372 :
人生残悔:
時間は少し戻る。Cさんや「じゅんこ」や「ジュンコ」との関係はしばらく
平行線で特に進展も無いし後退もない。父の会社倒産がすぐにやって来たの
で、精神的にも3者への恋愛どうこうをしている時期でもなかったのである。
しかし、「のりこ」へ可能性が完全に無くなってから現実的に新たな恋愛が
心には必要だった。実は私は心の中で「じゅんこ」を選択していたのである。
春になり予定どおり昇進していれば「じゅんこ」に結婚を考えた付き合いを
申し込むつもりでいたのだ。でも、それは実現しなかった。やればできたか
もしれないが、左遷扱いと家庭経済の崩壊はその気力を失わせていた。
父の会社の倒産により全ての財産は無くなった。家を失い、借家住まい。
事業に失敗した父は酒とDVで憂さをはらし、私は左遷された男として毎日
会社に行くのである。家庭内に安息は無く、職場にもない。転勤により支店
での人間たちとも距離ができた。なによりも、私自身が周囲との人間関係を
絶ったのである。これまで新しい環境で積極的に社交性を求めた私はもはや
存在しなかった。私は周囲の人間たちが「あいつは左遷された奴」「あいつ
の家は破産したんだ」と腹のなかで私を笑っていると常に思っていた。