2 当裁判所の判断
(1) 死刑は,究極のしゅん厳な刑であり,慎重に適用すべきものであることは疑いがない。
しかし,当審判例(最高裁昭和56年(あ)第1505号同58年7月8日第二小法廷判
決・刑集37巻6号609頁)が示すように,死刑制度を存置する現行法制の下では,犯
行の罪質,動機,態様殊に殺害の手段方法の執よう性・残虐性,結果の重大性殊に殺害さ
れた被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般
の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般
予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑の選択をするほかない
ものといわなければならない。
これを本件についてみると,被告人は,強姦によってでも性行為をしたいと考え,布テ
ープやひもなどを用意した上,日中若い主婦が留守を守るアパートの居室を物色して被害
者方に至り,排水検査の作業員を装って室内に上がり込み,被害者のすきを見て背後から
抱き付き,被害者が驚いて悲鳴を上げ,手足をばたつかせるなど激しく抵抗するのに対し
て,被害者を姦淫するため殺害しようと決意し,その頸部を両手で強く絞め付けて殺害し,
万一のそ生に備えて両手首を布テープで緊縛したり,同テープで鼻口部をふさぐなどした
上,臆することなく姦淫を遂げた。さらに,被告人は,この間,被害児が被害者にすがり
つくようにして激しく泣き続けていたことを意にも介しなかったばかりか,上記犯行後,
泣き声から犯行が発覚することを恐れ,殺意をもって,被害児を持ち上げて床にたたき付
けるなどした上,なおも泣きながら母親の遺体にはい寄ろうとする被害児の首に所携のひ
もを巻いて絞め付け,被害児をも殺害したものである。強姦を遂げるため被害者を殺害し
て姦淫し,更にいたいけな幼児までも殺害した各犯行の罪質は甚だ悪質であり,2名の尊
い命を奪った結果も極めて重大である。各犯行の動機及び経緯に酌むべき点はみじんもな
く,強姦及び殺人の強固な犯意の下に,何ら落ち度のない被害者らの生命と尊厳を相次い
で踏みにじった犯行は,冷酷,残虐にして非人間的な所業であるといわざるを得ない。さ
らに,被告人は,被害者らを殺害した後,被害児の死体を押し入れの天袋に投げ入れ,被
害者の死体を押し入れに隠すなどして犯行の発覚を遅らせようとし,被害者の財布を窃取
しているなど,犯行後の情状も良くない。遺族の被害感情はしゅん烈を極め,これに対し,
慰謝の措置は全く講じられていない。白昼,ごく普通の家庭の母子が自らには何の責めら
れるべき点もないのに自宅で惨殺された事件として社会に大きな衝撃を与えた点も軽視で
きない。
以上の諸点を総合すると,被告人の罪責は誠に重大であって,特に酌量すべき事情がな
い限り,死刑の選択をするほかないものといわざるを得ない。