俺は鰤で絵を買った。今から2年前の事だ。
参考になるかわからんが顛末を書かせてくれ。恥を晒してみる。
丁度新たな派遣の仕事に就き、初日顔合わせをして説明を受けた
その帰りの事だった。
半年前まで鬱と神経症に悩まされ3年仕事を離れ自宅療養してた。
友人達は時々見舞いに来てくれてたがまあ要するにヒッキーだな。
久しぶりの社会、すべてが新鮮で輝いて見えた。今考えれば若干
躁状態だった気もするし、心が無防備だったかもしれない。
職場は鶯谷。俺は総武線沿線なので秋葉に出た。時間もあったので
久しぶりに街を歩いてみる事にした。
秋月に行きたかったがまずはラジオ会館へ向かった。
ふとハガキを配る女に気付く。就活時原宿や銀座で声掛けてきた
ヤツらとそっくりだ。その時も店内に連れ込まれたが無職だったので
助かっていたのだろう。それも油断を招いた。
声を掛けてきた女は明るさと元気はあるが軽くて中身の無さそうな
つまらない女だった。しかし友人以外の女と久しぶりに話せたことで
調子づいてしまったのは事実だ。仕事が決まった喜びもあり、
観るだけなら良いか、と迂闊にもついて行ってしまった。
とにかく誰とでも喋りたい時期だった。
768 :
Socket774:04/03/04 21:39 ID:00cfygqj
店内は平日の昼間なのもあり店員しか居ない。
他の店員は二人組になり何やら話をしている。
最初にシルクスクリーンとは何か、と延々と説明を受けた。
俺は黙っていたが印刷関係出身だったのでその辺りは無知ではない。
要はプリントゴッコだ。
が、美術系となると正直良くわからない。確かにグラビアとはあきらかに違う。
用紙の差は大きいがインクの乗りが厚く、多数の特色使いが鮮やかだ。
微妙な色合いの差は7色でも厳しい。特色の色数によっては不可能だ。
しかし孔版多色刷りの延長であろう事は想像に難くない。
色数から分版は大変だろうが原画があるという事は写真製版であろう。
試行錯誤はあってもDTP的にできるはずだ。
版ができてしまえばリトグラフと違い均質なコピーができる。
調色の問題があるにせよ、枚数を刷るのは容易い。
全く琴線に響かず興味無い絵だったが話を合わせて褒めてみたりした。
絵には百万円と記されていたが俺には一万円程度の価値しか見出せなかった。
特にこの手のリアリティーのある幻想画などは私の好みではない。
もともと絵っつーのは他人の感性・尺度で描かれてるもの。
その切り口に共感を受けるならばその絵に価値はある、と思うが。
ちょっとした展覧会に通う方が素晴らしいと思える作品に出会えるものだ、
と言ってみると、それはそれ、この絵はまた違う、と。本当に素晴らしい作品は
高価で手が出せないがシルクならば安い、と。しかし全く安くないですが。
で、良い絵をいつも身近に置いていると心が変わるし安らぐ、そのうち目が
肥えてくるなどと利いた風な事を熱弁している。横で他の販売員同士が
同じ事をロープレしてたりするのだが。まずは絵画以前に本物の自然と
対峙する事が大切なのではないだろうか?と問うと、東京には自然がない、
いつでも見られる訳ではない、などどうでも良い事を聞かされただけだった。
石ころ落ち葉一つ取っても自然じゃあないのか?そういう感性が大事だろ?
2次元の絵をもってなにをか況や、だ。
ageちまった。
1時間ほど下らない話を聞いただろうか。どの絵が良いか?と問われた。
面倒臭かったので近くの絵を指さすと、さすがお目が高い、この絵は人気もあり
画家自身も好んでいる作品でしかも国内最後の1枚だと抜かす。
そして気に入った絵に出会った事は幸せだ、この機会を逃してはいけないから
買うべきだ、と話が展開していった。
販売員の女はまるでキャバ嬢の様な雰囲気。
わがまま高飛車でかわいいが感情が薄っぺらな印象しか受けない。
腹黒さが見え隠れする。まったく信用などできない。
話していれば楽しいが友達にはなりたくないタイプだ。
この女だけならその時の俺でも断って帰っただろう。
もちろん全く買う気は無かった。
が、しかし、途中から今月入社したばかりだという娘が合流してきたのだ。
丁度昼休み中だったそうで最初の女が教育係として研修中なのだという。
今春大学を出たばかりだそうで、とても素直で優しい雰囲気をもっていた。
新卒と言っても色々居るが狡賢さや計算高さが感じられない。
幻想かも知れないがまだ擦れていない印象の娘だった。
無神経さ極まりない最初の女と同じ人間とは思えない。
育ってきた環境の良さを感じた。今思えばごく普通の娘、なのだが。
まるでロリ好きな自分を見越してあてがわれたような子だった。
そうこうしている間に着々と商談は先へ進められていく。
絵を自宅に飾る事がいかに大切な事か、という女の話が延々続きながら
80万だった絵が60万に、そして最終的には40万に。
値段を下げる間、最初の女は上司に相談しに行く為に何度かしばらく席を外した。
その間、新卒の彼女は慣れない雰囲気でたどたどしいながらも絵の素晴らしさ、
美術や仕事に対する夢を語ってくれた。純粋だった。聞いていて心が洗われた。
色々お互いの事を話しているうちに働く事、生活への不安や心細さを話してくれた。
その言葉は商売っ気なく嘘偽りの感じられないもので、真実にしか思えなかった。
彼女は時にはっとして話題を変え、ごまかしていたがあれは正直な心情の吐露
だったのだろう。そう思えたし、そう思いたい。とても話が弾んだ。
そしてあっという間に俺は彼女に心を奪われてしまった。
そして非常に悩んだ。
今絵を買わなかったら彼女とはもう縁が無いかも知れない。
いや、きっと無いだろう。
うざい販売員の女は俺の気持ちを見透かしたように
いつでも遊びに来てくれ、などと言う。
来週展示会があるので来てくれ、とも言う。
で、友達少ないので友達になってくれ、だと。
確かに友人は少なそうだ。
おまいさんには会いたくないのだが。
しかし二人きりになると彼女も恥ずかしげに同じ事を言ってくれた。
基本はマニュアル通りの発言なのだろう。
しかしそれはとても営業で言っているとは思えなかった。
地方から出てきたのでこっちには友達が居ない事、今は彼氏とも別れてしまった事、
そしてまた仕事の不安や部屋に帰る寂しさを遠回しながら訴えていた。
また話題が深刻になって行くのに気づき、気丈に振る舞おうとするのが
話していて切なかった。迷いや心細さがにじみ出ていた。
頼りたいのは自分ではないかもしれない。
これが打算ならばあなたは天性だよ。でも正直騙されてもいいと思った。
とにかく電話番号を聞こうと思った。しかしタイミング悪く女が戻ってきてしまう。
その後他の店員達も応援に来てしまい、二人きりになる事はほとんど無く、
ドン臭い自分は結局番号を聞けなかった。
でも絵を買ったならば大手を振って彼女に会い行く事ができる。そう思った。
しかし絵は全くもって欲しい物ではない。
XJR1300もOhlinsのショックもOvationのEliteもしばらく諦めなければいけない。
いや、彼女とこれから親しくなれる可能性があるのだとしたら
それは大した事ではない。病み上がりで再就職したばかり、
収入が安定するかは自信もない。しかも無職の間の支払いを
キャッシングしていたのがバカにならない金額だった。
いや、月々1万円しないならばなんとか買えるのではないだろうか?
とても即日に決断できる事ではなかった。また週末来る、と言って粘ってはみたが
(彼女は○○さんならそれでもいいのに、とオフレコで愚痴ってくれたが)
女達も上司も難癖付けて決して帰そうとはしない。
昼前に入店したというのに、その頃既に18時をまわっていた。
正直早く帰りたかった。昼飯食ってないし。
ここで契約をすればまた彼女に会えるのだ。
でもきっとクレジット審査は通らないだろう。
浅はかにも審査に落ちる事に希望を託し、契約書にサインをした。
が、結局審査は通ってしまった。素直に債務状況も書いたというのに。
今まで支払いが遅れなかった事が災いしたのか。
クーリングオフを悩んだが彼女に会いたい一心でそれは避けた。
10日後、渋谷の展示会会場へ足を運んだ。
彼女を探すが、姿は見えなかった。
秋葉店の他の販売員に彼女の事を聞くがはっきりわかる者がいない。
例の女に聞くと何かごまかすが具合悪くて休んでるらしい。
結局その日はそそくさと帰った。
後日秋葉へ行ってみたが、彼女は居なかった。
しかも例の女は挨拶どころか顔さえ合わそうとしない。
シカト決め込みやがる。半殺しにしてやろうかと思ったが貴様に用はない。
仕方なく上司に彼女の事を聞くが、はっきりと答えない。言葉を濁す。
異動になるような話はしていなかったのだが。
もうその彼女に会う事は無かった。もう顔も忘れてしまったが。
異動ならそれでいい。できうる限り頑張って欲しい。
辞めたのならばそれは正解だ。あなたならばもっといい仕事に就けるはずだ。
社会に出て行くという事は、そのままのあなたでは過酷な事かもしれない。
だから、生きていく為に擦れていくのは仕方がない。
でも、その美しい心は失わないで欲しい。そう願って止まない。
それから1ヶ月後、ようやく絵が届いた。
後に残ったのは1枚の絵と60回のローン。
絵はとてもデカいが戒めに飾っている。
感傷モード&長文スマソ
突然空気読めず長文でスマヌ
今は新宿5丁目に職場があるのだが、新宿の鰤と毎晩顔合わす。
今日は風邪で休んで、偶然このスレ見つけて読んで、様々な重いが去来した。
自業自得だけど、まあ男は女に弱い、つーことで。
しかし一部工作員には俺が解るかも知れぬな。
ちなみにその3ヶ月後、4年も前に連帯保証人になった先輩が失踪。
更なる支払いが増えたのだった。XJRもOvationも未だ買えず。
そしてさっき知ったのだが、
ttp://www.kokusen.go.jp/jirei/data/200302_1.html ここに拠るとクーリングオフ後でも解約できない事もないのね。
まぁ、ここ読んでる香具師は平気だろうが
気の弱いヤツ、寂しいヤツ、くれぐれも気をつけてくれや。