実は日本って国自体がブラックなんじゃねPART51
(前略)
宇沢 ある朝、設研の研究会に出かけようとしていたとき、当時
設研の研究員をしていた竹中平蔵氏から一冊の本が贈られてきた。
それは、S君という同僚と二人でやっていた共同研究の成果が
ベースだった。研究会の後、雑談の席で、竹中氏からこんな本が
送られてきたと皆さんに回した。他のだれにも、その本は
送られていなかった。S君も全く知らないことだった。
そのときのS君の苦悩に満ちた表情は見るに耐えなかった。
plaglarizeは、plaglarizeされた側の苦しみの深刻さに
問題がある。心を盗まれてしまったと同じような何とも言えない苦しみです。
(中略)
そのとき、M君という若い研究員がS君にこう言ったのです。
「plaglarizeした、しないとなると、双方が傷つくことになってしまう。このことは忘れてしまって、むしろ、二人で同じようないい研究を
一緒にして、本にしよう」。それから一年ほどかけて、二人で
真剣な共同研究を重ねて、すばらしい成果を挙げ、研究書として
出版したのです。二人とも、経済学者としても、また人間的にも
見事に成長して、いま指導的な大教授になっています。
この事件は、それで一件落着したのですが、設研の雰囲気に
大きな影を残してしまったことは否定できないように思います。
学問の研究は決して一人でやるものではありません。
志を同じくして、お互いに心から信頼し合って共同的な
研究活動を行い、同時に、一人一人のアイデア、研究的貢献を
尊重して、決して粗末にしてはいけない。研究者の仲間は、大切な
社会的共通資本を守るコモンズだということを強調したいと思います。