・なぜX2やNortonを攻撃するのか?
[脱価値化]
欲求不満を起こさせる(わるい)対象を極端におとしめ、価値のないものとみなす防衛。
一時は理想化された対象であっても、自分の期待どおりの保護や充足を与えないと
その価値は一挙に引き下げられる。相手を無価値なものとみなす防衛には、期待に
応えない相手に対して激しい怒りが生じ、その価値をおとしめることで報復するという目的、
そのように激しい怒りを向けた相手はまた自分を脅かし迫害するであろうと予測されるので
(この予測の背後には投影が働いている)、その迫力を弱めようとする目的、理想化した
相手が期待どおりでなかったという残念さやさびしさを感じないようにする目的、などがある。
理想化も脱価値化もともに、分裂を強化し維持する役割を果たしている。
・なぜプロフィールを偽るのか?
[取り入れ(摂取)と万能感]
これはよい自己を極端に強めて維持する防衛である。理想化された対象を取り入れて、
何事も思いのままになる、すべてを支配できるといった万能感が形成される。理想化した
対象に密着し、服従しているように見える状態でも、根底には万能的幻想が維持されて
おり、実は理想化した対象を保護膜や武器として使用している。この万能感が傷つけられる
ことも激しい怒りや復讐心を起こさせることである。対象を脱価値化する場合にも、自分は
そうする権利や力があるという万能感を維持している。
・なぜ回りの人間を敵視するのか?
[原始的投影]
自分の内面にあると認めがたい感情や欲動を、他者がもっており、自分に向かってくる
ものとして逆転させるメカニズムは高次の投影と共通しているが、背景に分裂があるゆえ
に投影されるものが激しい感情であったり極端に偏った思考であったりするところが、
原始的投影の特徴である。投影によって悪い表象を自己の外へ出してしまう結果、外界や
他者が危険なものとして感じられ、迫害的恐怖を体験することになる(これに対するさらなる
防衛として脱価値化が生じる)。理想化した対象によって理想的に保護されるという投影も
ありうる。しかし、すでに述べたように境界人格構造をもつ成人は、わるい自己および対象
表象が肥大しているために、理想化が崩れやすく短期間しか持続しないのが常である。
・どうして他人とトラブルになるのか?
[投影性同一視(投影同一化)]
これについてはさまざまな解説がなされているが、共通の理解は次のように要約できよう。
すなわち、境界人格構造をもつものは、投影をしてもそれだけでは自分の感情を処理
しきれず、(投影によって)相手に担わせた攻撃性を自分の中にも感じつづけている。
そこで、相手からの報復に怯えると同時に自分からも攻撃欲求をもち、相手に投影した
感情にさらに同一化する形で攻撃をしかける。このような内面の動きに従って行動する
ゆえに、自分の怒りや敵対関係に他者を巻き込み、実際に他者から怒りを引き出し、
それに対して報復することになる。そうなるのは、自我境界がまだ未熟で、感情の交流が
強まるとともに自他の区別があいまいになることや、万能的支配の願望が強いことなど
によると考えられる。
・なぜ間違いを指摘されても懲りないのか?
[原始的否認]
とくに原始的といわれる否認とは、分裂を強化する性質の否認を指す。この防衛ゆえに、
ある時期やある状況での自分の考えや感情にもとづく言動が、他の時期や状況でのものと
逆転している事実に気がつかないか、気づいていてもそのときの気持ちを連続的に理解
したり情緒を伴って想起したりできない。したがって感情の葛藤状態を体験しないですむ
という効用がある。理想化や脱価値化は否認を背景とし、また否認を強化している。