平成18年6月20日 最高裁判所第三小法廷 判決(山口母子殺人事件)《要約》
「被告人の罪責は誠に重大であって,特に酌量すべき事情がない限り,死刑の選択をする
ほかないものといわざるを得ない。」
「特に酌量すべき事情の有無について検討するに,原判決及びその是認する第1審判決が
酌量すべき事情として掲げる事情のうち,」
@被害者らの殺害について計画性がないという点について
「本件において殺害についての計画性がないことは,(強姦という凶悪事犯を計画し,そ
の実行に際し,反抗抑圧の手段ないし犯行発覚防止のために被害者らの殺害を決意して
次々と実行し,それぞれ所期の目的も達しているのであり,各殺害が偶発的なものといえ
ないことはもとより,冷徹にこれを利用したものであることが明らかであるから)死刑回
避を相当とするような特に有利に酌むべき事情と評価するには足りない」
A被告人が,それなりに反省の情を芽生えさせていると見られること
「被告人は,捜査のごく初期を除き,基本的に犯罪事実を認めているものの,少年審判段
階を含む原判決までの言動,態度等を見る限り,本件の罪の深刻さと向き合って内省を深
め得ていると認めることは困難」
B犯行当時18歳と30日の少年であったこと
C犯罪的傾向も顕著であるとはいえないこと
「(被告人の犯行の態様に照らすと)その犯罪的傾向には軽視することができないものが
ある」
Dその生育環境において同情すべきものがあり,被告人の性格,行動傾向を形成するにつ
いて影響した面が否定できないこと
「被告人の生育環境についても,……不遇ないし不安定な面があったことは否定すること
ができないが,高校教育も受けることができ,特に劣悪であったとまでは認めることがで
きない」
E少年審判手続における社会的調査の結果においても,矯正教育による可塑性が否定され
ていないこと,そして,これらによれば矯正教育による改善更生の可能性があること
「結局のところ,本件において,しん酌するに値する事情といえるのは,被告人が犯行当
時18歳になって間もない少年であり,その可塑性から,改善更生の可能性が否定されて
いないということ(上記B及びE)に帰着する」
「(犯行時18歳未満の少年の行為については死刑を科さないものとしている少年法の)
趣旨に徴すれば,被告人が犯行時18歳になって間もない少年であったことは,死刑を選
択するかどうかの判断に当たって相応の考慮を払うべき事情ではあるが,死刑を回避すべ
き決定的な事情であるとまではいえず,本件犯行の罪質,動機,態様,結果の重大性及び
遺族の被害感情等と対比・総合して判断する上で考慮すべき一事情にとどまる」
「(原審が酌量すべき事情として掲げる事情は、)これを個々的にみても,また,これら
を総合してみても,いまだ被告人につき死刑を選択しない事由として十分な理由に当たる
と認めることはできない」
「原判決は,量刑に当たって考慮すべき事実の評価を誤った結果,死刑の選択を回避する
に足りる特に酌量すべき事情の存否について審理を尽くすことなく,被告人を無期懲役に
処した第1審判決の量刑を是認したものであって,その刑の量定は甚だしく不当であり,
これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。」
「刑訴法411条2号により原判決を破棄し,本件において死刑の選択を回避するに足り
る特に酌量すべき事情があるかどうかにつき更に慎重な審理を尽くさせるため,同法41
3条本文により本件を原裁判所に差し戻す」