三日目の朝、三重が布団からなかなか出てこなかった。
和歌山「三重姉さん……朝ですよー。ごはんできてますよ」
三重「いらないわ。ちょっと、食欲ないの」
布団にくるまったまま、めんどくさそうな感じで告げる。
どこか、声が熱っぽい気がする。
和歌山「姉さんー、でも食べないともたないっすよ?」
三重「……誰が姉さんよ。とにかく、いらないの。
私にかまわず食べといてちょうだい」
どうにも様子がおかしい。布団をおそるおそるどけて、様子をみる。
三重「何よ」
相変わらず、朝は不機嫌なようだ。だけど、一目見てわかった。
今日特に(といっても二日程度の付き合いだけど)不機嫌なのは――風邪のせいだ。
和歌山「うわっ……顔赤いじゃないっすか。熱は……あるみたいですね。
やっぱり寒い中の見張りがこたえたのかな?
とにかく寝ててください。今、おかゆつくりますから」
三重「おかゆなら食べれるかも……ありがとう」
和歌山「いえいえ」
ぼーっとおかゆ(温めるだけのレトルトだけど)をと作りながら、ぼーと考える。
あーむくれた顔もかわいいなー。普段気丈な姉さんが俺にだけ見せる弱み……イイネ!
一見、不機嫌そうだけど、
「こんなところを見られて恥かしいナ……ホントはみせたくないのに」
とか思ってるんだろな! うひょー最高だぜ!
い、いかん顔がにやけてきた。あくまでも紳士的にいかないと。
弱みに付け込んであれやこれやしちゃうのはいけないゾ!
和歌山「はい、おかゆできましたよ」
三重「ありがと」
はぐはぐと力なくおかゆを食べる三重姉さん。
その危うさからか、なんとなく幼なく感じてしまう。
いつも(といっても二日……略)は、かっこいいお姉さんって感じなのに。
和歌山「それと風邪薬どうぞ。そこの救急箱に入ってました。
あー今日の見張りは俺がやります。ゆっくり寝ててください」
三重「……そう。悪いけど、お願いね」
あいかわらずのハイペースでおかゆを食べ終えるた三重姉さんは、
薬を飲み、もぞもぞと布団に潜り込む。
あーもう、かわいいな! そりゃ心配だけどさ。
邪な僕のいけないキュアハートをどきどきどっきんぐ!
……って、いかん。これじゃ俺が病気だ。
和歌山「それじゃ、片づけ終わったら、本でも読んで見張りしてます。
何か用があったら、遠慮なくよんで下さいね」
三重「うん」
あくまでも内心を気取られないように、爽やかに告げる。
内心はドキドキだ。爽やかさってナニ?
敬語で言うのが限界の俺、情けない……。
●
――何事もなく、一日が過ぎた。
とはいっても、ずっと寝てたので、そもそも記憶がないのだけど。
おぼろげに和歌山がごそごそ家事をしてたのは覚えてる。
日もすっかり暮れて、真っ暗な部屋でひとりぼっちでベットにうずくまる。
和歌山は見張りに行ったのだろうか。
三重「あードジったなぁ」
なんでこんな状況で風邪をひいちゃったんだろう。
やっぱり灯台の踊り場で毛布一枚ってのがまずかったのかな?
三重「うっ」
悪寒がする。表面はあったかいのに、中から熱が奪われていく。
頭は石でガンガン叩かれているようようだ。
三重「気持ち悪い……」
病は気からというけど、病は気までね。
なんだかんだいっても、和歌山がいたときは人がいるという安心感と、
やわらかな日の光のおかげでやすらかに寝れてた。
けど、こう真っ暗な部屋で、機械の低い唸り声だけが聞えて、
しかも戦場だったりすると――もうダメだ。
今まで、あまり気にしないようにしてたしてたけど、一気に恐怖感がこみ上げてくる。
三重「……死にたくない。死にたくないよう」
布団の中でまるまって不安をぬぐおうとするのに、わいてくるのは禍々しいイメージばかり。
私が日本刀で切り付けられたり、銃で撃たれたり、殴り殺されたり。
そのたんびに血がどろどろ流れてくる映像が妙に生々しく再生される。
三重「怖いよ……家に帰りたいよぅ」
自分を抱きしめるようにして、みっともなくがたがたと震える。
寒い。とっても寒い。
布団を払いのけるとそこに殺し屋がいそうなきがするけど、払いのけるのはとっても怖い。
きっとなにもないのはわかってる。
けど、体がいたずらに恐怖感を訴えてくる。
三重「もぅ……嫌ぁ」
と、不意に聞えたかすかなハウリング音にびくっと跳ね上がる。
代ゼミ『あーテステス』
代ゼミだ! 私はさらに布団を深くかぶり、必死で指で耳に栓をする。
おぞましい! 聞きたくない! きっと知り合いもみんな死んじゃったんだ!
禁止エリアなら和歌山にまかせればいい。私には関係ない!
嫌だ。怖い。嫌だ怖い。嫌だ怖い嫌だ怖い嫌だ怖い…………
和歌山「姉さんー。朝っすよ。今日もおかゆですけど」
私は目をぐしぐしとこすって、起き上がろうとする。
と、枕がびっしょり濡れていた。目がはれてるからきっと涙だ。
昨晩、私はあのまま泣きながら寝たのか。
うーん……我ながら自己嫌悪。あ゛ー恥かしい。
三重「わかったわ。それと、もう私も大丈夫みたい。色々と悪かったわね」
後ろを向いたまま、ぶっきらぼうに答える。またまた自己嫌悪してしまう。
朝、頭がまわってないときはいつもこうだけど、
自分を看病してくれた人にもっと言いようがあるだろうに……。
和歌山「あーそうっすね。熱もなさそうだし、きっと疲れが出たんですよ。
まあ、大事をとって今日も見張りは俺がやるっす」
三重「遠慮するわ。今日から私がやる……そこまで甘えられないもの」
和歌山「じゃあ間を取って、夕方から日付が変わるまでのあんまり冷えない時にお願いしますね。
これ以上はゆずれないっすよ」
三重「……わかったわ」
日付が変わるまでって……ニ時間もないじゃん。
けど、和歌山は意味深に人差し指を口にあてて、ぱちりとウインクする。
はっきり言って気味が悪いけど、意外に強情そうな雰囲気が漂ってるのでここは従っておいた。
それに向き合ってるのもなんだか恥かしい。
昨晩から今朝にかけての失態は見られてないと思うけど……精神衛生上、ね。
そうだ。
――昨日までの私と決別すべく、私は思い切って訊く。
和歌山もこんな話、朝っぱらから聞きたくないだろうけど、これだけはちゃんとしておかなきゃ。
三重「そういえば、昨日、代ゼミの放送があったみたいだけど」
和歌山は最初ごにょごにょ言いよどんでいたけど、意外にあっさり答える。
彼も友達が死んで辛いかもしれないのに。
和歌山「あー、禁止エリアは遠くです。宮崎と佐賀。
それと……一橋と東工が廃校したそうです。あとは北海道の私立が沢山……」
三重「そう……」
和歌山「その、一橋や東工とは? えーと、知り合いとか?」
三重「面識は全くないわ」
和歌山「そうですか……」
和歌山はばつが悪そうにしてる。こんな話なら当然だ。
他大が廃校して喜び飛び上がれるほど、まだ神経はおかしくなってない。
……でも、これで運がよければ今日もぐだぐだだらだらできるわね――
ぐらいの不謹慎なことは思ってしまうけど。
三重「ありがと」
とっても自然に、口から言葉が漏れ出た。
■
あーびっくりした。彼女は俺にドキドキ気味か?
いや、もうこれはドキドキなんてレベルじゃねぇぞ!
恥じらいで頬を紅くして目線をあわせようとしないし、
かと思えば俺にやさしい微笑みかけるし、
ふりむきざまのポニーテールはキラキラ光るし。
もう俺に惚れてる? ねえ脳内俺2、惚れてるよね?
脳内和歌山2「ああ、そうとも君にベタ惚れだ」
そうだよね。そうだよね!
脳内和歌山2「だが、気をつけるべきだ。
異常な状況下で結ばれた男女の絆は脆いもの」
ぐ……脳内俺2のチキン野郎。
だけど、いいもん。たとえ脆くてもそのときの気持ちは本物だもん!
もういい、告白してくる……というより告白されてくるよ!
あわよくば、キス以上の段階までホップ・ステップ・ジャンプしてくるよ!
脳内和歌山2「まあ、それでもいい。チキン野郎ついでに一言。
勘違いだったとして、君は立ち直れるかな?
いやいや逆に迫ったことで嫌われたりして」
ノゥ! そえれは想定外だぜ脳内俺2!
そして辛すぎるよ。切なすぎるよ。
くそっ! 俺はどうすればいいんだぁあぁー!
●
それにしても、さっきからテーブルの同じところ拭いて、
意外に和歌山って潔癖症なのかしら?
まあいいわ……今日ものんびりと過ぎそうな予感がするし。
【場所:和歌山(潮岬の灯台)】
[備考]:灯台あるもの→水・キャンペル缶(スープ缶)・お菓子・食器・カセットコンロ・救急箱など。
ドアに閂。窓は内側から木が打ち付けられている。
脱出のために踊り場にロープがくくりつけてある。
【時間:四日目朝】
【生存確認:和歌山大】
[状態]:健康
[道具]:支給品、双眼鏡
[武器]:備長炭(撲殺できる程度の大きさ)
[思考・行動方針]:潮岬の灯台で待機
三重大と仲良くなる
[備考]:双眼鏡は灯台にあったものです。
【生存確認:三重大】
[状態]:風邪気味
[武器]:中尾ミエのポスター(鉄製)
[道具]:支給品のみ
[思考・行動方針]:潮岬の灯台で待機
[備考]:髪型はポニーテイル。身長160cmチョイ。パンツルック。上はさっぱりした薄手。