106 :
マジレスさん:
中国地方の、とある山村部落の炭焼き小屋にオレはいた。
たぶん時代的には明治の頃だと思う。
オレと嫁と幼い娘の三人暮らし。生活は食って行くのがやっとだった。
107 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 21:47:40 ID:fcfJ/tHn
「部落」それは今で言う身分差別をされた人々が追い詰められた集落の事だ。
例えば、自分の先祖にひどい罪を犯した罪人がいたりすると、その子孫は代々世間から虐げられ蔑まれる。
オレの先祖も江戸時代の当時、住んでいたごく普通の村の中で気が狂い、周囲の村人を大量虐殺したため子孫であるオレたちはこんな山奥に追いやられた。
と、死んだオレの婆さんから聞いた。
108 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 21:56:47 ID:fcfJ/tHn
オレの部落に住んでる家は、そんな歴史があってここに追いやられた奴らがほとんどだ…。
だから、まともな仕事に就ける訳もなく、オレの部落に住む家々のほとんどは、オレの様に炭を焼いて生計をたてたり、里に住む身分が上の家の死者を埋葬したり火葬したり、死んだ家畜の革を剥いで衣服や道具を造っては売り、生きてきた。
109 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 22:07:28 ID:fcfJ/tHn
そんな細々とした暮らしを続けている間に、オレの一人娘が数えで13歳を迎えた。
この部落で生まれた女子は、同じ部落の家々を回り、働き盛りの男衆へ夜の相手をするのが代々のしきたりだった。
その見返りにオレたち家族の食い扶持を稼ぐのだ。
110 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 22:13:24 ID:fcfJ/tHn
それを娘に「引き継ぐ」のがオレの嫁(妻)の役割だった。
オレの妻も13の娘の頃には同じ事をしてきたのだ。
その夜、オレは泣く泣く寝たフリをして娘の「出勤」を背中で見送った。
111 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 22:22:38 ID:fcfJ/tHn
部落とはいえ、時に「トンビが鷹」を産んだ様な清楚で気品漂う娘が奇跡的に育つ事もある。
そういった娘は、村里へ炭焼きの炭や革製品を売り子として売りに行った時に、村の庄屋や名家に見初められ嫁入り出来たり、メカケ(愛人)にしてもらえる場合もあると聞く。
しかしそれ以外のほとんどは、狭い部落の中での「近親婚」により、どこか下賎だったり、ひどいと障害を持って生まれ落ちる子供がほとんどだ。
112 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 22:30:46 ID:fcfJ/tHn
オレの娘も残念ながら、その後者の方に当たり、部落の中でしか生きて行けない境遇に生まれた…。
そんなある日、オレは妻から突然の告白を受けた。
どうやら14歳を迎えた娘が部落の「客」の子供を孕んだ様なのだ。
当然、生まれて来る赤ん坊の父親などは不明。
きっと部落中に聞いて回った所で「オレだ」と名乗り出る者などいる訳がない。
113 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 22:39:37 ID:fcfJ/tHn
部落の衆は、誰も自分が食って行くだけで必死なのだ。
しかし、部落内で生まれて来る赤ん坊を殺すことは当然ご法度。
オレたちより身分が上の名家のために、常にオレたちの様な死体や糞尿の処理をする若い人材を恒常的に確保しておきたいからだ。
114 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 22:45:02 ID:pp2Jdk5K
私は会社で面倒な仕事頼まれる夢をよく見る。
が、そこでこれは夢だと気づき「やってられっか!」とちゃぶだい引っくり返す勢いで
椅子を投げたり窓を割ったり
…自覚ないんだけど、今の会社相当ストレスになってんだろうか。
115 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 22:47:10 ID:fcfJ/tHn
そうこうしてる間にオレの14歳の娘の腹はどんどん膨れ上がる。もう7ヶ月ぐらいになろうか…。
オレは焦った。このまま娘を人目に晒しておく訳には行かない。
何とかしなくては里の庄屋や、定期的に巡回してくる役人に感づかれてしまう…。
116 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 22:52:44 ID:fcfJ/tHn
そこでオレは考えた。
妊娠した娘を一旦、更に山奥に隠してしまおう。
そして、娘に山奥で出産させ、生まれてきた赤ん坊はオレの嫁が産んだコトにしてしまおう。
娘の弟もしくは妹として扱うのだ。
オレは早速それを実行した。
117 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 23:03:32 ID:YE2bVAtJ
↑あなたは 頭が おかしいと思うよゲラゲラ
女の子に対しておじさんとか書いてるんだもん!
私のどこをどうすればおじさんなのか ギャルだしどうみても私。
118 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 23:04:08 ID:fcfJ/tHn
部落の人間が山菜採りなどで誰も分け入らない様な秘境まで娘を背負い運んだ。
適当な山肌に一日がかりで奥行3メートル、直径1.5メートルほどの穴を掘り、入口には大きな布を吊した。
それ以降、嫁と交代交代で内部の床には藁を敷いたり、食料など出産に必要な物資を長い道のりも気にせずせっせと運んだ。
119 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 23:04:58 ID:YE2bVAtJ
14さいのきも婆 臭い
120 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 23:06:30 ID:YE2bVAtJ
きも婆の出産、 見たくねー 気持ち悪いww
121 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 23:11:19 ID:fcfJ/tHn
そんなある日、嫁が里に炭売りに下りた際、偶然にも一羽のニワトリを庄屋様の家からもらい受けた。
嫁はそれを早速、出産間近い娘に食べさせようと、秘境の穴にいる娘の所へ運んだ…。
オレはそれを何の気なしにほのぼのとした感じで見送った。
122 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 23:19:58 ID:fcfJ/tHn
炭焼きの仕事でくたくたになったオレは、それからどの位眠っただろう?
外はもう暗い。
気が付けば囲炉裏の火も消えている。
たしか嫁がニワトリを持って娘の所へ出かけたのが昼前。囲炉裏の燃えカスからして、たぶん半日(12時間)以上は経っている。
何かが不吉でおかしい…。
なんとなく虫の報せが…。
123 :
マジレスさん:2009/07/24(金) 23:23:05 ID:fcfJ/tHn
つづく。
124 :
マジレスさん:2009/07/25(土) 13:55:22 ID:Ufn9v+cy
>>122 つづき。
オレは漆黒の夜が青みがかる夜明けを待ち、嫁が向かった娘のいる秘境の山奥へ向かった。
125 :
マジレスさん:2009/07/25(土) 13:58:51 ID:Ufn9v+cy
秘境へ向かう間に、いろんな悪い妄想がオレの脳裡に浮かんでは消え、オレを狂わせんばかりに苦しめた。
その妄想は的中した…。
126 :
マジレスさん:2009/07/25(土) 14:05:25 ID:Ufn9v+cy
オレは娘がいる秘境に辿りつくまでの4/5程度の道のりの所まで来た。
そこには鳥の羽が一枚…。
明らかにその羽はシギやヌエといった山鳥の羽とは違い元々は白いニワトリの羽だった。
しかし見た所、ブドウ色の様な汚れが付いていた。
127 :
マジレスさん:2009/07/25(土) 17:11:29 ID:Ufn9v+cy
なぜ羽がブドウ色に…?
オレは山道とも言えぬケモノ道を、娘の元へ急いだ。
128 :
マジレスさん:2009/07/25(土) 17:23:26 ID:Ufn9v+cy
秘境に辿り着いた。
そこには惨憺たる光景が広がっていた。
オレは硬直し、しばらくの間、目の前に広がる地獄絵図を現実のモノとして飲み込めないでいた。
129 :
マジレスさん:2009/07/25(土) 17:29:35 ID:Ufn9v+cy
オレが掘った穴の前には、中から何者かによって引きずり出された娘と嫁が無残に食いちぎられ、もはや、どちらの体の一部なのかも分からない様な血だらけの皮や骨、肉片がそこここに散らばっていた。
130 :
マジレスさん:2009/07/25(土) 17:52:50 ID:m2IhJD9Z
「水に油を入れて次に蕎麦殻を入れると水は『一般マクモス化』を起こします」と女の人に説明された。
疲れてるわ。
『一般マクモス化』って何だよ?
131 :
マジレスさん:2009/07/25(土) 17:52:59 ID:vzQ3Dy8T
最近変な夢をよく見る。覚えているのを3つほど。
1 トイレにプカプカ、腕が一本浮いていた。俺はそれを一回流すが流れない。
仕方ないので周囲に「腕を落とした人いるか?」とたずねるが、自分も含めて全員腕はある。
「警察に行こうかな」と考えているところで目が覚める。
2 ビルの窓の外のひさし(5−6階)に立っている。どうしたらここから抜け出せるかな、と隣の人に聞いたら、
「ジャンプすれば抜け出せるよ」俺はジャンプすると目が覚める。その後、また寝ると続きが。
また同じ場所に立っている俺に、さっきの男が「どうだった?」とたずねる。俺は「部屋で目が覚めた」と答える。
その男は「俺はどこで目覚めるのかな?」とつぶやく。
3 教室らしき場所で、本かノートかを友人に渡そうとしている。通路はいすや机や人で遮られている。
俺はわずかな隙間をぬって本かノートを友人にパスするために、ホイッスルが鳴るのを待っている。
132 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 00:53:05 ID:jjaNuIPj
>>128つづき。
妻と娘の遺骸の損傷状況はひどいものだった。
娘の孕んだ子供は当然腹ごと食い尽くされ、二人とも頭の脳しょう(脳ミソ)は、頭蓋骨ごとごっそり。胃袋や十二指腸はもちろんの事、体の柔らかい内臓は根こそぎというほどだ。
133 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 01:05:41 ID:jjaNuIPj
「熊…。」
オレは確信した。
15年ほど昔、低温が続いた夏があった年に、山の山のあけびや自然薯が全く採れない年があった。その年の秋、部落のいちばん山側に住む一家が熊に襲われた。
今回もその時と同じ様な
惨状だ。
134 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 01:14:50 ID:jjaNuIPj
それにしてもおかしい…。
今年は好天が続き、部落の作物もよく採れた。
山のめぐみである果物や自然薯なども充分にあったはずだ。
オレの嫁も山の娘の所へもらったニワトリを持って行く際には、クマ対策として、絞めた(生きじめにした)ニワトリの血抜きを充分にやっていたはずだ。熊に血の匂いを悟られないためだ。
135 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 01:23:49 ID:uhpDYkLk
>>131の2を読んだら凄い勢いで鳥肌が立った、、、、
136 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 01:54:19 ID:jjaNuIPj
>>134つづき
オレは妻と娘の残骸を集め始めた。
やっているうちに涙がとめどなく流れ始めた。
「どうして…?」
「どうしてオレと家族のささやかな暮らしまで取り上げるのか?不幸な境遇に生まれた者は、常に不幸であり続けなくてはならないのか…。」
137 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 02:06:31 ID:jjaNuIPj
オレは穴のすぐそばを流れる沢のほとりに、妻と娘の残骸を埋葬し、二人の唯一自慢だった、まだ頭皮の肉片の残る長い黒髪だけを束ねて紙に包み、山を下った。
下る途中、オレの目の前に何かがヒラヒラと落ちてきた。
穴に来る途中に見た、ニワトリの羽だった。
やっぱりブドウ色に染まっている。
「あっ!」オレは気が付いた。
確かブドウ(ヤマブドウ)は熊の大好物。熊はハチミツが好物というのは定説だが、同じくヤマブドウの様な甘い果物も好物なのだ。
しかし、なぜニワトリの羽にヤマブドウの果汁が…?
138 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 02:19:38 ID:jjaNuIPj
オレはその羽も妻と娘の遺品として和紙に包み、部落へ戻った。
部落の家へ戻ると玄関の板戸には何やら炭で文章が書かれている…。
「オマエが妊娠中の娘を山に隠していることは皆知っている。
この部落で生まれた子供を隠したり殺したりするとどうなるかはよく分かっているはずだ。
庄屋様もオマエの娘の隠し子の事は知ってるぞ。それはそうと、庄屋様に頂いたヤマブドウ味のニワトリは美味かったか?」
139 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 02:32:00 ID:jjaNuIPj
オレの顔は一気に紅潮し、体には震えが起きた。
オレは妻と娘の血液や脂に染まったコブシをにぎりしめた。
家に入るっしばらくの間寝そべって疲れた体を癒した。
しかし、怒りに震えた体は、その緊張感からか一向にほぐれない。
ただ煤けた天井を漠然と眺めていた。
140 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 03:02:00 ID:0kW+/flP
前後の脈略は憶えてないので、再現できる部分だけ。
・〜大戦当時のレシプロ機みたいのが飛んでる中、大勢の知人と共に、
広大な自然公園かキャンプ場のような場所に辿り着く。
盆地のように低くなった所に自分だけが降りていく。疎らに木が植えられている。
頭上を爆撃機みたいのが編隊で飛んでいく。「爆弾パラパラ撒かれたら嫌だな」
突然、機銃掃射が始まる。迫ってくる着弾痕を避けていると、盆地の縁で誰かが、
「変身ヒーローが出た!」みたいなことを叫ぶ。
慌てて縁を登っていくと、2体の‘ヒーロー’が現れ自分たちを襲ってくる。
自分はそれを「バロム1だ」と思う。
2人が1つになってバロム1なのに、1号と2号がいる。
手近にあった棒切れを拾って2号を殴りつけると、あっさりくたばる。
「なんだ、結構簡単に倒せるじゃん」と思う〜
141 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 06:33:37 ID:u91UjATU
なんなんだろう
幽霊みたいのが
普通の人間なんだけど
手を掴んで離さない
離そうとしても組み手みたいにして
なかなか離れないんだよね
なんか男性がパーマかけてる若いやつってのはわかるんだけど・・
しゃべらないんだ
あとねてる間に顔に屁をかけたり3人くらいで俺の上で遊んだりする
幽霊さんも
幽霊っていうか変な夢
142 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 06:55:52 ID:oyvkaGHr
ありったけの正露丸を吐いた夢・・・
143 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 12:34:19 ID:jjaNuIPj
>>139 つづき
その日を境にオレは鬼と化した。
昔オレの婆さんが死ぬ時に言い残した言葉を思いだした。
「家に代々伝わる「毒」を配合するための書付けが、カマド(家の煮炊きをする所)に祭った神棚に仕舞ってある。部落が盗賊などに襲われた際には、それで毒を配合し、盗賊に振る舞うのだ。
この毒を盛られた者は、男と女で別々の症状が現れる。使い方を誤ると、この部落が全滅することもあるので、滅多な事では使うな」と。
144 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 12:45:23 ID:jjaNuIPj
3日後、オレは毒薬の配合に必要な鉄鍋やすり鉢・すりこぎ棒、各種薬草などを揃えて嫁と娘を埋葬した秘境の穴を目指した。
もう涙は出なかった。
秘境に着くと、穴の近くの、嫁と娘を埋葬した沢のほとりの「墓」へ行き、二人に手を合わせた。実際には生まれて来れなかった赤ん坊も含めて三人だ。
145 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 13:01:10 ID:jjaNuIPj
オレは早速「毒薬」の調合にとりかかった。
持ってきた鉄鍋に同じく持ってきた各種薬草、これにキノコの幽霊茸・火炎茸、ムカデの毒袋などを長時間かけて煮込む。
しかし、あと一つ必要な材料が欠けている。
「熊の卵巣」だ。しかも出来るだけ新鮮な若熊のものでなければならない。
しかし、採取するにはオレ自身の命も危険に晒さねばならない。
146 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 13:02:49 ID:EqhBPLXZ
>>135 自己レス目立たさせるために偽者ってる奴の揚げ足取るつもりで読んだが …
俺が間違ってたm(_ _)mスマソ
147 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 13:09:07 ID:jjaNuIPj
オレは沢の水辺に縦横深さ共に2メートル四方の穴を掘り、そこに竹槍を上向きに仕掛け、中には山で採れたアケビ・ヤマブドウの実などを仕掛けた。
また、穴の上は竹や熊笹で覆い隠し、熊が水を飲みに沢へ下りて来るのを待った。
季節は晩秋。熊にとっては、冬に備えて脂肪を蓄えておかなければならない時期だ。
148 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 13:19:11 ID:jjaNuIPj
仕掛けを作った一日半後の夜、沢の方で何やらキューキューと鳴く声がする。
「やった!かかった!」オレは喚起の声を押し殺しながら、家から持ってきたナタを手に仕掛けのほうへ音もなく走った。
どうやら仕掛けにかかったのは子熊のようだ。
「だとすると近くには母熊が…」
149 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 13:28:20 ID:jjaNuIPj
案の定、仕掛けの周りを子熊を気遣う母熊がぐるぐると右往左往しながらどうすることも出来ずに歩き回っている。
体長は裕に一間(180センチ)はあろうか。確実にオレよりデカい。
オレは子熊に意識が向いた母熊の背後に音もなく忍び寄った。そして、
「ドォ!」
自分でも何を叫んだのか覚えていない。
オレの右手に持ったナタが母熊の脳天を直撃するのと、母熊の牙がオレの左手首を噛み砕くのとが、ほぼ同時だった。
150 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 13:38:18 ID:jjaNuIPj
オレはあまりの激痛に気を失った。
気がついた時には、真横に巨大な母熊の硬直した死体。
オレは左手首から先を失った。
仕掛けの穴の中を見ると、まだ息のある子熊が、腹に竹槍を刺したままもがいている。「キューキュー」と鳴く声も、もう弱い。
オレは最後の力を振り絞り、子熊の脳天にナタを振り下ろした。
子熊は絶叫を上げるでもなく動かなくなった…。
オレは「次は幸福に生まれて来いよ」と心の中でつぶやきながら、無い左手と右手を合わせて母子の熊 を拝んだ。
151 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 14:21:10 ID:jjaNuIPj
気が付けばもうだいぶ夜も明けていた。
早速、毒薬の最後の仕上げの作業に取り掛からなければ。
オレは母熊の腹から卵巣を取り出した後、先の鉄鍋に投入し弱火で煮込んでいる間、母熊の巨体は仕掛けのために掘った穴に引きずり、母子熊を共に鄭重に埋葬した。
左手が無いので、この作業を全て右腕と足のみで行った。
152 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 14:30:16 ID:jjaNuIPj
そうしている間に、鉄鍋はだいぶ煮えてきた。
オレはその中に、嫁と娘の唯一の形見である長い黒髪を入れた。
この差別や迫害だらけの世の中への憎悪と怨念を込めて…。
153 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 14:41:12 ID:jjaNuIPj
それから更に鍋を三日三晩、薪をくべながら弱火で煮込み続けた。
完成した液体の毒薬は、あたかも醤油に紫色の染料を混ぜた様で、マツヤニの様でもあった。
154 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 15:02:50 ID:jjaNuIPj
毒薬の効能を試してみた。
嫁と娘を埋葬した沢の少し下流に、小さな滝壷がある。
小さいと言っても幅15メートル程度はあるものだ。
小瓶に移したこの毒薬をその滝壺へ持って行き、ほんの2〜3滴水面へたらしてみる…。
オレはその効果にあらためて驚き、そして恐怖におののいた。
ほんの20分ほどで、その滝壺に住むイワナなどの魚、冬眠に入り始めたサンショウウオやカエルだけでなくカワゲラなどの川虫など、ほとんどの生き物と言う生き物が息絶えて水面に浮き出したのだ。
155 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 15:07:23 ID:jjaNuIPj
この滝壺の下流には、オレが家族と仲良く暮らしていた部落がある。
さらにその下流には、庄屋や身分が上の者が住む里が…。
156 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 16:48:47 ID:jjaNuIPj
オレはこれまで基地としてきた穴まで戻り、嫁と娘を埋葬した沢のほとりに直径3メートルほどの溜め池を作った。
完成した毒薬の滝壺における劇的な実験結果を得て「これは希釈して(薄めて)から使用しないと自分が先に死ぬ」と思ったからだ。
溜め池に水を溜めて、毒薬を2〜3滴たらし、沢の本流に流す。
これを一日数回繰り返す。
2日目には沢の川底の鮮やかな緑色だったコケが全て赤茶色に枯れた。
3日目には沢沿いに水鳥の死骸の山を築き、4日目には山に住むニホンカモシカやイノシシ、ツキノワグマといった大型の野性動物の死骸が所どころに転がった。
157 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 16:53:29 ID:jjaNuIPj
あらためて思った。
全ての生き物は水がないと生きてはいけない。
その水が汚染された時、生き物は終わる。
158 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 17:04:15 ID:jjaNuIPj
最後の一滴の毒薬を沢に流した朝、オレは山を下りる身支度をした。
季節は真冬を迎えようとしていた。ちらほらと初雪もちらついてきた。
今思えば嫁がニワトリを持って出産間近い娘の所へ向かったのが秋口。
二ヶ月半以上もこの秘境の穴ぐらに滞在していたことになる。
オレは何もかも失った。
母熊との激闘で無くした左手首の傷も、気温が下がるにつれてジンジン痛んだ。
オレは最後に、無い手を嫁と娘の墓へ合わせた。
また、オレが奪った熊の母子の命に対しても。
159 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 17:16:36 ID:jjaNuIPj
部落へ帰る途中の沢沿いはひどい有様だった。
山の獣や鳥、小動物に至る全ての生き物の死骸が、死屍累々と積み重なっていた。
不思議な事に、それらの死骸は荒らされることもなく、全てが剥製の様な美しい状態で死んでいる。
おそらくは、死骸を食い荒らす生き物から根こそぎオレが流した毒薬により死滅したのだ。
160 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 17:33:48 ID:jjaNuIPj
オレは部落にたどりついた。
午後のまだ明るい時間だというのに人の気配すらない。
部落の中心部にある井戸まで来た所で倒れている女がいた。
部落の住人のほとんどが飲料水として飲んでいる井戸だ。
女にはまだ息があったが、なぜかその下半身(主に臀部)は鮮血に染まっていた。
女は息も絶え絶えにこう言った。…ここ何日間の間に部落に住む女は月経が止まらなくなり、男と男児女児は血尿がでた。 その後、2〜3日中の間にほとんどの部落の者が死に絶えた…と。
161 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 17:50:08 ID:jjaNuIPj
オレは部落中の家々を回った。家の中や外に転がっているほとんどの死体は、着物の臀部を鮮血に染めて死んでいた。
おそらくオレが調合した毒薬が川底に染み込み、地下水となって流れるうちに、更に希釈され(薄められ)、調合した時の即効性を失った。
これによりすぐには毒薬による症状が出ないため、部落の「被害」が拡大したのだろう。
162 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 17:55:28 ID:jjaNuIPj
しかしなぜ部落の死体はほとんどが、臀部を血に染めていたのだろう…?
163 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 18:03:34 ID:jjaNuIPj
オレは部落を後にし、庄屋たちの住む里へ下った。部落から見たらさらに川の下流だ。
里もひどい有様だった。
里とはいえ田舎には変わりない。
オレたちの部落と同様、井戸水に頼って生活している。
オレはそこココにゴロゴロと転がる牛や馬の家畜を避けながら、日頃は恐れ多くて滅多に敷居を跨げなかった庄屋の家に向かった。
オレの嫁や娘を死に追いやった庄屋の死に様を確認するためだ。
164 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 18:14:27 ID:jjaNuIPj
目の前に庄屋の家の立派な門。奥には瀟洒な屋敷がある。
オレは何のためらいもなく、庄屋の門の敷居を跨ぎ、ずかずかと屋敷へ入って行った。
もう何の遠慮もなくこの贅沢な屋敷に土足で踏みこめる。
庄屋の居間と思われる部屋へ踏み込んだ。案の定、庄屋は息絶えていた。
どうやらメカケに晩酌をさせていた最中に息絶えたらしく、傍には派手な着物を着たメカケの死体と、お猪口や徳利か散らばっていた。
二人ともご多分に漏れず臀部を赤い鮮血に染めて死んでいた。
165 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 18:25:23 ID:jjaNuIPj
オレはそこで、変なことに感心していた。
さんざんオレたち部落民を苦しめ虐げて来た庄屋も、やはり人の子。オレたちと同じ赤い血が流れていたのか…と。
そんなことを考えながら、二人の豪華絢爛な着物が鮮血にまみれた妖艶な姿を、まるで夢の中の出来事の様に眺めていると、奥の方で物音がした。
「誰だっ!?」
オレは他人の家に不法侵入している身でありながら、反射的に叫んでいた。
166 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 19:30:19 ID:jjaNuIPj
オレは物音のする方へ走った…。
「裸!?」
逃げる人影を見た。
長い黒髪を結った若い娘に見えた。それも一糸纏わぬ裸だ。
オレはその人影を追い詰めた。
どうやらカマドのある土間に逃げこんだようだ。
167 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 19:34:15 ID:jjaNuIPj
なぜ生きている?
オレが毒を沢に流し始めてから、もう半月は経過している。
その間この娘は飲まず食わずでいたというのか?
168 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 19:43:43 ID:jjaNuIPj
オレは土間の奥にある物置にその「娘」を追い詰めた。
オレは声をかけた。「大丈夫。怖くないよ。」
それでもその「娘」は警戒を解いてくれない。
その時、娘が隠れた物置の小窓から午後の西陽が娘の元へ差し込んだ。
「!」
オレは息を飲んだ…。
その娘には当然乳房がある。しかし、同時に下半身には男性器も持ち合わせていた。
169 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 19:50:50 ID:jjaNuIPj
「両性具有…。」
昔、死んだオレの婆さんから聞いた事がある。
生まれて来る赤ん坊の幾万人かに一人の割合で、そうした両性の性器を持つ子供が生まれる。と。
大概そういった子供は忌み嫌われ、決して幸せな人生は送れないという定説があるため、生まれた直後に間引かれる(殺される)のがほとんどと教わった。
170 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 19:58:02 ID:jjaNuIPj
それが今、オレの目の前にいる。
しかし、なぜかそれが神々しい姿としてオレの目には映った。
きっと彼女(彼)が間引かれずにいたのもそのせいではないか?と感じた。
同時に両性具有であるがために、オレが調合した毒薬の影響も受けなかったのではないか?と思った。
部落や里の男女は、おおむね性器から大量の血を出し、臀部を鮮血に染めて死んでいた。
きっと熊に襲われたオレの嫁や娘の怨念が産んだものだ。
171 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 20:02:57 ID:jjaNuIPj
そんな中でも両性具有として不幸に生まれてしまった彼女(彼)は、その制裁から免れたのではないのかと…。
172 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 20:11:29 ID:jjaNuIPj
オレは主が不在となった庄屋の屋敷にしばらく滞在した。
その「娘」と打ち解けるためだ。
生活に必要な水は、オレが毒薬を流した川(沢)とは別の川筋から汲んできた。
「娘」も日増しに感情を顔に現すようになった。
173 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 20:22:47 ID:jjaNuIPj
そして、徐々にではあるがその娘(息子)と良好な関係を結んで行った。そんなある日、二人で質素とはいえ平穏な食卓を囲んでいると、日頃失語症のように全く声を発しなかった娘(息子)が当然「お父さん。どこかへ行きたい。」と呟いた。
174 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 20:22:54 ID:xIaGPBin
長編だな。リアルすぎ!小説のような
鎌倉時代の霊でも乗り移ってんのか
175 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 21:57:54 ID:jjaNuIPj
>>173 つづき
正直オレは驚いた。この娘(息子)の初めての意志表示に…。
しかしそれは初めてかつ、確固たるものだった。
季節は年末を迎えようとしていた。
普通この時期といえば、どこの里や村でも師走の忙しさに追われる。
また、この辺りの役人も袖の下(賄賂)を各庄屋などの名家から集めに回る時期だ。
176 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 22:08:18 ID:jjaNuIPj
娘(息子)は続けた。
…私はこの(庄屋の)家で生まれてからずっと、納屋の檻の中に入れられていたの。…その間、家に奉公に来てくれていた「お冬さん」という女の人が私の身の回りの面倒を見てくれていたのよ。
…その「お冬さん」は檻に入れられた私の事を不憫に思ってか、いろんな絵本や本を私に持ってきて見せてくれたり、外のいろんな話を私に聞かせてくれたわ…。
177 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 22:16:39 ID:jjaNuIPj
娘(息子)は聞き取りやすい言葉で続けた。
…その「お冬さん」の話の中で私が興味を持ったのが、外国からやってきた大きな船の話。
ここよりもずっと東の小さな漁村に、この屋敷よりもずっとずっと巨きな船が4隻もやって来たそうなの。
…それは海のずっと向こうの外国の「アメリカ」という国からやって来たらしいのよ。
178 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 22:25:29 ID:jjaNuIPj
オレは簡単にはその話が信じられなかった。
この奥行10間(約18メートル)の屋敷よりも巨きな船…。いったい何を原動力にしているのか…。
そもそも、この里や自分の住んでいた部落の中の閉鎖的な範囲でしか文明というものを知らず、まともな教育も受けずにここまで生きてきたオレにとっては、海の向こうに「アメリカ」という国があるということなど、まるで荒唐無稽な話に思えた。
179 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 22:36:27 ID:jjaNuIPj
しかし、真剣な眼差しで切々とオレに語りかける娘(息子)の話を聞いているうちに、このお伽話のような話を信じてみようか。この娘(息子)の話に賭けてみようか。…と、オレはだんだん思い始めた。
元々、有って無い様なオレごとき虫ケラの命。
この娘(息子)だってこんな山奥の里で一生を終えた所で何の意味もない…。
180 :
マジレスさん:2009/07/26(日) 22:44:12 ID:jjaNuIPj
思いたったが吉日。
オレと娘(息子)は次の日の朝、旅支度をしてまだ夜が明け切らない里を出た。
とりあえずは下流にあると聞いていた町へ、川筋を下った。
途中、里へ「袖の下」を集めに向かう役人の一団とすれ違ったものの、怪しまれることもなくやり過ごした。おそらくは今頃、里の惨状に度肝を抜かれている事だろう。
181 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 08:50:39 ID:HLBAM9GF
町への道程は半日ほどを要した。
オレにとってはたいした距離ではないが、これまでずっと庄屋の家の納屋の檻の中に閉じ込められていた娘(息子)にとっては、こんなに長い道程は生まれて初めてではないかと思う。
娘の履いている足袋の指の間から血が滲んでいた。
しかし、娘(息子)は弱音の一つも吐かない。
182 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 09:24:01 ID:HLBAM9GF
町は沢山の人で賑わっていた。
色鮮やかな着物を来ている女性や、今までに見たこともない様なシャッポという被りモノを被っている男の人などが、どこへともなく急ぎ足で通りを行き交う。
出てきた部落や里を流れていた小川が幾重にも合流し大きな川となり、海へ注ぐ所に町はあった。
そばに港があるらしく、大八車や馬車も、沢山の物質を山の様に積んで行き交っている。
183 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 09:40:53 ID:HLBAM9GF
オレと娘(息子)は当面、雨風を凌げる場所を探した。
適当な木造の橋の下に陣取ることができた。
部落や里から忽然と消えたオレたちは、役人や人目には極力触れないほうが良い。
当面の食料は乾燥させたものを持って来ている。 薪で湯を沸かして、川魚の干物や炊いて干した雑穀を戻して食べるのだ。(今で言うインスタント食品である)
184 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 10:50:53 ID:HLBAM9GF
次の日、オレは娘(息子)を橋の下のねぐらに留めておき、港付近に造船所を探した。
造船所と言っても、木造の手漕ぎ舟を手づくりで造っている様な「工房」を探した。
そこで木屑掃除や下働きをしながら、造船や古い舟の修理法を盗み見て習得しようと考えたからだ。
造船工房を探している途中、木版の新聞らしいものが風に舞ってきた。
それには挿絵が書かれており、ろくに文字が読めないオレにもおおかたの内容は理解できた。
川沿いに獣や鳥、人間の男女の死体が書かれており、臀部が朱色で色づけされている。
まさにオレが部落や里で起こした大量殺戮の記事だった。
町でも猟奇事件として大々的に取り上げられている様であった。
オレは首をすくめながら橋の下のねぐらへ帰った。
185 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 19:57:34 ID:HLBAM9GF
次の日もオレは顔を隠しながら、雇ってもらえる造船工房を探した。
探しているうちに、この国の造船技術が目覚ましい発展を遂げていることを学んだ。
娘(息子)から聞いた、庄屋の屋敷よりも巨大なアメリカの船…。それは「蒸気」という原動力により動いているという事も学んだ。
186 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 20:07:42 ID:HLBAM9GF
しかし、それはあくまでこの「日の本(日本)」という国レベルの話…。
オレはあくまで自分の最大の努力で出来る「オレの舟」が造りたかった。
しかし、現実はそう甘くはなかった…。
どこの木造舟の造船工房も、左手首から下を失ったオレなど誰も雇ってくれない。
187 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 20:14:50 ID:HLBAM9GF
そんな正月もだいぶ過ぎたある日、季節外れの嵐が山陽地方の各港を襲った。
その日もオレは造船工房の仕事を断られ、娘(息子)を食わせるために魚市場のちょこっとした仕事を手伝って日々の食材を得ていた。
188 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 20:22:54 ID:HLBAM9GF
「おーぃ。網元の船が流されたぞ!」
と、漁師の一人が叫んだ。
オレは反射的に海へ飛び込んだ。子供の頃から部落の沢で習得した泳ぎがここで活かされるとは…。
オレは必死で無い左手も使い、網元の船から水面に延びるモヤイ綱(係留ロープ)を掴んで、必死に艀へ泳ぎついた。
189 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 20:35:28 ID:HLBAM9GF
泳ぎついた桟橋で、地元の有力者である「網元」がオレの労をねぎらってくれた…。
その夜、網元はオレを「船を護ってくれたお礼に」と、夜の宴に誘ってくれた。
オレは「家に娘(息子)が待っているから」と、鄭重に断った。
190 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 20:44:56 ID:HLBAM9GF
網元は言った。
「では、何かほしいモノはあるか?出来る範囲でお礼がしたい」
オレは答えた。
「もう使わなくなった木造の三間(約5.4メートル)ほどの舟と、舟を造る仕事の斡旋をしてもらいたい」と…。
191 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 20:59:28 ID:eJSDhhkA
親に嫌なことをされた。まあ、現実でもよくされてると思うけど
192 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 21:22:53 ID:HLBAM9GF
>>190 つづき
網元は答えた。「そんなコトはお易い御用だ。それでイイのか?」と…。
オレは答えた。「それで充分だ。」
「あ、あと娘(息子)に可憐なカンザシを一本ほしい」と…。
193 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 21:43:26 ID:HLBAM9GF
つぎの日…。
いつもの様に港へ魚の水揚げを手伝いに行くと、周りの仲間の空気がいつもとは違い、オレを「仲間」として迎えてくれた。
「ズブの漁師でも、あの時化の海の中へは飛び込む勇気のある奴はいない」と…。
「オレはただ必死だったから」というコトだけを伝えた。
そして、古株の船頭から「娘さんに」と、鼈甲(ベッコウ)とやらの材料でできたカンザシを進呈された。
オレは嬉しくて涙が出た。つくづく「死ぬほど悲しい事だらけだったが、生きていて良かった」と思った。
194 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 21:52:23 ID:HLBAM9GF
それからというもの、オレはこの港でがむしゃらに働いた。
朝は魚の水揚げの仕事。
昼からは網元に紹介してもらった造船工房の手伝い。
そんな合間を縫ってオレは娘(息子)との対話も絶やさなかった。
時には港の脇の砂浜に出て、貝殻を拾って楽しんだりする余裕も出てきた。
195 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 22:04:02 ID:HLBAM9GF
そんなある休日の朝。
オレはいつもの休日の様に、娘(息子)と潮騒を楽しんでいた。
砂浜を少し歩いた所に磯がある。
今日はその向こうまで娘(息子)と足を延ばしてみた。
磯の岩を越えた…。
岩の向こうには、見たこともないヘサキの形をした舟が一雙。
ヘサキには、神社のコマイヌの様な怖い形相の顔が彫られている。
舟の横には二本の太い棒が延びて、その先には舟の安定を図るような丸太が縛りつけてある。
娘は言った。「これって南方の国の舟じゃない?」
196 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 22:13:25 ID:HLBAM9GF
オレは驚いた。
「オレがこの土地の造船工房に来てから、初めて見た造船技術だ」と…。
この安定感のある船体に巨きな帆を張って、ぐんぐん海を進む絵が脳裏に浮かんだ。
オレは早速、この異国の地に流れついた南方の舟を修理し、外洋に出ても耐えられる様な舟づくりにとりかかった。
197 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 22:28:38 ID:HLBAM9GF
オレは自分の本業である魚の水揚げや造船工房の手伝いの仕事をする傍ら、夜は自分の舟の修理や作成に没頭していた。
そんなオレを、あの娘へのカンザシをくれた古株の船頭は見逃していなかった。
ある夜、オレが舟の仕上げにかかっていると、あの古株の船頭が突然やって来た。
おまえにコレをやる。
それは古めかしい外洋の海図とコンパスだった。
オレは言った「なぜ?」 古株の船頭は答えた。
「部落の人殺しキチガイとはオマエの事だろう?よほどの辛い事情があってココへ逃げて来たのだろう?」と…。
198 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 22:39:41 ID:HLBAM9GF
オマエがココに逃げ隠れている事が、そろそろ役人にもバレるかもしれない。
明日の朝にでも、娘と共にこの舟で出航したほうが良い。…と。
199 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 22:45:44 ID:HLBAM9GF
この古株の船頭は、オレが部落や里で大量殺戮をやって来たコトを知りつつ、オレにこれまで親切にしてくれていたのか?と思い、感謝の念で気持ちがいっぱいになった。
もうココにも長居できない。
親切にしてくれた港や造船工房のみんなにも迷惑をかけることはできない…。
200 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 22:56:42 ID:HLBAM9GF
次の日の朝………。
オレは娘(息子)と共に、積めるだけの物資食料と古株の船頭にもらった海図とコンパスを積んで瀬戸内海へ櫓を漕ぎ出した。
最初に目指すのは外洋。
どうせ虫ケラの様なオレの命。
本当に「アメリカ」という国が外洋の向こうにあるのかどうか、この娘(息子)と一緒に確かめてみるのも悪くナイじゃないか…?
201 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 22:57:48 ID:HLBAM9GF
202 :
マジレスさん:2009/07/27(月) 23:28:51 ID:HLBAM9GF
〜エピローグ〜
オレは椰子の木の葉の間からこぼれる眩しい日差しの中、サマーベッドの上で長い昼寝から目が覚めた。
「パパ〜♪」
3歳になる娘がオレの方に水着を着て走って来る。後ろでは妻が微笑む。
職場では誰もが羨むほどの美人をオレが射止めた自慢の妻だ。
国家公務員の要職に就き、忙しいオレが久々に取れた年次休暇(有給休暇)を利用し、ハワイのビーチに家族を連れて来た。
突然カミナリが鳴った。 スコールが来る…。
オレは空を見上げた。
その時、一枚の鳥の羽が降ってきた…。
オレはその羽を空中で掴んだ。
元々は白い羽?紫色に染められている…。
匂いを嗅いだ…。
ほんのりとブドウの香りがした…。
203 :
マジレスさん:2009/07/28(火) 19:13:53 ID:EnOhrqRd
アゲ
204 :
マジレスさん:2009/07/28(火) 21:04:31 ID:3+ORQkCL
205 :
マジレスさん:2009/07/29(水) 00:16:51 ID:S/6xI+wo
今日、変な夢みました。
そこは中国の貧民層の集まる村だったんですが、
みながみな己が食うためには人をも犠牲にする人間どもばかりで、
乗ってた自転車のタイヤに足がからまって転んだ少年に蹴りを食らわす大人たち。
弱者を徹底的に痛めつける人々。
その世界は残忍非道、利己主義が蔓延する恐ろしい世界でした。
にんじんのヘタに価値があるらしく、そのヘタを金銭に変えるべく野蛮化している人の群れ。
それがさも当然の光景だがすこしおかしくはないかと感じる自分。
目覚めたときは、この世界の安らかさに、安心しました。
そんな夢でした。
206 :
マジレスさん:2009/07/29(水) 00:52:32 ID:9I2xYhus
>>204 はい。そうです。
長々とスレを埋めてしまいすいませんでした。
「世代を超えても人の怨念のDNAは受け継がれ、輪廻して行く」ということを「羽」を通して言いたかったのです。
きっとこのハワイにバカンスに来た「官僚」も、どこかで「キチガイで人殺し」のDNAにスイッチが入るのかもしれませんね。
207 :
マジレスさん:2009/07/29(水) 01:14:00 ID:9I2xYhus
しかし自分で書いておきながら、後から読み返してみると結構この「物語」には色々な矛盾点がある事に気付きました。
例えば…。
@「ろくな教育も受けていない」と言いながら、嫁と娘を埋葬した後、部落の家に戻った時に玄関に炭で書いてあった文章は読めたのに、港で拾った新聞は読めなかった。
A明治初期とはいえ、外洋への航海に必要な海図やコンパス(方位磁針)がそんなに簡単に手に入ったのか?
Bなぜ「網元が舟をくれる」と言っていたのに、結局は漂流船を拾って出航したのか。
など…。
208 :
マジレスさん:2009/07/29(水) 01:19:05 ID:9I2xYhus
詳しくは…
>>106 から読み返して頂ければこの話の矛盾点がゴロゴロ出て来ると思いますよ。
ただ、その辺は「夢物語」という事でカンベンして下さいね。