23 :
マジレスさん:
「ワタナベノボル君。あなたは23歳にもなってそんな事もわからないの?」
直子はパジャマの上に厚手のカーディガンを羽織っていた。
秋が終わろうとしていた。
彼女が入院して四か月になる。
初めて見舞いに訪れた時は裏庭の木々はまだ緑に包まれていた。
「受け入れるのよ。簡単な事だわ」彼女はベンチに座り落葉を足で集めながら言った。
遠くからムクドリの啼く声が聞こえた。
長く沈黙が続いた。
「もうここへは来ないで欲しいの。そろそろ髪の毛も抜け始めるわ」
「そんなこと。副作用だから仕方ない事じゃないか。」
「あなたにそんな姿見られたくないの。わかるでしょ?」「
僕は黙っていた。「今年はあのマフラー巻けそうにないわね」
直子の声はわずかに振るえていた。やがて大粒の涙がこぼれ落ちた。
「巻けるさ。」
「そう思う?」
「うん」
「ありがとう。でももういいの」
それが僕らが交わした最後の会話だった。
その夜直子は病院の7階から飛び下りた。
早朝、出勤してきた食堂のパートの女性が見つけるまで、彼女は冷たい落葉の上にさらされていた。
彼女はパジャマにマフラーだけ巻いていた。
去年のクリスマスに僕がプレゼントしたものだった。