんよ。
 初めから無いものに喪失感なんて沸くはずがないじゃないですか。」
そう、と母親は言った。妹はもう視線をさ迷わせることもなくまっすぐ
こちらを見ていた。

「私の事、あなたのお家では何て言ってた?」
俺はありのままに話した。
根暗女、子を捨てていった、連絡の一つも寄越さない…。
母親はまた そう、と言った。
815なまえを挿れて。:02/04/08 02:50 ID:???
話に引き込まれるようだ…
816768:02/04/08 03:00 ID:???

「まぁ、大体その通りね。」母親は苦笑いして答えた。
そして一言一言、言い聞かせるように語り始めた。

私がTさん(父親)とうまくいかなくなった原因はね、端的に言って二つあるのよ。
一つは私に勇気が足りなかったことと、
一つはTさんに辛抱強さが足りなかったことね。

私が根暗っていうのは大体は正しい、けどそれが全てじゃないのよ。根暗では
あるけれど、明るく振舞うこともできる。わかる?そういう演技の部分も含めて
人間の性格は成り立ってると思うの。私には人生は前向きに生きなければ
いけないのはわかるけれど、どうしても後ろ向きにしか捉えられないのよ。
817768:02/04/08 03:19 ID:???

Tさんと出会ったのはお見合い。知ってた?知ってたの。まぁ当時はこの辺りじゃ
お見合いのほうが普通だったからね。彼は基本的にはいい人よ。
口数は少ないけど言う事にちゃんと理屈は通ってるし、随分不器用だけど
人並みの優しさは持ってる。

私があなたのお家に行ったとき、正直なところ少し戸惑ったわ。
あなたのお家、自営業でしょ?お店の仕事も家事も両方しなきゃならないから。
でも最初の頃はがんばってうまく行っていたのよ。

だんだん物事がうまく行かなくなって来たのはあなたには悪いけど、あなたが
生まれたころからなの。初めての育児に私はとても混乱していて、他の仕事が
全部おろそかになってしまったのよ。
818768:02/04/08 03:41 ID:???

私は内心随分落ち込んでいたけれどそれでも頑張ったわ。
でも何もかもうまくいかなくて。そんな時、お姑さん、あなたのお祖母ちゃん
にね、怒られたのよ。あの人はもう子供を三人も育てていたから私のうろたえ
ぶりを見てられなかったのね。気を悪くしないでね。今思えばあれはとても
正しいことだわ。でもね、当時の私には逆効果で、私はますます
落ち込んじゃったの。私はどんなに辛いときでも何でもないような顔をするのが
いつもの事だったから、お姑さんも私の状態をよくわかってなかったのね。
無論、私にも非はあるわけだけど。

それで私はとうとう居たたまれなくなってTさんに相談しようとしたの。
でもね、あの頃の私は言いたい事があっても中々口に出す事ができなかった。
Tさんも最初は聞いてくれる素振りをしていたけれど、そのうち話を聞いてくれ
と逝っておきながら何も話さない私に嫌気がさしてとうとう半ば愛想を尽かして
しまったの。
819768:02/04/08 03:42 ID:???
逝っておきながら → 言っておきながら

そろそろ寝るべきか…。
820なまえを挿れて。:02/04/08 04:04 ID:???
お疲れさまです。
この書き込みが気になって、寝れなかったんです。
はぁ、心理描写もしっかりして、こちらにビシビシ伝わって
すごいですね。

768さんもそろそろ寝そうなので自分も寝ようかな
821770:02/04/08 08:38 ID:???
おはようさんです。ここまで読みました。
きっとまだ寝てますね。お疲れさんです(^^)
>819はご愛嬌ってことで(w

>813に、なっとくです。
よほど強烈な出来事だったからはっきり覚えてるってことですよね。
>820さんの言うように、気持ちがしっかり伝わってきますよ。
なんかプロのエッセイ読んでるような気がしてます。

無理の無いペースで続けていただけたら、と思います。
822768:02/04/08 20:48 ID:???
820さん、770さん読んでくれてありがとう。

しかし出会いの部分だけでもこれだけの長さになろうとは…
この先相当長丁場になりそうなので気合入れていきます。
823768:02/04/08 21:24 ID:???

日本海は演歌のせいで荒い海というイメージが付いて回っているが、
それは冬の間だけのことで、本来日本海は太平洋と比べるととても穏やかな海だ。

内陸部で育った俺にとっては海はいつもこちらが客人として訪れる場所であり、
非日常の世界だった。ここでは日本中の空間を埋め尽くしている車の走行音や
空調機の音はほとんど聞こえず、穏やかな波の音は微かに聞こえるそれらの
音を掻き消し、ある意味ではまったくの静寂の世界を作り出す。
その静寂の中で夕日に染まりつつある広大な海と空を眺めていると、
まるでこの世には海と空しか存在しないような気がしてくる。


私は自分の気持ちを誰に伝える事も出来ずに何もかも自分で抱え込むことに
なってしまった。このままじゃダメだ、とは思っていたんだけどどうする事も
できかったわ。そうして私とTさんの心はゆっくりと離れていったのよ。

そしてあなたが二歳と数ヶ月になったあたりで私はとうとう抱え込んだものの
重さに耐えられなくなった。赤ん坊のようにただ泣くばかりの私を見て、
さすがに異変を悟ったTさんとお姑さんとお舅さんは私になぜ泣くのか
訊いてきたわ。でもね、何も言えないのよ。まるで小学生みたいね。
今ならばうつ病だとかそういう風に考える事もできるんだろうけど、
当時は世間では心の病なんてものに対して感心はなかったし、
お姑さんとお舅さんは戦前生まれの合理主義者でしょ。戦争を生き抜いた
あの人たちはとても強い人達で、私の弱さを理解できなかったのね。
そしてTさんもそういうところを色濃く受け継いでいた。
824770:02/04/08 21:33 ID:???
今帰ってきました。早速続きがありますね!
私は別に長くなってもかまいませんよ。
どこまでもついていきます。たとえ新スレでも!
825768:02/04/08 21:42 ID:???
訂正。
対して感心は → 大して関心は
826768:02/04/08 22:01 ID:???

こんな状態が何日続いたのかしらね。お姑さんとお舅さんは私の事を奇異の目で
見るようになってしまった。そしてTさんも何も言わない私を理解できずに
完全に投げやりになってしまった。
思えばあれが最後のチャンスだったのよ。あの時点からでもまた生活を立て直す
ことができたはずだったのに、私には想いを言葉にする勇気がなかった。
そしてTさんは私が勇気を出せるようになるまで待てなかった。

とうとう我慢できなくなった私は身一つで家を出ていった。
これは信じて欲しいんだけど私が月曜の朝早く家を出るときに、あなたを
起こして訊いたのよ。お母さんと一緒いたいかって。
あなたは私を怯えた目で見るだけで何も言わなかった。
私はとても悲しくなったけれど内心ほっとしたわ。あなたを育てる自身が
まるで無かったから。
その後は裁判にもならずに書類だけで離婚。
お姑さんもお舅さんも電話で私をさんざんなじったわ。

でも勘違いしないでね。誰が悪いとかそんなことを言ってるんじゃないのよ。
827768:02/04/08 22:30 ID:???

母親の足元にはほとんど吸われることなくあらかた灰になってしまったタバコが
既に何本か落ちている。母親はまた新しいタバコを一本取り出し、
火をつけて一口吸いこみ、ゆっくりと吐き出した。

「ねぇ、お母さん」
今まで神妙な顔をして話に聞き入っていた妹が突然口を開き、二番目の夫の
子である自分と兄の年齢差が三歳しかない件について訊ねた。

「ああ、それはね…」
しばらくの沈黙の後、母親は再び一言一言を吟味して、紡ぎ出すように
語りはじめた。

実家に帰った後も苦しみは終わらなかった。今度は私は罪悪感に苛まれるように
なったのよ。子供を置いてきたことはもちろん辛かったけれど、
それと同じくらいTさんが何も言ってこないのが辛かった。
彼は深く傷ついていたのね。恐らくは私と同じくらいに。
そして私のお母さんも。私のお父さんが死んでまもなく私がお嫁に行って
一安心したところに酷い状態で娘が帰ってきたものだから、私のことで
うろたえきってご飯も喉に通らなくなっちゃった。
828768:02/04/08 22:54 ID:???

そんな時だったわね。Sちゃんを身ごもっていることに気づいたのは。
最後にTさんと寝たのはいつだかわからない。あの頃の私は精神的に参ってて
半分夢遊病みたいなものだったから記憶がずいぶん抜けてるのよ。

今思えばずいぶん勝手な理屈だけれど、私はSちゃんを神様からの贈り物だと
思ったわ。J君には怒らないで欲しいんだけど、Sちゃんを育てて、
同時に私自身も変わることで私の罪を少しでも償う事ができたら、
って思ったのね。

そして産婦人科に通うようになった頃かしら。あの人に出会ったのは。
出会うきっかけは大したものではなかったけれど、初めて会ったその日なのに
彼は私の愚痴を聞いてくれたの。それも延々と何時間も。
私が彼にそんな風に話す事ができたのは行きずりの気軽さからだったけれど、
それでも私はとても嬉しかった。たった一日で今まで溜め込んできたものを
随分吐き出す事ができたような気がしたわ。
829820:02/04/08 23:19 ID:???
こんばんわ
導入部分でこの長さですか。
なるほど、768さんが、その時受けた衝撃がとてつもなく大きかった事が窺えます
そのときの状況をこれだけ細かく、しかも詳細に覚えているんですから
さて、それでは続きを期待して続きを待ちますか。

新スレに移行する際は、板替えた方が良いでしょうね
830770:02/04/08 23:23 ID:???
>829
そうですね。ってか、今から新スレたててもいいかもね。
で、なぜか感想はここに書く、とね(w
831768:02/04/08 23:27 ID:???
実を言うと結構忘れていたんですが、
一度書き始めるとどんどん思い出してきます。無論補完してる部分はありますが。

ここ二、三日仕事も適当にして思い出にひたりきりですね。
いつか自分のうちでも整理しておかなければいけないと思っていたことなので
これをいい機会だと思って頑張って書こうと思います。
832770:02/04/08 23:33 ID:???
>831
ん。自分史として記録しておくって感じでしょうか。
833808:02/04/08 23:36 ID:???
>>831
(・∀・)イイ!
ゆっくりでいいのでよろしくお願いします。
834768:02/04/09 00:05 ID:???

その後彼と私は付き合いを深めるようになって、Sちゃんが生まれるしばらく前に
結婚したのね。彼はSちゃんを自分の本当の子供のように可愛がってくれて。

ごめんね、悪気があって嘘をついていたわけじゃないのよ。Sちゃんは彼のこと
を覚えているでしょう?だからせめて実の親だと思っていて欲しかったの。

J君のことは忘れたわけじゃないの。Sちゃんを見るたびいつもJ君のことを
思い出していた。でもJ君には私のことを忘れてもらわなければいけなかったのよ。
だから敢えて手紙も何も出さなかった。

俺達兄妹は身じろぎもせずに話を聞いていた。
これで真相は明らかになったわけだ。

母親は突然立ちあがり、俺達は母親を見上げた。

そう、あななたちは兄妹なのね。正真正銘の。
二人目の旦那のことはいつかまた機会があったら話すわ。

帰りましょう!J君、どうせ学生で暇なんでしょう?
今日は予定変更して鍋にするわ。お昼ご飯全然食べてないんでしょう、
言わなくてもわかるからね!

母親はそう早口でまくし立てると元来た道のほうへ歩いていった。
俺達は急いでその後を追った。

日はもうほとんど暮れかけており山の向うに沈んだ太陽の光が、雲を下側から
赤く染めていた。海は既に暗く、海岸線の向うに灯台の明かりが見えていた。
835820:02/04/09 00:10 ID:???
>>830

まだまだ、長丁場になるようなので、新スレ建てるのは賛成なのだが
この内容がどの板に一番適してるのかが悩みどころ
ただ、移行するなら全員で移行しないと、荒れる原因になるから注意した方がいい

>>831

一度思い出すと、取り留めなく記憶が甦ってくるって状況ですね
ただ、お仕事の方を疎かにして、ミスったりしないようにしないといけませんよね
ん〜記録を残しておくのは良いと思いますよ。
自分には、書き残しておくような事象がないのが悲しいです
836なまえを挿れて。:02/04/09 00:15 ID:???
このスレに常駐してた者なんですが、
新スレはこの板に「兄妹萌え」満喫スレPart2とかで良いんじゃないでしょうか?
このスレ使い切るんだったら、どうせ新しいスレ立てなきゃならんし。
どうでしょうか?
837なまえを挿れて。:02/04/09 00:18 ID:???
なかなか落ち着いた、いいお母さんじゃないか。
838768:02/04/09 00:20 ID:???

海からの帰り道、三人の距離は物理的にも、それ以外の意味でも多少なりとも
縮まったような気がした。行きとは違ってやや早足で歩く母親の顔は暗くて
よくわからなかったが、恐らくすがすがしい表情が浮かんでいたことだろう。

途中で母親が鼻歌を歌っているのに気がついた。
何を歌っているのか初めはわからなかったが、サビの特徴的なメロディーで
何の曲か解った。
Ticket to Rideだ。
それにこの甘い旋律はビードルズのものではなくカーペンターズのものだろう。

He's got a ticket to ride. 頭の中で繰り返してみた。

そういえばあの二人も兄妹だったな。
839770:02/04/09 00:25 ID:???
>835
さっきは「新スレもいいかも」と書きましたが、
決してスレ違いな内容ではない(と思ってる)ので、
このままここを使い切るのがいいと思いますよ。

もし別の板といっても、どこがいいのでしょうね?
あんまり他を知らないもので(^^ゞ

つまり>836に禿胴ってことで。
840768:02/04/09 00:37 ID:???
私自身も随分悩ましいです>新スレ
エロくない話を過激恋愛板でやるってのがそもそもの間違いなんでしょうが…

皆さん(といっても何人いるのかわからないけど)に
意見を出してもらえると嬉しいです。
841なまえを挿れて。:02/04/09 00:50 ID:???
私も>836に禿同です。
少なくとも兄妹は出てくるわけだし、いいのではないでしょうか。
768さん、続き楽しみにしてます。
842なまえを挿れて。:02/04/09 00:53 ID:???
おれもこのままでいいと思う・・・。
いい感じでマターリ進行してるし。
843768:02/04/09 00:59 ID:???

鼻歌は最後のあたりでは小声だが普通の歌に変わっていた。
母親は何を思って別れの歌を歌っているのだろう。
半分以下の人生しか送っていない俺にはなかなか想像がつかなった。

日はまだ完全には没していなかったが空は限りなく濃紺色に近かった。
暗い田舎道を切れかけた街灯が照らしている。
その周りには沢山の虫がたむろしていた。

「ねぇJ君、言い忘れてたけど私、あなたを試してたのよ。」
母親が突然言った。俺は何の事かわからなかっが、外を散々歩き回ったのは
俺の意思と辛抱強さを試そうという目的もあったらしい。俺は苦笑いするしか
なかった。

「結局はね、信じることなのよ。何事においてもね。
 信じるのはとても難しいことだけれど、信じられなくなったら終わりよ。」

俺は突然母親が自分に言い聞かせるように言ったこの言葉の意味を理解しかねた。
しかし今にしてみればこの言葉が俺の人生と俺達兄妹の運命を大きく動かした
ことは間違い無い。
844820:02/04/09 01:04 ID:???
このスレで進行って意見が多いようですし
ここの住人さんも、そうおっしゃってますから自分もそれに従いますね
マターリ進行が一番ですからね

ではこの辺で、名無しに戻りますか
845768:02/04/09 01:09 ID:???
みなさんありがとうございます。

それにしても人間の記憶力って凄いもんですね。一度思い出が溢れ出すと
どうでもよさそうなことまでどんどん思い出してくる(w
今Ticket to Rideを聞きながら続きを書いてます。
846770:02/04/09 01:10 ID:???
じゃー私も七誌に戻りましょう。
それにしても>843の最後の3行が気になるよ〜!

今日、まだ書きます?
847なまえを挿れて。:02/04/09 01:20 ID:???
すげー気になるので、その日のラストは宣言して欲しいなぁ。
って、シンジスレみたいだ(w
848768:02/04/09 01:32 ID:???

マンションに着いた頃には酷い空腹と足の疲れでフラフラになっていた。
東京にいたころでもこんなに歩いた事は無い。しかも帰りは上り道だ。
ところがこの母娘はまだピンピンしていた。俺は少々情けない気分になった。

マンションの中に入り、灯りを付けた母親はこっちを振り向いて素っ頓狂な
声を上げた。「うわっ、すごい日焼けしてる」
真夏の道を何時間も歩けばそれは日焼けもするだろう。
妹も自分の腕をしげしげと眺めていた。
「若いうちはいいんだけどね、年取るとひりひりして痛いのよこれが。
 日傘もってくべきだったわ。」
などと母親は言いつつ、
「とにかくシャワー浴びてきなさい。私は準備しておくから」
ということになった。風呂は当然の事ながら沸かす暇がない。
お客様待遇でまず俺が妹より先に入ることになったが、母親はしきりに着替えが
無い事を謝っていた。母子家庭ではしかたあるまい。まぁ男はこういうこと
には大してこだわらないものだ。

俺はなるべく早く終わらせることにのみ集中したため、
10分と経たずに出てきて、母親を少々呆れさせることになった。
次に妹が入り、最後に母親の番となった。
849768:02/04/09 02:10 ID:???

「先に始めておいてね」と母親は言い残して風呂場に向かった。

俺は昼間に座ったのと同じ椅子に座り、彼女も昼間と同じ斜め向かいの椅子に
座った。こうして二人きりになるのは数時間ぶりだった。俺にはその数時間が
長いようにも短いようにも思えた。

風呂上りの女性は色っぽいとはいうが、俺はなるほど真実だなと思った。
どこが違うかをはっきり言う事はなかなか難しいが、赤みを帯びた頬と
乾かしてもまだ湿気を帯びた髪、そして何より石鹸の香りがとても心地よかった。
そして着替えてきた服もとてもさっぱりしていて自然に彼女に似合っていた。
この母娘はとてもいいセンスをしているなぁと思った。
それに比べて俺ときたら服飾のことはほとんど何も知らない。

テーブルの真中にはカセットコンロとアルミ鍋。周りには肉だの野菜だのが
用意してあった。すき焼きのたれが置いてあるところを見るとこれはすき焼き
なのだろう。しかし肉の半分は豚肉だったし、茹でたほうれん草まで
置いてあった。なるほど予定変更してあるらしい。出汁は既に取ってあった。

いつまでも黙っていても始まらないので「じゃあ、始めようか」俺は言った。
妹は戸惑い気味に頷いた。
実家の鍋奉行は父親の仕事だった。父はよく理屈っぽく言っていたものだ。
「まず豆腐、糸コンニャク、白菜、しいたけ」
俺が口に出しながら鍋の中に食材を詰め込んでいく様子を妹はじっと
見つめていた。
850768:02/04/09 02:36 ID:???

あんまり熱心に見ているものだから「珍しい?」と訊いてみた。

「ええ。お祖母ちゃんが亡くなってから一度も食べてないんです。
 お母さんも夜は遅いし…」

いきなりまずい話題だった。確かに一人で鍋物というわけにもいくまい。
昼には気づかなかったが居間と繋がった和室の奥にごく小さな仏壇らしきものが
置かれていた。

「そう…」俺はなんと言っていいものか見当がつかなかった。
こういう話題のこなし方なんて知らなかったし、それ以前に俺は女の子とは
ほとんど会話を交わしたことなどなかった。
当時の俺には女の子なんて生き物は一万光年くらい離れたところに生息
しているような生物だった。どうしても間が持たない。

「でも、美味しそうですね」
彼女はそう言ってまたぎこちなく微笑んだ。
「そうだね」
俺も微笑んだつもりだったがおそらく苦笑いに見えたことだろう。
851768:02/04/09 02:51 ID:???
うーん、今日はこれでお終いと言う事で。
みなさんどうもありがとうございました。
852なまえを挿れて。:02/04/09 03:12 ID:???
768さん、お疲れ様でした
また明日も、よろしくおねがいしますね
853なまえを挿れて。:02/04/09 08:08 ID:???
オニーチャン(*・∀・*)エッチー!!
http://choco.2ch.net/test/read.cgi/mona/1014941794/
854768:02/04/09 21:44 ID:???
訂正。

そう言ってまたぎこちなく→そう言ってぎこちなく
855なまえを挿れて。:02/04/09 22:11 ID:???
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
856768:02/04/09 22:24 ID:???

それでも俺はずいぶん安堵とした。
昼から殆ど喋らなかった無口な彼女が微笑んでくれただけでも大きな
進歩のような気がしたからだ。
そして彼女の微笑みは目の細め方がとても素敵だった。

鍋がいい頃合になるのとご飯が炊き上がるのと母親が風呂場から出てきたのは
ちょうど同じ頃だった。
「あら、待っててくれたの。美味しそうじゃない、
 やっぱりお鍋は大人数で食べないとね。ご飯沢山炊いたから頑張って食べてね」
そういいながら母親はお椀にご飯を盛り付け始めた。
三人が食卓につき、いただきますと言って暫くしてから母親が思い出したように、
「ねぇJ君、お酒飲める?」と言った。
「飲めますけど」「ごめん、そうじゃなくて車で来た?」
「いえ、自転車です」「電車じゃなくて?」
「ええ」

母娘はあっけに取られているようだった。帰省のついでに寄ったのだとしても、
俺の実家からこの町まで二、三十キロはあった。
しかし当時の俺は自転車に乗るのが趣味で、その気になれば一日に百五十キロ程度
も走る事ができた。実家とこの街では片道一時間程度しかかからない。
俺はゆっくり帰るから少しぐらい酔っ払っても大丈夫だと言った。

母親は可笑しそうにそう、自転車が趣味なの、と言ってスパークリングワイン
の壜とグラスを三つ持ってきた。
「貰い物なんだけど、このお酒は持たないから飲めなくって。
 今日はお祝いだから、Sちゃんも少し飲んでみる?」

マドンナ(多分マドンナだと思うけどなぁ)の栓を抜いたのは俺だった。
栓を抜いて母親に渡すと、自分と俺のグラスになみなみと注ぎ、
少しと言ったくせに妹のグラスにも同じくらい注いだ。
857768:02/04/09 22:53 ID:???

「乾杯!」
母親がそう言うと三人ともグラスを掲げ、一口ワインを飲んだ。
妹は馴れないアルコールの味に戸惑っているようだった。しかし、
母親は酒の飲める人だと聞いていた。俺も日本酒一杯程度ではなんともない。
父親も下戸ではないので妹も恐らく人並み以上には飲めるだろう。

母親はといえば実に楽しそうで、俺は子供二人と酒を飲む母親には特別な感慨が
あるのだろうと思った。
「そう、趣味といえばね、Sちゃんは絵を描くのが得意なのよね、J君は?」
「小学校のとき、教育委員会から表彰されて、後はそれっきりですね」
「そうなの」母親は笑った。予想と違い実に表情豊かな人だ。これは本当に
演技なのだろうか?「Sちゃん、あとであの絵見せてあげたら?」

妹は恥ずかしそうに「うん…」とだけ答えた。
あとで見せてもらった絵は何かのコンクールに入賞した絵らしく、果物を描いた
静物画だった。絵のことはよくわからないが、意外と力強いタッチで
描かれていた。俺は正直に絵のことはわからないが、とてもうまく描けていると
思う、と言った。
妹はまた恥ずかしそうに「ありがとう…ございます」と言った。
858768:02/04/09 23:18 ID:???
(とほほ…今のところは完全に家族ドラマだなぁ)

すき焼きは空きっ腹にはとても美味しく感じられた。
ただ急な変更があったとはいえ多少イリーガルな具材が多く、
この母娘は視覚的なセンスはともかく料理に関しては
少々問題があるような気がした。

食事中は主に母親が話をリードして俺達兄妹がそれに答えるという形だった。
三人でいるときはずっと後になるまでこんな調子だった。
食事の間、俺はずっと質問されっぱなしだった。学校のこと、進路のこと、
好きな食べ物、愛読書、恋人はいるのか…。
俺は少々照れくさかったがどの質問にもできるだけ答えた。
最後の質問は無論NOであった。

妹のことについてわかったことはそう多くなかった。
県内屈指の名門高校に通っていること、学校では(当然ながら)美術部にいること、
血液型はAB型であること、蟹座の生まれであることぐらいだった。
859なまえを挿れて。:02/04/10 00:07 ID:???
で、実のところ妹たん可愛いの?
860768:02/04/10 00:29 ID:???
(読んでる方はたまにでもいいので何か書いてくれると嬉しいです。
 とても励みになりますので。)

鍋と炊飯器の中身はほぼ空っぽになった。
ワインの壜の中身は完全に無くなっていた。
「こんなに食べたのは久しぶりね、やっぱりみんなで食べると美味しいわ」
そう母親は食器を片付けながら呟いた。
それはそうだろう、普段は一人、休日でも二人ならば僅か一人増えただけでも
随分な違いである。俺も運動した上に昼を殆ど食べなかったために普段より
随分沢山食べたような気がする。

妹のほうを見るとワインを入れたグラスが空になっていた。
甘く、飲みやすい酒なので初めての彼女でも飲めたらしい。
ビールの倍ほども強い酒だがその割に酔ったような雰囲気ではなく、
頬が少し高潮している程度だった。どうやら彼女も酒が飲める体質のようだ。
視線が合うとまた微笑んでくれた。

夕食が終わると俺は何もする事が無くなってしまったのでそろそろ帰ることにした。
その旨を伝えると母親は泊まっていってもいいのよと言ったが俺は固辞した。
あまり世話になるわけにはいかないし、それに曲りなりにも帰省中の身である。

二人がマンションの外まで見送りに来てくれることになった。
861768:02/04/10 00:33 ID:???
>>859
私は女性の美醜についてどうこう言うのは苦手ですが、
私と違って母親似でなかなかの美人です。
862なまえを挿れて。:02/04/10 00:39 ID:???
ふむふむ。帰ってしまうのかぁ。
863768:02/04/10 01:03 ID:???
(まぁずいぶん先は長いです、念のため定期的に(笑)言っておきますがエロ無しです)

マンションの出口の近く、駐輪場のあたりで別れることとなった。
海からの帰りには気づかなかったが星がとても綺麗だった。
ほんの少しでも都会に行くと見えなくなってしまう天の川がくっきりと見える。

この辺は暗いから気をつけてね、と母親が言った。
俺が今日の礼を言い、自転車に跨ろうとすると、妹が突然「あのっ…!」
と言い、俺を引きとめた。
「また来てくれますか、お兄さん」
表情は暗くてよくわからないが真剣な声だった。
また来るかどうかはあまり考えていなかった。それ以上に突然お兄さんと
呼ばれたことに俺は戸惑った。俺は思わず母親の方を向いた。
「あなたはもう大人なんだから、自分で決めなさい」

一瞬の逡巡の後、俺は「もちろん」と答えた。断る理由も無かった。
「さよなら」そう言って自転車に跨ってマンションを後にした。
二、三回俺は振り返ったが随分長い間見送ってくれているようだった。
864なまえを挿れて。:02/04/10 01:05 ID:???
家族ドラマ、良いじゃないですか
続き、待ってますよ
865なまえを挿れて。:02/04/10 01:19 ID:???
第一部・完 って感じ?
長くなるのは大丈夫です。きっとみんなも。
それこそ次スレを使い切る勢いでいってみよう!(w
866859:02/04/10 01:30 ID:???
>>861
そかそか。よかったな、きれいな妹ができて(w
867768:02/04/10 01:33 ID:???

帰りの国道で俺は今日一日を振り返っていた。
道はほとんど曲がることなくどこまでも真っ直ぐ続いている。
もうだいぶ夜も更けて来たというのに交通量は未だに多い。
真夏の夜の生暖かい風を受けながら俺はゆっくりと走りつづけた。
無数のテールランプが俺を追い越し、遠ざかっていく。

多分、俺は幸福なのだろう。片親しかいない自分が不憫だと思った事は一度も
無かった。ただ、母親の存在に漠然とした憧れはあったろう。
俺はそれを興味と、父親への反発に置き換えて母親に会いに行ったが、午前中、
往きの道では手ひどい拒絶を受ける想像しかできなかった。
それがどうしたことか。
俺は食卓をあんなに暖かいものと感じたのは随分久しぶりだった。
実家では食卓の話題は不況がどうした、従業員がどうしたと仕事の愚痴ばかり、
高校の時分に父親との仲がうまく行かなくなってからは恒常的な俺への非難も
加わっていた。
俺は片親がいない人間のなかでもとび切り幸福な例なのだろうと思った。

そして妹が出会って一日しか経っていない俺を「お兄さん」と呼んでくれた
意味についても考えた。随分打ち解けたとはいえ、俺はまだ母親のことを
お母さんと呼ぶ気にはなれなかった。俺は暫く考えた後、この問題を
留保しておくことにした。

俺は結論を出した。来て良かった。心地よい疲労感に包まれながら俺は
夜の国道をひたすら真っ直ぐ走った。ペダルは羽根のように軽かった。
868なまえを挿れて。:02/04/10 01:43 ID:???
今後の展開に期待!
869768:02/04/10 02:16 ID:???

母親のもとを訪ねたことを俺は家人には秘密にしていた。
あれから二週間ほど経っただろうか。俺が東京に帰る日が近づいていた。
俺はもう一度あの母娘をに会いに行こうと思いつき、思いついた瞬間に愕然とした。
電話番号を聞いていなかったのだ。手紙を出していたのでは返事が来る事には
俺は東京に帰らなければならない。結局また日曜日の朝、もう一度何の連絡も
無く母娘のマンションを訪ねることになった。

国道を全速力で走りきり、道程を四十分程度で消化したころには午前九時ごろに
なっていたと思う。二人とも居るだろうか。夏はいまだ盛りを過ぎていなかった。
日は既に高く、日光は焼けるようで、俺はマンションの前に着くころには
汗まみれになっていた。

心臓の鼓動がまだ収まらないうちに呼び鈴を押すと、暫くの間を置いて扉を
開けたのはまたしても妹だった。俺はおはよう、と言ってまた連絡も無く
やってきたことを詫びた。妹は驚きを隠せない様子だったが、
すぐににっこり微笑んで「おはようございます」と言い俺を中に入れてくれた。
870なまえを挿れて。:02/04/10 02:23 ID:???
ちょっと表現が村上春樹っぽくなったりするなぁ、なんて勝手な感想を抱いてみたり。
会話とか、誠実で清潔な感じがしていいですね。
これでしばらく退屈しないですみそうです(´∀`)
楽しみにしてます。
871768:02/04/10 02:50 ID:???
>>870
鋭い(笑) あの文体は何かにつけ気楽でいいんですよ(w
書きやすいから自然に似てきてしまいますね。


部屋に入ると母親の姿は無かった。
Aさんは?と聞くと「まだ寝ているんです」ということだった。
俺は未だにこの人が何の仕事をしているのか知らない。
俺は興味が無かったから聞かなかったし、母娘は何も言わなかった。

「もう少しで起きてくると思うけど、起こしましょうか?」と彼女が言うので
俺はいや、いいよと言った。俺は部屋の中を見回した。どこの家庭にもその家庭
なりの空気があるものだが、実家の少々雑然とした雰囲気に馴れている俺には
この清潔な家には不快ではないにしろ少し違和感を感じた。

彼女がタオルを持ってきてくれた。よく気の利く子だ。
タオルで汗を拭いているとテーブルの上に逆さに置かれた文庫本に気がついた。
草臥れた表紙と黄ばんだページの色からしてどこかの図書館から
借りてきたのだろう。よく見ると、高樹のぶ子の「光抱く友よ」という本だった。
872なまえを挿れて。:02/04/10 02:52 ID:???
>768サン
マジで期待しています
なんかいいなぁ〜こういうの
873768:02/04/10 03:12 ID:???

俺はその本を読んだ事があった。学校の図書館で書棚の隅に忘れ去られたように
置いてあったものを、暇つぶしと割り切って授業中に隠れて読んだ。
女同士の友情がテーマだった。明るい話ではないが、悪くない話だった。

俺は自分もこの本を読んだ事があるが、どうだった?と聞いた。
彼女は少し戸惑った様子だったが、
(この本には少なからず性的な表現も入っていためだろうか)
暫く考えた後、
「私、友達があまり多くないから、羨ましいと思います」と答えた。

俺は そう、と答えただけだった。
この答えにその時は大して関心を抱いてはいなかったが、今にして思えば
この年頃の女の子が友達が少ないというのは奇妙なことだった。
男ならともかくとして、十代の、いやそれ以外の世代でも女性は常に
交友関係が広い。そして多くはその交友関係に少なからず依存しているものだ。
彼女は確かに内気ではあったが、素直な性格ではあったし、
そんなに友達のできないような印象ではなかった。

彼女はコーヒー・ポットからコーヒーを一杯注いで出してくれた。
この家ではほとんど常時コーヒー・ポットに多かれ少なかれコーヒーが
入っていた。そのため、(書き忘れてたけど)玄関を開けるといつも
程度の差こそあれコーヒーの匂いが漂ってきた。
874なまえを挿れて。:02/04/10 03:31 ID:k7zC8Xe6
ベンクイック…
875768:02/04/10 03:33 ID:???

俺は実はコーヒーが好きではない。あのいつまでも口の中にへばり付く苦味が
どうしても好きになれなかった。そんなわけで俺は紅茶党で通していたが、
出してもらったものを拒絶するわけにもいくまい。

彼女はポットの中のコーヒーをそのまま出してくれたが、俺はクリープと砂糖
を頼み、それをしこたまコーヒーの中に入れた。
「甘党なんですね、お兄さんは」
その光景を見ていた彼女がポツリと言った。正確にはそうではない。しかし、
俺はお兄さんと呼ばれたのが恥ずかしくて何も言い返せなかった。

俺は大量のクリープで白くなったコーヒーを飲んだ。甘い。底にはさらに大量の
砂糖が溜まっていることだろう。テレビは相変わらずNHKだった。
一日中NHKを点けるのは実家と同じ習慣だ。

俺はこの前に比べると幾分リラックスしていた。もちろんお兄さんと呼ばれる
ことに気恥ずかしさはあったが、彼女との会話は言葉数は多くは無いものの
かなりスムーズに出来るようになっていた。案ずるより生むが易し。
俺は今後ともこの母娘とうまくやっていけそうな気がした。
876768:02/04/10 03:43 ID:???
では今日はこの辺で。
おやすみなさい。
877なまえを挿れて。:02/04/10 03:59 ID:???
>>876
また読まされた^^;
期待してます。
おやすみなさい。
878なまえを挿れて。:02/04/10 04:19 ID:???
こんな時間まで起きちゃったよ。眠い眠い。
768さん、明日もがんばってな〜。
879768:02/04/10 21:47 ID:???
(真夜中に書いてたせいか明らかに書き忘れたことがあるので訂正します。
 873、875は無視してください。)


俺はその本を読んだ事があった。学校の図書館で書棚の隅に忘れ去られたように
置いてあったものを、暇つぶしと割り切って授業中に隠れて読んだ。
女同士の友情がテーマだった。明るい話ではないが、悪くない話だった。

俺は自分もこの本を読んだ事があるが、どうだった?と聞いた。
彼女は少し戸惑った様子だったが、
(この本には少なからず性的な表現も入っていためだろうか)
暫く考えた後、
「私、友達があまり多くないから、羨ましいと思います」と答えた。

俺は「そう、俺も友達少ないけどね」と答えただけだった。
この答えにその時は大して関心を抱いてはいなかったが、今にして思えば
この年頃の女の子が友達が少ないというのは奇妙なことだった。
男ならともかくとして、十代の、いやそれ以外の世代でも女性は常に
交友関係が広い。そして多くはその交友関係に少なからず依存しているものだ。
彼女は確かに内気ではあったが、素直な性格ではあったし、
そんなに友達のできないような印象ではなかった。

彼女はコーヒー・ポットからコーヒーを一杯注いで、こちらを振り返った時には
しまったという顔をしていた。真夏の道を汗を掻きながらやってきた人間に
温かいコーヒーを出すのはどう見ても変だった。

俺はかまわないから、と言ってコーヒーを受け取った。
この家ではほとんど常時コーヒー・ポットに多かれ少なかれコーヒーが
入っていた。そのため、(書き忘れてたけど)玄関を開けるといつも
程度の差こそあれコーヒーの匂いが漂ってきた。

実家でも事情は似たようなもので、俺の一族の人間は実によくコーヒーを飲む。
大抵は市販のペットボトル入りだが、休日の朝には例え真夏だろうが淹れたての
温かいコーヒーを飲むのが習慣になっていた。
880768:02/04/10 21:53 ID:???
ところが俺はコーヒーが好きではなかった。あのいつまでも口の中にへばり付く
苦味がどうしても好きになれなかった。そんなわけで俺は紅茶党で通していたが、
せっかく出してもらったものを拒絶するわけにもいくまい。

彼女はポットの中のコーヒーをそのまま出してくれたが、俺はクリープと砂糖
を頼み、それをしこたまコーヒーの中に入れた。
「甘党なんですね、お兄さんは」
その光景を見ていた彼女がポツリと言った。正確にはそうではない。しかし、
俺はお兄さんと呼ばれたのが恥ずかしくて何も言い返せなかった。

俺は大量のクリープで白くなったコーヒーを飲んだ。甘い。底にはさらに大量の
砂糖が溜まっていることだろう。テレビのチャンネルは相変わらずNHKだった。
一日中NHKを点けるのも実家と同じ習慣だった。

俺はこの前に比べると幾分リラックスしていた。もちろんお兄さんと呼ばれる
ことに気恥ずかしさはあったが、彼女との会話は言葉数は多くは無いものの
かなりスムーズに出来るようになっていた。案ずるより生むが易し。
俺は今後ともこの母娘とうまくやっていけそうな気がした。
881768:02/04/10 22:09 ID:???
今日古本屋で村上春樹の本を二、三冊買ってきておよそ七、八年ぶりに
読みましたが、確かに似てます(笑

まぁ、素人が書いてるものなんで誰に似てようが開き直って書こうと思います。
882なまえを挿れて。:02/04/10 22:40 ID:???
がんがれ〜
883なまえを挿れて。:02/04/10 23:11 ID:???

妹は母親の朝食の準備を始めたようだった。
しかしマグカップの底が見え、コーヒーと言うよりは砂糖水になりかけたころ、
結局妹が母親を起こしに行くことになった。パジャマ姿の寝ぼけ眼で出てきた
母親はこの前の日焼けでいかに痛い思いをしたかということを恨めしげに
語りつつコーヒーを一杯飲み、着替えるために部屋に戻っていった。

俺は口に残る苦味と猛烈な甘さに耐え切れずに麦茶をちびちびと飲みながら
口直しをすることにした。母親のために並べられた朝食はパンとベーコンと
目玉焼き、あとはマーガリンとジャムといったごくごく普通の朝食だった。
ただ、目玉焼きの黄身は見事に潰れて白身と一体化していた。
辛抱強く丁寧にやらないと目玉焼きというのは綺麗な目玉にならないものだ。

身支度をして戻ってきた母親と妹にまた急に訪ねてきて申し訳なく思う事、
俺がもうすぐ東京に帰ること、今日はこの前のお礼を改めて言いに来た事を告げた。

母親はすかさず「今日は暇なんでしょう?」と聞いてきた。
俺がそうだと答えると「じゃあどこか行きましょうよ」ということになった。
どこに行くのかと言うと「そう、今度は山にしましょう、山」などと言いながら
せっせとパンにマーガリンを塗り始めた。
884768:02/04/10 23:13 ID:???
↑768になってませんがもちろん私です。失敗した…
885768:02/04/10 23:45 ID:???

マンションの駐車場に止めてあった母親の車は国産のセダン(多分)で、意外な事に
マニュアル車だった。なぜこのご時世にマニュアルなのかと聞いてみたら、
「左手でガチャガチャやるのが好きなのよ」
とのことだった。気持ちは解らなくない、と言ったら「あなた自動車乗れたの?」
と真顔で聞かれた。確かに自転車は好きだったが車に乗れなくては現代では
人間の仲間入りはできない。俺は去年の夏に免許を取得していた。

そう言うと母親はにやりとしてマニュアル車に乗れるか聞いてきた。実家の車は
商用車も含めてすべてMT車だった。乗れる、と言ったら案の定なんだかんだと
理由をつけて運転手を任されることになった。免許証が無いと言っても無駄で
あった。

正直なところ、俺は免許を取ってからというものの殆ど車に乗らず終いだった。
確かに車は遠くまで行ける、だがその反面つきまとう厄介なルールにどうしても
馴染めなかった。多少疲れようが遅かろうが自転車が好きだった。
うまく乗れる自信はあまり無かったが俺には人並みのプライドもあったので
運転する自信が無いなどとはとても言えなかった。
886768:02/04/11 00:03 ID:???

結局母娘の住んでいた街を出る前に俺は危なっかしい運転で母親を何度か
ひやりとさせ、運転を替わることになった。
母親はせっかくの運転手がとぶつぶつ文句を言い、妹は可笑しそうに笑っていた。

少なからず自信を失った俺は助手席に座ってナビゲーターに努めることとなった。
高速道路に乗り、隣県へ。目的地は紅葉と滝で有名な山間の有料道路だった。
無論、紅葉には早過ぎるが、標高千mの山はさぞや涼しいだろうということで
決めた。自分の足でせっせと登らなくてもよいのも魅力だった。

下界の暑さはまだ午前中だというのに殺人的であった。車内はクーラーを
効かせてもなお日差しは容赦無く差し込んでいた。信号待ちをしていると
盛大な蝉の音が聞こえてくる。すずかけの街路樹には夏になるといつも
大量の油蝉が止まっている。俺は小学生の頃三十分もあれば籠一杯の
油蝉を捕まえてきたものだった。
887なまえを挿れて。:02/04/11 00:05 ID:???
あらら。カコイイところ見せられなかったのね。
888768:02/04/11 00:39 ID:???

母親は運転では散々俺に文句を言ったが、方向感覚で言えば母親は相当にいい加減
だった。隣県に入り、下道に降りた後、俺と母親は道が合っているの間違っている
ので何度も衝突することになったが、ことごとく俺の勝利に終わった。
母親はいつも後ろのシートに座っている妹に同意を求めたが、最後には
妹は完全に俺の味方をするようになった。
俺はこれで少なからず溜飲を下げる事ができた。

途中で一度目に付いたショッピングモールで弁当だのジュースだのを買いこんで
再び目的地へ向かった。道は川伝いに延々と続き、やがて深い谷の中腹を
曲がりくねるように走るようになった。樹海に覆われた真夏の山は眩しいくらいの
緑色に輝き、谷底の川は次第に大きな岩が多くなり、青みを増してきた。

車の数はあまり多くは無かった。本来紅葉の名所であるところに夏場来る者は
少ない。しかし人が少ないと言うのもそれはそれでいいことだった。
道はさらに複雑に曲がりくねり、母親は半ばやけくそ気味にハンドルを切ながら
まだぶつぶつと文句を言っていた。曰く、どうせ帰りは二人とも寝てて
私は一人で運転だとか、今度買いかえるときはAT車にしようだとか、
俺にもう一度教習所に行って来いだとか。

俺は苦笑いし、妹も楽しそうに笑っていた。
889なまえを挿れて。:02/04/11 00:54 ID:???
地図の読めない女ってやつだね
890なまえを挿れて。:02/04/11 01:59 ID:???
お母さんがぶつぶつ文句言えるくらい、うち解けてるわけだ。
いいねぇそんだけ早くなじめるのって。
891768:02/04/11 02:11 ID:???
(だめだなぁ…少々中ダレ気分)

名所の滝のある場所は道路よりかなり谷に降りたところにあり、そこまでは
車を降りて歩かなければならなかった。谷に降りる階段は急で、
所々ほとんど階段が磨耗して消えかけている個所もあり、慎重に歩かなければ
ならなかった。

暑気は山の上でもかなりのものだったが、木々の梢が日差しを適度に和らげて
くれ、空気はとても澄んでいた。川底の水は冷たく、時折風に乗って飛んでくる
滝の細かな水飛沫は心地よいものであった。

昼食を食べ終わると妹は絵を描き始め、母親は寝てしまった。
俺はやることも無いので滝の絵を描いている妹の手元を眺めていた。
最初はおぼろげだった線が徐々に形を現し始める様子は中々に見事だった。
妹は後ろから俺が眺めているのに気がついているのか落ち着かない様子だった。
「うまく描けてるように見えますか?」
俺から見れば十分以上に上手かった。俺がそうだね、と言うと
「ありがとうございます…」と言った。

彼女の言葉遣いは他人行儀すぎるきらいがあった。
でもそれは文字にするのは難しいけれど、別に俺を避けているわけではなく、
彼女の少し敏感すぎる自意識から来ていることが漠然と感じられた。
俺は彼女に別に何も言わなかったせいか彼女はこの後もずっとこんな
言葉遣いのままであった。
892768:02/04/11 02:15 ID:???
彼女の言葉遣いは→彼女の俺に対する
893768:02/04/11 02:36 ID:???

俺はベンチの背もたれに文字通りもたれ掛って寝ている母親を見て言った。
「お母さん、いつもこんな感じなの?」
俺は初めて母親の事をお母さんと呼んだが、これは「彼女の」お母さんという
意味だった。
「いえ…ちょっとはしゃいでるみたいですね、
 普段二人だけだとあまり話す事もありませんから」
俺はなんと答えていいかわからなかった。

「親戚とかはいないの?」
「いないわけじゃないけど、滅多に会う事は無いんです」
俺は詳しいことは未だにわからない、しかし、二度の離婚が親族間で大きな
問題になったことは想像に難くなかった。この手の問題というのは多かれ
少なかれどうしても周りを巻き込んでしまうものだし、特に地方では風当たり
が大きいはずだった。

朝、マンションを訪れた時の気楽な感じは少なからず薄れていた。
なんだかんだいっても俺はこの二人とはまだ二日しか過ごしていないのだ。
894768:02/04/11 03:06 ID:???

延々と階段と上り坂が続く滝から駐車場までの帰りは往きの数倍の時間と体力を
要した。俺は危うく母親にまで遅れを取りそうになる始末で、歩くのと自転車
では使用する筋肉がまるで違うのだという情けない弁解をする羽目になった。

その後数カ所の名所を回り、ニホンザルの姿も目撃したところで俺達は家路に
つくことになった。十分な睡眠を取った母親はずいぶんご機嫌で、曲がり道の
難所も軽快なハンドルさばきで通過し、道も間違えずに高速道路に入る事に成功
した。記憶力はいいのよなどと母親は軽口を叩いていた。
あながち嘘ではない。実家の人間が母親の美点として唯一認めていたのが
頭の良さだった。そしてそれは妹にもちゃんと受け継がれていた。

母親の口からまた鼻歌が漏れていた。
またカーペンターズだ。sing a song。
それ、カーペンターズでしょう?と聞くと、あらよくわかったわね、
最近あまり流行らないのに、と言っていたが、実際にはそうではない。
CMソングに使われたり伝記が出版されたりもしていた。

なんで七十年代の歌なんか知ってるの?と聞かれたが俺はたまたまだ、と言って
適当にごまかした。本当はたまたまなどではない。あの酷い音痴の親父が
唯一レコードを集めていたのがカーペンターズだった。
895768:02/04/11 03:46 ID:???

J君はどんな歌が好きなの?訊かれて俺は言葉に詰まった。
俺はポップスなんてほとんど知らなかったし、テクノだとかクラッシックだとか
音楽に関してはある種極端な趣味だった。それにこれは歌ではない。

考えあぐねた挙句、「谷山浩子」と答えてしまった。我ながら似合わないが
好きな事は好きだった。どこかで聞いた名前だけど、だれだっけ?と母親が
悩んでいると、「ほら、まっくら森の歌の」と妹が言った。

母親はへぇ、面白い趣味ねと言って笑った。俺は少々後悔した。
「でも私は好きですよ」妹にそう言われても俺はなんとも後味が悪かった。

母娘のマンションに着いたのは午後五時ごろだった。日はまだ十分に高かったが
俺は早めに帰ることにした。二人ともまたこの前と同じように駐輪場まで見送りに
きてくれた。本当は駅まで行ければいいんだけどねぇ、と母親は言ったが俺は
平日の朝早くに発つことになっていたので土台無理な話だった。

俺は冬休みも春休みもありますよ、と言った。
妹のほうを向くと、困ったような表情で「あの、さようなら」と言ってくれた。
俺もさようなら、と言うとこの前と同じように自転車に跨り、跨ったところで
思い出した。電話番号だ。母親は苦笑いして家までメモを取りに行った。
896768:02/04/11 04:08 ID:???

駐輪場で妹と二人きりになった。ある程度打ち解けたとはいえ、別れの場面と
いうのは間が持たないものだ。俺は今度は電話してから来るよ、と言った。
妹は微笑んで、「ええ」とだけ言った。
俺は母親から電話番号の書かれたメモを受け取ると、じゃあ、と言って自転車を
こぎ始めた。今回も二、三度振り返ってみたがやはりずいぶん長いこと見送って
くれているようだった。

翌日、若しくは翌々日、俺は故郷を離れる特急列車の中にいた。
親父から無断で拝借したテープがウォークマンに入っている。
He's got a ticket to ride.
カレン・カーペンターが低く緩やかな声でそう歌っていた。

俺は村上春樹の「国境の南、太陽の西」を読みなおしていた。
冒頭部分に主人公が一人っ子であることの悩みを語っていた。
そして主人公は同じ一人っ子の島本さんと出会い、別れる。
18歳のときこれを読んだとき、俺は自分のことを間違い無く一人っ子だと
思っていた。だが今では間違い無く同じ親から生まれた妹のいる身だ。
なんとも不思議な気分だった。
897768:02/04/11 04:13 ID:???
あれ?18んとき読んだのは「国境の南〜」じゃないかも。
このとき初めて読んだのかもしれない…まぁいいか…
898768:02/04/11 04:17 ID:???
とりあえず、今日はお終い。
おやすみなさい。
899なまえを挿れて。:02/04/11 04:32 ID:???
こんな時間まで、お疲れ様です!楽しく読ませてもらってますよ〜
900なまえを挿れて。:02/04/11 04:45 ID:???
昨日このスレを発見して、ここまで全部読みました。
風景描写がきれいで、懐かしい雰囲気も漂っていて
楽しく拝見しています。これからも楽しみにしています。
901-:02/04/11 23:02 ID:???
Bravo !
902768:02/04/11 23:58 ID:???

江戸川区のささやかな下宿に戻ると夏休みはあっという間に終わり、
俺は普段どおりの生活に戻った。東京の生活は実に退屈だった。
大学と下宿の往復、あとはアルバイトに追われる日々。
妹に「俺も友達少ないけどね」などと言ったが実際には少ないなどと
いうものではなく、一人もいないのと等しかった。
小学校でも中学校でも高校でも友達は出来たことは出来た。だがみんな何処かへ
行ってしまった。俺は無理に連絡を取ることも新しい友人を積極的に作ることも
しなかった。サークルはあまりの馬鹿馬鹿しさに早々に止めてしまっていた。

正確には東京の空気に馴染めなかったのかもしれない。俺はなぜ学生はみんな
変てこな格好をしなくてはいけないのか、なぜ飲み屋で大騒ぎしなければ
ならないのか、なぜ合コンに目の色を変えなければならないのか、
なぜいつも二、三人以上で屯していなければならないのか、
挙げればキリがないが俺にはあの連中と自分が同じ生き物だとは
どうしても思えなかった。

俺はどうせこの世には孤独と退屈の存在しない場所などは存在しないのだ、
と思うようにしていた。そう思うようにしている自分にうすら寒いものを
感じるのは確かだったが、これが本来の性格なのか、高校時代から慢性的な
軽いうつ病が続いるのかは判断しかねるところだった。

やがて秋が過ぎ、やたらと晴れてばかりの東京の冬がやってきた。
903なまえを挿れて。:02/04/12 00:08 ID:???
あ、来ましたね。
今日も楽しみに待ってます〜。
904768:02/04/12 00:35 ID:???

年の瀬が近づくと、俺はUターンラッシュの始まる直前に朝一番の新幹線に
飛び乗った。自由席の窓側で(通路側は隣の客が小便に立つたび起こされる)
旅の間中眠っていくのがいつものやりかただったが、今回はなかなか寝つけず
に、あの母娘の事を考えていた。東京のせわしなさに毒されたのか二人の事を
思い出すのは信じられないくらいに久しぶりだった。
土産の一つでも買っておくべきだったろうかと思ったが、直接渡すとすれば
しばらくは実家にいなければならないのでナマモノはだめだった。
結局故郷に着いてから考えることにした。

車窓から見える関東の街並みはどこへ行っても判を押したように同じだった。
やがて新幹線は長い長いトンネルを通るようになり、雪深い山地を走り抜けて
終点に辿り着いた。俺の故郷へはここからさらに特急で数時間かかる。

乗り換えに充てることの出来る時間はほんの数分しか無い。それを逃すと
次の列車を一時間以上も待たなくてはならない。俺は駅舎を全力で走り、
だいぶ余裕を持って特急に乗りこむ事ができた。あと二時間もすれば故郷に
辿り着ける。
905なまえを挿れて。:02/04/12 00:51 ID:???
とうとう900突破したか〜
でも今日は早く寝なきゃ。。
906768:02/04/12 00:54 ID:???
(二時間じゃないなぁ…もっと長かったかな)

冬の日本海側の街にはほぼ毎日多かれ少なかれ雲が垂れ込めていて、
真昼でも太陽の光は雲に遮られ弱々しく届くだけである。
この日もそんな感じだったような気がする。こんな光景を見て関東の人間は
日本海側を裏日本と呼んだのだろうが、そこには詩的な響きがあるようにも
思える。何にせよ俺は戻ってきた。

駅からの実家のある街の眺めは東京に馴れた人間には実に貧相だった。
日本全国が東京の真似をするからこういう様になってしまうのだ。
俺は実家に帰り、夜になるのを待ってから母娘の家に電話を掛けた。

電話に出たのは妹だった。俺が名を名乗ると間髪いれずに、
「あぁ、お久しぶりです」という答えが返ってきた。
俺は久しぶり、と答え、元気だったかなどと他愛無い話をした後、
母親に替わってくれと頼んだ。

待ち受け音はグリーン・スリーヴスだった。
電話に出た母親にまた会いたい事と、年末と元旦は実家に付き合わされる
ので一日中空けるのは難しいことを伝えた。母親は気前良く受け入れてくれ、
結局正月の二日に会いに行くということで話は決着した。
907768:02/04/12 01:17 ID:???

大晦日と元旦はともかく年末は実家に付き合わされるというのは嘘だった。
俺はこの期間を利用して車の運転を練習しなければならなかった。
車道はともかく歩道には雪が積もり、自転車は全く使えなくなるからであった。
かといって電車を使う気にもならない。母娘のマンションは駅から随分
離れていた。

母親をひやりとさせた運転のときからやはり車には一度も乗っていなかったが、
一時間も車の少ない道を走っているとずいぶんカンも戻ってきた。
あのときの下手糞な運転が嘘のようだ。今度こそは汚名を返上できるだろう。

やがて大晦日になり、あっという間に年が明けた。実家には年末に叔父夫婦が
二組と従姉妹達(この時、全員小学生未満)がやって来るのが恒例で、
年末年始には家の中に総計十人以上がいることになりとても賑やかだった。

しかしあの母娘は今日も二人で過ごしているのだろうか。
俺は家人に明日は中学の頃の先輩の家で遊んでくると言っておいた。
908768:02/04/12 01:58 ID:???

正月二日の国道はまだ年が明けたばかりなのに交通量は大して減っているようには
思えなかった。一体みんなこんな時期に何をしているのだろう。

俺はフルタイム四駆のポンコツ軽自動車をあまり迷惑にならなそうな場所を
選んで道の脇に止め、母娘のマンションに向かった。雪は海に近いためか
実家のある街よりもこちらのほうが少ないようだった。

寒さに震えながら呼び鈴を押すとまたしても妹が出てきた。俺がやあ、と言うと
微笑みながら「あけましておめでとうございます」と言ったので俺も慌てて
おめでとう、と言った。扉を開けて中に入るとコーヒーの香りがする。

外套を脱いで居間に上がると、居間と面した和室に炬燵が出してあり、
そこに座っていた母親が俺におめでとう、また自転車で来たの?
などと言ってきたが、俺はめでたいことに車に乗って参りました、と言い返した。

炬燵はとても小さかった。実家のそれに比べて半分ほどの面積しかなかったろう。
おせち料理は俺が来るまで食べずにいたのだという。
そこまでしなくてもいいのに、と俺は言ったが二人とも笑うだけだった。
909なまえを挿れて。:02/04/12 02:21 ID:???
おせち、食べずにまっててくれるっていいですね〜。
910768:02/04/12 02:25 ID:???

お節自体は出来合いのものだったがべっ甲(でいいんだっけなぁ最近食べてないぞ)
だけは自家製だった。実家とほとんど同じ味だった。
一通り食べ終わるとあとはコーヒーを飲みながらどうでもいいようなことを
喋った。こんどは頼まなくても砂糖とクリープを妹が持ってきてくれた。

なんだか知らないけどマダム、マダムって呼ばれるから何事かと思って
振り返ったのよ、そしたらケモノみたいなロシア人がいてね、
しきりにスーパーのほうを指差すのよ。で、タイム、タイムって。
開店時間はいつかって聞きたかったのね。言ってやったわよ、
ないん、おくろっく!って。そしたらサンキューサンキューとか言って
あっち行ったんだけど、マダムってフランス語よねぇ?

母親はとても上機嫌だった。妹もずっとにこにことしていた。
俺は内心とても複雑な心境だった。あまりにもうまく行きすぎてはいないか?

冬の短い日が暮れるころ、俺達は初詣に出かけることになった。
正確には俺は既にいってきてしまっているが二人は俺を待っていたのだという。
俺はおせち同様そこまでしてくれることはない、と言ったが母親は気にする
事はないと言って聞かなかった。
911なまえを挿れて。:02/04/12 02:28 ID:???
902を読んだらなんとなく
ノルウェイの森を思い出してしまったよ
俺も村上春樹好きだなぁ(w
今夜も楽しませてもらってます
912768:02/04/12 02:43 ID:???

初詣に来た神社は県内でも由緒ある有名な神社で、だいぶ山間部に入った
ところまで行かなくてはならなかった。運転は最初は俺だったが、
やっぱり見てられないわなどといいつつ母親が替わることになった。

目的地に近づくにつれ標高が高くなり、雪の量が増してきた。
出発するときから降り続いていた小雨はやがて雪に変わりつつあった。

神社の境内までは車から降りて暫く歩かなくてはならない。
母娘の家には傘が二本しかなかったために相合傘をさせられる羽目になり
そうだったが、大した雪ではなかったので俺は何も無しで済ませることにした。

神社は元旦が過ぎたと言ってもまだ人の量はずいぶん多かった。
俺達は破魔矢を一本買い、御払いをしてもらうことになった。
御払いを受ける人の行列は長く、本殿に入るまでにはずいぶん待たなくては
なりそうだった。
913768:02/04/12 03:19 ID:???

いかに着こんでいても雪の降る中、何もせずに突っ立っているとだんだん
体が冷え込んでくる。肩と頭に薄く積もり、半分溶けて水になった雪を
払いのけていると、妹が傘をそっと持ち上げて俺を入れてくれた。
彼女はあえて無表情を装っているような顔だった。
ずっと腕を持ち上げているのは疲れるだろう。俺は彼女の手から傘を
取り上げて俺は頭半分だけ隠れるくらいにして傘をかざした。

本殿の中に入り、頭を垂れながら神主の祝詞を聞いた。
学業成就、家内安全、交通安全だったと思う。
今年は受験生か、そう思いながら右側に座っている妹を見た。
俺には妹がついこの前まで他人だった俺にあんな風にしてくれたことが
信じられなかった。

だがそのとき一つの考えが浮かんできた。結局は似た者同士じゃないのか?
三人が三人とも孤独を持て余して、こうやって分かち合っているのではないか?
全てはこれで説明がつくような気がした。彼女が俺のことをお兄さんと言って
くれたこと、母親のはしゃいだ姿、理想的な団欒、そして彼女の行動。

なんとも複雑な気分だった。自分は孤独にはとっくに馴れているし、
一人でいるほうが気が楽だとずっと思っていたからだ。

御払いは無事終わり、御神体の前で二礼二拍一礼したあと俺達は本殿を出た。
雪は既に止んでいた。

神社からの帰りの道、俺はすっかり忘れていた贈り物を二人に渡した。
カーペンターズのベスト盤と谷山浩子の「銀の記憶」というアルバムだった。
914768:02/04/12 03:23 ID:???
今日はこれでお終いです。
事情により今後ペースを落とす事になりそうですがよろしくお願いします。
915なまえを挿れて。:02/04/12 03:48 ID:???
おつかれさま。
ゆっくり無理なくすすめていって下さいね。
916なまえを挿れて。:02/04/12 11:03 ID:???
おつかれさま。
>902
ほとんど自分の人生観とでもいうのかそのまんまで、たいへん共感できますな。
917なまえを挿れて。:02/04/12 19:24 ID:???
アーヒャヒャヒャ(゚∀゚)ノ イモウトト キンシンソウカーン!!

オニイチャン(*・∀・*)デキチャッタミタイ。

( ゚д゚)ポカーン

( ゚д゚)・・・・。

( ;゚д゚)・・・・。

デモオニイチャンノ(*・∀・*)コドモダッタラウンデミタイナ

ソウカ。ジャアリョウシンニ
ソウダンシテミヨウカ。( T∀T) (・∀・*)ウン。オニイチャン。

家族会議
918 :02/04/12 19:25 ID:???
ソウイウコトナンダ。オトーサン   @@@ 彡ミミ
   (*・∀・)( T∀T)┳┳(・∀・ )(・∀・ )ソウカ…

  @@@
 ( ・∀・)チハアラソエナイモノナノネ

  @@@          彡ミミ
 ( ・∀・)ネ、オニイチャン。 (・∀・ )アア、ソウダナ。

( ゚д゚)ポカーン

( ゚д゚)・・・・。

( ;゚д゚)・・・・。

(( ;゚Д゚))ブルブル

(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

(((((((( ;゚Д゚)))))))ガクガクブルブルガタガタブルガタガクガクガクガクガク
919768:02/04/13 00:07 ID:???
…そろそろ新スレ要るかな?

その年の春休みは帰省しなかった。
俺は二年間アルバイトでせっせと溜めた資金でオーストラリアへ旅行に行った。
夏休みでは南半球は冬になってしまう。俺は春休みが始まり、やり残した
仕事を片付けると成田からカンタス航空だかオーストラリアン航空の
エコノミークラスに乗り、宿はユースホステルやバックパッカーズ・ホステルで、
移動は全て長距離バスで済ました。

オーストラリアの夏は日本のそれとはずいぶん違っていたように思える。
湿気は少なく、どんなに暑くても木陰に入れば昼寝ができそうなくらい
快適だった。俺は長距離バスを乗り継ぎ、気の赴くまま適当に気にいった街を
選んではそこで一日を過ごしてからまた移動した。

ある街のあるホステルの汚い一室でのことだ。相部屋には男が一人だけいたが
俺が部屋に入った時には既に出来あがっていた。彼は同じ東洋人の俺に気安さ
からかしつこく話し掛けてきた。彼は韓国人だという。歳は俺より少し上に
見えた。どうでもいいようなことを根掘り葉掘り適当な英語で聞いてくる彼を
俺も適当な英語であしらっていると、話が家族のことに及んだ。お前家族は
どうなんだよと聞いてきたので、両親と、祖父母と、妹がいると答えてやった。
彼はいいなあ俺はお袋が死んじゃったんだよ俺がまだ小さい頃のことだいいなあ
などとまくし立ててめそめそと泣き始めてしまった。
俺は彼をなんとかなだめすかして話題を変え、彼はその後もずっと泣いたり
笑ったりしながら延々と喋りつづけ、最後には寝てしまった。
翌日、起きてみると彼は既におらず、四人部屋には俺一人しかいなかった。

その街は海から程近いところにあった。
この海も故郷の日本海に通じているのだろうか。
今年の夏も二人に会いに行こう、おれはぼんやりと海を眺めながら思った。
920768:02/04/13 00:38 ID:???

長い旅行にボロボロになって日本に帰ると、下宿の大家が俺宛の包みを渡して
くれた。差出人の名前は母親だった。(余談だが前回帰省時に住所は教えてある)
俺はいそいで部屋に戻って包みを開くと中からは緩衝材とチョコレートの箱、
二通の手紙が出てきた。

俺はまず母親のほうの手紙を読んでみたが、詳しいことは娘の手紙を見て欲しい、
自分は去年の夏に海岸であたなのことは忘れなかったと言ったが実際には
ほとんど忘れかけていた。忘れていなければあなたを見てすぐに気づいたはずだ、
あなたはとても昔のTさんに似ている。とにかくこのことは謝っておきたい。
と書いてあった。

妹のほうの手紙には、一月に貰ったCDのお返しにチョコレートを送ろうと思ったが
どうしても上手く作れなかった。既製品で申し訳ないけれど受け取って欲しい。
今度の夏もできれば会いに来て欲しいと書いてあった。

二通とも手書きで、字の上手い人間がわざと崩したような字で書いてあり、
時候の挨拶まで付いていて最後には敬具だのかしこだのと書いてあった。
チョコレートはヨーロッパの何とかという高そうな品物だった。
到着したのはバレンタイン・デーの数日後になっていた。

字の下手な俺はワープロで、旅行に行っていて返事が遅れて申し訳ない事、
チョコレートは少し時間が経っていたが問題なく食べられた事、
今年の夏も帰省するのでそちらにも寄る事を書いた。

手紙の書き方は知らなかったので前略と敬具で済ませ、最後に自分の名前で
サインを書いた。
921768:02/04/13 00:41 ID:???
今日はこれでお終いです。
眠い…。
922>>768:02/04/13 01:02 ID:VckccTZ3
板が板だしスレ名もアレなので、917-918みたいのは気にしないでね。
(わかってると思うけど。おせっかいでスマソ!)
あと、まだまだ長くなりそうだし、なにかハンドルを名乗ってはどうだろうか?
いつまでも「768」って呼ぶのもなにか味気ないので。
923768:02/04/13 01:07 ID:???
ハンドルは良くも悪くも悪目立ちするのであんまり…
明るく語る方のスレの557氏もまだ数字ですし、暫くはこのままで行こうと思います。

まぁとにかく今後も557氏に負けないように地味〜に続けていきたいと思います(w
924なまえを挿れて。:02/04/13 01:33 ID:???
ここ長文が多いから早めに新スレ立てといた方がいいんじゃない?
925768:02/04/13 20:08 ID:???
えーと、勝手に建てちゃっていいものなんでしょうかね?
新スレ立てるなんてやったことないもんで(w
他力本願で申し訳ないですけど、誰かに立ててもらえると嬉しいのですが(ぉぃ
926768:02/04/13 23:11 ID:???

俺は十代の終わり頃、村上春樹という作家には実に多くの事を教えてもらった。
作品が後期になればなるほど独特の表現とスノッブなところが鼻に付くように
なってきたが、それでも今でも彼は三番目か四番目に好きな作家だ。

ただ、当時彼の作品で納得がいかなかったのが、作中の男達が多かれ少なかれ
孤独を抱えた人間として描かれているのに実際には大して孤独ではなくむしろ
幸福な連中ばかりということだ。しかもやたらにセックスばかりしている。

ノルウェイの森の主人公のワタナベ君は恋人の直子が療養院に行ってしまい、
その間の孤独を切実な手紙で彼女に綴っている。しかしそれでも彼には
(その時は会ってくれなかったけど)緑という親しい女友達がいるわけだし、
そうやって思い焦がれる相手がいるだけでもマシというものではないか?
しかも彼は直子が自殺した後、しばらく苦しみはするがちゃっかり最後には
緑とくっつく事になっている。これを幸福と言わずしてなんと言おう?

無論小説という形態上の問題だとか、村上春樹の求めるテーマだとかそういう
もののほうが大切なのはよく解っている。しかし当時の俺には解った上にも
納得がいかなかった。本当の孤独というのは胸が焼けるような思いだとか
そんなものがあるのではない。ただ退屈で無味乾燥なだけだと思っていた。

だが21歳の大学三回生の夏休み、故郷に帰る列車の中にいる俺には明らかに
違う形の孤独が宿っていたと思う。あの小包を受け取った日以来、
頭の片隅には常に二人のことがあって、東京の雑踏の中で二人との距離を
切実に感じていたからだ。
927768:02/04/13 23:29 ID:???

特急の窓側の席、窓の向うに見える日本海を俺はぼんやりと眺めていた。
予想以上に安上がりに済んだ旅行の資金の残りで買ったCDウォークマンには
桑田佳祐とMr.Childrenの「奇跡の地球」が入っていた。

I'm listening to the radio
All by myself
変わりゆく街は明日なき無情の世界
Surrounded by the stereo,
No sound is felt
壊れゆく No,no,no,no,brother
奇跡の地球

都会ではずいぶんリアルに聞こえたこの歌も、田舎町を走るこの列車の中では
ずいぶん遠くの世界のことを歌っているように思えた。窓から差し込む日差しは
強く、ここが半年前には雪に閉ざされていたなどとは信じられない。

あの母娘に会ってもう一年が過ぎようとしていた。来年も、再来年もこうして
会いに来る事ができるだろうか?少なくとも妹には大学と就職があるはずだ。
故郷の駅まではあと一時間を切っていた。俺はこの夏を大切にしなければなるまい。
928768:02/04/14 01:01 ID:???
この辺から色々あって書きにくくなってくるな…
929-:02/04/14 01:06 ID:???
な、何だか気になる。
ところで768は昭和48年生まれ?
930なまえを挿れて。:02/04/14 01:34 ID:AM8rq5lC
新スレ立てたぞごらーーーー
http://love.2ch.net/test/read.cgi/kageki/1018715591/
931なまえを挿れて。:02/04/14 01:37 ID:???
>930 乙〜
ってか、2げとしてしまった、770です(^^ゞ
932なまえを挿れて。:02/04/14 02:06 ID:???
とりあえずこちらで続きキボン
933768:02/04/14 02:43 ID:???
(書き忘れてたけど、930さん、ありがとう
 これから妹についての話が中心になってきますが、なんだか自分の持ち物を
 自慢してるみたいで少し書きにくいです…)


帰省の本来の目的は八月半ばの墓参り(俺の故郷では新暦に合わせている)だった
が、俺はそれよりもずいぶん早めに、七月の終わりにはすでに実家に帰っていた。

理由の一つは帰省ラッシュを避けたいがためだったが、もう一つは県内最大の
花火大会に二人を誘う事だった。俺は昔から花火が好きで、家の屋根から
はるか遠くの花火を見るだけでは飽き足らず、十歳のころには数キロ離れた
会場に夜も更けてから一人で自転車で走って行ったものだった。
妹は受験生だが一晩程度なら構うまい。俺は母娘のマンションに電話を掛けた。

電話口に出たのはまたしても妹だった。もしもしと言って苗字を名乗った時点で
「あぁ…お久しぶりです」という声が返ってきた。この前と同じ反応だ。
「お母さんは今は居ないんです」という。確かに掛ける時間が少々早かった
かもしれなかった。俺は彼女に二月の包みのお礼と花火大会に行く予定が
あることを伝えた。彼女は電話の向うで何やら口篭もっていたようだったが
「お母さんに伝えておきます」ということになって俺は電話を切った。
934768:02/04/14 03:03 ID:???
すいません、今日はこの辺で寝ます。
935768:02/04/14 20:10 ID:???
932さんには申し訳無いですが、Part2のほうに書きこみがちらほらと
見られるようになってきたので以後新スレに書きます。