五味がつき、青木がこねし天下餅、座りしままに食うは川尻

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107実況厳禁@名無しの格闘家
アストライアについて

ティタノマキア勃発以前、クロノスが世界を支配していた時代には、地上は現代からは想像もつかないほど平和の輝きに満ちていました。
人間たちは争いを知らず、武器を取って他人の領地に攻め入ることもなければ、海を越えてよその土地から財物を運んでくることもありませんでした。
ただ自分たちの土地から得られるものを享受するだけの暮らしでも、ふんだんに実りを与えてくれる大地のおかげで何も不足はなかったのです。
大地の恵みに満足してシンプルに生きる彼らは「黄金の種族」と呼ばれ、彼らの生きた時代は「黄金時代」と呼ばれました。

しかし、人間の寿命とは限りあるもの。やがて黄金の種族は眠りにつくかのような静けさで死に絶えてしまいました。
また、神の世界でもティタノマキアが起こってクロノスが失脚し、ゼウス政権が誕生しました。時代が移り変わったのです。
ゼウスによって新たに作られた人類は、黄金の種族よりも随分と劣ったものでした。
敬神の敬神の念に欠け、義務を守ろうとする心が弱く、より貪欲になっていたのです。
彼らは黄金には及ばないという意味で「銀の種族」と呼ばれ、彼らの生きた時代は「銀の時代」と呼ばれることになりました。

あの善良な愛すべき人々はどこへ行ってしまったのでしょう――アストライアは失望しました。
不死なる者と死すべき者という越えられぬ壁のゆえに、彼女は多くの良き友を失い、ただ1人、劣った者たちの中に取り残されてしまったのです。
銀の種族の粗悪さに呆れた神々は、続々と彼らを見捨てて天に帰っていきました。
もちろんアストライアにもそうする権利はありましたが、彼女は街を捨てて小高い丘へ引き籠もりはしたものの、地上を去ることはしませんでした。
どうしてもあの人間たちと親しんでいた折の美しい思い出、その思い出が紡ぎ出す「もしかしたら努力次第で今度も……」という一縷の望みを胸から消し去ることが出来なかったからです。
108実況厳禁@名無しの格闘家:2010/07/23(金) 23:33:24 ID:rcpeiNXB0
ところがその彼らもまた、不敬虔ゆえにゼウスの怒りを買って絶滅させられてしまいました。
そして再度新たな人類が作り出されたのですが、これがアストライアの心を完膚無きまでに絶望で押し拉ぐひどい代物でした。
「青銅の種族」と呼ばれた彼らは、銀の種族よりもさらに精神の荒廃した、残酷で好戦的な者たちでした。

流血を恐れぬ人間たちのあまりの堕落ぶりを、これ以上見続けることはできませんでした。
遂に耐えきれなくなったアストライアは顔を背け、それまで頑なに使おうとしなかった翼を大きく広げると、地を蹴って宙に舞い上がりました。
かつてあれほど愛した大地が、羽音が1つ響くたびに遠ざかっていきます。
怒りと悲しみ、果てしない喪失感、懐旧の情、様々な思いが胸に迫り、やがて渦巻いて1つの像を結びました。それは彼女にとってはあまりにも哀しい決意。
(二度と地上には還らない……あそこにはもう、私の居場所はないのだから……)
こうして地上に残る最後の神であった正義の女神も天に逃げ去り、人間のもとから神の恵みは失われたのでした。

ヘシオドスが言うには、現代は「青銅の時代」よりもさらに劣化した「鉄の時代」だそうですが、そんな世界をアストライアは一体どのように見ていることでしょう(彼女が去ったのはこの鉄の時代のひどすぎる堕落のゆえだとする説もあります)。
いくら思いを馳せてみても、もはや叱責すら受けられない我々には女神の心を推察するすべもありません。


吉田さん・・・w