<VT>永田裕志vsエメリヤー・エンコ・ヒョードル
忘れもしない、あれは去年の五月。
僕は就活中でその日は第一志望の企業の一次試験のため、大阪に向かう途中だった。
ところが、駅で切符を買おうとした時…、
「無い、無い、どこへ行ったんだ?」
そう、僕は財布を無くしてしまったのである。
このままでは試験に間に合わない、
僕が何とかしようとあせっているところにやけに恰幅のいい男が声を掛けてきた。
「どうしたんだい?」
僕は動転しながらもその男に事情を話した。
「そうか…大阪まではこれだけあれば十分だろう。」
そう言って男は僕に5万円渡してきた。
こんな大金、見ず知らずの男から受け取れるわけがない。
だが男は、
「出世払いでいいさ。それより急ぐんだ!うまくいくといいな。」
「あっ、あのっ、お名前は…?」
男は何も言わず僕に向かって敬礼し、去って行く。
僕は訳がわからないままそのお金で切符を買い大阪へと向かった。
試験に間に合いそれなりの手ごたえもつかんだ僕は、
その夜、大阪のホテルでテレビを観ていた。
「面白い番組もないな。」
そう思い、チャンネルを切り替えているとプロレスの放送をやっていた。
別に僕はプロレスには興味がなかったが、退屈しのぎにそのまま観ていた。
すると、である。
恐ろしいまでのオーラを身にまとったレスラーが入場してきたではないか。
この人どこかで…そう今朝、駅で僕に5万円くれた男じゃないか!
その男は相手レスラーをキックでなぎ倒し、豪快に放り投げ、
最後は見事なギブアップ勝ちを奪った。
僕が出会った男はすごい人だったんだ。
その日から、僕は永田裕志というレスラーのとりこになってしまった。
三週間後、一次試験を突破した僕は二次試験の面接に挑んでいた。
趣味は?学生時代学んだことは?お決まりの質問が飛んでくる。
そこに、
「あなたが最も尊敬する人物はだれですか?」
僕は迷わずこう答えた。
「永田裕志さんです。」
一瞬、面接室が静寂に包まれる。
「内定です。」
「は…?」
何を言われたのかよくわからなかった。
「あなたは来年4月からうちの社員です。」
こうして僕は最終面接を待たずして、見事第一志望の内定を手にしたのである。
さて、今年の春から新社会人となった僕は、
6月にボーナスをもらえることになった。
これまで手にしたことのないような大金である。
大金を頂いた僕はとある日曜日、新日本プロレスの道場を訪ねた。
そう、あの男との約束を果たすためである。
ここで永田さんは修行しているのか。そう思っているところに、
「立派になったな。」
永田さんだ。憧れの永田さんだ。僕は涙が止まらなかった。
永田さんは僕を暖かく抱きしめてくれた。
僕はこれまでの感謝の気持ちを述べ、借りていた5万円を永田さんに返した。
すると、永田さんはマネージャーらしき人に向かってピースサインを送るではないか。
何だろう?
間もなくマネージャーらしき人が何かを持って戻ってきた。
それを永田さんは僕に手渡した。
「これは就職祝いだ。彼女と一緒に観に来てくれ。」
そう、それは今年のG1クライマックス決勝のチケット2枚だったのである。
そこにマネージャーらしき人が、
「永田さん、ファイトマネーから引いときますからね。」
永田さんは彼に向かってやや控えめに敬礼を返した。
渋い!渋すぎる!僕はなんてすばらしい人に巡り会えたんだろう。
夏のG1大会が待ち遠しくてしょうがない現在である。
永田さんに頂いたアリーナ最前列2枚、我が家の家宝にしたい。
だが、このままとっておくよりも、
やはり僕は永田さんの雄姿をこの眼でみたい。
勤務中もチケットを見ながらニヤニヤしてしまう。
永田さんが僕に教えてくれたこと。それは安っぽい言葉なんかじゃ言い表せない。
僕も永田イズムを受け継いだ一人の戦士として、
これからの人生を戦っていこうと思う。
ありがとう、永田さん!